龍子と優と別れると、俺は再びA組に合流して、ヒーローコスチュームに着替える。
峰田が相変わらず血涙を流しながら俺を睨んでいたが、それは気にしない事にして。
三奈を始めとした何人かの女からもジト目を向けられたが、それも気にしない事にする。
また、それ以外の……雄英以外の生徒からも嫉妬の視線を向けられたりしたが、そっちも当然のようにスルーした。
ともあれそんな訳で、俺はアクセル・アルマーからアークエネミーというヒーロー名を持つヒーロー候補生となる。
もっとも、俺のヒーローコスチュームはマントや仮面、凶悪そうな肩パッドとか、見るからにヴィラン……というよりは、魔王や大魔王といった感じのヒーローコスチュームなので、周囲からの注目をかなり集めている。
「うわぁ……やっぱりアクセル君、目立つね」
そう声を掛けてきたのは、葉隠。
ちなみに今の葉隠は一見すると以前までのヒーローコスチュームと変わりはないが、以前のような全裸という訳ではない。
葉隠の細胞から培養したヒーローコスチュームを着ており、透明という意味では以前と同じ状態であるものの、きちんとヒーローコスチュームを身に付けている。
それでいながら、手袋や靴を履いているのは、当然ながら全身が透明でそこに葉隠がいると分からなければ、色々な意味で危険だからだろう。
特にこの仮免試験のように人が多い場合、そこに葉隠がいると知らなければぶつかったり、場合によっては無意識のうちに個性による攻撃に巻き込んでしまったりしてもおかしくはないのだから。
そうならないようにする為に、葉隠は周囲に自分の存在を教える必要があり、手袋や靴を身に付けていた。
勿論、葉隠が本気で行動する時は、手袋や靴を脱いで、完全に透明な状態で行動するのだが。
それでいながら、三奈から身体の動かし方を教えて貰ったりして、葉隠の格闘能力もそこそこには高い。
気配や殺気、闘気……そういうのを察知出来るような者ならともかく、そういうのが察知出来ないような者にしてみれば、透明な葉隠と戦うのはかなり苦戦する筈だった。
何より、初撃を奇襲として食らって、初めてそこに葉隠がいるというのを知る事になるのだから。
また、他の面々も圧縮訓練中にヒーローコスチュームをそれなりに変えたりしている。
しかし、そんな中で俺のヒーローコスチュームは以前と全く違いがない。
……まぁ、俺のヒーローコスチュームの場合は当初の予算の大部分をマントに使ってるしな。
それに俺の身体能力を思えば、特にヒーローコスチュームを改良するような必要は感じなかったというのが大きい。
あるいは、こうしてヴィランっぽいという事で注目を集めるのが問題なので、ヒーローコスチュームの性能はそのままに外見だけを変えるという案もないではなかったのだが……アークエネミーというヒーロー名から考えると、やっぱりこのヒーローコスチュームがいいだろうと、そう思ったのだ。
言ってみれば、ヴィランを倒すヴィラン的な?
とはいえ、普通に考えれば俺のヒーローコスチュームは悪い意味で人目を集めやすいのも事実。
葉隠のいう、目立つ……悪目立ちというのは、その辺の事情もあるだろう。
実際、こうして耳を澄ましてみると……
「お、おい。あれ……もしかしてヴィランが紛れ込んでるんじゃないのか?」
「え? うわ、マジだ。えっ、これってどうすればいいんだ? 先生に知らせた方が……」
「ばっか。お前らばっか! お前らネットで見てねえのかよ! あれ、雄英のアクセル・アルマーだぜ? ヒーローネームはアークエネミー。雄英の体育祭で優勝して、ヒーロー殺しステインを倒したの、知らないのか?」
「……いや、アクセル・アルマーは知ってるけど、何だってヒーローネームまで知ってるんだよ、怖いよお前」
「うるせえっ! アクセルは凄いんだぞ。馬鹿にする奴は、俺が許さねえっ!」
「いや、別に俺達はアクセルを馬鹿になんかしてねえから。単純にお前がアクセルのヒーローネームを知ってるのに驚いただけで」
「そのくらい、ちょっと調べれば分かるっての!」
「えー……」
そんな風な会話が聞こえてくる。
他の場所でも、大なり小なり似たような会話がされていたりする。
俺のこのヒーローコスチュームでヴィランじゃないかと心配し、その上で俺を知ってる奴が、あれは雄英のアクセル・アルマーだと、そう話しているらしい。
ただ……
「あのアクセルの個性、混沌精霊だったか? 結局具体的にどういう事が出来るのかは分からないんだよな」
「え? 典型的な増強系じゃないのか?」
「いや、どうも違うらしい。噂だと、混沌精霊というのは増強系以外にも複数の能力を持つ複合型の個性らしい。……まぁ、考えてみれば単純な増強系なら混沌精霊なんて個性名にはならないだろうし」
「複合型の個性かぁ……それは厄介だな。ただでさえ増強系だけでも厄介なのは体育祭を見れば明らかだってのに」
「だろう? なら、狙うのは他の雄英生にした方がいい」
そんな会話も何ヶ所かから聞こえてくる。
なるほど。考えてみればすぐに分かるが、雄英の体育祭は全国放送されている。
そうなれば、他の学校のヒーロー科の生徒達は体育祭を見て、俺達がどういう個性を持っているのか知っている訳か。
そして俺達は当然だが、他の連中の個性を知らない。
……いやまぁ、このヒロアカ世界においては名は体を現すって訳でもないが、その名称が個性に直結している例が非常に多い。
勿論、それも絶対という訳ではないが。
例えば緑谷なんかはその名称から行くと茨のように自然に関係する個性のようにも思えるが、実際には無個性だったし。
今となってはOFAという個性があるが……それはオールマイトから継承したものだしな。
まぁ、原作主人公である事を考えれば、そういう法則の例外にいてもおかしくはないと思うけど。
ともあれ、このヒロアカ世界の住人はそういうのに気が付いていない……というか、常識となっていてその辺に気が付いていないとか、そんな感じなんだろう。
とはいえ、そういう法則があるのを理解しても、名前を知らなければどうしようもないのは事実だし。
まさか、この場にいる全員に名前を聞いて回る訳にもいかないだろう。
あぁ、その件は置いておくとして、聞こえてくる話から考えると、どうやら個性が知られている雄英の生徒が狙われる可能性が高いらしい。
勿論、仮免試験の内容が具体的にどういうのかは分からないが。
……さて、そうなるとだ。
雄英が狙われるというのを、俺の隣にいる葉隠を始めとした他の生徒達に教えるべきか。
数秒考え、教えないという選択肢を選ぶ。
もしこれで、仮免試験に合格するのだけを重要視するのであれば、あるいはA組の面々にその辺について教えてもいいのかもしれない。
だが、俺は今日は壁としてこの仮免試験に参加している。
であれば、当然壁というのはこの試験会場にいる生徒達だけではなく、A組の生徒達にも関係すべきだろう。
ましてや、A組の生徒達は俺という壁が今までずっと立ち塞がってきており、そういう意味では俺という壁に慣れている訳だ。
であれば、これはある意味不公平だろう。
……いやまぁ、俺という存在に立ち塞がられ続けたA組の面々は、1学期中ずっとそれを感じてきたのだから、それを思えばここで不公平というのはどうだ? と思わないでもなかったが。
とはいえ、それは雄英という日本でトップのヒーロー科に入ってしまった以上、仕方がないとは思って貰うしかない。
なので、雄英が狙われる可能性については言わない事にする。
そんな風に思っていると、数人が壇上に立つ。
……って、あれ目良だよな?
『え……では仮免の奴をやります。あー……僕はヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠。よろしく』
マイクを通してそんな声が聞こえてくる。
どうやらやっぱりあれは目良だったしい。
『仕事が忙しくてろくに眠れない……人手が足りていない。眠たい! そんな信条の下、説明させていただきます』
目良の挨拶を聞いた者は、多くの者が本当にこの人物は大丈夫か? といったような表情を浮かべる。
それこそもう休めと、そう言いたそうな奴すらいたくらいだ。
……とはいえ、俺の場合は目良に対して何かを言ったりする事は出来ないんだよな。
何しろ目良がここまで疲れているのは、シャドウミラーとの交渉とかもあるのは間違いないのだから。
もっとも、そこまで疲れているのならシャドウミラーの件についてそろそろ政府に知らせてもいいと思うんだが。
そうすれば政治班との交渉とかについても政府の外務省……いや、この場合は外務省で合っているのかどうか分からないが、とにかく公安以外の者達に任せられる訳で、そうなれば公安も忙しさはどうにかなる……あるいはそれでもかなり忙しいのかもしれないが、今よりマシになるのは間違いない。
いっそ、量産型W……は無理でもコバッタ辺りを貸し出したりするか?
そうも思ったが、コバッタが知った内容は自然とシャドウミラーにも流れる事を考えれば、公安としても借りるのに二の足を踏むだろう。
あるいは借りたとしても機密情報のないような簡単な仕事をやらせるとか、そういう風になると思うが。
ただ、そういう簡単な仕事……雑用を任せられるというだけでも、公安としては随分と楽になるとは思うが。
そんな風に考えている間にも目良の話は続き、この会場にいる1500人程の中から第1次試験の合格者は先着順100人と説明され、周囲がざわめく。
当然だろう。
仮免の合格率は5割程と言われているのに、1500人程の中から100人なのだから5割どころの話ではない。
その上、これはまだ1次試験な訳で、1次となると当然ながら2次、あるいは3次もある可能性がある。
100人というのが、この試験会場だけの内容なのか、あるいは他の2つの試験場でも同じなのか、その辺りは俺にも分からない。
ただ、とにかくこの試験会場で行われる1次試験については、先着100人という事らしい。
なお、先着100人という人数の理由は、ヒーロー飽和社会の今、ヴィランが犯罪を起こしても捕まるまでの時間は引くくらい早くなってるらしい。
……そうか?
そう疑問に思うが、目良にしてみれば……公安にしてみれば、どうやら本気らしいのは見て分かる。
もしかしたら、これもまた表には出していないものの、シャドウミラーと関係があるのかもしれないな。
で、5割どころか1500人程のうち先着100人ともなれば、当然ながら試験を受けに来た者達にとっても素直に納得出来る筈もなく、何人もが不満を口にする。
「まぁ、社会で色々とあったんで……運がアレだったと思ってアレして下さい」
アレという言葉で色々と誤魔化してないか?
そうも思ったが、目良が言っている社会で色々とあったというのはAFOとの戦いがあった、神野区の件なんだろうなとは思う。
……ただ、苦情を言った相手にそう返しながらも、目良の視線は一瞬こっちに向けられたのを思えば、アレとかそういうのには当然ながらシャドウミラーも関わっているのだろう事は容易に想像出来た。
もっとも、シャドウミラーの件は重要機密である以上、目良がそれを口にしたり、あるいは匂わせるような事を言ったりもしなかったが。
『で、先着100名の件ですが……使うのはこれです』
そう言い、目良はリング? とボール? のような物を取り出す。
同時に、目良の背後にある巨大モニタに簡略化された人の映像が映し出され、目良が説明を始める。
リングは正確にはターゲットと呼ばれているらしく、それを好きな場所……ただし、常に晒されている場所につける。
ただし、足の裏や脇とかは駄目。
まぁ、そうなると簡単に隠せるしな。
それで、ボールは1人6個配られ、そのボールを相手のターゲットにぶつける必要がある。
ターゲットはボールが当たった場所だけが発光する仕組みとなっており、身体に付けている3つのターゲット全てが発光した時点で倒されたと判断され、失格。
……なお、あくまでも3つ目のターゲットに当てた者が倒したという扱いになるので、例えばAという人物のターゲットをBという人物が2つ光らせた後、Cという人物がAの3つ目のターゲットを破壊した場合、Aという人物を倒したのはCという扱いになる訳だ。
そして2人倒した者から勝ち抜け、と。
そうしてルールが決まると、目良が再び俺に視線を向けてくる。
「ね。ね。何かあの公安の目良って人……こっちを見てない?」
俺の隣にいる葉隠が、そう声を掛けてくる。
実際、目良が見てるのは俺で、そこには優に頼んだ伝言通り、壁になってくれるようにと、そう視線で言っている。
そうした中でターゲットとボールを受け取り……
『じゃあ、展開後ターゲットとボールを配るんで、全員に行き渡ってから1分後にスタートとします』
展開? と目良の言葉に疑問を覚えると……俺達のいた建物の四方が倒れ、その外には岩山だったり、街だったり、工場だったり……さまざまな光景が広がっていたのだった。