「俺はインターンで得た経験を力に変えて、トップに立った! ……まぁ、最近では追いつかれそうになっているけどね」
そう言い、ミリオはねじれを見る。
恐らく俺がねじれを鍛えた事によって、ねじれの実力がミリオに近いものになっているのだろう。
もっとも、ミリオの様子からしてまだビッグ3の中でも1位の座はねじれに譲ってないようだが。
そんなねじれは、俺が視線を向けているのに気が付いたのだろう。
嬉しそうにこちらに向かって手を振ってくる。
俺はそんなねじれに手を振り返しつつ、ミリオVS俺と爆豪と轟以外のA組の模擬戦について思い出す。
最初に緑谷がミリオの顔面に蹴りを放ったのだが、それはこう……すり抜けた。
他の前衛も同じように攻撃が無効化され、消えたと思ったら耳郎を始めとする後衛の側に出ていた。
……とはいえ、さすが耳郎と言うべきか、ミリオの攻撃1発で沈むというようなことはなく、ある程度は保ったものの、それでも最終的にはミリオの攻撃によって沈められたが。
耳郎が耳郎さんになっていれば、あるいはもう少し違ったかもしれないけど、残念ながらそれどころじゃなかったしな。
ともあれ、他の面々も多少は持ち堪えたものの次々と倒されていき……結果として、10分……いや、7分かそのくらいか? とにかくそのくらいで全員が負けてしまった訳だ。
うーん……A組の面々は自主訓練に参加していた者が多かったので、恐らく原作よりも実力は上がっていたと思うんだが。
それでもこうして全員が倒される辺り、素直にミリオが凄いという事なのだろう。
もっとも、ミリオ曰くここまで苦戦するとは思っていなかったらしいが。
ミリオにしてみれば、それこそ1分以内に全員を倒すつもりだったらしいから、そういう意味では俺が鍛えた成果があったという事だろう。
そんな風に考えていると、ミリオの話というか演説? も終盤に入ったらしい。
「以上のことから、君達1年も怖くてもインターンをやるべきだと、俺は思う! 実際、今日戦ってみた結果からすると、余程の事でもない限り大丈夫だとは思うけどね!」
ミリオはそんな風に言うものの……1学期にA組の面々が経験してきた事を考えると、その余程の事というのは普通にありそうなんだよな。
何しろA組には緑谷が……原作主人公がいるのだから。
そう考えれば、それこそインターンで何らかの騒動に巻き込まれる可能性は高い。
A組、あるいは緑谷の宿敵であるヴィラン連合か、もしくはAFOが早速タルタロスを脱出してくるのか。もしくは全く別の新顔か。
「……さて、そんな訳で皆に対する説明は終わった。じゃあ、やろうか」
ギリリと拳を握り締め、ミリオが俺に向かって言ってくる。
見た感じでは、ミリオは本気で俺と戦う気になっている。
さて、どうしたものだろうな。
「相澤先生、どうすれば?」
「戦ってやれ。……ただし、やりすぎるなよ。壁としての存在を見せるだけでいい。そうすれば通形もより上を目指せるだろう。奴は俺が知ってる限り、プロを含めてもNo.1に……オールマイトに追いつく可能性を持っている男だ。それに才能だけでここまできた訳ではなく、努力に努力を重ねて今の地位に、ビッグ3にいる」
だろうなと、相澤の説明を聞いて思う。
A組の面々にミリオが話したところによると、透過というミリオの個性は決して強力なものではなかった。
その為、1年の時は個性を使いこなせずに落ちこぼれたらしい。
だが、ミリオはそんな中でも訓練に訓練を重ね、落ちこぼれからビッグ3の1人となるまでの実力を身に付けた訳だ。
その辺りの事情についての演説で口にしていたので、強個性だけで今この場にいる訳ではないというのは、俺にも十分に理解出来る。
だが……相澤はそれを知った上で、俺に壁となってミリオの前に立ち塞がれと、そう言っているのだ。
であれば、俺としてはミリオを今よりも強くする為……より上の存在を見せる為にも、模擬戦をやらない訳にはいかない。
「分かった。なら、相手をしよう」
そう言うと、俺はA組の面々の前でミリオと向き合う。
「えっと、こういう時って何て言うんだっけ? ……お師匠様、頑張れー、かな?」
「波動さん、取りあえず黙っておこうか」
ねじれと天喰の会話が聞こえてくるが、そちらについてはスルーしておく。
……というか、俺はちょっと戦い方を見ただけで、別に師匠とかそういうのじゃないんだけどな。
まぁ、天然のねじれの場合は、俺がここで何を言っても無駄だとは思うけど。
そう思いつつ、俺はミリオを見て口を開く。
「言っておくが、俺とお前の相性は……多分最悪だぞ? 勿論、お前にとってだけど」
ミリオの最大の武器は個性の透過を使った攻撃の無効化だ。
それは緑谷のOFAを使った蹴りの一撃すら回避したのを見れば明らかだろう。
だが……そんな中で、俺には精神コマンドの直撃がある。
それこそ個性どころか機動兵器が使うバリアの類であっても、あっさりと攻撃を通せるようになる……敵の特殊な防御能力の全てを無効化するという意味では、チートと称されてもおかしくはない、そんな能力が。
であれば、当然のようにミリオの透過も精神コマンドの直撃は無効化出来るだろう。
「強者と戦えるのなら、問題ないさ。サーからも言われているしね」
サー?
突然会話に出てきた単語? 人名? とにかくその言葉に疑問を抱くも……
「じゃあ、行くよ!」
その言葉と共に、ミリオは真っ直ぐに突っ込んでくる。
てっきり個性の透過を使った、皆曰くバグ技で俺の背後に回り込むなりなんなりするのかと思っていたのだが、何故か真っ直ぐ突っ込んで来たのだ。
その辺りの理由は、生憎と俺にも分からない。
分からないが……そうだな、精神コマンドの直撃を使う前に、透過というのが具体的にどんな感じなのかを体験する為にも一度攻撃を透過で無効化されてみるのもいいか。
そう考え、俺もまた前に出る。
瞬動とかそういうのを使わず、ただ身体能力を使っての前進。
とはいえ、それでも混沌精霊の身体能力なので、常人とは比べものにならない程の速度が出ているが。
急速に近付いていく俺とミリオの距離。
とはいえ、身体の大きさでは10代半ばの俺よりも、ミリオの方が上だ。
その体格の違いは、僅かではあるが間合いの差となる。
先制攻撃として、こちらに向けて放たれる一撃……だが、それはフェイントだ。
A組との模擬戦の最中に言っていたように、カウンターを狙っていると分かればそれに対応するのは当然だろう。
なので、俺の一撃を透過で防いだ? 回避した? とにかくその後に俺に向かって一撃を放つつもりらしい。
丁度いいので、狙い通り透過を経験すべく、ミリオの頭部に向かって拳を放ち……
ゴッ、という音と共に俺の拳はミリオに命中し、そのままミリオが吹き飛ぶ。
あれ? 一体何が? 透過は?
『えーっ!?』
それを見ていたA組の面々から驚きの声が上がる。
当然だろう。轟以外のA組の面々は、ミリオに1発も攻撃を命中させることが出来なかったのだ。
それこそ透過を使われ、攻撃を無効化されていた。
だというのに、俺の一撃はその透過を無効化してミリオを殴り飛ばしたのだから、それで驚くなという方が無理だった。
いや、本当に一体何がどうなっている?
驚いたのは見物していた者達や実際に殴った俺だけではなく、それこそ殴られたミリオも同様なのだろう。
吹き飛ばされた状態から数秒呆然としていた。
それでも驚いたのは数秒程度で、すぐに起き上がったのは素直に凄いと思うが。
ただ、透過の効果がなかった為だろう。今度はすぐ俺に向かって突っ込んでくるようなことはせず、慎重にこちらの様子を窺っている。
そんなミリオを見つつ、俺もまた何故透過の個性を無視出来たのかを考える。
これが精神コマンドの直撃を使った後であれば、ミリオの透過を無効化して攻撃を命中させることも出来ただろう。
だが、今回はまずは透過の様子見という事で、精神コマンドを使わずに殴ったというのに、ミリオを吹き飛ばすことに成功したのだ。
一体何がどうなってそうなった?
そう思った俺の頭に、レモンから聞いた話を思い浮かべる。
壊理の個性である巻き戻しだが、その対象となるのはあくまでも人間だけらしい。
例えば牧場で一度巻き戻しを発動したことがあったらしいが、その時に巻き戻しの効果範囲に数羽のウサギがいたらしいものの、ウサギには全く効果がなかった。
壊理の場合は個性の発動とかがまだ不安定な事もあってか、個性を使おうと思ってもすぐに使える訳ではないし、実際に牧場で個性を発動したのも半ば偶然に近いものがあったらしい。
ともあれ、そんな訳でまだしっかりと巻き戻しについて調べた訳ではないが、混沌精霊という……人間ではない俺に対しては、巻き戻しは効果がないらしい。
これは実際に俺が巻き戻しを食らったものの、特に何もないことから明らかだ。
また、こちらはまだ完全に理論上のものでしかないが、魔法障壁の類……例えば風花・風障壁といった類の魔法でなら巻き戻しを防げる……かもしれないらしい。
もっとも、風花・風障壁は強力な防御力を誇る魔法だが、その防御能力は一瞬だけだ。
巻き戻しの効果範囲にずっといた場合は意味がないと思うが。
ともあれ、巻き戻しがそうして人にしか効果がない以上、ミリオの透過もまた人にしか効果がない……あるいはもっと単純に、俺の身体は一見すれば普通の身体のように思えるが、あくまでも魔力で構成されている身体だ。
であれば、俺の攻撃というのは普通の攻撃であっても魔力による攻撃となる訳で、それによって透過の効果を発揮させず、ミリオを殴ることに成功したという可能性は十分にあった。
もっとも、これはあくまでも俺の予想でしかなく、実際に確認した訳でもない。
もしかしたら俺の予想は外れていて、何かそれ以外の理由によってミリオの透過を無効化した……そんな可能性も十分にあったが。
そんな風に思っていると、ミリオの身体が地面に沈んでいく。
何をしようとしているのかは、先程のネタばらしですぐに分かった。
ゲームのバグと称された……そう、疑似転移とでも呼ぶべき行動だろう。
案の定、次の瞬間には俺の後ろ……ではなく斜め後ろに姿を現す。
後ろに姿を現すのは分かりやすすぎると判断し、少し変化を付けて斜め後ろ……より正確には左斜め後ろに姿を現したのだろう。
俺は右利きなので、少しでもこちらの攻撃が届きにくい場所から攻撃を行おうという考えそのものは評価出来る。
評価出来るが……
「甘い」
しゃがんで攻撃を回避しつつ、左斜め後ろにいるミリオに向かって低い位置から回転するように……ミリオの足に向かって蹴りを放つ。
ガッ、という音と共に転ぶミリオ。
今回もまた透過を無効化して俺の足がしっかりとミリオの足を命中していた。
とはいえ、これが2度目という事もあってかミリオは先程殴られた時とは違って即座に反応していた。
この辺りは俺から見ても素直に凄いとは思う。
……もっとも、だからといってミリオに勝ち目がある訳でもないが。
ミリオは間違いなくビッグ3と呼ばれるだけの実力の持ち主ではあるが、苦労して磨いてきた透過という個性があるだけに、その透過ありきの戦い方となっている。
勿論、普通に戦っても相応に強いのだろうが、それでもやはり透過という個性が前提の戦い方であって、その透過が封じられてしまうと、戦闘の幅が一気に狭まってしまう。
まぁ、俺には全く個性は使えないものの、疑似転移のように自分に個性を使って俺の不意を突くといった事は出来るのだが。
ただし、俺の気配を察知する能力や反応速度を始めとした身体能力についてはミリオも対抗出来ない。
それを示すかのように、立ち上がったミリオが再び地面に潜っていく。
俺の使う影のゲートによる転移もそうだが、ミリオのこの疑似転移も難点としてはあくまでも地面……地中から移動するということで、例えば俺の真上に突然姿を現すといったことが出来ないんだよな。
その点については、ミリオにとっても致命的だろう。
いやまぁ、その辺のヴィランを相手にするには、その程度は全く問題ないくらいにミリオが強いのは分かるが。
相澤が、プロも含めてNo.1に近い存在だというのは、十分に納得出来る実力の持ち主ではあるが……やはり戦う前に俺が言った、相性が悪いというのはこれ以上ない程に正しかったのだろう。
俺としては、精神コマンドの直撃があるからこそ、相性が悪いという意味だったのだが。
そんな風に思っていると、次の瞬間ミリオは俺の眼前に姿を現し、同時に顎を狙ってアッパーを放ってくる。
後ろではなく眼前に姿を現す事で俺の意表を突こうとしたのだろう。
悪くない選択ではあったが……それでも俺はその一撃を回避し、ミリオの顔面に拳を放つのだった。