「つまり、無事に到着した方の船には誰もいなかったのか?」
ルーランの言葉に頷く。
ちなみに、そんなルーランの側にはデュマシオン達が……より正確には、デュマシオンとアーシェラ、そして帝都で何度か見た子供の姿があった。
……なお、アーシェラの俺を見る視線は帝都の時に比べても強い警戒心を持つ。
ただ、疑問なのはアーシェラが俺以上に強い警戒の視線をヘルガに向けていた事だろう。
まぁ、女同士何かがあるといったところか。
あるいは、アーシェラがデュマシオンにどのような気持ちを抱いてるのかは、見れば分かる。
そしてヘルガが美人だけに、そういう意味で警戒している……のか?
何だかちょっと違うように思えるが。
「一応船の中を調べてみたけど、何も手掛かりらしいのはなかったな。……ただ、船の大きさから考えて操兵を持ってきているのは間違いないと思う。デュマシオン、そっちの手の者じゃないんだな?」
「え? ああ、そうだ。俺達はドン・カフラーに協力して貰ったけど、乗ってきた船は1隻だけだ」
俺の疑問に、そうデュマシオンが言ってくる。
なるほど、それにしても……ドン・カフラーか。
ドン・カフラーについては、以前ルーランから聞いて知っている。
海賊王の異名を持つ、海洋国家ラグールのトップだ。
ラグール帝国周辺の海では大きな影響力を持つ国で、そんな国のトップから協力を得て船を出して貰ったようだったが、それでいながらその船が座礁するというのは……あまり腕の立つ奴を寄越さなかったのか?
そうも思ったが、まさか馬鹿正直に口に出せる筈もない。
何しろ、ルーランが用意した船は多少傷つきながらもデュマシオン達が乗ってきた船よりも損傷は少なかったし、誰が乗ってきたのかも分からない船は、そもそも損傷らしい損傷もなかったのだから。
ドン・カフラーの部下が操っている船が一番損傷が酷かったというのは、技量的に問題があるという事だろう。
……もっとも、奇岩島の周辺は複雑な海流と多数の岩礁があって近付くだけで非常に難易度が高い。
大抵の船乗りはそもそも無事に奇岩島にまで到着出来ないと考えれば、やっぱりデュマシオンを運んできた船乗りも一流であるのは間違いないのだ。
「そうなると……一体その無事な船は誰が乗ってきたんだ?」
デュマシオンが頭を悩ませるも……
「取りあえず船については俺の方で対処してきたので、奇岩島から逃げられる心配はないから安心しろ」
そう言っておく。
対処? とデュマシオンは疑問の表情を浮かべていたものの、ルーランは俺が何をしたのか理解したらしく、笑みを浮かべる。
空間倉庫に収納したと、そう予想したのだろう。
実際、それは間違っていないのだから尚更に。
あの船に乗っていた者達がどこの手の者であろうとも、船がない以上は逃げ出す事は出来ない。
「とにかく、奇岩島でこうして無事に合流出来たんだし……いつまでもここでこうしているのもなんだから、早いところ行動に移さないか? 俺達以外に誰が来てるのかは分からないが、その連中に先を越されるのはどうかと思うし」
まさか、このタイミングで奇岩島にやって来たのが偶然とは思えない。
そうなると、俺達の競争相手であるのは間違いないだろう。
「そうだな。アーシェラ、森の中に入れば良いのか?」
「ええ、そうよ。ただ、操兵は絶対に必要だけど」
デュマシオンの問いにアーシェラが答える。
古操兵を入手するのに操兵が必要というのは……この世界の原作知識は俺にはないが、それでも原作のある世界だというのを考えれば、多分だが敵と戦うとか、そういう事になるんだろうな。
奇岩島について一番詳しいのはアーシェラなので、俺達もその言葉に従って素直に操兵に乗り込むのだが……
「アクセル様、私はどうしましょう?」
そう、ヘルガが聞いてくる。
ヘルガは操兵がない。
いや、正確には呪操兵という練法師用の操兵があるらしいが、それはそう簡単に人目に晒していいようなものじゃないらしい。
そうなると……さて、どうしたものか。
そう疑問に思うと、デュマシオン側でも同じような感じになっていた。
もっとも、こっちは俺とヘルガの2人に対し、デュマシオンの場合はルチャとかいう子供とアーシェラの2人いるので、余計に対応が難しいらしいが。
「取りあえず、ヘルガは向こうのあのルチャとかいう奴と同じくマイルフィーに乗ってくれ。……少し狭いかもしれないけど」
マイルフィーは中量級狩猟機の中でも速度に特化……とまではいかないが、そちらを重視した機体だ。
その為、一般的な中量級狩猟機と比べて多少小柄になっており、操手漕……コックピットも、一般的な中量級狩猟機よりも狭い。
ましてや、デュマシオンと一緒に乗るルチャはまだ子供で小柄なのに対し、ヘルガは立派な女だ。
そういう意味では、マイルフィーの操手漕に俺と一緒に乗るというのは難しいかもしれないが……
「わ、分かりました。アクセル様、是非お願いします」
予想外にやる気になった様子でヘルガが言う。
……ここまでやる気に満ちているというのは、俺にとってもちょっと予想外だったな。
ともあれ、こうしてヘルガが俺のマイルフィーに一緒に乗るのは決まった訳だが……デュマシオンの方はどうなんだ?
そう思っていたら、何とアーシェラがソレイヤードの右肩に乗って移動する事になる。
森の中……つまり多数生えている木々の中を移動するという事を考えれば、それが一体どれだけ危険なのかは容易に想像出来るだろう。
もっとも、アーシェラはデュマシオンの側近であると同時に、間者を取り纏めている存在でもある。
実際、操兵闘技大会のナカーダ戦においては暗躍していたし。
操兵……それも1機や2機ではなく、数十機単位で戦っている中で、それも観客達や操手にも見つからないように行動するというのを考えれば、ソレイヤードの右肩に乗って移動するというのは、そこまで大変な事でもないだろう。
そんな訳で、俺達は奇岩島に生えている森の中に突入したのだが……
それから数時間、俺達は森の中を操兵で進み続けていた。
「おかしいな」
奇岩島の大きさを考えれば、もうとっくに中央辺りにまで到着していてもおかしくはない筈なんだが。
この奇岩島は海から見た限りではそこまで大きな島ではない。
だというのに、一体何故?
「申し訳ありません、アクセル様。これは……恐らく練法による罠です」
「何?」
不意にヘルガがそう言う。
「私がもっと早くに気が付いていなければいけなかった筈なのですが……いえ、ですが、これはある意味で丁度いいかもしれません。アクセル様、ここは私に任せて貰えないでしょうか? これの力を確認するには、丁度いいかと」
そう言うヘルガが俺に見せたのは、人馬操兵の遺跡で入手した球形の聖刻石。
俺の魔力によって、普通の聖刻石ではなくなったが。
「問題ないのか?」
「はい、お任せ下さい。アクセル様を落胆させるような事にはなりません」
「……分かった」
ヘルガは覚悟を決めた目で俺を見てくる。
その言葉に頷くと、俺は伝声管を開く。
「ルーラン、デュマシオン、止まってくれ」
そう俺が言うと、ルーランとデュマシオンの操兵が……それに合わせるように、リロイとマウの操兵も足を止める。
『どうした?』
ルーランの声。
ただし、伝声管によって伝わってくるその声は、自然と低い声となっている。
戦っている相手を怯ませる為にそのような仕様になっているのだ。
なお、デュマシオンは特に口を開くような様子はなかったが、それでもソレイヤードが動きを止めている事から考えれば、俺の言葉を聞く気にはなっているのだろう。
……ちなみにソレイヤードの右肩にいるアーシェラは、相変わらず俺を警戒の視線で……ん? いや、警戒の視線を向けているのは間違いないが、何かこう……ちょっと違うな?
それが具体的にどういう風に違うのかというのは、生憎と俺にも分からなかったが。
まぁ、今はそれより現状をどうにかする方が先だな。
「この森がおかしいのには、もう気が付いているだろう?」
『ああ、恐らく何らかの罠だろう。そろそろ儂も声を掛けようかと思っていた』
なるほど、どうやらルーランはその辺りについても十分に理解していたらしい。
まぁ、ルーラン……というか、プール三兄弟は以前から遺跡に潜ってきたらしいし。
あるいは同じような罠を知っていたのかもしれないが。
「今から俺が……というか、ヘルガがこの罠をどうにかする」
『これを、どうにか……ですって?』
俺の言葉に反応したのは、予想外なことにアーシェラだったが。
こちらを……恐らくは操手漕に乗るヘルガに向けているつもりだろう視線は鋭い。
「あれは……いえ、まさか……」
そんな視線を感じたのか、それともまた別の何かがあったのか、ヘルガの口から戸惑ったような言葉が漏れる。
「ヘルガ?」
「申し訳ありません。いつでも対処可能です」
俺の言葉で我に返ったヘルガがそう言い、それならばと俺は口を開く。
「ルーラン、どうする? やってもいいのか?」
アーシェラの様子については気にしない事にする。
今はまずこの森……恐らくは空間がループしてるのだろう罠をどうにかする方が先なのだから。
そして、それはルーランも同様であり……
『分かった、頼む』
「ヘルガ」
ルーランの許可を受け、ヘルガにそう言う。
すると次の瞬間にはヘルガが手にした球形の聖刻石に力が込められ……ドクン、と。
一瞬その聖刻石が脈動したかと思うと、すぐに収まった。
同時に何かが……恐らくはその聖刻石から放たれた何かが俺の身体を通り抜けていたのが分かる。
そして次の瞬間、パリンとガラスか何かが壊れた音がすると同時に、景色が一変する。
……いや、一変というのは違うか。
ただ、それでも間違いなく俺達の周囲にあった森の景色が以前と違っていたのは間違いない。
だが……それと同時に、今の結界? か何かで覆われていた為に分からなかったものを察知することが出来るようになる。
「殺気か」
「……どこの手の者でしょう?」
恐らくは俺と同じように殺気を感じたのだろう。ヘルガがそう呟く。
「あの船に乗っていた連中なのは間違いないが、それが具体的にどこの勢力なのかとなるとな……ヘルガが以前所属していた勢力という可能性はないか? 聖刻の園だったか」
「絶対にないとは言い切れません。実際、私は以前この奇岩島に来た事がありますが」
「……その割には、今の罠については知らなかったようだが?」
ふと気になって、そう尋ねる。
するとヘルガは申し訳なさそうにしながらが、口を開く。
「以前私がサイオンと共にここに来た時は、このような罠はありませんでした」
「……そうなのか?」
だとすれば、この罠は一体誰が?
『アクセル、ここは俺達に任せて、お前はデュマシオンと共に先に行け』
と、不意にルーランが伝声管でそう言ってくる。
「いいのか? 見た感じ……というか、殺気の感じからして、結構な数がいるぞ?」
『俺達を誰だと思っている? それに……お前の側にはヘルガがいるだろう。操手以外の者と共に戦いのような激しい動きをすれば、そいつがどうなるか分からんぞ』
ルーランの言葉にヘルガが不満そうな様子を見せるが……
「分かった」
俺は伝声管でルーランにそう返す。
「アクセル様、私は平気です!」
ヘルガがそう抗議してくるものの、別に俺はヘルガの為だけにルーランの提案を受けた訳ではない。
「プール三兄弟……そう言われているくらいなんだ。なら、そこに俺が混ざるよりも、ルーラン達に任せておけばいいだろ」
『へっ、分かってるじゃねえか!』
伝声管で今の言葉も聞こえていたのだろう。
マウが当然といった様子でそう言ってくる。
マウにしてみれば、プール三兄弟という絆は絶対だ。
だからこそ、この世界に来た俺をルーランが拾った時は対抗心というか、敵対心を持っていた。
今ではそこまででもないが。
あるいはもし俺がこの場にいなければ……つまり原作通りの流れであれば、恐らくルーランはマウとデュマシオンを一緒に行動させただろう。
そうなった場合、マウは自分がデュマシオンと一緒に行動するのが……というか、ルーランと一緒に行動出来ないのが不満で、護衛対象である筈のデュマシオンに喧嘩を売ったりしていてもおかしくはない。
プール三兄弟の中で最も血の気の多い奴だしな、マウは。
『では、私はそちらと一緒に行動します』
と、不意にアーシェラがそう言う。
『ちょっ、おい、アーシェラ!?』
デュマシオンはそんなアーシェラに焦ったように声を上げるが……結局森の中での事であると言われ、間者であるアーシェラがいた方がいいという事になる。
……いや、それ以前にデュマシオンがアーシェラに頭が上がらないのかもしれないな。
ともあれ、そんな訳で俺とデュマシオン……ついでにヘルガとルチャが先に進み、残りはこの場所で追跡してきた者達の対処をする事になるのだった。