次々に運ばれてくる怪我人達を、ヤオモモやその補助をしている者達がサポートする。
治療系の個性を持っている訳ではないにしろ、治療についての知識のある者が分別……いわゆる治療の優先順位、トリアージをして並べていく。
俺もまた炎獣を生み出してはオペレーターの指示に従ってそちらに派遣し、あるいはゴリラの炎獣とかで怪我人を運ぶのを手伝ったり、あるいは暖房代わりにスライムの炎獣を生み出し、それぞれに配っていく。
それにしても、この涙型の形のスライムって……俺、どこで見たんだったか。
多分、ネギま世界かペルソナ世界でだと思うんだが。
もしくは、全く別の世界……例えば今はもう行けなくなった門世界とかであったりする可能性もあるのか?
まぁ、門世界はファンタジー世界だし、その可能性も十分にあるか。
そんな風に考えながら自分の役目を……他の受験者達の邪魔にならないようにしながら行っていると……
BOOOOOOOM!
不意にそんな爆発音が聞こえてくる。
「きゃあっ! 何!?」
いきなりの爆発音に、救護所にいる一人が思わずといった様子で悲鳴を上げる。
「落ち着いて下さい! 今はまず状況を把握する必要があります! アクセルさん!」
ヤオモモが素早く指示を出す。
これは……俺が出てもいい案件か?
少しだけ迷ったものの、救護所にいる面々の中には既にこれが試験であるというのを忘れているかのような者もいる。
それだけ、いきなり起きた爆発音は衝撃的だったのだろう。
仕方がない、か。
「任せろ!」
正直なところ、出来れば他の受験生に様子を見に行って欲しかった。
しかし、今の救護所の状況……特に怪我人という事になっているHUCの面々を放って置いて音の対処をするというのは難しい。
あるいはこれで俺がここにいなければ、何とか他の者が様子を見に行くといったことも出来たのだろうが。
そういう意味では、混乱している者達は減点対象なのかもしれないが……その辺は、混乱した者は自分が悪かったと諦めてくれ。
そんな風に思いつつ、救護所から外に出る……いやまぁ、控え室の壁は四方に倒れたので、今のこの状況で既に今ここが外だと言われればそうなんだが。
ともあれ、救護所から離れると虚空瞬動を使って空中に上がる。
いっそ空を飛んでもいいのでは?
そうも思ったが、虚空瞬動はともかく空を飛べるのは今はまだ隠しておいた方がいいしな。
ともあれ、そうして高い場所まで移動した俺が見たのは……競技場の壁を破壊するようにして姿を現した存在だった。
えっと……あれは見たことがあるな。ビルボードチャートでも上位に位置していたヒーロー、ギャングオルカだったか?
そのヒーローネームや、外見もあってか、ヴィランっぽい見た目ランキングでも上位に入っていた筈だ。
その姿を確認し、ヤオモモに……救護所にいた者達に情報を知らせようとしたところで……BOOOOOOOM! と、再び爆発音が聞こえてくる。
こちらもまた、競技場の壁を破壊して何者かが姿を現したのだが……
「優、か」
そう、ギャングオルカに続いて姿を現したのは、優。いや、この場合は優じゃなくてマウントレディと表現した方がいいのか?
誰かに説明する時はマウントレディとしておけばいいだろう。
だが、何故ここに優が?
そう疑問に思ったが、バスから下りた時に龍子と一緒に優も俺にピクシーボブやマンダレイからの情報を届けに来ていた。
そういう意味では、仮免試験の会場に優がいるのは不思議でも何でもない。
だが、俺と会った時に優や龍子は仮免試験に自分達も参加するとは、言ってなかった。
こうして……恐らくはヴィラン役として参加するのを黙ってたのか、それとも目良を始めとした試験官達に優や龍子がいるのを知られ、急遽仮免試験のヴィラン役として参加したのか。
その辺りは分からないが、優がこうしてヴィラン役として参加してきたのを思えば、もしかしたら龍子もまた同じようにヴィラン役として参加してくるかもしれないな。
『ヴィランが姿を現し、追撃を開始! 現場のヒーロー候補生はヴィランを制圧しつつ、救助を続行して下さい!』
試験会場に目良の状況説明……というか、指示? が放送で響き渡る。
それを聞き、地上に戻り……
「放送を聞いていたな? さっきのあった2度の爆発音は、ヴィランがそれぞれ侵入してきた音だ。……競技場の壁を壊してしまうと、直すのは大変だとは思うけど」
ヴィランがそれぞれ侵入したという言葉に、まだ難しくなるのか? といった表情を浮かべていた者達だったが、後半の言葉で少しだけ気が抜けたらしく、中には小さく吹き出している者もいた。
「それで、アクセルさん。ヴィランというのは……」
ヤオモモも俺の言葉に微かに笑みを浮かべたものの、すぐ我に返るとこの場の指揮官としてそう聞いてくる。
……別に明確にヤオモモが指揮官といったように皆で決めた訳ではないのだが、ヤオモモの指示が的確で、その上で必要な物を次々に作れるのもあって、自然とヤオモモが指揮を執るような形になっていた感じだ。
ヤオモモもその辺は自覚しているのか、ヴィランについて聞いてくる。
「爆発音が2度あった事からも分かるように、襲撃してきたヴィランは2人だ。いや、正確にはちょっと違うが。まず1人目はギャングオルカ。こっちは本人以外にも部下? と呼べばいいのか、とにかく多数を引き連れている。で、もう1人はマウントレディ。こっちは正真正銘1人だな」
「あ……なるほど……」
ヤオモモが納得したように声を出したのは、やはり試験会場に入る前に優と龍子が俺に接触してきたのを見ていたからだろう。
別に伝言を持ってきたといったようなことは話してないものの、それでも試験会場にいたのだから、と。理解してもおかしくはない。
「アクセルさん、では、リューキュウも?」
そう聞いてきたのは、優がこうしてヴィラン役として出て来たのだから、龍子もまた同じようにヴィラン役として出てくるのでは? と思ったのだろう。
だが、俺はそんなヤオモモの言葉に首を横に振る。
「いや、今のところリューキュウは見えない。……あくまでも今のところで、後でヴィランの援軍として出てくる可能性も否定は出来ないけどな」
「そんなっ! 幾ら何でもやりすぎじゃない!?」
この場にいる受験生の1人がそう叫ぶ。
まぁ……うん。いきなり叫ぶのはどうかと思うが、実際俺もこれはちょっと厳しいと思う。
あるいは仮免試験は毎回こんな風に厳しいのかもしれないが……いや、どうだろうな。
毎回これだけの難易度となると、合格者はかなり少なくなる筈だ。
これが本試験であれば、あるいはこのくらい厳しくてもおかしくはないのかもしれないが、これはあくまでも仮免となる。
となれば……ここまで難易度が上がった理由は、多分俺だろうな。
自惚れでも何でもなく、俺がその気になればこのくらいなら俺だけでどうとでもなる。
それは試験的に不味いだろうと判断し、この最終試験ではフォローに徹していた訳だが、それでも目良を始めた試験官にしてみれば甘いと、そう思ったのだろう。
多分だが、俺が参加している時点でこんな風になるように目良達が考えていても、俺は驚かない。
いや、寧ろそのくらいは当然だとすら思ってしまう。
となると……仕方がない、か。
「マウントレディについては、俺に任せろ」
そう、宣言する。
俺の知り合いである優がこうしてヴィラン役として出て来たのは、恐らく俺が原因。
であれば、俺が優の相手をするというのはそんなに間違ってはいないだろう。
とはいえ……受験生の中には優を相手にしようと向かう奴もいるだろうから、俺だけでどうにかするといった感じにはならないと思うけど。
ただ、大きいというのはそれだけで厄介だ。
巨大化した優を相手に対処出来るだけの実力の持ち主が一体どれだけいるのやら。
それこそ巨大化した優を相手にするよりは、ギャングオルカやその部下達を相手にした方が試験的にはいいような気がする。
勿論、それはあくまでも俺がそのように思っているだけなので、実際にはもっとこう……何か別の採点基準とか、そういうのがあってもおかしくはないと思うが。
もし俺が試験官だったら、全く勝ち目がないのに試験だから自分が死ぬような事はないだろうと判断するような奴に対しては、とてもではないが良い点数を付けたりはしない。
寧ろ自分の実力も冷静に判断出来ないとして、マイナスにするだろう。
そのくらいは多くの者が分かっている筈なので、恐らく優のいる方には自分の実力に自信のある者しかこないだろうというのが俺の予想だった。
「お気を付けて」
「ちょっ、本当にこの人だけに任せてもいいの!? 相手はマウントレディよ!?」
俺の実力を知っているヤオモモが、強い信頼と共にそう言ってくる。
ただ、少しだけ……本当に少しだけだが悔しそうな様子なのは、出来れば俺という戦力に頼らず、自分達だけでどうにかしたかったのかもしれないな。
実際、俺がいなくてもヤオモモの能力を考えれば意外とどうにか出来そうな気はするのだが。
そんなヤオモモに対して、近くにいた女が本気かと、あるいは正気かといった様子で言う。
ヤオモモと違って俺の実力を知らないのだから、それもしょうがないが。
それでも次から次に炎獣を出しているのを見れば、俺がかなりの実力者であるというのは、分かると思うんだが。
あるいはそれでも優を相手にすると負けると思っているのか。
……まぁ、正直なところ、優はあれでもビルボードチャートにおいては上位に入る実力の持ち主だけに、その心配は分からないでもない。
もっとも、優がビルボードチャートの上位にいるのはその美貌から男に強い人気があってのものではあるのだろうけど。
とはいえ、龍子とチームアップしたり、俺と模擬戦を重ねる事によってその実力はかなり伸びたのは間違いないが。
実際、神野区でもそれなりの活躍は見せていたし。
とはいえ……それで俺に勝てるかとなると、話は別だ。
「心配するな。お前も知ってると思うが、俺は雄英の体育祭で優勝したり、ステインを倒したりもした実績を持つんだぞ?」
そう、俺を心配する女に向かっていう。
……ステインの件は公に認めたりとかはしていなかったので、暗黙の秘密……よりはよりオープンな感じだったが、映像がネットにアップされている以上はどうしようもないだろう。
もっとも、公に認めるとかそういう風に言っても、そもそもの話、俺が公の場で何かを言ったりとかはしていないが。
あるいは公式チャンネルでも作るか?
そんな風にも思ったが、管理が面倒なのでやめておく。
それに……ネットにある掲示板サイトでは、アークエネミーのアンチもかなりいるっぽいしな。
もし公式サイトとかそういうのを作ったら、間違いなく騒動になるだろう。
……そうなれば、最悪ルリやラピスが出張ってきて、報復とかしかねないしな。
「……何でこの状況で笑えるの?」
ルリやラピスによってハッキングされて酷い目に遭うだろう者達について考えていると、先程まで話していた女、俺を心配していた女が理解出来ないといった様子でそう言ってくる。
しまったな。つい……どう誤魔化すか。
「マウントレディを相手に、もし倒す事が出来たらどうなると思う? 俺は合格間違いなしだと思う」
「……それは……そうかもしれないけど、そもそも勝てるの?」
「問題ない。さっきも言ったように、俺は自分の実力に自信を持ってるしな。マウントレディだろうが、ギャングオルカだろうが、倒してみせるよ」
もっとも、見ているのが目良のような公安の面々だけならともかく、他の受験生もいる。
そう考えれば、戦闘の際の選択肢は大きく減るだろう。
とはいえ、それしかないのなら手元にある手札だけでどうにかすればいい訳で、だとすれば俺にとってもそう難しい事ではないしな。
「だから、ヤオモモ。ここは任せたぞ」
話していた女から視線を逸らし、この場の指揮官であるヤオモモにそう言う。
「はい、お任せ下さい」
俺がいなくなるという事は、当然ながら要救助者の対処に炎獣を使えなくなる……つまり、遠くにいる応援を呼べなくなるのだが、それはそれで仕方がないだろう。
そもそも俺がいなければ、最初から自分達だけでどうにかしなければならなかったのだから。
だからこそ、炎獣による移動のサポートがなくなっても自分達だけで頑張って貰う必要がある訳だ。
まぁ、ヤオモモなら最悪スクーターとかも出せるし、それを使って移動して貰ってもいい。
……ああ、でも爆破されて道路が綺麗な状態ではないのを考えると、それはそれで難しかったりするか?
まぁ、それでもヤオモモならどうとでもなるだろうと考え、俺は最後に救護所を一瞥すると、跳躍し、虚空瞬動を使いつつ優のいる方に向かうのだった。