アハハハハと笑い声……高笑い? をしている物間。
そんな物間を見て、そろそろ止めた方がいいのでは? と思わないでもない。
もっとも、それに対して動こうとすると、俺に近付いて来た瀬呂が口を開く。
「どの学校でも……か。そうだよな。普通にスルーしてたけど、他校と合格を奪い合うんだ」
「しかも僕らは通常の習得過程を前倒ししている」
瀬呂の言葉に緑谷が言うが……まぁ、ぶっちゃけ、そうなっている原因の多くは原作主人公である緑谷にあったりするんだけどな。
いやまぁ、だからいって緑谷のせいってだけじゃないけど。
寧ろヴィラン連合が……それを率いるシラタキが狙っているのはオールマイトの抹殺であり、ついでに俺にボコボコにされたのも影響してか、俺を狙っているというのもある。
そんな諸々によって雄英というか、A組はヴィラン連合に狙われたり、あるいはそういうのとは全く関係のない騒動に巻き込まれたりする。
教師として考えれば、これまで色々と巻き込まれたのだから、この先も同じように巻き込まれるだろうと考え、だからこそ俺達に仮免を取らせようとしているのだろう。
「1年で仮免を取るのは全国でも少数派だ。つまり……お前達よりも訓練期間の長い者、未知の個性を持ち、洗練してきた者達が集う訳だ。試験内容は不明だが、明確な逆境である事は間違いない。意識しすぎるのもよくないが、忘れないようにな」
そんな相澤の言葉と共に、俺達が体育館γを使う時間は終わり……その日の圧縮訓練は終わるのだった。
「美味っ、美味っ、美味ぁいっ!」
夕食の時間、切島は豚の生姜焼きをもの凄い勢いで食べていた。
圧縮訓練という名称通り、かなり厳しい訓練が続いている。
それだけに、当然ながら使った分の栄養も補給しなければならない訳で……ランチラッシュが夕食用に作った料理も、全員が2度、中には少数だが3度お代わり出来るくらいの量はあった。
圧縮訓練が始まった当初は、ちょっと多すぎるのではないかという意見もあった。
もっとも、ランチラッシュが作った料理はどれも絶品なので、もし余ったらそれは俺が貰って空間倉庫にでも収納しておこうかと思ったんだが……取りあえず料理が余るような事はなかった。
寧ろ料理によっては少し足りないといったようになる事もあったくらいだ。
そんな訳で、殆どの者が腹一杯食べられるくらいには、満足していた。
「切島程に絶叫する訳じゃないけど、本当に美味いよなこれ。特に脂身の部分が……」
そう言いながら、砂藤もまた生姜焼きを次から次に口に運ぶ。
砂藤もまた肉体派なだけに、しっかりと……いや、ガッツリと? 食べている。
もっとも、脂身の部分が美味いというのは分からないでもないけど、それを口にした瞬間、何人かの女達から鋭い視線だったり、ジト目だったりを向けられていたが。
その辺は俺が気にするような事じゃないので、取りあえずスルーして付け合わせのポテトサラダを口に運ぶ。
こういう副菜についてもランチラッシュは手を抜かず、出来合のものじゃなくてしっかりと自分で作ってるらしいから凄いよな。
勿論、出来合のポテトサラダとかも普通に美味かったりするんだが、それでもランチラッシュが自分で作るのは、意地というか誇りのようなものなんだろうな。
そうして全員が満足出来る食事が終わり、風呂にも入ると……1階の共用スペースで多くの生徒達がゆっくりとする。
もっとも爆豪は当然のようにいないし、緑谷の姿もない。
他にも何人かいない面子はいるし、女は女で固まっていわゆるガールズトークを行っていた。
なので、こっちにいるのは男だけな訳だ。
「やっぱり仮免試験に合格すればモテると思うか?」
「そりゃあ勿論、プロヒーローの卵というか、準プロヒーローみたいな感じなんだからモテるに決まってるだろ!」
峰田の言葉……というか、願望に上鳴は同意するように叫ぶ。
うーん……けどなぁ……
「別に体育祭と違って、TVに映ったりとかそういうのはないんだから、合格してもモテるって事はないんじゃないか? かといって、仮免に合格してから、俺は仮免を持ってるぞ! といった感じで主張しても、それはそれで何か情けないし」
そう言うと、周囲で俺の言葉を聞いた者達の多くがその言葉に同意するように頷いていた。
それを見た峰田と上鳴が不満そうな様子を見せるが……普通に考えて、プロヒーローの仮免を取ったと自慢するような相手がモテると思うか?
あるいはこれが、仮免じゃなくて本試験ならもう少し話は違うかもしれないが……いや、プロヒーローが過剰と言われているのを思えば、本試験で合格してもそこまでモテないような気がするな。
この世界にあるのかどうかは分からないが、国際A級ライセンスとか、そういうのであれば驚かれ、モテるとは思うけど。
「ぐぬぬ……やっぱり、プロヒーローになって、ビルボードチャートで上位に入るのが一番の近道か。オイラの底力をここで発揮すれば!」
無理だろ。
やる気になっている峰田には悪いが、俺は思わず内心でそう突っ込む。
峰田の個性であるモギモギは、間違いなく優秀な個性だ。
だが……優秀な個性ではあるが、それでもビルボードチャートの上位に入れるかと言われれば、それはそれで難しい。
勿論絶対に無理だとは言わない。
あるいはこの圧縮訓練でモギモギが何か個性として成長するといった可能性もあるのだから。
……だが、峰田の性格を思えばやっぱりビルボードチャートの上位に入るのは難しいと思う。
もっともそれを言うのなら、性格的に問題があって家庭も半ば崩壊しているらしいエンデヴァーがビルボードチャートで2位になっているのはどうなんだ? と思うが。
そんな風に話していると、外に続く扉が開いて緑谷が入ってくる。
……いや、緑谷だけではなく、その後ろには拳藤と茨の姿もあった。
「アクセル君、お客さんだよ」
緑谷がそう言えば、当然ながら周囲にいる者達の視線がそちらに向けられ……
「ぐ……ぐぎぎぎぎ!」
これまた当然のように、峰田は血涙を流して俺を睨み付けてくる。
とはいえ、峰田のこれは既にお家芸というか、1学期中やられていればもう慣れる。
……同級生がいきなり血の涙を流すのに慣れるというのは、どうかと思わないでもないが。
なので、俺はそんな峰田を気にせず、座っていたソファから立ち上がり、緑谷達のいる方に向かう。
「よう、拳藤と茨。どうしたんだ、こんな時間に」
まぁ、こんな時間と言っても、まだ時間が午後8時くらいだ。
ましてや俺達が住んでいるのは寮……その上、雄英の敷地内にある寮という事を考えれば、もっと遅い時間であっても女だけで出掛けても何の問題もなかったりする。
ヴィランに襲われる心配とかは、基本的にないのだから。
例外としては、やはりヴィラン連合だろう。
ワープの個性を持つ黒霧がいる以上、それこそ本人がその気になればいつでも雄英の内部に侵入出来るのだから。
ただし、当然ながらそうなれば雄英にいる教師……プロヒーローもすぐに気が付くだろう。
だが、黒霧の場合は相手を連れて一気にこの場を転移すればいいだけなので、厄介なんだよな。
AFOが捕らえられて逃げているヴィラン連合という事を考えれば、雄英にちょっかいを出してくる余裕はないだろうが。
ただ、俺個人はヴィラン連合を率いるシラタキに憎まれているので、そういう意味では俺と親しい拳藤や茨なんかは、もしかしたら……本当にもしかしたらだが、狙われる可能性はないでもなかったが。
「あー、茨がちょっとアクセルに会いたいって言ってな。私はその付き添いだ。……まぁ、私もここ最近はLINでしかアクセルと話せていなかったから、直接話したいというのもあったけど」
後半は他の者に聞こえないようにと口の中だけで呟いた拳藤だったが、当然ながら混沌精霊の俺の耳には普通に聞こえていた。
聞こえていたんだが……今のはどう認識すればいいんだろうな。
もしこれで俺と峰田の立場が反対だったら、今の拳藤の言葉で暴走してもおかしくはないような、そんな言葉だ。
もっとも、はっきりと俺に向かって言われた言葉じゃない以上、これは聞かなかった事にした方がいいだろうけど。
あるいは、茨から何らかの悪影響を受けているといった可能性もある事を考えると……うん、やっぱり聞かなかった事にした方がいいな。
「俺にか? まぁ、もう夜でやる事はないからいいけど。ただ、見回りの教師に見つかれば注意されるかもしれないから、気を付けろよ」
そもそも、この寮自体が林間合宿の一件があって急遽決まった事だ。
当然ながら寮長とかそういうのも決まっていないし、詳しい寮の規則とかそういうのも今のところはない。
基本的には常識を考えて行動すればいいので、今のところは特に問題らしい問題は起きていない。
……峰田辺りが何かやらかして、それによって急遽ルールを決めなければならないといったような事になってもおかしくはないのだが、幸い今のところそういう感じにはなっていない。
どのみち今はまだ寮生活が始まったばかりなのでその辺についてはあまり気にする必要はないが、そのうち……いずれ、将来的には寮長が決められたり、あるいは寮の管理人が出来たり、寮の規則が決まったりするとは思うが。
もっとも、それはもっと先……取りあえず俺達がこうして寮生活をしている間は現状維持となって欲しい。
俺が卒業した後、あるいは雄英に通えなくなった後であれば、それこそもっと寮生活が厳しくなってもいいから。
「それで、茨。俺に会いたいって話だったけど、どうする? ここで……は人目もあるだろうし不味いから、外に行くか?」
本来なら俺の部屋に行くのがいいんだろうが、常識的に考えてそれは難しい。
そんな事をすれば、それこそ明日にでもしっかりとした規則とかそういうのを作られそうな気がする。
そうなるとこの1階の共用スペース……となるのだが、これだけ注目を浴びている中でそういう事は出来ない。
実際、ガールズトークをしてた女達もこっちに興味津々の視線を向けてきているし。
……いや、何人かはジト目を向けてきていたりするな。
ともあれ、ここでも無理なら残りは外となる。
ヴィランに襲撃されるような心配もないので、安全だしな。
「アクセルさんがそれでよろしければ」
茨が俺の言葉にそう言ってくる。
茨は俺を崇めているのもあってか、俺が何を言っても基本的には反対しないんだよな。
それはそれでどうなんだ? と思わないでもないが……茨の性格を考えれば、それも無理はないか。
そんな訳で、俺は茨と拳藤と共に寮の外に向かう。
「おい、ちょ……アクセル、何で2人とも連れていくんだよ! ちょっとはオイラの事を考えてもいいだろ!?」
峰田がそう言ってくるが……うん。オイラ達じゃなくてオイラと自分だけを示しているのを見れば、峰田の本性が丸分かりだな。
それに……こう言うのはどうかと思うが、もし俺が茨だけを連れていっても、拳藤はどうせなら仲の良いヤオモモや三奈のいる女達の方に行くと思うんだが。
つまり、俺が拳藤を連れていかなくても峰田が拳藤と話したり……セクハラしたりとか、そういうのは出来ない。
というか、物間に対する拳藤の手刀を思えば、それこそセクハラをした瞬間に鋭い手刀で一瞬にして峰田の意識は奪われると思うんだが。
もっとも、その辺りについては俺が心配するような事でもないのだろうが。
とはいえ……そうだな。ここは少し峰田や、おまけに口には出さないものの、羨ましそうな視線をこちらに向けてくる上鳴を少し挑発してみるのもいいか。
そうすれば、俺と同じような事をしたい、あるいは俺以上の事をしたいと、圧縮訓練にも今まで以上に集中するだろうし。
そんな訳で、俺は近くにいる拳藤の肩を左手で抱き寄せ、右手で茨の腰を抱く。
「ちょっ、おい、アクセル!?」
いきなりの俺の行動に、拳藤は戸惑ったような、焦ったような声を出す。
……なお、茨の方は特に驚く様子もなく、黙って俺にその身体を預けてきた。
「まぁ、たまにはいいだろ」
「たまにって……まるで、普段他の奴が見ていないところでは普通にこういう事をしてるように言うなよな!」
「はいはい。それよりも折角寮の外に行くんだから」
「寮の外に行くのは確かだけど……アクセル、本当に勘違いしてないか? 私は別にそういうつもりで……」
「私は構いません。ただ、出来れば初めてが外というのは……」
「ちょっ、おい、茨!? お前も一体何を言ってるんだよ!?」
そんな風に騒ぎ、1階の共用スペースにいた多くの者……男女関係なく視線を向けられながらも、俺達は寮の外に出る。
女の方から圧力のあるような視線が幾つか飛んできたような気がするが……きっと気のせいだろう。
ただ、峰田は血の涙を流し、歯を食い縛りながら俺を睨み付けていたので、取りあえず目的は達成したと思っていい筈だった。