こちらに向かって突っ込んで来る、ガ・モーキンの操兵。
一国を代表する部隊に選ばれるだけあって、ちょっとした動きからでもその技量がなかなかのものでると分かる。
……まぁ、狩猟機だけの純粋な搭乗時間で考えれば、俺よりも明らかに上ではあるのだろう。
もっとも、狩猟機ではなく人型機動兵器として考えれば、俺の方が搭乗時間は圧倒的に上だが。
また、これが団体戦という事で俺に厄介な点もある。
これが個人戦……それも予選であれば倒した操兵の所有権は自分の物となり、後の面倒を避ける為にも操手を殺すことが多い。
実際、マイルフィーの操る槍は何度となく操手漕を貫き、操手を殺していた。
だが……これは団体戦だ。
であれば、可能な限り相手を殺さないようにする必要があった。
勿論、戦いの流れで相手を殺すといったような事もあるだろうが、それは流れであって、絶対に殺さなければいけない訳でも、あるいは生かしておかなければならない訳でもない。
あくまでも可能な限りなのだ。
だからこそ、俺としては操手漕を貫く訳にもいかず……
「悪いな」
仮面……正確には仮面を覆っている防御機構を貫く。
狩猟機にしろ従兵機にしろ、操兵にとって最重要パーツは仮面だ。
俺の経験からすると、仮面7割、素体2割、それ以外が1割といった感じだろう。
そんな訳で、仮面を破壊してしまえばその操兵は死ぬ。
マイルフィーの放った槍の一撃は、中の仮面諸共に仮面を覆っている機構を破壊し……ガクン、と。操兵はその場に崩れ落ちる。
操手が死んでいないだけラッキーだと思って欲しい。
そんな風に思っていると、別の操兵がこちらに長剣を振り下ろしてくる。
元々イシュカーク側は、デュマシオンと護衛の騎士、そんな3人の教育係としてローエンの部下がいて、プール三兄弟は敵の大将を狙う為に別行動中だ。
そうなると、当然ながらイシュカークの前線の方が数では劣っている訳で、1機倒した程度ではその差は縮まらない。
他にもアグライアが集めた傭兵達も前線にいるが……こちらも戦力としては決して優れていない。
とはいえ、これについてはしょうがない。
辺境の小国、それも第二公子でしかないデュマシオンは決して金銭的に豊かではなく、傭兵として雇った者達にも十分な報酬が支払えないのだから。
なので、傭兵達とイシュカーク側の間での折衷案が傭兵達は自分の操兵は使わず、イシュカーク側が用意した操兵を使うというものだった。
当然だが、使い慣れた操兵と初めて乗る――それでも前もって訓練である程度は乗っていたのだろうが――操兵では、傭兵にとってどちらが使いやすいのかは考えるまでもない。
そんな訳で、乗り慣れない操兵を操縦する傭兵達は、戦力としてあまり期待出来るような者達ではなかった。
そういう意味では、ローエンの部下の方がまだ優秀だろう。
そんな風に思いつつ、振り下ろしてきた長剣を回避しながら槍を放って仮面を砕く。
『やるねぇ、あんた』
突然聞こえてきた声に視線を向けると、そこにはアグライアの乗っている重量級狩猟機の姿があった。
伝声管を開き、返事をする。
「サイガの赤鬼にそう言われるとは、嬉しい限りだな」
『全く、あんたみたいなのが何だってあんな酔狂な奴と一緒にいるんだか。もう少し友達は選んだ方がいいよ?』
アグライアのその言葉は、俺を心配しているようで、それでいながらからかうかのようなものだ。
アグライアは肝っ玉母さんといった感じだけに、こうして面倒見もいいのだろう。
……相変わらず、サイガ党のような傭兵と第二公子のデュマシオンが一体どうやって知り合ったのかは、俺にも分からなかったが。
もっとも、その辺は別にどうしても知りたいとは思わない。
「付き合ってみれば、あれでなかなか付き合いやすいんだけどな」
そんな風に会話をしながらも、ガ・モーキンの操兵の相手をする行動は止まらない。
振り下ろすのでは俺には通用しないと判断したのか、今度は突きを放つが……
「甘い」
長剣の刀身に槍を絡ませるようにし、タイミングを見計らって力を入れると次の瞬間向こうの操兵が持っていた長剣はその手から離れ、空高く舞い上がる。
一体何が起きたのか理解出来ないといった様子の操兵の仮面に向け、突きを放つ。
仮面が破壊された操兵は、先に俺にやられた操兵と同じく地面に崩れ落ちる。
『わあああああああああああああああっ!』
聞こえてくる歓声は、俺のマイルフィーの活躍によるものか、あるいは他の誰かの活躍によるものか。
その辺は分からないが、俺は戦いを続け……やがて、遠回りしたプール三兄弟が敵の大将機を倒して、イシュカークは1回戦を突破するのだった。
「ナカーダ、か」
「ああ。因縁の対決という奴だな」
ガ・モーキンとの戦いから3日経った日、俺はいつもの酒場でプール三兄弟の面々と一緒に食事をしていた。
俺にとってはいつもの事ではあるが、酒場にいる者達の視線はガ・モーキンとの戦いがあった日以降、違ったものになっている。
それまで、俺はプール三兄弟と一緒にいるとしても金魚の糞というか、虎の威を借る狐のような感じで見られていた。
……そういう風に思ったのは、酒場にいた傭兵の1人がマウと揉めた結果操兵での決闘を行う事になり、結果として殺されたのもあって、プール三兄弟と一緒にいる俺に手を出すような者もいなかったのだろう。
マウじゃなくて直接俺に絡んでくるようことがあれば、生身でもいいし、あるいはマウのように操兵でもいいけど実力を見せつけることが出来たんだが。
ともあれ、俺はそんな風に思われていたのだが、ガ・モーキンとの戦いで大きな活躍をした。
それこそ、個人戦2連覇のローエンよりも目立つ活躍をしたのだ。
もっとも、ローエンの場合は部下の指揮をしていて、自分が直接前に出るといったようなことはなかったので、そこまで目立つといったようなことはなかったのだが。
ともあれ、ガ・モーキンとの試合で俺が目立ったのは間違いない。
それによって酒場にいる他の傭兵達も俺の実力については十分に理解し、見る目が変わったのだ。
俺にしてみれば、面倒がなくなったのならそれはそれで問題ないのだが。
ともあれ、そんな雰囲気の中でルーランが口にしたのが、ナカーダという国名だった。
それは、2回戦でイシュカークが戦う相手の国名でもある。
ちなみに、俺のマイルフィーが使っている槍の素材も、ナカーダの鉱山で採掘された鉄なので、微妙に……本当に微妙にではあるが、俺とも関係があったりする。
「因縁の対決?」
「そうだ。このナカーダという国はイシュカークの隣国で、昔から仲が悪い。というか、元々イシュカークの一部が独立してナカーダという国を建国したらしい」
「それはまた……」
独立と言っても、色々とある。
例えば平和裏に話し合って独立をするといったこともあるが、ルーランの言葉からするとそういうのではなく、武力によって独立をしたという事なのだろう。
であれば、お互いの国が険悪な理由も分かる。
「ましてや、少し前に父親を殺してガイザスという男が国主になってからは積極的に軍備拡張を進めている。その向かう先がどこなのかは、言うまでもないだろう?」
「普通に考えれば、因縁のあるイシュカークだろうな」
「そうだ。そもそもイシュカークが操兵闘技大会に参加する事になったのも、イシュカークと同じく辺境の小国であるナカーダが参加する事になったかららしい」
面子とかそういうのなんだろうな。
もっとも、その割にはイシュカークは操兵も金も決して十分ではない様子だったが。
貧乏な小国だからといって、それでもこれは……と思う。
デュマシオンが第二公子であるというのも、関係しているのかもしれないが。
「けどよ、兄貴。1回戦の様子を見る限りだと、とてもじゃねえがイシュカークに勝ち目はねえぜ?」
そうマウが言うが、その件については俺やリロイも……いや、それどころか近くで話を聞いていた他の傭兵達までもが頷く。
どうやら団体戦でナカーダの戦いを見てきた者もそれなりにいるのだろう。
そして実際、マウの言葉は決して大袈裟なものではない。
操兵闘技大会の団体戦に出て来ている以上、ナカーダと戦った国も列強とまではいかないが、相応の国力を持っているのは明らかだ。
だが、そのような国力を持っている国の部隊……騎士団ではあったが、それがナカーダによって駆逐された。
……そう、それは戦いに勝利するというよりも駆逐といった表現が相応しい、そんな戦いだったのだ。
実際、イシュカークがガ・モーキンと戦った時の観客はもの凄い歓声を上げていたものの、ナカーダの試合においては最初はともかく、最後になると静まり返っていたし。
戦争であれば勝利する事こそが最優先ではあるが、これはあくまでも操兵闘技大会だ。
いわゆる、魅せる戦い方というのも必要になる。
もっとも、実際にナカーダの戦いを見た感じだと、イシュカークが勝つのは難しいというマウの言葉は正しい。
プール三兄弟やアグライア、ローエンといった強力な駒はあるが、それでもだからといってナカーダの部隊全てをどうにか出来るかとなると……難しいだろう。
鉱山を有しているだけあって、ナカーダの操兵は分厚い鎧を身につけている。
ナカーダの狩猟機は中量級狩猟機なのだが、その分厚い鎧の重量を考えると重量級狩猟機くらいの重量があるのは間違いない。
ましてや、闘技場はそれなりの広さを持つものの、それでも縦横無尽に動けるだけの広さがある訳でもないので、ナカーダの狩猟機の方が有利だろう。
これが闘技場ではなく戦場であれば、罠を仕掛けるとか、地形を利用するとか、そういうのも出来るのだろうが。
いっそ、俺が本気で戦うか?
ニーズヘッグ……とまではいかないが、サラマンダーやミロンガ改を出せば……いや、大きさが違いすぎるから無理か。
18m前後のサラマンダーやミロンガ改に比べると、狩猟機は……標準の中量級狩猟機は、大体8m前後だ。
軽量級狩猟機ならそれより小さく、重量級狩猟機ならそれより大きい。
オーラバトラーが大体7mくらいだから、あるいはオーラバトラーを持ってきていれば同じファンタジー系の人型機動兵器という事で出してもよかったのだが。
もしくは、マイルフィーで俺が限界以上に頑張るか。
MSとかと同じく、操兵も当然だが俺が本気で動かせば関節とかに強い負荷が掛かるので、機体に負荷が掛からないように操縦している。
何しろ操兵はMSとかと比べてもかなり部品が高いし、修理を出来る者もそれなりの規模の街にしかいない。
ましてや、マイルフィーは中量級狩猟機の中でも速度に秀でており、大きさも一般的な中量級狩猟機よりは小さい。
勿論それはあくまでも中量級狩猟機の中では速度に勝っているという事で、マウの使っている軽量級狩猟機と比べれば速度でも劣ったりするのだが。
そんな狩猟機なので、重装甲のナカーダの狩猟機は相性が悪い。
悪いが……もし俺の予想が正しく、デュマシオンがこの世界の原作主人公であれば、恩を売っておくに越した事はない。
幸いにも金については個人戦で倒した操兵を売っており、新品の操兵を……それも高価な重量級狩猟機であっても買えるくらいの余裕はある。
であれば、マイルフィーを使い潰しても構わない。構わないのだが……だからといって、恩を売る為であってもそこまでする必要があるか? と思わないでもない。
マイルフィーの値段についても貸しという事にしてもいいかもしれないな。
「アクセル、何をする気だ?」
俺の様子を見ていたルーランが、そう俺に聞いてくる。
どうやら俺が何をしようとしているのかまでは分からないものの、それでも何かをしようとしているのは分かったらしい。
「ちょっとな。デュマシオンに恩を売っておくのは悪くないと思って」
「本気かよ!?」
俺の言葉に、信じられないといった様子でマウがいつものように甲高い声で叫ぶ。
マウにしてみれば、デュマシオンには何の価値もないと、そう思っているのだろう。
とはいえ、そんなマウを説得する材料はある。
……いや、これはマウじゃなくてルーランを説得する材料か?
「まさか、お前がそこまでデュマシオンに肩入れしてるとは思わなかったぞ」
そう言うルーランだったが、そのルーランもまたデュマシオンに興味を寄せているのは間違いない。
もっとも、ルーランの場合はデュマシオンではなく、デュマシオンの操兵であるソレイヤードがシュルティ古操兵だからこそ、そこからデュマシオンに興味を持っているのだろうが。
つまり俺の場合はこの世界の原作主人公である可能性が高いデュマシオンの方が優先順位が高いが、ルーランの場合はあくまでもシュルティ古操兵のソレイヤードの方が先に来る訳だ。
「そうか? デュマシオンの操兵がシュルティ古操兵で、工呪会もそれを知っているのに、ソレイヤードを取り上げようとしなかった。それはつまり……デュマシオンに何かある、もっと言えば工呪会が欲するシュルティ古操兵を入手する為に、デュマシオンが必要だからじゃないのか?」
そう言うと、ルーランは真面目な表情で考え込むのだった。