ルーランの誘いは俺にとっては意外なものだった……いや、そうでもないか?
ルーラン達は傭兵という仕事をしている。
であれば、普通なら行き倒れとなっていた俺を助けたりはしないだろう。
あるいはどこかにしっかりとした拠点を持っているような、もっと規模の大きな傭兵であれば話も違ってくるだろうが、ルーラン達はプール三兄弟と称しているように3人で傭兵をしているらしい。
もっとも、見た感じだとどうやら本当の兄弟という訳ではなく、いわゆる義兄弟といった感じではあったが。
ともあれ、そうして名前の知られた――あくまでも本人達曰くだが――プール三兄弟の中も明確にリーダーであるルーランが俺を一緒に傭兵をやらないかと誘ってきたのには、やはり何らかの理由があるのは間違いない筈だ。
ただ俺を拾ったから興味本位で……といったようなものではなく、何かもっと別の理由が。
とはいえ、そんなルーランの提案も俺にとっては悪くない。
操兵について色々と教えて貰ったが、それを聞いただけではこの世界は俺が知っているような世界ではないのは明らかだ。
であれば、この世界について知るには誰かから教えて貰う必要がある。
勿論、俺だけでもどうにか出来ない訳でもない。
どこぞの村や街に旅人なりなんなりの振りをして入り込んで常識を知るといった事も出来るでだろう。
だが、こうして自分から俺に付き合ってくれるというようなルーランがいるのなら、この世界の常識を知るのはかなり楽になる。
……ルーランも当然ながら親切心から俺にそんな風に言ってくる訳ではないのだろう。
明確に何らかの目的があって、こうして俺に親切にしているのは明らかだ。
具体的に何が目的なのかは分からないが、それはそれで構わない。
寧ろ傭兵といった立場の者が、親切心だけで他人を助けるというのは、明らかに不自然なのだから。
それに、何らかの目的があって俺を助けるというのであれば、それはつまりその目的を果たすまでは俺の面倒を見るという事にもなる。
……最悪の場合、目的を達成したら邪魔になったと俺を殺すという選択をする可能性もあるが、そうなったらそうなったでこっちも相応の対応をすればいい。
ルーラン達3人全員で襲ってきても、俺は勝利する……それも圧勝するだけの自信があるのだから。
そもそも混沌精霊の俺にダメージを与えるには、魔力や気が必要だ。
ルーランはその身体の動きから見て明らかに腕利きなのだろうが、物理攻撃しか出来ない時点で俺に勝ち目はないし。
それに……ルーランの性格を考えれば、目的を達成しても俺を殺すという事はせず、普通にその場で別れるということになりそうな気がするし。
そういう諸々について考えた結果……
「分かった。暫く世話になる。けど、知っての通り俺には操兵はないぞ? 傭兵として活動するのは難しいんじゃないか?」
ルーランの話を聞く限りだと、この世界の戦いは基本的に操兵で行われるっぽい。
だが、俺には操兵はない。
……いや、空間倉庫の中にはニーズヘッグを始めとした機体があるのだが、その辺りは本当の意味で奥の手として持っておき、わざわざ見せる必要はないだろう。
「それとも、ルーランの機体とかを貸してくれるのか?」
「馬鹿を言うな。儂の機体は……いや、リロイやマウの機体も一品物だぞ? そう簡単に貸せる訳がなかろう」
一品物? と疑問を浮かべる俺に、ルーランは説明する。
基本的に操兵というのは、工呪会という組織が素体という……何でも人に身体の皮膚とかそういうのがない状態の奴を鍛冶屋に売り、その鍛冶屋が皮膚代わりの皮やら、鎧やらコックピット……操手漕やら、そういうのを装備することで、操兵として完成するらしい。
そんな中で一品物というのは、正真正銘その機体しか存在しない狩猟機の事を指す。
MSでいう、カスタム機的な存在と認識すればいいのか?
ともあれ、一品物の操兵が貴重だというのは分かった。
ちなみに一品物ではない操兵というのは、素体を購入した鍛冶屋がそれぞれ量産した機体の事を言うらしい。
「なら、俺の機体は?」
「……そもそも、誘っておいて何だが、お前が操兵に乗る素質があるのかどうかも分からん」
「素質とかあるのか」
MSとかと同じであれば、乗るだけであれば誰でも乗れると思っていたんだが。
あるいは誰でも乗る事が出来ても、いわゆる操縦センスであったり、才能であったりは必要だと思ったのだが、どうやらその辺りは違うらしい。
そもそも操兵で一番重要なのは、素体であったり、人間で言う心臓だったりと色々とあるものの、その中でも最重要なのは仮面らしい。
この仮面には聖刻石という特殊な石? 宝石? 鉱物? その辺りはよく分からないものの、とにかく多数の聖刻石が埋め込まれており、これによって操兵は動くらしい。
そして聖刻石の仮面が起動させるには特殊な呪文? の類が必要で、その辺りが素質によるものとなるらしい。
……勿論、操兵が派手に動く事によって、そのGとかに耐えられる体力とか素質とか、そういうのも必要らしいが。
「そうだ。……誘った儂が言うのも何だが、もしアクセルが操兵を動かせないようであれば、儂らと一緒に傭兵をやるのは不可能だろう。もっとも、聞いた話によれば騎兵で操兵を相手にする命知らずもいるらしいから、絶対に操兵に乗れないからといって傭兵になれぬ訳でもないがな」
「騎兵で……か」
目の前の操兵は、どれも結構な大きさがある。
とはいえ、それでもMSの全高18mとかに比べると半分以下だが。
しかし、それでもこの操兵に騎兵で挑むというのは、命知らずと言うしかない。
あるいは、騎兵というのが俺の認識違いの可能性もある。
例えば俺は騎兵ということで馬に乗った兵士を想像しているが、実は馬ではなくこの世界……聖刻の仮面が操兵の最重要で、何よりこの世界の特徴のように思えるので聖刻世界と呼ぶが、とにかくこの聖刻世界においては馬とは違う、それこそ操兵を相手にしても戦えるような生き物が生息していて、騎兵はそういうのに乗ってるとか?
例えば、ダンバイン世界のバイストン・ウェルにいるような恐獣とか。
もしく、マクロス世界にバジュラとか……いや、さすがにバジュラはないか。
「一応聞いておくが、その騎兵というのは馬に乗った兵士の事だよな?」
「当然だろう。他に騎兵がいるとでも?」
ルーランの様子を見ると、どうやらやっぱり馬らしい。
命知らずだな。
「とにかく、アクセルが操兵に乗れるかどうか……明日の午後には街に到着するから、そこで試してみるとしよう」
そう、ルーランは言うのだった。
「ルーラン兄貴、本気かよ!? 本気でこんな怪しい奴を仲間に引き入れるつもりか!?」
操兵を見終わり、焚き火のある場所まで戻ってきた俺達だったが、案の定マウは俺がプール三兄弟と共に傭兵活動をするというのに不満らしく、夜の荒野に響き渡るかのような甲高い声で叫ぶ。
マウは最初から俺を怪しんでいたし……何より、プール三兄弟という自分達の中に誰かが入ってくるのを嫌っているように思えた。
この3人の関係は義兄弟らしいが、そうした義兄弟だからこそお互いの関係を大事にしているのだろう。
そこに俺が入ってきて……プール三兄弟+1的な感じになるというのは、やはり許容出来ないのだろう。
「マウ、儂が決めた事だ」
「けどよぉっ! ……リロイ兄貴、リロイ兄貴はどう思ってるんだ!?」
「兄貴が決めた事なら、異論はない」
「くっ、やっぱり……リロイ兄貴ならそう言うよな。けど、俺は絶対に許容出来ねえ!」
マウが俺を睨み付けてくる。
さて、どうしたものか。
正直なところ、マウの気持ちも分からないではない。
分からないではないが……だからといって、俺もこの状況でプール三兄弟と共に行動しないという選択肢はない。
この聖刻世界が剣と魔法のファンタジー世界のような場所ではなく、ペルソナ世界のように分かりやすい世界であれば、俺の持っている常識も使えるので、問題はないのだが。
だが、この聖刻世界においては俺の持っている常識が通用せず、この世界の常識を知る必要がある以上、プール三兄弟と行動するというのは既に俺の中では決定事項だ。
「マウ」
短い一言。
だが、それを聞いたマウは、それだけで息を呑む。
「っ!? ……ぐぐ……」
そんなマウの様子を見たルーランは、俺を一瞥すると再び口を開く。
「そもそも、儂はアクセルを傭兵に誘ったが、アクセルが狩猟機を……あるいは最低でも従兵機を動かせなければ、話にならん。明日には到着する予定の街にある鍛冶屋でその辺を試してみて、駄目ならそこでお別れだ」
「……本当だな」
マウにとって、ルーランのその言葉が最低限受け入れられるものだったのだろう。
甲高い声ではあるが、それでも低く……俺を睨みながら、そう言ってくる。
うーん……ここまで恨まれるというか、憎まれるというのはさすがに予想外だったな。
もっとも、だからといって俺も退く訳にはいかないのだが。
ともあれ、そんな訳で……結局その日は眠りにつくのだった。
もっとも、4人に増えたという事で、俺もまた見張りに組み込まれる事になったが。
「ここが……ウルミエだったか?」
「違う。ウルミエというのはこの国の名前だ。帝国……この辺り一帯を支配している巨大な国の従属国の1つで、その帝国のすぐ側にある国だな。もっとも、その帝国も最近では明らかに衰えてきているがな」
周囲の様子を見ながら呟く俺に、ルーランがそう言ってくる。
なるほど、このウルミエというのはそういう場所らしい。
「で、この街はそのウルミエという国の中ではそれなりに大きい方なのか?」
「そうなるな。5本の指には入らないが、10本の指には入るというところか。それにしても、てっきり酔うかと思ったのだが、そうでもないのだな」
ルーランがそう言うのは、俺がルーランの狩猟機の手に乗って移動していたからだろう。
この世界に転移してきた俺を見つけたのがルーラン達な訳で、そうなると当然ながら移動手段はない。
これが例えば街から街へ、村から村へ移動しているような者であれば、馬車であったり馬であったりといった移動手段もあるのだが、俺の場合はない。
なので、ルーランの狩猟機に乗って移動してきたのだ。
とはいえ、ルーランが言うように普通狩猟機の手に乗って移動するとなると、酔ったり……最悪の場合は落下して落ちてもおかしくはない。
だが、俺はそういうのが全くなかった。
実際のところ、普通に走って移動しても狩猟機よりも速く移動出来たりするのだが。
俺の身体能力については、あまり教えない方がいいだろう。
ともあれ、そうしてこの街に到着すると鍛冶屋のある場所まで移動して補給やメンテナンスを頼んだ訳だ。
鍛冶屋は当然のように街中にあるので、操兵が街中を移動するのも普通だったりするんだよな。
オーラバトラーやKMFが街中を移動している……と思えば、分かりやすいか?
それでも街の住人は狩猟機が街中を歩くのにはそれなり慣れているのか、そこまで驚いた様子はなかったが。
ただ、珍しげな視線を向けてくる者も結構いた。……狩猟機の掌に乗っている俺が珍しかったというのもあるのだろうが。
ちなみにルーランから色々と話を聞いたところ、認識としては……狩猟機というのは、一般的な認識では高級外車? あるいはもっと希少性が高くて戦車くらい? の希少性らしい。
……もっとも、普通なら一般人が戦車を入手するのは不可能なので、この辺りの認識も人によって違うのだろうが。
それにあくまでもこれは俺が話を聞いて感じた事なので、ルーラン以外の者から話を聞けば、また違う印象になるかもしれないし。
「おい、アクセル! 準備出来たぞ! さっさと来やがれ!」
鍛冶屋の外に広がる街並みを見ていると、不意に甲高い声が俺を呼ぶ。
それが誰の声なのかというのは、考えるまでもなく明らかだ。
声のした方に視線を向けると、予想通りそこにはマウの姿があった。
俺がルーランと一緒にいるのすら、不愉快なのだろう。
殺気……とまではいかないが、いかにも不愉快だといった様子で俺を呼んでいた。
「……すまぬな」
マウの態度に、そうルーランが謝ってくる。
あるいは、ルーランにしてもここまでマウが俺に反感を抱くというのは予想外だったのかもしれない。
その辺については、俺がプール三兄弟の中に割り込んだ以上、多少は仕方がないと思わないでもないが。
……もっとも、マウの性格を考えると、いつこちらに攻撃してきてもおかしくはない訳で、もしそのようなことになったら、俺も相応の対処をとるしかなかったが。
「そのうち慣れる……と思いたいところだな」
そう言い、俺はマウの方に向かうのだった。