轟と士傑のイナサが揉めながらギャングオルカやその部下と戦っているという話を聞き、どうするべきか迷う。
『それでもギャングオルカは轟さんと士傑の方によって足止めをしていますが、部下の方が救護所に迫っています。なので、要救助者の避難を行っているところなのですが、手が足りません。炎獣をこちらに寄越せませんか?』
そう、通信機でヤオモモが言ってくる。
なるほど……多分、これは本当に多分だが、このピンチは俺が原作に関係した影響だろう。
優がこうして仮免試験においてヴィラン役として出て来たのは、それこそ俺が仮免試験に参加しているが故の、難易度調整だと思う。
であれば、もし俺がここにいなければ……原作通りの流れであれば、優は仮免試験でヴィラン役として出て来ず、今こうして優と戦っている者達はギャングオルカの方に向かっていた筈だ。
その戦力がいれば、ギャングオルカの部下を倒したり、あるいは倒す事が出来なくても押し止めたりする事は可能だった訳で……つまり、この状況は俺のせいか。
そうなると、ここでこのまま放っておくといったことは出来ないか。
「分かった。そっちに炎獣を向かわせる。馬の炎獣を……何匹くらい送ればいい?」
『十五……いえ、念には念を入れて、二十頭お願いします』
炎獣なんだから、馬でも頭じゃなくて匹なんだよな。
そう思ったが、だからといって今のこの状況でわざわざそのようなことを話す必要もないだろう。
別にどうしても匹で数えろとか思っている訳でもないし。
「分かった。じゃあすぐに向かわせる。……それで、俺はギャングオルカの方に向かった方がいいのか?」
ヤオモモと話しながらパチンと指を鳴らし、馬の炎獣を二十匹分作る。
……なお、当然ながら今もまだ受験者達と優は近くで戦闘を繰り広げている訳で、そんな中でいきなり馬の炎獣が二十匹も生み出されると当然ながら目立つ訳で……優がこっちに向かってくる。
馬の炎獣達にヤオモモのいる場所まで行くように指示を出し、優に見つからないようにしながら、通信を続ける。
『そうして貰えると嬉しいのですが、マウントレディの方は大丈夫なのですか?』
大丈夫、か。
俺の炎獣がいて、その上で優は俺を見つけるのを最優先にしている事もあってか、今のところはまだ何とかなっている。
だが、もしここで俺が抜けてギャングオルカの方に行ったら、どうなるか。
勿論炎獣は残していくつもりなので、優もすぐに俺がいなくなったとは気が付かないだろう。
だが、それでもやがて俺がいなくなったというのに気が付けば、その時は優も俺ではなく他にいる受験者達に狙いを定める筈だ。
つまり……俺がギャングオルカを倒して、すぐに戻ってくるまで優が気が付かないかどうか、か?
それはちょっと難しいような。
そう思っていると、再び通信機からヤオモモの声が聞こえてくる。
『アクセルさん、緑谷さんが来てくれました! 現在、ギャングオルカと戦闘中です!』
ヤオモモの喜びの声。
なるほど、ここで原作主人公が出てくるのか。
そうなると、俺がここでギャングオルカの方には行かない方がいいか。
ただでさえ俺は今までかなり原作介入をしており、それによって緑谷の実戦経験が減っている。
具体的には、シラタキとかAFOとか。
であれば、ここで俺がギャングオルカの方に行く必要もないだろう。
寧ろ俺がギャングオルカの方に行けば、また緑谷の実戦経験――仮免試験なので命懸けの戦闘ではないが――の機会を奪ってしまう。
そうなると、やっぱり俺がやるべきなのは……ここだな。
また、メタ的な読みだが、緑谷がこうしてギャングオルカと戦いになっているのを見ると、この最終試験もそろそろ終わりに近い筈だ。
となると……他の面々の出番もしっかりと作ったし、俺自身の評価にも繋がる以上……
「分かった。じゃあ、ギャングオルカは緑谷に任せて、俺はマウントレディの相手をする」
『はい、お気を付けて』
そうして通信が切れるが……今更、本当に今更の話ではあるが、爆豪はどこに行ったんだろうな?
ヤオモモから聞いた話によればギャングオルカの方にはいなかったし、そしてこうして見る限りだと優との戦いにも参加していない。
爆豪の性格からすると救助は向いていないのだろうし、そうなると……本当に爆豪はどこに行った?
あるいは何かの間違いで性格が矯正されて、HUCの救助に全力を尽くしているとか?
……とてもではないが、考えられないな。
そうなると、やはり何かもっとこう……実は他にもヴィラン役で出ている奴がいるとか?
可能性としては、リューキュウ……龍子か。
優と一緒に俺に伝言を持ってきた龍子だけに、その優がこうして仮免試験にヴィラン役として出ている以上、龍子も出る可能性は十分にある。
そもそも伝言だけならLINや電話、メールと俺に連絡手段は幾つもあるのだから。
もっとも、龍子の個性はドラゴンだ。
変身をしなくても相応に強いが、やはりそれでも本領を発揮出来るのはあくまでもドラゴンになってからとなる。
であれば、やっぱり龍子は違うのか?
なら、爆豪は?
そんな風に思いつつも、取りあえず視線の先で暴れている優の対処をするべきだと判断し、姿を現す。
とはいえ、優は既に見つからない俺の存在については気にしないようにしたのか、他の受験生達に向かって攻撃を始めていたが。
ここまで俺を狙ってきたのに、俺がその気になった時には既に気にしていないってのは……どうなんだろうな。
そう思いつつ地面を蹴って、虚空瞬動を使って優との間合いを詰めていく。
すると、ここにいたってようやく優も俺の存在に気が付いたらしく、巨大な手で俺を弾こうと振るってくるが……
「甘い」
虚空瞬動を使った三角跳びを行い、右手の一撃を回避して間合いを詰め……
スコン、と。
優の顎先を掠めるような一撃を放つ。
顎先を掠めるようなとはいえ、それでも大きさの違いを思えば相応に力を入れる必要がある。
その一撃は狙い通りに優の顎先を揺らし、脳をも揺らし、脳震盪で優の意識は一瞬にして途切れる。
意識を失った優は、そのまま地面に倒れ込み、個性の効果も消えて小さくなっていく。
そうして優を倒した次の瞬間、ビーッ! という音、ブザー音? 的な感じの音が聞こえてくる。
『えー、現時点を持ちまして、配置された全てのHUCが危険区域より救助されました。まことに勝手ではございますが、これにて仮免試験全行程、終了となります!』
未だにビーという音が試験会場全体に鳴り響きながら、目良からの放送が周囲に響き渡る。
俺と共に優と戦っていた者達は、安堵……というか、本当にこれで終わったのか? といった様子で周囲を見ていた。
疑り深い……というよりも、本当にあまりに予想外の展開でこのようになった事に、色々と思うところがあるのだろう。
実際、本当にいきなりだったし。
……というか、俺の記憶が確かならHUCを全員安全地域まで運べば試験終了とか、そういうのは全く聞いた覚えがなかったよな?
だとすれば、試験終了についても秘密にしていたという事になるのか?
あるいは……救助者を全員安全地帯に運ぶというのは試験終了条件の1つで、他にも色々と条件があったとか、そういう感じなのかもしれないな。
勿論、俺が勝手にそう予想しているだけで、そういうのは全くなく、救助者全員を安全地帯に運ばなければ終わりではなかったと、そういう可能性も十分にあるが。
もっとも優とギャングオルカ、そしてギャングオルカの部下の全員を倒してしまえば自然と危険はなくなるので、その時点で試験終了になった可能性は十分にあったが。
『集計の後、この場で合否の発表を行います。怪我をされた方は医務室へ。他の方々は着替えて、少しの間待機でお願いします』
続けて目良からの放送があり、それを聞き、それでようやくこの場にいた他の面々も試験が終わったのだと、そう理解したらしい。
「な、なぁっ! あんた、あんただよな! あの白い炎の獣とかモンスターとか、そういうのを出したのは!」
これで本当に試験が終わったと判断したのだろう。
優と戦っていたうちの1人が俺に近付いてきて、そう言う。
「ああ、俺が白い炎の獣やモンスター……炎獣を生み出した」
「そうか、ありがとう。お陰で、マウントレディの攻撃を食らうところだったのが、何とか回避出来たんだ!」
その言葉に、ああ……と思い出す。
優の平手の一撃を食らおうとしたところを、グリフォンの炎獣に助けられた増強系の男だった。
「そうか、無事で良かったな」
「俺にも礼を言わせてくれ! ありがとう、俺もマウントレディの攻撃を食らいそうになっていたところを助けて貰ったんだ!」
その男達を始めとして、多くの者達に礼を言われる。
……もっとも、中には俺にというか炎獣に助けられたのが不満だったのか、それとも何かもっと別の理由で不満だったのか、苛立たしげに俺を睨み付けているような奴もいたが。
とはいえ、そういう連中も特に何かを言ってくる様子はなかったので、俺としては自分からわざわざ絡みに行ったりしようとは思わなかったが。
「とにかく、さっきの放送通りもう試験は終わったんだ。集計が終わるまでに着替えて待っていた方がいいんじゃないか?」
そう言いつつ、ふと自分のヒーローコスチュームに視線を向ける。
俺のヒーローコスチュームのうち、使える資金の大半を多目的用のマントに注ぎ込んでいる。
それ以外には特に何の問題もないので、他の面々と違ってヒーローコスチュームの改良とかそういうのしてこなかったが、葉隠の個性のように光学迷彩的な効果をこのマントに付けられないかと、ふと思う。
まぁ、気配遮断を使えばそういうのは必要ないかもしれないんだが……ただ、それでも改良出来るのなら改良した方がいいと思うし。
俺のヒーローコスチュームは、技術班に対する土産にもなるしな。
もっとも、ヒーローコスチュームは俺が雄英を辞めた後にはどうなるのか、ちょっと分からないが。
それでも俺の場合は雄英を辞めるにしても、きちんと理由があって辞めるので、そういう意味ではそこまで問題はないだろうし、ヒーローコスチュームも特別に俺が個人で回収出来るのかもしれない。
「さて」
他の面々が着替えに向かったのを眺めつつヒーローコスチュームについて考えていると、やがて本格的に周囲から人の気配は消える。
まぁ、多数仕掛けられているカメラとかそういうのでこっちの様子は確認されているのかもしれないが……取りあえず、優をこのままにしておく訳にもいかないし、連れていくか。
横抱き……いわゆるお姫様抱っこの形で優を持ち上げる。
そのまま優が出て来た場所……つまり、破壊された壁の方に近付くと、そこには覚えのある気配があった。
気配の持ち主は、俺が自分の存在に気が付いた……といった訳ではないのだろうが、とにかく俺の側までやってくると笑みを浮かべて口を開く。
「お疲れ様」
そう口にしたのは、龍子だ。
相変わらずのクールビューティっぷりだが、笑みを浮かべるとそのクールビューティっぷりも幾分か収まり、暖かな様子を見せる。
「てっきり龍子も出てくるものだとばかり思ってたんだけどな」
「最初はそういう意見もあったらしいけど、優が……マウントレディが出るのに加えて私も出るとなると、過剰戦力になるということになったのよ」
「なるほど」
誰がそう主張したのかは分からないが、その意見は決して間違っているようには思えない。
そもそも当初……というか、原作か。
俺の介入していない原作では、優も龍子もこの仮免試験には関与しなかった可能性が高い。
であれば、本来ならギャングオルカやその部下達のみがヴィラン役として仮免試験に参加していたという可能性が高いだろう。
そうなると、優の追加が俺の参加分のペナルティ……いや、ちょっと違うな。追加の課題といったような感じで、龍子についてはその追加分の課題以上の戦力として公安というか試験官達に認識されたのだろう。
とはいえ、目良は俺が優と龍子の2人を同時に相手にしても勝てるというのを知っていた筈なので、そういう意味では……どうなんだろうな。
まぁ、これはあくまでも仮免試験で、俺だけが目立つ必要がない訳で。
もっとも、何だかんだと最終試験では炎獣であったり、あるいは最後の最後に優を一撃で倒したりと、目立っていたような感じはするが。
「取りあえず、優を頼む。俺もいつまでもこうしていられないしな」
さっきの目良の放送で、着替えて待ってるようにと指示を受けている。
であれば、俺もいつまでも龍子と話をしていて、ヒーローコスチュームのままって訳にはいかないしな。
「そうね。……じゃあ、優は受け取りましょうか。気が付いた時、アクセルに抱かれているところを見てみるのも面白いと思うけど」
そう言って笑みを浮かべる龍子に優を預け、俺は着替える為に移動するのだった。