始業式が終わり、教室に戻ってくる。
教室の中ではインターンについて話している者がそれなりにいたものの、俺がその話題に触れようとしたちょうどのタイミングで、相澤が教室に入ってくる。
てっきりもう少し時間が掛かるんだと思ったんだが。
相澤の合理性を好む性格からすると、ここで無駄に俺達に時間を与えるのは合理的ではないと判断したのだろう。
「じゃあ、まぁ……今日から通常通り授業を始める。かつてない程に色々とあったが、上手く切り替えて学生の本分を全うするように。今日は座学だけだが、明日からはより厳しい訓練になっていくからな」
学校によっては、始業式はそれこそ授業がなかったりもするのだが……まぁ、雄英だしな。
それこそ入学初日に、相澤は俺達に向かって放課後にハンバーガーを食べながら友人と話したりするような時間はないと言っていただけに、始業式の後に授業があるのは特におかしな事ではない。
……もっとも、自主訓練が終わった後はハンバーガーだったり、お好み焼きだったり、ラーメンだったり、色々と食べていたりする時間はあったのだが。
相澤の予想が外れたという意味では、悪くない事なんだろうな。
そんな風に思っていると、三奈が梅雨ちゃんと何かを話しており……それに気が付いた相澤が、威圧する。
「何だ、芦戸?」
「ピッ、久しぶりの感覚!」
威圧された三奈は悲鳴のような声を上げるものの、それをカバーするように梅雨ちゃんが口を開く。
「ごめんなさい。いいかしら、先生? さっき始業式でお話に出ていたインターンってどういうものか聞かせて貰えないかしら?」
恐らく峰田や上鳴辺りがこうして聞いても、相澤が素直に話すといったことはなかっただろう。
この辺りは普段の生活態度が大きく関係しているのは明らかだった。
ともあれ、相澤は梅雨ちゃんの疑問にその方が効率的だろうと考え、インターンについて説明する。
インターン……正確には、ヒーローインターン。
まぁ、言ってみればやることそのものは職場体験の時とそう違わない。
……俺達の職場体験は保須市でヒーロー殺しのステインとの騒動があったのを考えると、恐らく原作の流れ的にこのインターンが実施されても何らかのトラブルが起きるのは間違いないと思うが。
また、インターンにおいては仮免を持っている事もあって職場体験の時のようにお客さん扱いではなく、きちんと戦力として扱われる。
それはつまり、インターンがいつ始まるのかは分からないが、爆豪と轟が仮免を取る前だと参加出来ないという事を意味していた。
爆豪の場合はまたベストジーニストの事務所に行けば、例によって例の如く髪型がもの凄い事になってそうだけど。
ちなみにその辺りの説明を聞いた麗日が、とでもはないがうららかではない表情で、体育祭は一体なんだったのかと相澤に訴えたりもしていた。
実際、相澤は俺達のやる気を出す為に年に1回、3年で3回だけのチャンスといったような事を言い、それによって実際に麗日はもの凄くやる気を出して、最終的競技にまで残った程だ。
その頑張りが実は無意味だったかもしれないと言えば、麗日がうららかではない表情になるのもそうおかしくはないのだろう。
もっとも、それに対しても相澤はしっかりと答える。
インターンは体育祭で貰ったスカウトをコネクションとして使う。
このインターンは授業ではなく生徒個人が行うもので、そもそも体育祭でスカウトがなかった者が参加することそのものが難しい、と。
それ以外にも諸々の説明をしたところで時間になったらしく、教室に英語教師のプレゼント・マイクが入ってくるのだった。
「イカ飯美味ぇ……」
昼休み、峰田が昼食にイカ飯を食べながらしみじみと呟く。
今日の昼食は、いつもの面子……ではなく、俺、瀬呂、峰田、上鳴、常闇の5人だ。
いつもならここにヤオモモだったり三奈だったり葉隠だったりが入ったりするのだが、どうやら今日は女子会……というのとはちょっと違うか?
ともあれ、B組の拳藤達と一緒に女だけで食べるという事になったらしく、俺達もこうして男同士で食べていた訳だ。
ちなみに峰田は今のようにイカ飯で、上鳴は大人版お子様ランチとも呼ぶべきか、1枚のプレートにピラフ、パスタ、トンカツが入ったトルコライス。
……トルコの要素はどこに?
そう疑問に思うが、あるいは俺が知らないだけで材料にトルコの食材が使われているとか、もしくはトルコライスという名称だけにトルコ発祥の料理なのかもしれないな。
もっとも、日本人は料理については常識外れの存在だ。
例えば、日本において有名なパスタのナポリタン。
これだってナポリという名はついているものの、ナポリは全く関係のない料理だ。
それを知らずにナポリの人間にナポリタンについて聞いたりすれば、良くて『は?』といったような返事をされるが、悪ければ暴力沙汰になってもおかしくはない。
実際、ナポリの住人に限らず、イタリアの人間にとってナポリタンというのはパスタではないという認識らしいし。
中にはナポリタンを美味いと思うイタリア人もいるらしいが、そういう者達も大半はナポリタンをパスタではなく、パスタに似たナポリタンという別の料理として認識しているとか。
ともあれ、そんな訳で上鳴が食べているトルコライスもトルコとは全く関係がなく、日本で作られた料理――正確には料理の盛り合わせなのだが――と言うべきだろう。
「ランチラッシュの作るカツエビ丼って、美味いよな」
そう言いつ、幸せそうに丼飯を食べているのは、瀬呂。
カツエビ丼という名称通り、瀬呂の丼にはトンカツとエビフライの卵とじの丼がある。
「甘辛く、酸味もあるスープに絡む麺……これは、悪くない」
そう口にするのは、常闇。
常闇が食べているのは、トムヤムクン……正確にはトムヤムクンのスープに麺が入っている料理だ。
ただし、それは中華麺ではなく、フォーという米粉を使った麺だ。
そんな面々と共に俺が食べているのは……
「この長ネギとつみれ、それと巾着がまた……」
「まだ夏なのに寄せ鍋って……アクセルは一体何を考えてるんだ? いや、美味そうだけどよ」
瀬呂が俺の前にあるそれなりの大きさの鍋を見て、そんな風に言ってくる。
キノコに野菜、魚、肉……そんな諸々が入っているこの鍋は、通常なら4人くらいで食べる大きさの鍋だ。
俺が食べる量としては、何の問題もない。
……そもそも俺の場合は体内に入った食べ物は即座に分解され、魔力として吸収される。
極論を言えば、俺はどれだけ食べても腹は膨れないし、満腹で苦しくなるという事もない。
だからこそ、大食いメニュー、いわゆるチャレンジメニューの類も問題なくクリア出来る訳で、そんな俺にしてみれば4人分くらいの鍋というのは全く問題なく食べきれるものだったりする。
寧ろ俺の好みとしては、1人前ずつそれぞれ味の違う鍋を4種類食べるとか、そういう風にしてもよかったんだが……それはそれでランチラッシュに手間を掛けさせるだけだと判断し、こうして寄せ鍋にしたんだよな。
夏だけに、寧ろこういう場合は寄せ鍋よりもキムチ鍋の方がよかったかもしれないなと思いつつ、エノキを口に運ぶ。
様々な食材から出た出汁を吸ったえのきは、コリコリとした食感が口の中を楽しませる。
また、次に口に運んだホタテは、口の中一杯に甘みが広がる。
油揚げに包まれた挽肉やレンコン、タケノコ、椎茸といった具は、噛んだ瞬間に旨みが爆発する。
他にも色々な具材が入っており、鍋として十分にその豪華さを現している。
……とはいえ、朝食と夕食は雄英持ちなのだが、昼食についてはそれぞれ自分で支払う事になっているんだよな。
まぁ、人によっては自炊をして弁当を作ってきたり、あるいは雄英の外に食べに行ったりする者もいるだろうけど。
もっとも、個人的な意見を言わせて貰えばメニューは無限大――というのは少し大げかもしれないが――で、しかも調理技術という点では間違いなく一流、どころかそれより上の超一流であるランチラッシュの料理を食べられるのに、わざわざそれ以外の選択肢を選ぶのは理解出来ない。
いや、弁当を作ってくるのなら自分の料理技術を上げるという意味で分からないでもないが、雄英の敷地から出て他の店に行くというのは……何しろランチラッシュは、例えばお好み焼きやたこ焼き、広島焼き……どころか、もんじゃ焼きすら作ってくれる技術を持っている。
もっとももんじゃ焼きの場合は別途ホットプレートとかを用意しないといけないので、頼む者はそういないが。
とにかくそうしてあらゆる料理を作ってくれるランチラッシュがいるのに、わざわざ他の店に行くのは……まぁ、料理の味以外に目当てがあるのなら、分からないでもないが。
例えば、そこで働いている店員に惚れているとか。
そんな風に考えながらも、瀬呂達と会話をしながら食事をすすめ……やがて、具材の大半がなくなるので、シメといこうか。
ちなみにこの鍋のシメ……人によってはうどんだったり、ラーメンだったり、パスタだったりと色々とあるが、俺の好みはやっぱり雑炊だ。
また、この雑炊についても具材を全て食べ終わるまで雑炊をやるのは駄目という者もいるし、少し具が残っている方が雑炊の具が増えて豪華になるから、ある程度具は残した方がいいと思う者もいる。
なお、俺は具材が少し残っている方が嬉しい派だ。
他にも卵は完熟にするのか半熟にするか、薬味は入れないか、長ネギか、海苔か……そういうのでも派閥はあるんだよな。
とはいえ、この派閥の闘争についてはそこまで激しいものではない。
唐揚げにレモン、焼き鳥の串を抜くか、目玉焼きに何を掛けるか、カレーの肉の種類、キノコとタケノコ……といったものと比べると、かなり穏やかだ。
実際、俺は具材入りの雑炊、卵は半熟で薬味は細かく刻んだ長ネギというのが好みだが、だからといって卵が完全に固まっていてもいいし、薬味も海苔とかミョウガとか、ちょっと変わったところではな針生姜の類も構わない。
そんな訳で、雑炊を食べていると……
「すまないが、アクセル。少し貰えないだろうが?」
常闇がそう言ってくる。
常闇がそういうことを言うのは珍しいな思いつつ、どうしても1人で食べたいわけでもないので、茶碗を持ってこさせて分けてやる。
すると当然のように残りの瀬呂や峰田、上鳴も欲したのでそれぞれに分け……4人分の鍋のシメである雑炊を5人で食べたので、微妙に足りなく思うのだった。
もっとも、雑炊を食べる前に4人分の鍋を1人で食べているのだから、足りないというのは普通ならおかしいのだろうが。
その後で午後の授業も終わり……いつものように自主訓練を行い、寮に戻ってくる。
その時には既に緑谷と爆豪の掃除も終わっており、自主訓練で疲れた様子ながらも峰田が姑の如く隅に残っていたゴミを指でつつっと触れていたりもしたのだが……
「ねえねえ、何で掃除をしてるの? 面白いね、面白い」
そうして1階の共用スペースでゆっくりとしながら爆豪と緑谷の掃除を見ていると、不意にそんな声が聞こえてくる。
……って、あれ? この声……
「ねえねえ、やっぱりアクセルはびっくりした? びっくりした? あーっその角! 折ったらどうなるの? 元に戻る? そのマスクの下はどうなってるの? 不思議だね、不思議だね」
「ちょっ、おい、アクセル!?」
いつの間にか……本当にいつの間にか寮の中に入ってきていたねじれが、1階にいる面々に対して質問をしたり、触ったりしていた。
それを見た峰田が、慌てたように俺を見てきた。
まぁ、峰田も職場体験で優の所に行ったから、自然と優とチームアップをしている龍子の事務所にインターンに来ていたねじれとも面識があるんだよな。
だからこそ、こうして峰田はねじれの姿を見て、俺に慌てたように言ってきたのだろう。
「あー……まぁ、ねじれの場合は来てしまった以上は仕方がないだろ。一体何をしに来たのかは知らないけど」
もし俺の顔を見になら、それこそ今まで幾らでも機会はあった筈だ。
だというのに、ねじれは今まで全くA組に顔を出すような事はしなかった。
それがこのタイミングでやって来たのを思えば……あるいは龍子に止められていたのかもしれないな。
もっとも、それなら何故このタイミングでこうして姿を現したのかと、そう疑問に思わないでもないが。
その辺りの理由はともかく、俺としてはねじれが会いに来たのは……そこまで問題はない。
これで峰田がねじれを知らなければ、あるいは面倒な事になったかもしれないが、職場体験で峰田もねじれを知っているので、そこまで面倒な事には……
「おいおいおいおい、アクセルだけじゃなくて、峰田もあの無邪気美人の知り合いなのかよ!」
……そういえば、上鳴もいたな。
そう思いつつ、俺はどう話すか迷うのだった。