試合会場でイシュカークとナカーダの両軍が向き合う。
ナカーダの方は後ろ盾が存在するだけに資金も豊富だし、俺のマイルフィーが使っている槍を見れば分かるように、上質の鉄を生み出す為の鉄鉱石を採掘出来る鉱山もある。
それらによって、狩猟機は全てがギガースで統一されていた。
……いや、ナカーダ軍の中で1機だけギガースと違う機体があるな。
ギガースよりも明らかに大きなその機体は、重量級狩猟機だろう。
鎧もギガースが身につけている物と違い、多少なりとも飾り立てられている。
こちらからソレイヤードが闘技場の中央に向かって歩き出すと、その重量級狩猟機もまた歩き出す。
そんな様子を見れば、それに誰が乗ってるのかは考えるまでもないだろう。
デュマシオンが一騎打ちをするという、ナカーダの国主ガイザスだ。
打ち合わせの時にデュマシオンから聞いた話によると、操兵闘技大会の前夜祭でガイザスと揉めたらしい。
……また、イシュカークの中でもそれなりの領地を持ち、ナカーダと接する、大貴族に数えられる貴族――あくまでも辺境の小国イシュカークの中ではの話だが――がナカーダに寝返った件もあり、デュマシオンとガイザスは前夜祭でやりあったとか。
もっとも、あからさまにデュマシオンを嘲弄するガイザスに対し、ローエンが出るとガイザスは逃げ去ったらしいが。
ガイザスは純粋な戦士としても相応の強さを持つものの、操兵闘技大会の個人戦で2連勝したローエンを相手にするのは無謀だというのは理解していたのだろう。
そんな訳で、前夜祭においてイシュカークとナカーダが険悪な関係だったのは多くの者が知っている。
その上でこうして試合が始まる前に大将同士が向き合ったのだから、デュマシオンが狙う一騎打ちには丁度いい仕掛けだろう。
そうして何らかの話をしていると、不意にガイザスの重量級狩猟機が右手を前に出し、立てた親指を下に向ける。
それは、操兵において相手を殺すというジェスチャーなのだが……ファンタジー世界なのに、その辺のジェスチャーは俺が知っているのと変わらないんだな。
一騎打ちを挑もうとしているデュマシオンにしてみれば、望むところではあるのかもしれないが。
そんな風に思っていると、話が終わったのだろう。
デュマシオンのソレイヤードがこちらに戻ってきて……やがてガ・モーキンとの試合の時と同じく軍楽隊の太鼓が鳴らされ、ラッパの音が闘技場に響くと同時に試合が始まった。
俺の操縦するマイルフィーは、真っ先に前に出る。
中量級狩猟機にしては小型で、速度を重視した機体だけに、俺のマイルフィーだけが突出した形だ。
速度という点では、実は俺のマイルフィーよりもマウの軽量級狩猟機……それも一品物の方が上なのだが、マウにしてみればイシュカークに積極的に協力したいとは思っていないらしく、ルーランやリロイと共に行動していた。
戦いが始まって真っ先に突っ込んで来た俺に対し、当然ながらナカーダのギガースは持っていた鎚を構える。
その鎚の威力は、ナカーダの1回戦を見れば明らかだ。
長剣や槍といった武器は、鎧で防げばダメージはない……とまではいかないが、殆ど気にしない程度のダメージしかない。
だが、ギガースの持つ鎚は斬ったり刺したりといった武器ではなく、内部に衝撃を与える武器だ。
その為、鎧でその一撃を受けても鎧の下にある素体の筋肉筒にダメージを与える事が出来る。
もっとも、そういった意味で強力な武器ではあるものの、その一撃は振りかぶって振り下ろすといった動作が必要となり、長剣や槍と比べて重量もあるので、どうしても攻撃の速度は長剣や槍と比べて劣る。
とはいえ、相手が1機だけであれば……それも待ち構えていた場所に突っ込んでくるような相手であれば、数機で纏めて攻撃をしたり、時間差で攻撃する事で相手が回避したところを狙い撃つといった事も出来る訳で、普通ならピンチだろう。
……あくまでも普通なら、だが。
マイルフィーの操手漕目掛けて振り下ろされたギガースの鎚。
操手漕があるのは操兵の中心部分だけに、狙われても回避するのは難しい。
人が攻撃される時、胴体を狙った攻撃は回避しようとしても回避しにくいのと同じような理屈だ。
鎚の一撃を回避しながら、マイルフィーの槍を鎚の柄に引っ掛け、搦め捕る。
セントゥリスという最新の素体を利用している為に、搦め捕ろうとした鎚を何とか手放さないように掴もうとしたものの、この搦め捕るというのは純粋な機体性能もそうだが、それ以上にタイミング的な問題もある。
……あるいはこれで、2割ではなく5割、あるいはもっと性能の高い素体なら、もしかしたらタイミングを含めても鎚を手放さないように出来たかもしれないが。
結果としてギガースの鎚は手放され、地面に落ちる。
向こうにしてみれば、まさかの展開だったのだろう。
それでも操兵闘技大会に参加している事は精鋭であるのは間違いなく、驚いたのはあくまでも一瞬だけだ。
だが、俺の操縦するマイルフィーにしてみれば、その程度で十分だった。
素早く突き出された槍の穂先が、ギガースの仮面を貫く。
重装甲の……それこそ中量級狩猟機であるにも関わらず、鎧の重量によってちょっとした重量級狩猟機並の重さのギガースだけに、当然ながら操兵の最大の弱点である仮面の覆いについてもそれなりに丈夫なのだろう。
だが……あるいは操兵の中で最重要部品が仮面である為か、もしくは視界を確保する為なのか、その仮面を本当の意味でガチガチに金属で覆うといったことは出来ないらしい。
もしかしたら、そういう事をすれば操兵の性能に悪影響が出るとか、そういう理由もあるのかもしれないな。
ともあれ、そんな訳でギガースの仮面は槍の一撃であっさりと破壊される。
これでまずは1機。
操兵闘技大会に参加しているのだから、この連中が精鋭なのは間違いなく、そういう意味では仮面ではなく操手漕を破壊した方がいいのかもしれないが。
イシュカークとナカーダの関係、そして原作主人公がデュマシオンである可能性が高いのを思えば、恐らくは……いや、ほぼ間違いなくナカーダはイシュカークに攻め入るだろう。
その時の事を思えば、ここで腕の立つ操手を殺して数を減らしておいた方がいいのかもしれない。
だが、今はまずギガースの数を少しでも減らす必要がある。
俺がデュマシオンに持ち掛けた取引は、ギガースを最低5機倒すというもの。
であれば、まずはそっちを優先させた方がいい。
最初の1機があっさりと倒されたことに驚きつつも、仇討ちとばかりに近くにいた別のギガースが鎚を振りかぶる。
だが、やはり予想外の展開で頭に血が上っているのか、鎚を振りかぶる動きは最初の機体よりも大きく、それだけ隙も大きい。
だからこそ、俺の操縦するマイルフィーはそんな攻撃をあっさりと回避しつつ、仮面を破壊する。
これで2機目。
3機目を狙おうとしたところで、こちらに向かって鎚を振り下ろそうとするギガースに向け、仮面を破壊したばかりの2機目のギガースを蹴飛ばす。
重量級狩猟機並の重量を持つギガースだったが、仮面を破壊されて棒立ちになっている今のこの状況はその背中を蹴ればそちらに向かって倒れ込む。
1機目の時のように地面に倒れ込んでなかったのが、不運だったのだろう。
自分の方に向かってきた仲間に対し、鎚を振るおうとしたギガースは……マジか。
邪魔だと言わんばかりに、仲間のギガースを鎚で吹き飛ばす。
勿論手加減はしてるのだろうが、その衝撃は相当なものの筈だ。
あのギガースに乗っている操手がどうなったのか……まぁ、俺がその辺については考える必要はないか。
寧ろ俺にとっては、鎚の一撃で味方を弾き飛ばしたその動きこそが……それによって生まれた隙こそが重要だった。
即座に間合いを詰めつつ、マイルフィーが手にした槍による突きを放つ。
ギガースはその膂力と防御力は強力だが、速度という点ではマイルフィーと比べられるとかなり劣る。
劣化版狩猟機とも呼ぶべき従兵機を相手にした場合は速度で優位を取れるが……当然ながら、この場に従兵機などは存在しない。
あっさりと仮面が貫かれ、これで3機。
残る3機というところで、イシュカーク軍の中でも足の速い機体がこちらに追いつき、戦闘に入る。
……もっとも、重量級狩猟機のアグライアとリロイの機体はまだかなり離れた場所におり、速度という点ではイシュカークの中でも一番のマウの機体は、そこまでやる気がないというのもあってか、ゆっくりと移動している。
俺が3機を倒したものの、それでもイシュカーク軍はかなり苦戦していた。
……その最大の理由は、アグライアが集めた傭兵達はそれなりの技量を持つものの、イシュカークの出す金額では自分の操兵は使えないということで、乗り慣れない操兵に乗っており、その実力を完全には出せない。
また……ソレイヤードの近くにいる操兵の1機が、全く動く様子もなく、その機体が狙われた時に対処する為、側に護衛として残っている機体もいる。
結果的に、それは俺が3機倒した意味がないということを意味していた。
あの動けなくなっている操兵に乗っているのは、ミアとかいう女騎士だ。
俺……というか、傭兵の存在が気に食わないといった感じで睨み付けていた奴。
ガ・モーキンとの試合では普通に動いていたと思うが、それなのに何故今この状況では動けないのかと、疑問に思う。
まぁ、今はその辺についてはどうでもいい。
今の俺がやるべきなのは、残り2機のギガースを倒すことだ。
とはいえ、既にイシュカーク軍全体との戦いになっているので、もっと奥に向かった方がいいだろう。
そうして戦いの混乱に紛れるようにして移動し……そうしていると、当然のようにまだ戦っていないギガースの前にマイルフィーは出る。
当然ながら向こうもこちらの様子を観察していたのは間違いなく、複数のギガースが揃って鎚を振り下ろしてくるが……甘い。
中量級狩猟機の中では小型というマイルフィーの特性を利用し、跳躍する。
重量級狩猟機並の重量を持つギガースには、ここまで身軽に跳躍するというのは不可能なのは間違いなく、それ故に鎚の攻撃はあっさりと回避され……地面に着地した瞬間、素早く突きを繰り出す。
それも、2機に向かってほぼ同時に。
マイルフィーが跳躍するというのは、向こうにとっても予想外だったのだろう。
予想外にあっさりと2機のギガースは仮面を貫かれ、その場に倒れ込む。
これで約束の5機。
後は、どうするべきか。
残りのギガースが鎚を振るってくるのを回避しながら……先程の跳躍によって機体に多少無理をさせてしまったのか、機体の反応が鈍くなっているのを技術でフォローしながら、これからの行動を考える。
更に追加でギガースを倒すか、それともガイザスの乗る重量級狩猟機を相手にするべきか。
迷ったのは少し。
ソレイヤードは外見こそ立派だったが、性能そのものはそこまで高いようには思えない。
また、デュマシオンも操兵の操縦技術はそこまで高いようは思えなかった。
普通なら、そのような状況でナカーダの国主であるガイザスと戦うのは、自殺行為だろう。
だが、それでも……原作主人公であれば、それくらいの事はやってもおかしくはない。
であれば、俺がやるべきなのはデュマシオンのフォローだろう。
デュマシオンに恩を売るという意味でもそちらの方がいい。
そんな訳で俺はギガースの放ってくる鎚の一撃を回避し、ガイザスのいる方に向かう。
とはいえ、当然ながら国主のガイザスが護衛もなく1人でいる訳もなく、その周囲には2機のギガースがいた。
その2機はこちらに向かってくるものの、速度という点ではやはりこちらの方が圧倒的に有利だ。
そんな訳で、俺はギガースの攻撃をそれぞれ回避し……ギガースはそのままに、ガイザスのいる方に向かう。
ガイザスの乗っている重量級狩猟機も鎚を持ってはいるが、その鎚を手放すと長剣を手にする。
鎚を使った攻撃では、マイルフィーには当たらないと、そう判断したのだろう。
『このギガンティスに向かってくるとは、いい度胸だ。だが、貴様の如き下賤の者が儂に挑むとは、身の程を知れ!』
その言葉と共に長剣が振り下ろされる。
重量級狩猟機だけにその力は強力で、マイルフィーがもしまともにその攻撃を受ければ、致命傷になってもおかしくはない。
ましてや、本当の意味での全力ではないとはいえ、それでもマイルフィーが耐えられないレベルの動きをしていた。
その為に危ないところもあったが……それでも、槍を使って受け流し、重装甲の隙間を縫うかのように突きを放つ。
ブツリ……ではなく、プツリという、ギガース……いや、ギガンティスか。
そのギガンティスの筋肉を僅かにだが確実に切断する感触が槍越しに伝わってくる。
とてもではないが致命傷とはいかないが、それでもギガンティスにダメージを与え……
『我、イシュカーク公子デュマシオン・イスカ・コーバックはナカーダ国国主ガイザス・ナカーダ・ドライアーンに一騎打ちを所望致す!』
俺がガイザスのギガンティスと戦っていたところに姿を現したソレイヤードが、闘技場全体に響くように、そう宣言するのだった。