「うわぁ……これはまた」
動かなくなったマイルフィーから強引に出て、その光景に驚きの声を上げる。
俺の視線の先では、血に染まった長剣を持ったソレイヤードが、血だらけで地面に倒れているギガンティスのコックピットに向け、長剣を突き立てようとしているところだった。
そんな光景を見ながら、このようになった経緯を思い出す。
デュマシオンがガイザスに決闘を申し込み、ガイザスはそれを受け入れた。
……そう、ここまではデュマシオンの予定通りだった筈だ。
だが、元々ガイザスは国主という立場でありながらも、エース級……とまではいかないが、準エース級、その中でも下位程度の実力の持ち主ではあった。
そしてデュマシオンは……本人の様子を見ても、操兵は勿論、生身での強さという点でもかなり弱い。
その辺の騎士……は勿論、兵士くらいの実力があるかどうかといったところか?
ましてや2人が乗っている操兵にも大きな違いがある。
ガイザスの乗っているギガンティスは重量級狩猟機で、しかも国主が乗る専用機という事で自国で採掘された鉄……それも質の良い鉄をふんだんに使った分厚い鎧を装備しており、生半可な攻撃は通用しない。
実際、マイルフィーを使って攻撃した時にも、槍を使った突きで筋肉を切断は出来たもののあくまでも筋肉の一部でしかなく、完全に切断する事は出来なかったくらいなのだから。
そんなギガンティスに対し、ソレイヤードはシュルティ古操兵の1機ではあるのだろうが、目立つ外見の割に性能は高くない。
聞いた話によれば、ソレイヤードはイシュカークにある倉庫かどこかから見つけた操兵という事なので、そういう意味では最新鋭機と言ってもいいギガンティスに性能的に遠く及ばないのは間違いない。
操手も操兵も劣る中で戦ったのだから、当然ながらソレイヤードは圧倒的に不利な状況にあった。
ガイザスも、自分ならデュマシオンに勝てると考えたので決闘を受けたのだろうし。
これがもしローエンが決闘を挑んでいれば、恐らく……いや、間違いなく受けなかっただろう。
勿論、勝てないから決闘を受けないのではなく、国主でも公子でもない、一介の騎士――操兵闘技大会の個人戦2連覇によって、帝国騎士という一代限りの爵位はあるが――からの決闘など受ける筈はないと、そう口にしただろうが。
ともあれ、デュマシオンが不利な状況で戦いは進んでいたのだが、そんな中でデュマシオンの絶体絶命の危機にキーン、という甲高い音が周囲に響いたと思うと、マイルフィーを含めた闘技場にいる操兵の全てが動かなくなり、いきなりソレイヤードの動きが変わった。
……というか、あれはデュマシオンが操縦しているのではなく、もっと別の何かに操縦を代わったといった方が正しい。
で、他の操兵と同じく動けなくなったギガンティスを一方的に打ち据え、倒れたギガンティスに今この場でとどめを刺そうとしていた訳だ。
ガイザスの性格を思えば、後々イシュカークを攻めるのは間違いない。
それを思えば、ここで殺しておいた方がいいのは間違いないのだが……デュマシオンにそんな決断が出来るか?
このような世界に生きている以上、人を殺すということに躊躇するのはどうかと思うが……ただ、デュマシオンは疎まれているとはいえ公子だし、そういう機会がないとも限らない。
だが、将来的に味方になる可能性があるような相手ならまだしも、ガイザスの性格を思えば、そんな事はまずないだろう。
であれば、殺せる時に殺した方がいいのは間違いないのだが……
「やっぱりな」
最終的にデュマシオンはガイザスを殺すことなく試合は終わり……俺は内心でデュマシオンの評価を下げるのだった。
キラとかを見れば出来るだけ敵を殺したくないという原作主人公もいるし、それを思えばデュマシオンが敵を殺せる時に殺せなくても、仕方がないのかもしれない。
とはいえ、ここでガイザスを殺しておかなかったことによって、イシュカークがナカーダに攻め込まれるのは半ば決まった。
つまりデュマシオンがヘタレた為に、イシュカークの多くの者が殺される事になった訳だが、デュマシオンはそれをどこまで理解しているんだろうな。
今回の一件は、言うなれば自分の手を血で汚したくないから、その代わりにイシュカークの人間を何人、何十人、何百人と、数え切れないくらいに殺すという事になる訳なのだが。
「デュマシオンとの約束もある。マイルフィーについてはしっかりと直して貰うからな」
ナカーダ戦が終わり、マイルフィーを整備台の上に移動させると、担当の操兵鍛冶師にそう言う。
ソレイヤードの覚醒? によって動かなくなったマイルフィーだったが、試合が終わった後には普通に動けるようになっていた。
ソレイヤードは一体何なんだろうな。
そう思っていると、ルーラン、リロイ、マウの3人がこっちにやって来るのが見えた。
この3人もギガースを相手にそれなりに苦戦していたらしく、それぞれの操兵は相応のダメージを負っている。
もっとも、ダメージという意味では俺のマイルフィーの方が間違いなく上だが。
元々機体性能が高くない――ギガースと比べて――マイルフィーだが、そのマイルフィーで5機のギガースを倒し、ガイザスのギガンティスにも相応のダメージを与えた。
自分で言うのもなんだが、もし俺がギガンティスにそれなりのダメージを与えていなければ、デュマシオンは勝利出来なかった……いや、そうでもないか?
デュマシオンがピンチになればどのみちソレイヤードは覚醒していただろうし、そう考えれば俺の与えたダメージはそこまで意味がなかったのかもしれないな。
ともあれそんな訳で、俺自身はともかくマイルフィーの方がある程度本気を出した俺の操縦についてこれず、関節部分だったり、素体の筋肉や心臓にも相応のダメージが蓄積していた。
予想はしていたが、これを修理するとなると結構な金額が掛かるだろう。
……あるいはいっそ、マイルフィーの件は諦めて、これもデュマシオンに対する貸しに追加してもいいかもしれないな。
操兵については、それこそ現在の帝都でならどこからでも奪ってこれるし。
勿論、それに俺が乗っているのを見つかれば問題になるだろうから、そう簡単に出来る事ではない。
あるいはその方法を取ったとしても、一見して元の機体が分からないように改修する必要もあるだろう。
「アクセル、お前の機体は……かなり酷いな」
ルーランがマイルフィーを見ながら、そんな風に言ってくる。
「あ? ルーランの兄貴、マイルフィーはそこまで酷い状態じゃないだろ?」
そんなルーランの言葉に、マウがいつものように甲高い声で言う。
だが、ルーランはそんなマウに呆れの視線を向ける。
「全く……お前は表面だけではなく、物事の本質を理解出来るようにならんか。マイルフィーは装甲のダメージそのものは少ないが、内部はかなり酷い状態だ。アクセルがマイルフィーを動かしているのを見て、気が付かなかったのか?」
「そんなの……分かる訳がねえじゃねえか」
不満そうな様子でマウが呟くと、そんなマウの頭をリロイが乱暴に撫でる。
……珍しいな。ルーランがそういう事をするのなら分からないでもないが、まさかリロイがそんな事をするとは思わなかった。
リロイの性格からして、ルーランこそが一番といった感じなのだから。
……あるいは、ルーランがそうしてやりたいけど、人前なので出来ないと判断したリロイがマウの頭を撫でたのかもしれないな。
「や、止めてくれよリロイ兄貴……あ、ほら、ルーラン兄貴、あれ、あれ!」
リロイに撫でられるのから脱出しようとしたのか、マウが叫ぶ。
そんなマウの視線の先にいたのは、担架で運ばれていくアグライアの姿だった。
「ゆっくりでいいよ、揺すられる方が足に響くんだ」
折れた足に添え木が施され、身体中には血止めの薬が塗られているのだが、本人は全くそんなことは関係なく元気なままだ。
満身創痍……というのは少し大袈裟かもしれないが、それでも身体中を怪我しているという状況なのに。
そんなアグライアの姿を見たルーランは、笑みを浮かべてそちらに向かう。
当然のようにリロイとマウもそれに続き……俺も特にやる事がないので、それを追う。
すると運ばれているアグライアも、俺達……というか、ルーランの姿に気が付いたのだろう。
自分を運んでいる者達に止まるように言う。
「意地の悪い連中だ。人の情けない姿を嘲笑いに来たのかい」
「いや、別れの挨拶に来たのさ。久しぶりにあんたと組めて楽しかったよ」
そう言い握手を求めて手を出すルーランだったが、アグライアはその手を弾く。
「まだ退却は早いだろう。2回戦を勝ち抜いたんだから、試合はまだ続くよ」
「よく言う。これ以上戦える状況かよ。操手も操兵もボロボロだ。次の試合は棄権するに決まっている。あの若造とてそれ程馬鹿じゃないだろう」
ルーランの言葉にアグライアは笑みを浮かべる。
どうやらこの辺は、アグライアも予想通りだったらしい。
……まぁ、うん。俺のマイルフィーもかなりガタがきてるし、そういう意味では次の試合があっても出る事は出来ないんだよな。
ルーランとデュマシオンについて何やら話していたアグライアだったが、ふと俺の方に視線を向ける。
「あんた、アクセルだったね。1回戦でも分かってたけど、腕が立つね。どうだい、このままプール三兄弟のような連中についていくよりも、うちに……サイガ党に来る気はないかい? あんたのような腕利きなら大歓迎だよ」
それはお世辞半分……いや、お世辞2割、本気8割といった感じの勧誘だった。
正直なところ、サイガ党という存在に興味を抱かないと言えば、それは嘘になる。
国すらも敵に回して互角に戦った傭兵団。
ましてや、そのサイガ党は俺が原作主人公の可能性が高いと判断しているデュマシオンと友好的な関係……いや、それどころではないような強い関係を結んでいるのは明らかだ。
その辺を思えば、サイガ党に行くのもデュマシオンに関わるという意味ではありかもしれない。ありかもしれないが……
「悪いな、俺も今はルーランの趣味に興味を持ってるんでな」
そう言って断る。
その言葉に、アグライアも……そして名前を出されたルーランまでもが、俺に視線を向けてきた。
アグライアはともかく、ルーランは俺がそれなりにシュルティ古操兵に興味をあるというのを知ってる筈なんだが。
サイガ党と一緒に行動してデュマシオンとの関係を深めるというのもいいが、未知の技術を集めるという国是を持つシャドウミラーを率いる者としては、ここはシュルティ古操兵の方が興味深かった。
ましてや、ルーランの様子を見る限りだと城の中にはその辺の情報が書かれた石版なり古文書なりがある筈で、そういう意味ではここでプール三兄弟……というより、ルーランから離れるといった選択肢はない。
まぁ、他にも何も知らない俺に色々と手を貸してくれたルーランに、シュルティ古操兵を見つける為の手伝いくらいはしたいというのも思ってはいるのだが。
それに……ルーランが興味を示しているのは、あくまでもシュルティ古操兵だけだ。
シュルティ古操兵という名称からも分かるように、そういう名称があるという事は、シュルティ古操兵以外の古操兵もあるという事になる。
ルーランはそちらに興味を持っている様子はなかったが、俺としてはシュルティ古操兵に限らず、古操兵全般に興味がある。
「そうかい、残念だね。あんたのような腕利きが……」
俺の意思は変わらないと判断したらしいアグライアが、残念そうにそう言うと担架を運ぶ係員に話は終わったと、進むように言う。
だが……それでも最後に言うことがあったのか、アグライアは再び口を開く。
「じゃあ、そろそろお別れだ。お互いに生きてりゃ、また会う事もあるだろうさ。けど……ディアの敵にはなるんじゃないよ。その時は容赦しないからね」
「心に留めておく事にしよう。あんたとは戦いたくないしな」
そうしてアグライアとルーランの会話は終わり、アグライアは本格的な治療の為に運ばれていく。
「何と言うか、まるで保護者……というか、母親みたいな感じだったな」
アグライアの姿が消えたところで、そう呟く。
実際、俺のその意見は他のルーランも同様だったらしく、頷く。
「そうだな。サイガ党にはアグライアの娘同然の腕利きがいた筈だ。そいつとデュマシオンの間に何か関係があるのかもしれないな。……どう思う、マウ?」
「けっ、知らねえよ!」
ルーランの言葉に慌てたようにそう言うマウ。
何だ? アグライアの娘同然の相手とマウは何か関係があるのか?
そう疑問に思う。
……結局その後、ルーランの予想通りイシュカークは棄権し、最終的に操兵闘技大会の団体戦はエリダーヌという、帝国の従属国の中でも突出した国力を持つ国が優勝するのだった。