転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編217話 聖刻群龍伝編 10話

 ルーランと話をしたその日のうちに、俺はイシュカークの公館にやって来た。

 公館……分かりやすい表現だと、大使館のようなものか?

 もっとも、一般的な大使館というのはその大使館の中は別の国の領土となり、その国の法律は適用外となる。

 しかし、当然ながらイシュカークは帝国の従属国でしかない。

 それはつまり、ここはあくまでも公館であって大使館ではなく、普通に帝国の法の範囲内になるという事だ。

 ……あるいはこれが、従属国の中でも最大の国力を持つエリダーヌを始めとした俗に列強と呼ばれる国であれば、帝国側もある程度は配慮をしなければならないだろう。

 だが、イシュカークという辺境の小国を相手に、そのような事は一切考慮に値しないと思われる。

 それこそ公館にいるのが第二公子のデュマシオンであっても、帝国軍や近衛騎士といった者達にしてみれば庶民より少し上くらいの感覚だろうし。

 実際、公館も見るからに寂れており、壊れているようなところも多い。

 公館は大使館とは違うものの、その国の顔だと思うんだが。

 それだけに本来ならこういう風にみすぼらしくないようにしないといけないのだが……聞いた話によれば、デュマシオンは第一公子や国主……つまり国王とも仲が悪いらしく、公館の修復作業に必要な金も送って貰えないらしい。

 もっとも、イシュカークそのものが貧乏だという話だし、それを思えばそもそも送る金がないのかもしれないが。

 そんな公館を訪ねると、即座に通される。

 この辺はフットワークが軽いよな。

 人によっては意図的に相手を待たせ、自分の方が偉いといったように態度で示してもおかしくはないのだから。

 もっともナカーダ戦での件で相談があると、用件を口にした上での行動なのだから、そういう意味ではまさに藁にも縋る思いといったところなのかもしれないな。

 

「それで、アクセル。ナカーダ戦について相談があるという話だが?」

 

 部屋の中にいるのは、デュマシオンとローエン、それとアーシェラ。

 ローエンはデュマシオンに仕える騎士という事で納得も出来るんだが、アーシェラは一体どういう存在なんだろうな。

 腕が立つというのは、ちょっとした身体の動かし方で分かるんだが。

 そのアーシェラは、俺が視線を向けているのに気が付くとじっとこちらを観察するような視線を向けてくる。

 俺がアーシェラを訝しんでいるように、アーシェラもまた俺を訝しんでいるのだろう。

 そういう意味では、ローエンはそこまで俺を訝しんではいないのだが……あるいはその辺は、ルーランとの関係を思った上でのものかもしれないな。

 取りあえず今は、デュマシオンに恩を売る方が先か。

 

「そうだ。ナカーダ戦との試合において、俺は本気で戦ってもいい」

「……待ってくれ。それはつまり、今までは本気で戦っていなかったと、そういう事か? いや、勿論ガ・モーキンとの試合でも十分な実力を見せたのだから、本気で戦っていなくても十分に強かったのかもしれないが」

 

 訝しげな様子で聞いてくるデュマシオンに、俺は頷く。

 

「そうだ。操兵闘技大会の個人戦で2連覇したローエンの前でこう言うのもなんだが、俺は強い。それこそローエンと戦っても勝てると……それも生身でも操兵でも、どちらでも勝てると断言出来るくらいにはな」

 

 そう言うと、デュマシオンが不満そうな様子を見せる。

 デュマシオンにとってローエンは数少ない配下であると同時に最大の戦力でもあるのだから、俺の言葉に不満を抱くのはおかしくない。

 なので、この件についてはローエンに話して貰おう。

 

「ローエン、お前はどう思う? お前程の実力があるのなら、俺との力の差は理解出来る筈だ。お前は俺に勝てると思うか?」

 

 そう、ローエンに尋ねる。

 するとローエンは俺の言葉に不満そうな表情を見せる訳でもなく、あっさりと頷く。

 

「そうだな。私ではアクセルには勝てないだろう。……勿論、デュマシオン殿下の為とあらば、勝てない相手にでも勝ってみせるが」

 

 ローエンのその言葉は、実際俺を相手にしても何かあったら勝ってみせるというものだった。

 忠誠心は高いし……本当にデュマシオンには勿体ないよな。

 あるいはそれもまた、デュマシオンがこの世界の原作主人公である証なのかもしれない。

 

「そんな訳で、俺はローエンよりも強い。だが……こう言ってはなんだけど、俺の使っているマイルフィーは悪い操兵じゃないが、決して性能が高い操兵という訳でもない」

 

 そもそも、あのマイルフィーは俺がこの世界の初陣で倒した傭兵が乗っていた物だ。

 傭兵が使うという事で……しかもサイガ党に実力では負けていないという傭兵団の中でもエースと思しき者が乗っていた操兵なので、相応に改造されてはいるんだとは思う。

 思うのだが、それでも結局のところ一介の傭兵が操縦している操兵でしかない。

 プール三兄弟が使っているような正真正銘の一品物とかならともかく、量産された機体でしかない。

 勿論普通に操縦するだけなら、それはそれで問題ない。

 だが、俺が本気で操縦するとなると……

 

「もし俺が本気でマイルフィーを動かした場合、恐らくボロボロになる。で、当然の話だが俺はプール三兄弟と一緒に傭兵として活動している以上、操兵がないとどうしようもない」

 

 もっとも、プール三兄弟が……というかルーランが操兵闘技大会が行われている時に帝都まで来たのは、城にあるシュルティ古操兵についての古文書や石版を見る為だ。

 そうなると、もしかしたらそのうち俺もシュルティ古操兵を入手出来る可能性はあるが……それはあくまでも上手くいけばの話で、そのシュルティ古操兵のあると思しき場所に向かうにしても、操兵が必要になる可能性はある。

 つまり、操兵闘技大会でマイルフィーが壊れてしまうのは決して好ましい事ではない訳だ。

 

「つまり、どうしろと?」

「俺からの条件は2つある。……聞くか?」

「これで聞かないという選択肢はないだろう」

 

 そう、デュマシオンが言う。

 アーシェラはそんなデュマシオンに対して何かを言いたげだったものの、結局黙り込む。

 ローエンの方は特に何を言うでもなく、俺が何を言うのか素直に待っている。

 

「まず1つ目の条件。俺が本気でマイルフィーを動かして……そうだな、ナカーダの操兵を最低5機は倒す事を約束する。後、これは本当に運になるが、もしかしたらナカーダの部隊を率いている相手を倒せる可能性もある。その代わり、マイルフィーを完全な状態に戻して貰う」

「……なるほど。ガイザスについてはともかく、ナカーダのギガースを5機、もし本当に倒せるのなら、アクセルの操兵を完全な状態にするだけの価値はあるか。……もう1つの条件は何だ?」

「これが、お前に……イシュカークの第二公子デュマシオンに対する、明確な貸しになるという事だ」

「貸し? 俺にか?」

 

 一体何故自分にそんな貸しを?

 そう、デュマシオンは不思議そうな表情を浮かべる。

 俺にしてみれば、デュマシオンはこの世界の原作の主人公である可能性が高いという事の他に、ソレイヤードというシュルティ古操兵を持っている事から、デュマシオンという存在は他のシュルティ古操兵を入手出来る鍵になると、そう思っている。

 もっとも、デュマシオンはその辺の自覚は全くないようだったが。

 

「それで、どうする? この2つの条件を呑むのなら、俺は責任を持ってナカーダの操兵を最低5機は倒してみせる」

「……少し考えさせて欲しい」

 

 デュマシオンは結局即断することなく、そう言うのだった。

 

 

 

 

 

 俺がイシュカークの公館に言ってから数日後……いよいよ、操兵闘技大会においてナカーダとの試合が行われる日になった。

 この数日、イシュカークから……デュマシオンから連絡が来るような事はなかった。

 連絡がないという事を考えると、もしかしたら俺の要望を受け入れるのを諦めたのか?

 そうも思ったのだが……

 

「なるほど」

 

 ナカーダとの試合前の最後の打ち合わせにおいて、俺はデュマシオンの提案にそう返す。

 この打ち合わせに参加してるのは、デュマシオン、ローエン、アーシェラ、アグライア、ルーラン、そして俺。

 そんな中で俺はデュマシオンから、この前の提案を受けると言われたのだ。

 

「返事が来るまでに随分と時間が掛かった……というか、まさか試合当日にそんな風に言われるとは思ってなかったけど、話は分かった」

「本当に大丈夫なんだろうね? ディア坊やから聞いたけど、ギガースを5機も倒すってのはそう簡単な事じゃないんだよ? ましてや、あんたの使っているマイルフィーは機体もそこまで大きくないし、速度を増した代わりに力もそこまで大きくないんだ」

 

 アグライアが俺を見ながら、そう言ってくる。

 随分とマイルフィーについて詳しいが、傭兵としては自分達の使う操兵に詳しくなるのはおかしくはない。

 それに……サイガ党の中には疾風の異名を持つ女がいて、その女がマイルフィーを使っているらしいし。

 もっとも、正確にはマイルフィーを改修した改修機らしいが。

 その辺の事情もあって、アグライアがマイルフィーに詳しいのは十分に理解出来た。

 

「まぁ、何とかなるだろ」

「……本当に大丈夫なんだろうね?」

 

 俺の言葉が信用出来なかったのか、アグライアはルーランに視線を向ける。

 するとそのルーランは、笑みを浮かべて口を開く。

 

「アクセルの強さは1回戦で見ただろう?」

「それはそうだけど……ギガースは素体がセントゥリスなんだろう? あの素体は2割くらい性能が上がってる」

 

 アグライアの言葉に、話を聞いていた面々が苦々しい表情を浮かべる。

 これは打ち合わせが始まってから最初にデュマシオンが話した事だ。

 操兵の素体というのは、言ってみれば人から皮膚や体毛を剥ぎ取ったかのような、そんな外見をしている。

 それに皮膚代わりの革だったり鎧を装備させて操兵として組み立てていくのだが、そうなると当然ながら素体の性能というのは非常に大きな意味を持つ。

 そしてアグライアが口にしたセントゥリスというのは工呪会が生み出した最新の素体で、これもまたアグライアが口にしたように2割程も性能が上がっている。

 ……当然ながらそのような性能の高い素体はまだ数も少なく、帝国のある地域全てを見ても、まだ100機――素体を機と評するのが正しいのかは分からないが――くらいしかないと言われており、列強と呼ばれる国が買い集めている。

 そのような素体だけに値段もかなりのものとなるのは当然で、それがイシュカークと同じくらいの貧乏国であるナカーダが帝国全域にあるセントゥリスの20%程も手に入れているというのは、明らかにおかしい。

 

「多分だが、ナカーダには後ろ盾がいるんだろうな。それもかなり大きな」

 

 そう俺が言うと、デュマシオンを始めとしたイシュカーク組は苦々しげな表情を浮かべる。

 ナカーダはイシュカークにとっても先祖代々の宿敵だ。

 そんなナカーダがそのような最新の素体を入手しているのは危険な事にしか思えないのだろう。

 ……というか、俺にしてみればセントゥリスの存在も驚きではあったが、デュマシオンがそれをどうやって知ったのかという事の方が気になるんだが。

 ナカーダも自分達がセントゥリスを使っているというのは可能な限り知られたくない事だろう。

 であれば、その辺の警備は厳重に行っている筈だ。

 だというのに、それをデュマシオンがどうやって知ったのか。

 ……消去法でいけば、アーシェラだろうな。

 ローエンは腕の立つ騎士ではあるが、言ってみればそれだけだ。

 とてもではないがナカーダの公館に忍び込むなり、あるいはナカーダの公館に勤めている者から上手い具合に情報を引き出せるとは思えない。

 そうなると、やはり残るのはアーシェラだろう。

 ちょっとした身体の動かし方からも、それっぽいものが感じられるし。

 表に出てこないだけで、まだ他にデュマシオンに仕える者がいれば話は別だが。

 

「話を戻すが、セントゥリスだろうが何だろうが、俺が最低でも5機のギガースを倒すのは約束したままだ。もっとも、セントゥリスによってギガースの性能が上がっているのなら、試合が終わった時にマイルフィーはかなり酷い状況になっているとは思うが。その辺は、こっちの要望を飲んでくれるんだろう?」

 

 そう確認すると、デュマシオンは俺の言葉に頷く。

 ……操兵、それも狩猟機は現代的な価値とすると、高級外車や戦車といった感じなのだが、貧乏なイシュカークに、それも公館を直す金さえ送ってこない中で本当に大丈夫なんだろうな?

 まぁ、俺の場合はいざとなれば操兵を奪ってくるといったとも出来るので、どうとでも対処は出来るのだが。

 

「それで、俺が5機を倒しても、腕利きの面々がギガースをある程度倒しても、まだこっちが不利なのは間違いない。それをどうするんだ?」

「……ナカーダの部隊を率いるのは、国主のガイザスだ。それに一騎打ちを挑む」

 

 そう、デュマシオンは言うのだった。

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