2次試験……というか、これが最後だって目良も言っていたので、これは最終試験か。
その最終試験が始まるまでの10分は、休憩であると同時に準備の時間でもある。
ここに残っている者達は1次試験を突破しただけあって、多くの者達がそれを理解していた。
理解してはいたのだが、中にはそれでもどうしたらいいのか分からない者、あるいは打ち合わせをしてはいるものの、知り合い同士でそのようにしている者達も多い。
とはいえ、ここで俺が口を出すのもちょっと違うだろう。
俺もまたこの仮免試験に参加してはいるものの、俺はあくまでも他の参加者達の壁としてここいにいる。
これがあるいは体育祭のトーナメントのように参加者同士で争う必要があるのなら、俺も色々と動きようがあるのだが……今回は救助で、しかもそれは競争ではない。
それこそ競争どころか、協力して要救助者という事になっているHUCの面々を助ける必要がある訳だ。
であれば、協力せずに……それどころか競争するような者達は、減点される可能性の方が高いと思う。
その辺りを分かっている者が大半だったが、中にはそれに気が付いていない者、あるいは気が付いた上で自分ならどうとでもなると考えている者もいる。
爆豪なんかは、まさにその典型だろう。
下手に能力がある分、爆豪は自分だけでどうにかしようと思っている。
同じクラスNo.2でも、轟の場合は普通に他の面々と協力するというのを躊躇したりはしない。
この辺は体育祭で緑谷と……原作主人公である緑谷と戦ったのが良い経験になっているといったところか。
「アクセルさん、その……このままでは不味いのでは?」
俺と同じく周囲の様子を見ていたヤオモモが、心配そうに尋ねてくる。
「だろうな。それで、どうすればいいと思う?」
「そう、言われましても……アクセルさんがリーダーシップを取るというのは?」
「駄目だな。試験官は公安で、俺の正体について知っている者もいる。それに俺がこの仮免試験に参加したのは、雄英に入学した時と同じく、他の者達の壁となる為という一面が強い。そんな中で、1次試験のような時ならともかく、協力して救助するとなると、俺が積極的に参加するのは試験官的に不味い筈だ」
「そう……ですのね」
俺の言葉に、ヤオモモが納得した様子を見せる。
俺の正体について知っているだけに、ヤオモモとしては俺にメインで動いて欲しかったといったところか。
だが、それは難しい訳で……
「こういう時こそ、ヤオモモの……雄英ヒーロー科A組の学級委員長であるヤオモモの出番じゃないのか?」
「っ!? ……そうですわね」
ヤオモモは俺の言葉に頷き、何かを考え始めた。
具体的に何を考えているのかは、俺にも分からない。
まぁ、ヤオモモの性格やこの状況からすると、何となく予想は出来るが……
「皆さん!」
と、1分も掛からずに考えを纏めたヤオモモが、不意に大きな声を出す。
その声は控え室中に響き渡り、一体何事だとヤオモモに視線が集まる。
普通なら、いきなりこの場にいる全員……トイレに行っている者もいるので控え室にいる全員ではないにしろ、それでも100人近い者達の視線を向けられれば気圧されてもおかしくはない。
だが、ヤオモモはその八百万家という名家の出身という事で注目を浴びるのに慣れているのか、あるいは単純に視線を気にしないだけなのか、ともあれ控え室にいる者達の視線を向けられても気にした様子もなく、口を開く。
「先程の試験官のお話で分かったと思いますが、次の試験は1次試験と違って皆で競争するようなものではありません。つまり、上手くいけば……本当に最善の結果となった場合ですが、ここにいる100人全員が試験に合格する事も出来る筈です」
ざわり、と。
ヤオモモの言葉を聞いた者達が、納得した様子を見せる。
それだけヤオモモの説明には説得力があったのだろう。
中にはヤオモモが呼び掛けた際、ヤオモモの際どい……というか、場合によっては露出狂かと言われてもおかしくはないヒーローコスチュームと、発育の暴力と呼ばれる事もあるヤオヨロッパイに欲望の視線を向けていた者もいたのだが、それでもヤオモモの説明を聞けば、納得した様子を見せる。
勿論、中にはヤオモモが言った事には気が付いていた者もいるだろう。
だが、それは自分だけ、あるいは仲間と共に知っていればいいだけといったように思っていたのに、ヤオモモはこうしてあからかさまに多くの者達に知らせたのだ。
……幸いだったのは、それを知らせても気が付いていた者達にとってマイナスにはならないという事だろう。
もしこれで気が付いた者だけが得をするといったような内容であれば、それを知らせたヤオモモに不満を抱く者もいたかもしれないが、そういうものではないのでヤオモモが下手に恨まれたりはしなかった。
「ですので、皆さん! 皆で協力してこの試験に挑みませんか?」
「協力って、どうやってだよ。あんたらは雄英だからそれぞれの個性とか性格とか癖とか、そういうのを知ってるかもしれないけど……初対面の奴も多いんだぞ?」
そう、控え室にいる者の1人が言う。
その言葉には相応の説得力があったのか、頷いている者も何人かいる。
だが、ヤオモモは反論……というよりも、説明を重ねる。
「私も、全員が一糸乱れぬ協力が出来るとは思っていません。ですが、自分の出来ない事、自分の個性に向いていない事を、それに向いた人に任せるといったことは出来る筈です」
「けど、試験の範囲はこのフィールド全体だろ? ならどうやってそういう奴を見つけるんだ? あるいはいても、離れた場所にいた場合はどうすればいい?」
「その辺は心配いりません。……こちらを使って貰います」
そう言うヤオモモの掌には、小さな機械があった。
耳に引っ掛けるようにして使う通信機。
何もない場所から取り出した……それこそ俺の空間倉庫のようにも思えるが、実際にはそれはヤオモモの個性である創造によって生み出された物だ。
「これは、私の個性の創造で作り出したものです。これによって私が……そして出来れば何人か補助が欲しいですが、情報を集めて最適な人材をその場所に派遣します。移動に関しては……申し訳ありませんが、自分でどうにかするか、あるいは移動に便利な個性を持ってる方に頼む必要がありますが」
そう言い、ヤオモモが一瞬俺に視線を向けてくるものの、俺はそれに対して首を横に振る。
ヤオモモが期待したのは、恐らく俺の影のゲートだろう。
だが、影のゲートは今のところ知ってる者が限られている。
例えば、この中にAFOと繋がりのある者がいないとも限らない。
AFOは現在タルタロスにいるが、それでもAFOの残党とかがいるのを考えると……何より、AFOの教え子とでも呼ぶべきヴィラン連合がいるのを考えれば、まだ多くの者に知られていない俺の力は出来るだけ使うべきではない。
ないが……ああ、でもそうだな。
「全員をという訳じゃないが、ある程度近くにいる連中なら、俺が運べるぞ」
そう言う。
首を横に振って影のゲートについて使用するのを否定した俺が、いきなりそのような事を言ったので、ヤオモモが驚きの視線を向けてくる。
……何故か三奈と耳郎が俺にジト目を向けてたいたし、透明なので確信はないが、葉隠もそんな視線を向けているように感じたものの、取りあえずそちらは気にしないようにし、ヤオモモの近くにいたからだろう。多くの者達に視線を向けられつつ、指をパチンと鳴らす。
次の瞬間、鳴らした右手が白炎となり、それを見た者達が驚きの表情を浮かべるものの、俺の右手が燃えたと判断して悲鳴を上げるよりも前に、馬の炎獣が生み出される。
控え室の中なので、馬の炎獣は結構な場所を取ったものの、取りあえず1匹だけなので気にしないでおく。
ちなみに本来なら馬は1頭、2頭と数えるのだが、これは炎獣なので1匹、2匹で問題ないと思う。
「これは炎獣。俺の個性の1つだ。……ああ、具体的にどういう個性なのかというのについては、秘密という事で。取りあえず俺はこの炎獣という……まぁ、疑似生命体か? そういうのを生み出せるし、これに触れても熱くはない。……峰田、触ってみろ」
「ちょっ、オイラかよ!?」
近くにいた峰田にそう言う。
どうやら峰田はまさかここで自分に出番が来るとは思っていなかったのか、驚きの声を上げるが……
「皆が見ている前で怖がる様子もなく炎獣に触ったら、凄いと思われてモテるかもしれないぞ」
「っしゃ、オイラに任せとけ!」
峰田に聞こえる程度の小声でそう言うと、峰田は一切の躊躇なく炎獣に触れる。
うーん、こういう時に峰田って便利だよな。
そして他の面々は、そんな峰田に驚きの視線を向けている者がいた。
それなりに女もいるのだが、その女達は……まぁ、うん。間違いなく峰田のいきなりの行動に驚いてはいるものの、言ってみればそれだけだ。
……とはいえ、驚いているというのは多少なりとも興味を惹けたという事でもあるので、声を掛けて上手い具合に話を持っていけば、ワンチャンある可能性は十分にある。
もっとも、峰田が自分を隠す事なくいつものようにがっついたりセクハラしたりすれば、どうなるのかは分からないが。
「全く」
呆れたように呟くヤオモモ。
俺より少し離れた場所にいる峰田に聞こえる声という事は、当然ながら峰田よりも近くにいるヤオモモにもしっかりと聞こえる訳で。
ヤオモモにしてみれば自分が必死になってこの控え室にいる皆を纏めようとしている中で一体何を言ってるのかと、そのように思うのは、そうおかしな話ではない。
とはいえ、実際に誰かに炎獣に触れて貰う必要があったのは間違いなく、そういう意味ではこうして峰田が馬の炎獣に触れるというのは、必要な行為だった訳だ。
……もっとも、それがどうしても峰田じゃなきゃいけなかったという訳でもないのだが。
ただ、峰田は何かこう、そんな扱いをしても問題ないと判断したのだ。
何度となく峰田は嫉妬から俺に攻撃してきた訳で、そういう意味ではこのくらいのことはしてもいいだろうと思ったのも事実だが。
ともあれ、峰田が馬の炎獣に触れたのを多くの者達が確認したのを見てから、口を開く。
「こんな訳で、炎獣には触れても問題ない。だから、多少の距離の移動なら俺が炎獣を生み出して指示された場所に向かわせるから、これに乗って移動してくれ」
そう言うと、多くの者達が納得した様子で馬の炎獣を見ていたのだが……
「えっと、その……ちょっといいか? 話は分かったし、見た感じだと十分にどうにか出来ると思う。けど、その……俺は乗馬の経験がないんだけど。手綱とか、そういうのもないみたいだし」
士傑とはまた違うベレー帽のような帽子を被っている男が、そう俺に言ってくる。
その言葉を聞いた他の者達も、そういえば……といったように目を見開く。
まぁ、そうか。ここが例えばファンタジー世界なら、乗馬を出来る者もいるだろう。
……いや、ファンタジー世界であっても、乗馬が出来る者はそれなりに限られているか?
それでもこのヒロアカ世界においては、乗馬が出来るのヤオモモのような上流階級の者か、あるは家が牧場で馬を飼っているとか、もしくは金持ちではないが趣味で乗馬をしていたとか、そんな感じか?
そうなると、実際に乗馬が出来る者が少ないというのは理解出来る。
理解出来るが……俺は心配そうな表情を浮かべている男や他の者達に対し、笑みを浮かべて口を開く。
「その辺については心配いらない。炎獣というのは疑似生命体だと思って貰えればいいから、乗ってる奴の指示にはしっかりと従う。……まぁ、許容出来ないような指示、例えば仲間を後ろから襲えとか、そういうのをされると指示を無視するだろうけど、常識的な指示にならあっさりと従うから安心しろ。炎獣に乗ったら、落ちないようにしっかりと掴まっていればいい」
そう言うと、実際に乗ってみた訳ではないが、それでもある程度安心した様子を見せる。
本来なら、要救助者を炎獣で見つけるといったこともやろうと思えば出来るんだが、そうなるとちょっとやりすぎって感じになりそうだしな。
それに何かあった時の為に俺を予備戦力として取っておくというのも、決して悪くはない筈だ。
「では、皆さん。これから通信機をお配りします。……それと要救助者がいるという事ですので、私は他にも治療器具を作って、この控え室を救護室として使います。その手伝いをして下さる方がいたら、協力をお願いしますわ」
そう言い、ヤオモモは次々に通信機を作っていき、他の面々に渡しながら何人かと話をし、救助者の治療をフォローする為の人材を集めていく。
うーん、こうして見るとやっぱりヤオモモはリーダーシップがあるよな。