UC世界のルナ・ジオン軍に所属する部隊の1つに、MA隊というのがある。
元々ルナ・ジオンは建国当時……いや、建国前からルナ・ジオンを建国する為に動いていた者達はジオン公国の中でもMIP社と頻繁に接触していた。
水陸両用MSやMA……特にビーム系、いわゆるメガ粒子砲を得意とするMIP社だけに、当然ながらルナ・ジオン軍の中には性能は非常に高いものの、コストもまた同様に高いMA隊が存在している。
……もっとも、最初こそシャドウミラーやセイラ、ラルといった者達はMIP社に接触したのだが、その後にヅダを開発したツィマット社が本格的に接触してきた為、MS隊のとMA隊では当然のようにMS隊の方が多数を占めるようになったが。
それでも連邦軍やジオン軍と比べると、ルナ・ジオン軍は大々的にMAを運用し、開発しているのは間違いない。
もっとも連邦軍もガンダム開発計画においてデンドロビウムを開発し、MSをMAのコアユニットとして使うといったような新機軸に手を出した事もあったが……結局のところ、デンドロビウムはデラーズ・フリートに奪われるという事になり、時代の徒花として姿を消した。
そうした中で、ルナ・ジオンだけは未だにMA隊が存在していた。
「ふん、まだ甘い。ヴァル・ヴァロの能力を活かしきってはいないぞ!」
その言葉と共に、ケリィの操縦するノイエ・ジールはヴァル・ヴァロの放つメガ粒子砲の一撃をあっさりと回避する。
……そう、現在MA隊の隊長であるケリィが操縦しているのは、アクシズが開発してデラーズ紛争時にルナ・ジオンに献上してきたMA、ノイエ・ジールだ。
勿論、実際にアクシズが生産したノイエ・ジールはアクセルが所有しているので、ケリィが操縦しているノイエ・ジールはアクシズからノイエ・ジールの実機が譲渡された時、一緒に譲渡された設計データを使い、ルナ・ジオンの兵器開発メーカーであるディアナによって生産された機体だ。
少し前までは、MA隊の中でも隊長のケリィやそれ以外の精鋭がヴァル・ヴァロを操縦し、それ以外の者達はビグロ系のMAを使っていた。
……もっとも、MA隊の中では性能の低い機種という事になっているビグロも、MAだけあってかなりの加速度を持ち、並大抵のパイロットでは乗りこなすことが難しい。
より単純に、MSとMAというのは全く違う機種である以上、MSのパイロットがMAに機種転換するのもそれなりに訓練が必要となるという事もあり、元々MAパイロットが少ないというのも、ビグロを乗りこなすのが難しいというのに影響しているが。
MAは間違いなく性能が高く、数機のMSを相手にしても容易に勝てるだけの性能を持つ。
だが同時に、それはMSの数機、あるいは10機……場合によってはそれよりも高いコストが必要なのだから、そのくらいの性能はあって当然なのだが。
ともあれ、現在ディアナによって作られた1号機であるノイエ・ジールを使った模擬戦が宇宙で行われていた。
……勿論、それは当然ながら実弾はペイント弾、ビームは模擬戦用の弱いビームを使用し、実際の判定については機体に搭載されている模擬戦用のシステムによってされているのだが。
『くそっ、ノイエ・ジールは化け物か!? もっと間合いを取れ!』
『無理を言うなって! そもそもヴァル・ヴァロやビグロの最大の武器であるメガ粒子砲が通じないんだぞ!? それでどうしろってんだ!』
『ミサイルだ! ミサイルを使え!』
『ミサイルはあくまでも補助武装で、弾数そのものはそんなに多くないぞ!?』
ノイエ・ジールのコックピットに、部下達の通信が聞こえてくる。
本来なら、模擬戦の時はお互いに通信を聞こえないようにするのが一般的だ。
だが、今回の模擬戦はノイエ・ジールの性能テストといった一面も大きい。
勿論ディアナによって生産された後、ノイエ・ジールの各種テストは既に終わっている。
だが、ケリィにしてみればやはり自分が乗るMAだけに、自分で直接……それも可能であれば模擬戦でその性能を確認してみたい。
その為、どうせならとMA隊との模擬戦という形でやっていたのだ。
だからこそ、もし何らかの予期せぬ事態があった時の為に、こうして通信を繋いで模擬戦を行っている。
……もっとも、こうして通信を繋げた上での模擬戦となると、当然ながら向こうの作戦も今のように聞こえてしまうのだが。
(まぁ、ノイエ・ジールの性能を考えれば、仕方がないが)
MAの基本コンセプトというのは、高機動高火力だ。
そして高機動はともかく、高火力ともなれば基本的にはメガ粒子砲が採用される。
実際、ビグロにしろヴァル・ヴァロにしろ、その最大火力はメガ粒子砲なのだから。
だが、ノイエ・ジールは巨体だからこそ防御能力についても十分に考えられており、ビームを弾くIフィールドが搭載されている。
そのIフィールドは、それこそデンドロビウムの最大火力であるメガビーム砲であろうとも、防げるだけの性能を持っているのだ。
だからこそ、現在MA隊は必死になってミサイルを発射してきている。
(それでも、適当に撃つのではなく、こっちの逃げ道を計算して、それに回り込むようにして撃っている辺りについては合格だがな)
そんな風に思いつつ、ケリィはノイエ・ジールの偏向メガ粒子砲を使い、次々にミサイルを撃墜していく。
……が、当然ながらケリィのノイエ・ジール1機に対し、模擬戦に参加しているMA隊は10機以上のヴァル・ヴァロとビグロだ。
幾らケリィがMA隊の隊長を任されるだけの技量があろうとも、その全てを偏向メガ粒子砲で撃墜するのは難しいし、操作が追いつかない。
「ちぃっ!」
舌打ちをしながら、それでもケリィは操縦の手を止めず、偏向メガ粒子砲の操作をするものの、それでも間に合わないミサイルについてはサブアームを展開させて、ビームサーベルで切断する。
だが、サブアームのビームサーベルはその攻撃範囲はそこまで広くはない。
ましてや、敵の攻撃はミサイルだ。
結果として、ノイエ・ジール本体にダメージを負うことは避けられたものの、ビームサーベルを展開していたサブアームは破損したという扱いになった。
「性能は文句ないが、操縦が追いつかん!」
サブアームの破損扱いに、ケリィは思わずといった様子で呟く。
……そう、性能という点では非常に高く、MSを小隊ところか中隊、大隊規模であっても、それこそ軍艦を込みであっても圧倒的出来るだけの性能を持つノイエ・ジールだったが、その数少ない欠点の1つが操縦の難しさだった。
アクシズの設計データをベースに作り上げたノイエ・ジールだが、その中で可能な限り自動操縦を組み込んでいる。
この辺りは、以前アクシズから献上されたゼロ・ジ・アールの設計データもあったので、それなりにスムーズに出来た。
出来たのだが、それでもMA隊の隊長を務めるケリィであっても、操縦に苦戦をしていた。
それだけ、高性能ではあるのだが扱いにくいMAだった。
(ガトーなら、このくらい乗りこなす筈だ。ならば、負けておれん!)
ケリィは脳裏に親友の顔を思い浮かべる。
現在は地球のハワイで自分の帰る場所を見つけた、そんな義理堅い親友を。
もしガトーであれば、このノイエ・ジールも十分に乗りこなせる筈であり、だからこそ負けていられんと気合いを入れ直す。
ケリィは知らない事だったが、原作においてガトーはアクシズから譲渡されたノイエ・ジールを……つまり、今ケリィが操縦している、ディアナが生産した時に自動化をより進めたこのノイエ・ジールよりも操縦のしにくいノイエ・ジールを使い、星の屑を成就させたのだ。
そういう意味では、ケリィがその辺りの事情を知らない事は幸運だったのかもしれない。
……もっとも、アクセルですら今はもう原作知識を失っているのを考えれば、ケリィがその事実を知るようなことは有り得ないのだが。
「くっ! このまま守っていては負ける! ならばっ!」
その言葉と共に、ケリィは今までよりも更にスラスターを吹かす。
ぐんっ、と。
一瞬にしてノイエ・ジールが……圧倒的な巨体を持つその機体が、見るからに速度を増した。
ヴァル・ヴァロとビグロから放たれたミサイル、それとノイエ・ジールの動きを少しでも牽制しようというのだろう。ヴァル・ヴァロからはミサイルだけではなくガトリング砲も放たれるが、速度を増したノイエ・ジールに追いつくことは出来ず……ある程度距離を取りながら偏向メガ粒子砲を使い、ケリィはミサイルを撃破する。
そうして一度包囲網から逃がしてしまえば、もうヴァル・ヴァロやビグロに出来る事はない。
先程の通信でも言っていたように、ヴァル・ヴァロやビグロにとってミサイルというのは補助武装でしかない。
あるいはノイエ・ジールに近接用の武装がなければ、アームを使って近接攻撃を仕掛けるといった手段もあったかもしれないが、サブアームで駄目にされたのはまだ一本だけで、残りはある。
また、下手に近づけばビームサーベルが内蔵されているサブアームだけではなく、有線クローアームもある。
それを知っているだけに迂闊に近接戦闘も出来ず……結果として、この模擬戦は引き分け、ただしMA隊の方は数機撃破されてしまうので、ケリィの判定勝ちとなるのだった。
「お疲れ様です、それでノイエ・ジールはどうでした?」
基地に戻り、ノイエ・ジールから下りたケリィにクリスがそう声を掛けてくる。
何故クリスが……というのは、クリスがディアナにおけるテストパイロットの1人だからだろう。
それも、腕という点ではテストパイロットの中でもトップクラスだ。
……もっとも、クリスにしてみれば自分はMSのテストパイロットなのだから、MAのテストパイロットを任されても困るというのが正直なところなのだが。
ただし、クリス以外の者にしてみればゼロ・ジ・アールも十分に操縦出来ていたし、ノイエ・ジールも下手をすればケリィ以上に乗りこなすだけの実力を持っているのだから、ノイエ・ジールのテストパイロットをクリスに任せるのはディアナの者達にしてみれば当然のことだった。
そんなクリスに対し、ケリィは若干複雑な表情を浮かべつつもパイロットスーツのヘルメットのバイザーを開け、口を開く。
「悪くない。……いや、とんでもない性能なのは間違いない。だが、性能が凄すぎて俺では完全にノイエ・ジールの性能を引き出す事が出来ん。未熟だな」
模擬戦の時に部下が操縦するヴァル・ヴァロに性能を十分に引き出していないと、そう叱咤したのだが、自分もまたノイエ・ジールの性能を完全に引き出せていない以上は、そのようなことを言ってもあまり説得力はないと思えてしまう。
「まだ殆ど慣れていない状態であそこまで操縦出来れば、問題ないですよ。それに……今はまだ無理でも、これから訓練を重ねて操縦出来るようになればいいじゃないですが」
「……最悪、薬を使うといった手段も……いや、何でもない」
薬という単語が出た時、クリスの視線に厳しいものがあるのを理解し、ケリィはそう言う。
クロエのような、連邦軍で薬漬けにされたパイロットを、そしてフラナガン機関から救出された子供達について知っていれば、あるいは恋人のアクセルの友人――本人は絶対に認めないだろうが――のイザークの義理の弟や妹であるスティング、アウル、ステラを知っていれば、今の言葉はクリスにとってとてもではないが許容出来ない事だった。
「薬を使えば、一時的にはノイエ・ジールの性能を十分に引き出せるかもしれません。ですが、薬の種類によっては依存性の高い物もあり、最終的にはどうなるか……言うまでもありませんよね?」
念を押すように言うクリスに、ケリィは小さく頷く。
薬を使うというのは、あくまでそれとなく言っただけで、本気ではない。
……あるいは、どうしてもそうしなければならないような時でもあれば、また話は違ったかもしれないが、今のルナ・ジオン軍の戦力を思えば、それこそ連邦軍と正面からぶつかってもすぐに負けるような事はない。
そうして待っていれば、シャドミラーから援軍が送られてくるので、それで十分に対処出来るだろう。
また、それ以外にも月の周囲には機動要塞が多数存在し、それらが圧倒的な攻撃力を持っているのを考えれば、場合によってはシャドウミラーの援軍がなくても攻めて来た連邦軍を殲滅出来るだろう。
そのような諸々について考えれば、ケリィが薬を使ってまでどうこうするといったことは、考える必要もない。
「取りあえず、今の俺の目標はノイエ・ジールの性能を完全に引き出せるようになる事だ」「そうですか、では頑張って下さいね。……くれぐれも、薬に頼るなどという事はしないように」
ケリィの言葉を聞いたクリスは、そう告げるのだった。