「これは、マイルフィーだな。速度を重視した機体で、それなりに高性能な狩猟機として知られている」
戦いが終わった後、ルーランは俺が倒した狩猟機を見てそう言ってくる。
ちなみに戦いそのものはこちらの圧勝に終わっている。
数としては、俺達が雇われた貴族も向こうの貴族もそこまで大差はない。
そんな中で、プール三兄弟という戦力は過剰だった。
向こうもそれが分かっていたので8機もの操兵をプール三兄弟と……ついでに俺に向けたものの、それはつまり他の戦力に対処出来る戦力が少ないという事を意味していた。
ましてや対プール三兄弟として向けた戦力も、プール三兄弟の1機を倒す……どころか、特に傷を付けるといった事すら出来ないままに全滅してしまったのだから。
結果として、敵の指揮官は殺すのではなく捕らえられ……まぁ、この後どうなるのかは、俺にも分からない。
捕虜として身代金を引き換えに返すのか、あるいは先祖代々の恨みから殺すのか。
その辺りは俺の関知する事ではないのだから。
「マイルフィーか。ルーランが言うように速度は速かったな。もっとも、パイロット……操手の腕はそこまででもなかったが」
「パイ……? いや、こいつは一応それなりに名の知られた傭兵なんだがな。ここに来る途中で言っただろう? サイガ党にも実力では決して負けていないという傭兵がいるって。こいつはその傭兵団の中でも腕利きとして知られていた奴だ」
「……あの程度でか?」
俺から見れば、言われる程に腕利きであるとは到底思えなかったんだが。
だが、そんな俺の言葉に、ルーランの視線が鋭くなる。
「あの程度、か。……恐らくだが向こうの計算としては、儂らに向かった別働隊の中で一番腕の立つマイルフィーに乗ってる奴が儂らから離れたアクセルを倒して、それから儂らと戦っている方に援軍に来るというつもりだったと思うのだがな」
予想外に、ルーランはあのマイルフィーとやらのパイロットを買っていたらしい。
「だが……まぁ、マイルフィーの操手漕だけを狙って倒したのはよくやったな。操手漕ならケファルスの物をそのまま使える筈だ」
あっさりとそう言ってきたルーランの言葉に驚く。
「いいのか? 俺が乗っているケファルスを買って貰ったばかりなのに、すぐに乗り換えても」
「構わん。ケファルスよりもマイルフィーの方が高性能だし、見たところアクセル向きだろう。それに……ケファルスの値段について気にしているようだが、寧ろ儂の手元に戻ってくる金額は増えるだろうよ」
そう言うルーランの言葉に、俺は本当か? と首を傾げるのだった。
「……本当だったな」
俺はルーランに向かって、驚きながら言う。
ルーランが言ったように、俺が乗っていたケファルスは鍛冶屋で買った時以上の値段で売れたのだ。
勿論、5割増しとか、あるいは倍の値段で売れたといったようなものではないが、それでも結構な儲けになったのは間違いないらしい。
「アクセルは傷1つ付けないままに勝利した。そういう意味でも値段に上乗せされたし……何より操手というのは験担ぎをするものだ」
「……験担ぎ?」
ルーランの言葉に、そう聞き返す。
するとルーランは当然といった様子で頷く。
「そうだ。お前がマイルフィーを倒した時の動きは……そして従兵機を倒した時の動きも、見ていた者は多い。あれだけの活躍をした狩猟機なのだから、自分も……と、そう思う者は多い」
「……なるほど。ただ、ルーランも知ってると思うが、あのケファルスは状態はいいらしいけど、特に改修らしい改修もしていない機体だぞ? 後で実は思ったのと違ったのか、そういう風に言われても困るけど」
「その時は、もう儂らはここにいないだろうし……もし追いついて何かを言っても、それは自分の判断ミスでしかない」
ルーランがそう言うのならと、俺はケファルスを売ってマイルフィーに乗り換える事にする。
とはいえ、そうなるとケファルスのコックピットを移植する必要があるのだが……幸いな事に、その辺りの金額についてはルーランから奢って貰うといったようなことをする必要はなく、倒した従兵機2機を売った金で俺にも十分に資金的な余裕が出来るのだった。
「帝都に? 何でまた?」
俺がマイルフィーに乗り換えてから、数ヶ月。
既に何度か傭兵として貴族同士の紛争であったり、中にはどうやったのか狩猟機を持っている盗賊の討伐とか、そういう依頼を受け、俺もそれなりにこの世界には馴染んでいた。
……そんな中で以前と一番違ったのは、マウの俺に対する態度だろう。
あくまでもプール三兄弟とは別で、一緒に行動しているだけであるという事になった時点で俺に向けられる殺気の類はなくなっていたのだが、この数ヶ月一緒に行動した事によって、身内とまではいかないが、それでも仲間という認識にはなったらしい。
ルーランが随分と早く懐いたなと、驚いていたのが印象に残っている。
あれは本気で驚いていた。
ともあれ、そうして傭兵稼業をそれなりに楽しみ……倒した操兵のうち何機かは空間倉庫に収納して、いつの間にか消えたという騒動を何度か起こしつつ、この聖刻世界での生活を楽しんでいたのだが……そんな中で、食事中にいきなりルーランが帝都ルーフェンに行くと、そう言ったのだ。
「どうやら帝都で操兵闘技大会が行われるらしくてな」
そう言うルーランが、操兵闘技大会について説明する。
もっとも、読んで字の如く。
操兵闘技大会というのは操兵……この場合は当然ながら狩猟機だが、その狩猟機を使った大会の事だ。
個人戦と団体戦があるのだが、闘技大会の花は団体戦なのだとか。
個人戦は傭兵とかでも出場出来るものの、団体戦は基本的に帝国の従属国しか出られないらしい。
そんな説明を聞いて、なるほどと納得するものの……
「それはつまり、ルーランが個人戦に出るのか?」
「おい、アクセル。言っておくがルーランの兄貴は以前に開かれた操兵闘技大会の個人戦で決勝まで残ったんだぜ。……まぁ、贔屓で準優勝になったけどよ」
俺の言葉に、マウがいつものように甲高い声でそう言ってくる。
「贔屓?」
「そうだ。戦いそのものはルーファスの兄貴が優勢だったのに、審判の連中は傭兵の兄貴が勝つのが気にくわなかったのか、帝国騎士の方を勝者にしたんだよ」
「マウ」
視線に力を込め、マウの名前を呼ぶルーラン。
マウはそんなルーランの視線に黙り込むも、それでも不服そうな様子だ。
それを見れば、マウがルーランの敗北という判定に納得していないのは明らかだった。
はぁ、と。
ルーランはそんなマウの様子を見て、息を吐く。
「他の連中がどう思っていようと、儂も奴もどちらが勝者なのかは十分に理解している」
「けどよぉ……リロイの兄貴は……って、聞くまでもないか」
マウの言葉に、酒を飲んでいたリロイは無言で頷く。
数ヶ月一緒に行動しているものの、リロイは基本的にルーランの言葉に異を唱える事はない。
そんなリロイに、マウはしかたがねえなといった表情を浮かべる。
「それで話を戻すが、一体何で帝都に行くんだ? ルーランの様子を見る限りだと個人戦に出て、今度こそ優勝をって訳じゃないんだろう?」
「そうだ。だが、操兵闘技大会が行われるとなれば多くの者達が集まってくる。そして大会が終わった後には健闘を称える為に大規模な祝賀会を開く。儂の目的はそれよ」
「……まさか、祝賀会、パーティに出たいとかそういう事じゃないよな?」
「当然だ」
一切の躊躇なく、ルーランは俺の言葉に頷く。
ルーランという人物を少しでも知っていれば、貴族が出るようなパーティに参加したいとは到底思えない筈だ。
「なら、何でだ?」
「多くの貴族達が集まるという事は警備も厳しくなる。そうなれば、当然ながら他の場所……そこまで重要だとは思えない場所の警備は緩くなる。例えば、古文書や石版といった物が置いてあるような場所はな」
「……古文書や石版?」
ルーランから出たとは思えない言葉にそう返すが、それを聞いたマウはまたかといった表情を浮かべていた。
そんなマウの様子を見る限りだと、恐らくルーランのこのような行動は別にこれが初めてという訳でもないのだろう。
「そうだ。古操兵……それも特にシュルティ古操兵と呼ばれる操兵を探すのが儂の趣味でな」
「古操兵というのは……名前通りだとすると、古い操兵か?」
「ああ。だが、過去に龍の王と呼ばれた者が使用していたその操兵は、今の操兵とは比べものにならないくらいの性能を持つという。……もっとも、マウは信じていないようだがな」
「だってよぉ……信じられないぜ?」
「な? ……ともあれ、帝国の中にはそのような古文書、あるいは石版の類かもしれぬが、あるという。しかし、当然ながら普通に見せて欲しいと言っても許可が下りる訳もない」
なので、操兵闘技大会が終わった後のパーティのドサクサに紛れてシュルティ古操兵について書かれている古文書なり石版なりを見て、情報を欲しているらしい。
「なるほど、興味深いな」
「アクセル、お前もそっち側かよ」
俺の言葉を聞いたマウが、呆れたように言う。
「まぁ、ロマンというのはあるだろうしな」
そう返しつつも、恐らく……本当に恐らくだが、そのシュルティ古操兵というのは存在するのだろうと予想していた。
何しろ、俺がこの世界にやって来たのだ。
つまりこの世界にも原作がある筈であり、そして俺と最初の遭遇したルーランがそのシュルティ古操兵を探しているとなれば、そういうのはあってもおかしくはない。
あらゆる未知の技術を収集するという国是を考えれば、聖刻世界はかなり興味深い。
いやまぁ、操兵そのものは……それこそ上位機種である狩猟機も、それこそジム辺りと戦えば惨敗するだろう性能しかないものの、未知の技術という点で見れば非常に興味深いのも事実。
であれば、その操兵の中でもより性能の高いシュルティ古操兵というのに興味を持つなというのは無理だった。
「アクセルならそう言うだろうと思ったよ。……それと、アクセルには個人戦に出て貰う」
「俺がか? 一体何でだ? 目的はあくまでも古文書とかそういうのだろう? なら、別に……」
「それを知らない者にしてみれば、俺達が操兵闘技大会が開かれているルーフェンに一体何をしに来たのかと、怪しむだろう」
そう言われると、俺もルーランが何を言いたいのかを理解した。
俺が操兵闘技大会の個人戦に出場する事によって、俺と一緒に行動しているプール三兄弟がルーフェンにいてもおかしくないと、そういう事にしたいのだろう。
「シュルティ古操兵を見つけた時は、こっちにも分け前を期待してもいいんだろうな?」
「ああ、問題ない。それに……個人戦は予選から出場することになるが、予選では勝利した相手の操兵を貰える。これは大きいぞ」
「それはまた……もっとも、マイルフィーに今のところ不満はないけどな」
速度特化……という程ではないにしろ、速度の高いマイルフィーは俺の戦闘スタイルに合っている。
この数ヶ月、傭兵として活動する上で色々な狩猟機を見てきたものの、その中にマイルフィーよりもしっくりとくる狩猟機はなかった。
純粋にカタログスペックだけならマイルフィーよりも性能の高い狩猟機はあったのだが、こう……いまいちピンとこないというかなんというか。
それでもマイルフィーよりも圧倒的に性能が高ければそちらを試してみようかとも思ったのだが、性能差は少し、その程度なら容易に技量でどうにか出来るくらいだしな。
……それこそ、シュルティ古操兵でも見つける事が出来れば話は別なのだろうが。
「なら、売ればいい。特にアクセルが得意としている、操手漕だけを潰す攻撃は売るにしても高く売れるしな」
狩猟機、従兵機に限らず操兵の弱点というのは幾つかある。
操手漕……つまりコックピット、操兵の心臓的な機関、そして仮面だ。
そしてこの中で一番取り返しの付かないのが、仮面となる。
仮面は聖刻石というのが嵌められた魔法的な存在で、これが言ってみれば操兵の制御中枢的な感じなので、この仮面を壊されると操兵は死ぬ。
……もっとも、他の仮面を持ってきて使えば、相性によっては動くが。
そして心臓的な機関は仮面よりもマシだが、それでも修理したり交換したりするには操兵鍛冶師にかなりの技量を求められる。
それに比べると、操手漕は交換するのもそこまで――あくまでも心臓と比べてだが――高い技量を必要とないのは間違いなく、そういう意味ではルーランが言うように狙う部位としては悪くないだろう。
「そうだな。金稼ぎにも丁度いいか。……それに、もしかしたらマイルフィーよりも俺に合っている狩猟機が見つかるかもしれないし、そういう意味では個人戦に出るのも悪くない」
そうして話が決まると、俺達は帝都ルーフェンに向かうのだった。