三奈と色々と話をしていると、視線の先ではイナサが轟に向かって謝っているのが見えた。
どうやら向こうの問題も解決したらしいが……ちょっと遅かったな。
「ね、ねぇ、アクセル。その……そろそろ手、放してくれないかなって思うんだけど」
轟とイナサのやり取りを見ていると、三奈がそう言ってくる。
ああ、そういえばまだ腕を掴んだままだったな。
「悪い」
そう言って手を放すと……あれ?
何故か呆れたようなジト目を、三奈が俺に向けていた。
掴んでいた手を放して欲しいと言うから放したんだが、何でそれでこうした視線を向けられるんだ?
そう疑問に思うも、今のこの状況でそれを聞くのは、恐らく駄目だろうというのは俺にも理解出来た。
なので、そんな三奈の視線を気にしないようにしていると……
『えー、全員自分の名前を確認出来たでしょうか? 続きましてプリントをお配りします。このプリントにはそれぞれの採点内容が詳しく記載されていますので、しっかり目を通しておいて下さい』
そう目良が言うと、他の試験官……この連中もまた、公安の所属なのだろうが、その面々が名前を呼んでプリントを渡してくれる。
そして俺の名前はあ行なので、すぐに渡されたのだが……90点、か。
減点方式という事を考えると、10点マイナスされた事になる。
何でだ? と思ってプリントを読むと、炎獣を使えばもっと上手くHUCを助ける事が出来ただろうに、他の参加者の移動にしか炎獣を使っていなかったのがどうやら悪かったらしい。
とはいえ……ぶっちゃけ、俺が本気になれば炎獣とスライムで全員一気に助け出せただろうし、そうなれば試験内容が滅茶苦茶になっていたと思うんだが。
そう考えると、ふと目良が俺を見ているのに気が付く。
そして目良は、俺に申し訳なさそうに目配せをしてくる。
……なるほど。この減点は俺について知らないHUCの面々によるものか。
そうなると、それはそれで仕方がないと思うが。
「アクセル、何点だった? 俺、84点。何気に俺って優秀なんだよな」
自分が高得点だったからだろう。
瀬呂がそう言って俺に近付いてくる。
そんな瀬呂に対し、笑みを浮かべてプリントを渡すと……
「げ……90点って……マジかよ」
唖然とした様子の瀬呂。
そんな瀬呂の言葉に、他のA組の面々が集まってきて、それぞれ自分の点数について言うのだが……
「ちょっ、これ……ヤオモモ、100点!? パーフェクトだよ!?」
耳郎のその言葉に、俺に集まっていた視線が一気にヤオモモに向けられる。
俺もまた驚き、皆に褒められて照れているヤオモモを見ながら、100点という点数は当然かとも思う。
各種治療器具……それこそ消毒薬や包帯、ガーゼといったようなものだけではなく、いざという時のAEDは勿論、他にも数千万とかするだろう医療機器を普通に作り、しかもそれを使いこなしていたのだ。
また、通信機を大量に作ってそれを試験を受ける全員――もしかしたら受け取らなかった者もいるかもしれないが――に渡し、指揮も執った。
それを思えば、100点というのは不思議な点数ではない。
俺のようにHUCからの減点がなかったという事は、俺と違ってHUCにもしっかりと接し、励ましたりしていたのだろう。
……さすがに峰田じゃないんだから、発育の暴力と呼ばれる身体と、露出度の大きなヒーローコスチュームからそういう点数を付けた訳ではないというのは信じたい。
さすがに公安がいる中でそんな事をするとは思えないけど。
「アクセルさん。その……ありがとうございます」
「えっと、何で感謝されるんだ?」
皆に褒められていたヤオモモが、俺に近付いて来てそう感謝の言葉を口にする。
この状況で一体何故自分が褒められるのか、それが俺には全く分からない。
だが、そんな俺に対してヤオモモは笑みを浮かべて口を開く。
「私が100点を取る事が出来たのは、アクセルさんの炎獣があったからです。もし炎獣がなければ……恐らくこのような評価は貰えなかったでしょう。もっとも、アクセルさんの炎獣を利用して私が100点を取ったのに、アクセルさんが90点というのは多少思うところがありますが」
どうやらヤオモモは俺と瀬呂の話も聞いていたらしい。
申し訳なさそうに……そして若干の憤慨と共にそう言ってくる。
「ヤオモモにそう言って貰えて、俺は嬉しいよ。けど……自分で言うのもなんだけど、俺自身はこの点数に納得してるしな」
そう言い、俺はプリントをヤオモモに見せる。
プリントを受け取ったヤオモモは、素早く目を通し……
「これを読む限り、やはり私が炎獣を使ったのが、アクセルさんがHUCに接触出来なかった理由のように思えるのですが」
「炎獣で人を送るというのは、俺が提案した事だしな。それに……ギャングオルカやマウントレディが現れるまでは、俺も救護所にいたんだ。その気があるのなら、その時にHUCの面々に声を掛けて元気づけたりも出来たんだけど、俺はそれをしなかった。それはつまり、俺の怠慢だ」
それに……90点を取ってからこう言うのも何だが、俺はこの点数で十分に満足している。
これが例えば、49点でギリギリ合格に届かなかったとか、そういうのであれば俺としても色々と思うところはある。
だが、90点で間違いなく合格をしたのだから、それを不満に思う筈もない。
目立ちたくないので、合格した上で低い点数でもいい……とか、そういう風には思わないが。
実際90点というのはヤオモモよりは点数が低いものの、それでも十分に高得点なのは間違いにない。
それは他の面々も点数を聞けば明らかだった。
「そう……ですの? アクセルさんがそう仰るのであれば、私からはこれ以上何も言いませんが。ただ、私はアクセルさんの点数に納得していないというのだけは覚えておいて下さい」
「分かったよ。ただ、ヤオモモは納得出来ないみたいだが、俺の90点というのは十分に高得点なんだ。そういう意味では、ヤオモモもそこまで気にする必要はないぞ」
そう言うと、それでようやく……完全にではないにしろ、ヤオモモも納得したらしい。
クラスの面々と話をしていると、再び目良が喋り出す。
もっとも、その内容は仮免になったからといって油断する事なく、しっかりやれといったような、そんな内容だったが。
特にその辺りの理由にはこの前起こった神野区の一件についても触れており、しっかりとするようにと、そう言っていた。
俺はそれで話が終わると思ったのだが、話はそれで終わらない。
今回の仮免試験に落ちた者でも、最終試験に参加していた者は3ヶ月の特別講習を行い、それが終わった後の個別試験でしっかりとした結果を出せば、仮免を交付するらしい。
当然の話ではあるが、それを聞いた爆豪や轟、イナサはやる気を見せていた。
……まぁ、轟はそこまで表情を変えたりとか、そういうことはしていなかったので、あくまでもそういう雰囲気を持っていたというだけで、実際のところはどうなのか分からないが。
ともあれ、爆豪達にもまだ仮免を入手するチャンスがあるという訳だ。
原作的に考えると、これはどうなんだろうな。
俺が介入した結果こうなったのか……いや、けど爆豪の性格を考えると俺が原作に介入したとか、そういうのがなくても原作でも同じように不合格だった可能性はある。
もしくは、俺が原作に介入していなければ爆豪は性格が矯正されるようなイベントがあったという可能性も……ないな。
この世界の原作については何も知らないので何とも言えないものの、それでも爆豪の性格を考えれば、そのようなことになっていたとは思えない。
そうして話が終わると、解散となる。
「ねぇ、アクセル君。B組ってどうなったか分からない?」
バスに向かう途中、葉隠がそう聞いてくるのだが、それはちょっと意外だった。
それこそ葉隠とB組の面々はそこまで仲良くない筈なのだから。
いやまぁ、拳藤を始めとしてB組の面々もそれなりに俺が開催していた自主訓練には参加していたし、林間合宿ではB組の女達とそれなりに仲良くなっていたらしいから、葉隠がB組について心配するのも分からないではないが。
「まぁ……そうだな。基本的には心配しなくてもいいと思うぞ。もっとも、うちで爆豪と轟が不合格になったのを考えると、もしかしたら物間辺りは不合格になっていてもおかしくはないが」
期末試験においても、物間はB組で唯一の不合格だった。
それが筆記試験で駄目だったのか、あるいは実技試験で駄目だったのか、その辺りは俺にも分からない。
だが、そんな物間だけに仮免試験に不合格になっていてもおかしくはない。
……もっとも、それを言うのならA組の期末試験の赤点組は軒並み仮免試験に合格している訳だが。
そういう意味では、B組でも予想外なことがあってもおかしくはない。
「もしどうしても気になるなら、B組の誰かに連絡をしてみるとかしたらどうだ?」
「うーん……でも、まだ試験中だったら連絡は取れないだろうし。そう考えると、やっぱり止めておくね。寮に帰ってから聞けばいいし」
そう、葉隠は言う。
けど、なるほど。言われてればそれはそんなに間違ってはいない。
俺達の仮免試験は終わったものの、B組の会場でも同じように終わったとは限らないのだから。
何らかの理由で試験の進行が遅くなっていたりすれば、もしかしたら今もまだ仮免試験の最中という可能性は十分にあった。
その辺の事情を考えると、当然ながらスマホは着替えと共にロッカーとかに入っているだろうから、連絡は出来なくても当然だ。
「分かった。なら、寮に帰ってから聞いた方がいいか。……合格祝いをやりたいところだけど、どうしたものだろうな」
これでA組全員が合格していれば、誰に遠慮する事もなく合格祝いが出来たのだろうが、まさか爆豪と轟というクラスNo.2の2人が揃って不合格になるというのは予想外だったんだよな。
もっとも、イナサと揉めた……というか、絡まれた結果不合格になった轟はともかく、爆豪の場合は性格とか言葉遣いとかの態度で不合格になったらしいが。
そういう意味では轟にはまだ同情出来るものの、爆豪の場合は同情の余地なしだろう。
ともあれ、そうして2人が不合格だった以上、クラスを上げての合格祝いを寮でやるのは不味いか?
そうなると、寮に帰ってから雄英の最寄り駅になる店とか、そういう場所で合格祝いをやるのはありだな。
あるいは、合格祝いという名称ではなく、打ち上げという事にしてもいいかも。
「あ、やりたいやりたい。皆で集まって……タコパとか、いっそお好み焼きパーティとか、そういうのもいいな」
渋いところを突いてくるな。
葉隠の言葉にそう思う。
いやまぁ、たこ焼きもお好み焼きも高校生にしてみれば好むのは分かるが、葉隠のような女子高生なら、それこそもっとこう……スイーツとか、そういうのを好むんじゃないのか?
そうも思ったが、よく考えてみればそれも当然かと思い直す。
今日の仮免試験もそうだが、かなり身体を動かしている。
であれば、クレープとかケーキより、もっとガッツリしたものを食べたくなってもおかしくはない。
……もっとも、そのガッツリでたこ焼きやお好み焼きなのはどうかと思わないでもなかったが。
どうせなら焼き肉食い放題とか。
あ、それならいっそ寮の外でバーベキューも……いや、駄目か。
他の寮との間が結構離れているのなら、あるいはそういう事も出来たかもしれないが、残念ながら雄英の寮はかなり近い場所に並んでいる。
校舎からもかなり近い位置にあるし、寮の中でならともかく、寮の外でバーベキューをやるのは難しいだろう。
そもそもの話、バーベキューパーティをやるにしても各種道具を用意する必要があるし。
……まぁ、一応は空間倉庫の中に入っているけど、まさか今のところ秘密にしている空間倉庫について知らせる訳にもいかないし。
そうなると、いっそ炎獣で……とか? もしくはヤオモモの創造でバーベキューの道具を用意して貰うというのもありかもしれないが。
「アクセル君、どうしたの?」
「俺やヤオモモの個性を使えば、今日の打ち上げに寮の外でバーベキューが出来ないかと思ってな」
「あ、それ面白そう……だけど、多分相澤先生は許可しないと思うよ?」
「皆で打ち上げをするからバーベキューは合理的だと言えば……それでも無理だと思うか?」
「うん、私はそう思う」
そう葉隠が口にするのを聞けば、多分無理なんだろうなと思う。
そうなると、やっぱりどこかの店に行くとか、そんな感じになるんだろうか。
まぁ、参加者の希望を聞いて、それで決めるのがいいだろうな。
そんな風に思いつつ、遠くで士傑の面々と話している緑谷や轟を見つつ、バスに乗り込むのだった。