「ヘルガ・アスタロッテよ。アクセル様に従う者として、暫くの間貴方達と一緒に行動するわ」
取りあえず話を纏めたところで、ルーラン達のいる場所に戻ってくると、ヘルガがそう言う。
喧嘩腰……といった訳ではないものの、俺がいるから自分はお前達と一緒に行動するのだと、口にはしないが態度ではしっかりとそう示している。
そんなヘルガを見れば、当然ながら真っ先に切れるのがマウだ。
「おい、てめえ……アクセルの何だか知らねえが、俺達にそんな偉そうな口を利いてただですむと思ってるのかよ?」
血の気の多いマウだけに、それこそ今すぐにでもヘルガに向かって攻撃しかねない。
それが分かったのだろう。
俺が止めるよりも前に、ルーランが口を開く。
「マウ、その辺にしておけ。練法師というのはそういうものだとお前も知ってるだろう?」
「兄貴……ちっ」
ルーランの言葉に、結局マウは矛を収める。
ルーランの様子からすると、どうやらルーラン達は以前練法師に会った事があるらしい。
まぁ、練法がどうとか、そういうのを言っていたしな。
実際に練法師に会った事でもなければ、そういうのは出ないか。
「悪いな。ヘルガの態度には慣れてくれとしか言わない。その代わり俺には絶対服従だから、裏切るような事はない」
それはあくまでも俺を裏切る事はないのであって、ルーラン達を裏切るといった可能性は十分にあるのだが。
「アクセルがしっかりと手綱を握ってるのなら構わんさ。……アクセル達が話している間も、この人馬操兵を見ていたから暇ではなかったしな」
シュルティ古操兵について興味を持つルーランにしてみれば、この人馬操兵……石版にあったのとは違って、足が6本あったり、尻尾が馬とは思えない程に長く、しかも素体から角が生えているという存在はそれだけ興味深かったのだろう。
「その辺りの事情についてもヘルガが話してくれるようだぞ。……ヘルガ、頼む」
「はい、分かりました。ですが、アクセル様。その前にアクセル様が触れた聖刻石を確保しておいた方がいいかと」
「聖刻石?」
そう言われて俺が思い浮かべるのは、操兵の顔に装着する仮面にある64個の石だ。
あれが聖刻石と呼ばれる特殊な石であり、それによって操兵を動かしているというのは理解している。
当然ながら異形の人馬操兵にも仮面はあるのだが……あの仮面に俺が触れたか?
「そちらではありません。この遺跡を……本来ならもういつ壊れてもおかしくはない……いえ、既にほぼ壊れて機能を停止していたこの遺跡を動かし、人馬操兵を生み出した聖刻石です」
「それは……あれか?」
ヘルガの言葉に俺が視線を向けたのは、俺が触れた瞬間に遺跡が起動した球体だ。
「はい。あの聖刻石は遙か昔から伝わっていたものだったのでしょうが、恐らくはこの遺跡に使われる事によって、その力を使い果たしていたのでしょう。ですが、アクセル様の魔……プラーナによって変質しています。力も十分に回復していますので、今の時代としては考えられない程の練法を使えるようになるでしょう」
魔力というのをプラーナと言い直したのは、俺の情報については可能な限り秘密にするようにと言ったからだろう。
ともあれ、ヘルガがそう言うのであれば……俺は遺跡の壁に向かうと、その球体を取る。
てっきりそう簡単には取れないかと思っていたのだが、予想外にすんなりと外せた。
これもまた、俺の魔力によって聖刻石の性質が変化したからなのかもしれないな。
とはいえ、俺が使うのはあくまでも魔法で、プラーナとやらを消費する練法は使えない訳で……
「これはヘルガが使え」
「よ……よろしいので? これ程の聖刻石、練法師であれば誰でも欲しがる物ですが」
「構わない。それにお前は俺についてくるんだろう? なら、もう少し強くなって貰わないといけないしな」
そう言うと、ヘルガは複雑な雰囲気を発する。
顔は仮面で見えないが、恐らくはその表情も複雑なものとなっているのだろう。
ヘルガは明らかに自分の技量に強い自信を持つ。
また、俺と魔力的な繋がりが出来たせいか、その身から発せられる力も間違いなく増している。
だが……それでも、俺から見ればまだまだだ。
この世界では十分に使えるらしいので、そういう意味では問題ないのかもしれないが。
「ありがとうございます」
ともあれ、こうして俺が持っていても意味のない聖刻石はヘルガに渡す。
ホワイトスターに戻る時には土産として持って帰りたいので、それまでは預けるといった感じか?
……ちなみに、聖刻石やらプラーナ……あるいはもっと違う何かが影響しているのか、ゲートは設置出来てもホワイトスターとは繋がらなかったりする。
あるいは俺がこの聖刻世界に来たのが何らかのイレギュラーかもしれないが。
ゲートで繋がっていなければホワイトスターとの時差もあったりするので、もしかしたら既にこの聖刻世界で数ヶ月旅をしているものの、ホワイトスターでは数秒……もしくは数分といった事も有り得たりする。
俺は不老なので、ゲートが起動するようになるか、あるいはホワイトスター側から迎えが来るのを待っていればいいだろう。
その間、俺はこの聖刻世界で未知の技術を集めておけばいいだろうし。
ともあれ、球形の聖刻石をヘルガに渡すと、ルーラン達のいる方に戻る。
「悪いな、こっちの話を優先させてしまった」
「いや……シュルティ古操兵についての話を聞かせて貰うのだ。そのくらいはどうという事はない」
ルーランの言葉に、俺はヘルガに視線を向ける。
するとヘルガはすぐに口を開く。
「シュルティ古操兵と呼ばれている物は、龍の王と呼ばれた人物が使っていた操兵の総称よ」
「だろうな。それは分かっている。……この人馬操兵も、そのシュルティ古操兵だと思ってよいのか?」
そうヘルガに尋ねるルーランだったが、それは答えが分かっている質問をあえてしている……つまり、答え合わせのようにも見えた。
「ええ。もっとも……この地にあった遺跡は、何があったのかは分からない程に半ば壊れた状態……いえ、半ばどころか8割から9割は壊れた状態だったのだけど、それをアクセル様が最後にプラーナを使って強引に動かした結果出来たのがこの素体という事になるわね」
「儂が城で見た石版によると、シュルティ古操兵というのは龍の形をしている操兵という事であったが……」
「貴方の考えは合っているけど間違ってもいるわ。私が把握してる限り、シュルティ古操兵……龍の王が使っていた操兵の中でも特殊な形状をした操兵は3種類あるのよ」
「3種類? ……儂が知っている龍の操兵と、この人馬操兵以外にまだもう1つあるというのか?」
ヘルガの言葉が意外だったらしく、ルーランは驚く。
……だが、驚くと同時に未知の知識を得ることが嬉しいらしく、そこには強い興奮の色もある。
ルーランは傭兵ではあるけど、こうして自分の知らない……それでいて興味のある知識に貪欲なところは、学者的なところもあるよな。
「ええ。貴方が知ったのは空を飛ぶ龍操兵。それに対して、もう1種類は海を泳ぐ龍操兵よ」
「海……だと。いや、そうか。以前の遺跡ではそのような壁画を見た覚えが……」
ある程度の理解は出来たのが、ルーランは何かを確認するように、そして思い出すように呟き、考えていた。
そんなルーランに対し、ヘルガは追加で情報を口にする。
「龍の王に仕える組織が至高の宝珠という練法師匠合よ。そしてその至高の宝珠から意見の相違によって分かれた組織が私が所属していた聖刻の園ね」
「……意見の相違とは?」
そう聞いたのは、当然のようにルーラン。
シュルティ古操兵についてはまだ色々と聞きたい事がある様子だったが、そこに繋がる情報……あるいは練法師といった存在についての情報を知る事が出来ると思い、聞いたのだろう。
そんなルーランに対し、ヘルガはあっさりと口を開く。
「至高の宝珠は、あくまでも龍の王に仕える為に作られた組織よ。私が所属していた聖刻の園も龍の王に仕えるという意味では同じだけど、その代わりに裏の世界……練法師の世界における支配権を得ようとしていたわ」
なるほど。言ってみれば至高の宝珠は忠誠心が高い騎士のような存在で、聖刻の園は報酬を貰って行動する傭兵的な存在なのか?
これは今のヘルガの説明を聞いただけで俺が思い浮かべただけだから、もしかしたら色々と違うところもあるかもしれないが。
「龍の王……か。それは奇岩島にも関係があると思っていいのか?」
「ええ。王の墓……貴方達が奇岩島と呼んでいる場所には龍の王が使っていた操兵と、その側近が使っていた操兵が眠っている。龍の王の後継者はこれらを手に入れる事が出来るわ」
「……デュマシオンが、その龍の王の後継者だと?」
「イシュカークの第二公子ね」
「知ってるのか?」
ルーランの言葉にヘルガは頷く。
そしてヘルガが俺に視線を向け、それから改めて口を開く。
「デュマシオンは至高の宝珠が本命と思っている人物よ。私が所属していた聖刻の園が龍の王と見込んだ人物……龍の器の1人は、そのデュマシオンと同じ大学に通っていたわ。その時にはデュマシオンが自分の身代わりとして練法師を変装させて通わせていたわね」
なるほど。デュマシオンがどこでサイガ党と繋がりを持ったのかと思っていたが、恐らくはそうして身代わりを用意している間に何かがあってサイガ党と繋がりを持ったんだろうな。
「お前が仕えていた龍の器というのは?」
「マ・トゥーク国主、サイオン・トゥール・アウスマルシアよ。もっともアクセル様を知った今となっては、龍の器と思えるような相手ではなかったと、しみじみと思うけどね」
ヘルガの中にあった何か……価値観とでも言うべきものが変わった事による影響は、かなり大きい感じだな。
「俺としてはヘルガが味方になってくれて助かったが、聖刻の園の方はどうするんだ? ヘルガが抜けたからって、素直に見逃してくれるのか?」
「いえ、それは難しいでしょう。私は聖刻の園の中でも月の女王という称号を与えられています。これは龍の王の妻となる人物の称号だけに、そのような私が聖刻の園を抜けてアクセル様に仕えるといったことになれば、間違いなく人を送ってくるでしょう。……もっとも、そのようなことをしても意味はありませんが」
自信満々な様子のヘルガ。
その様子は決して強がりという訳ではなく、本気で自分なら聖刻の園をどうにか出来ると思っているのは明らかだ。
「大丈夫なのか? お前も幹部の1人ではあったのだろうけど、当然ながら同格……あるいはお前に及ばないにしても、組織である以上はそれなりの強さを持つ者はいるんだろう?」
「ええ。アクセル様と会う前……アクセル様の使い魔となる前であれば、聖刻の園という組織に私だけで対抗するのは難しかったでしょう。ですが、今の私はアクセル様のお陰で使い魔になる前とは比べものにならない程の力を得ました。また、これもあります」
そう言い、ヘルガが大事そうに見せたのは、この遺跡を起動させてしまった時に触れてしまった球体だ。
ヘルガ曰く、これだけ大きな聖刻石は普通ならまず見る事すら出来ないらしい。
その上で、その聖刻石は俺の魔力によって変質し、ただの聖刻石とは違う物になっている。
ヘルガの言葉を聞く限りだと、練法を使うのに必要なのはプラーナ……名称からしたら気系統の力か? あるいは生命力だったり、そういうのである可能性もあるが、とにかくプラーナが必要だ。
しかし、そこに俺の魔力が加わったことによって、聖刻石でありながら聖刻石ではない……そんな未知の存在になったらしい。
もしプラーナが気だとすれば、もしかしたら俺の魔力を加えた事によって、その聖刻石はネギま世界でいう咸卦法に近い状態になっているのかもしれないな。
その後も色々と練法師や龍の王、シュルティ古操兵についてのヘルガの知っている情報を聞き出し……それが一段落すると、俺は異形の人馬操兵に視線を向ける。
「さて、これをどうするかだな」
「目立つしな」
マウが俺の側にやって来て、そう言う。
いつもであればルーランの側にいるマウだったが、そのルーランはヘルガから聞いた諸々の情報を聞いた事により、それを整理し、考え込んでいる。
今はマウの相手をしているような余裕はないといったところか。
だからこそマウも俺の側に来たのだが……恐らくはそれと同時に、ヘルガを警戒しているという一面もあるのだろう。
仮面を被ったままのヘルガは、いかにも怪しいのだから。
……それでもマウがそこまで……俺が最初に加わった時のように強烈に警戒していないのは、ヘルガの忠誠心の向かう先が俺だけだからか、あるいはヘルガが女だからか。
ともあれ、マウはヘルガを警戒はしているものの、そこまで強い警戒でないのは間違いなかった。