俺のマイルフィーとデュマシオンのソレイヤードは森の中を進む。
特に何か会話をするでもなく、真っ直ぐに。
……もしこれが俺じゃなくてマウがデュマシオンの護衛という事になっていたら、マウの性格を考えるとデュマシオンに喧嘩を売ったりしてもおかしくはなかった、
そういう意味では、俺がこうしてデュマシオンと一緒に行動していたのは双方にとってラッキーだったのだろう。
「アクセル様、少しよろしいでしょうか?」
と、不意にヘルガがそう聞いてくる。
先程から何かを考えている様子ではあったから声を掛けたりはしなかったのだが、どうやら考えが纏まったらしいな。
「どうした?」
「少し……あのデュマシオンという人物に聞きたい事があるのですが、伝声管を使っても構いませんか?」
「デュマシオンに? まぁ、いいけど。……ちょっと待ってろ」
ヘルガが一体何を聞きたいのかは分からないが、この状況でそんな風に言ってくるという事は、多分何があるのだろう。
「デュマシオン、ちょっといいか?」
『何だ? アーシェラ……向こうに残った連中の件で何か分かったのか?』
俺の問いに、即座にソレイヤードからそんな声が返ってくる。
どうやらデュマシオンも置き去りにした――正確には自分から残ったのだが――アーシェラが気になっていたのだろう。
「いや、そうじゃない。ただ、ヘルガがお前に聞きたい事があると言ってるんだが」
『は? 俺に? ……言っておくけど、俺だってこの奇岩島については分からないぞ』
そんなデュマシオンの言葉を聞きながら、俺はヘルガに視線を向ける。
するとヘルガはただでさえ狭い操手漕の中で器用に身体を動かし、伝声管に顔を近づける。
「1つだけ聞かせて下さい。貴方は紅玉という名称……いえ、単語に聞き覚えがありますか?」
『紅玉?』
ヘルガの言葉に、デュマシオンが不思議そうに繰り返す。
この様子からすると、恐らく知らないな。
というか、紅玉というのはヘルガのライバル的な存在だったと思うんだが。
その名称が何故ここで出る?
いや、もしかしてあのアーシェラがその紅玉とかいう練法師だったりするのか?
だが、俺がヘルガから聞いた話によると、至高の宝珠にしろ聖刻の園にしろ、あるいはそれ以外の練法師匠合にしろ、下部組織として間者組織を抱えているのが一般的だと聞く。
そしてアーシェラは練法師ではなく間者だ。
そう考えると、アーシェラがヘルガのライバルである紅玉であるという可能性は低いと思うんだが。
『いや、知らないな。初めて聞く。宝石としての紅玉なら知ってるが、それじゃないんだろう?』
へぇ、デュマシオンが宝石に詳しいというのはちょっと意外だったな。
ちなみに紅玉というのはルビーの事だ。
俺がこれを知ってるのは、以前美砂や円から何かの拍子で聞いた為だが。
「そう、知らないのなら……アクセル様!?」
言葉の途中でヘルガが鋭く叫ぶ。
同時にこめかみの辺りに引き攣る感覚があり、視界に入る全てが歪む。
一瞬、何かの罠か?
そうも思ったが、視界の歪みは数秒もしないうちに消え……次の瞬間、数秒前まで森の中にいたというのに、周辺の景色は一変していた。
小高い壁が囲む円形状のその場所は操兵闘技大会で使われたよりも小さいが、間違いなく闘技場と呼ぶべきものだった。
『ここは……まるで闘技場じゃないか』
ソレイヤードから、ルチャの声が聞こえてくる。
伝声管を使った会話をしている中でいきなりの展開だったので、伝声管の蓋が閉じられていなかったのだろう。
念の為に伝声管の蓋を閉じてから、ヘルガに向かって尋ねる。
「ヘルガ、心当たりは?」
「森の結界の時と同じく、練法によるものでしょう」
そうヘルガが言うと、まるでそのタイミングを計ったかのように……ズシーン、ズシーンという足音が聞こえてくる。
それが何なのかというのは、俺にも容易に理解出来た。
つまり、操兵だろうと。
俺の予想を裏付けるように、やがて闘技場に操兵が姿を現す。
だが、俺にとっても驚きだったのは……姿を現した操兵が、デュマシオンの乗っているソレイヤードと全く同じ外見をしていた事だった。
「デュマシオン?」
『これもシュルティ古操兵だろう。多分、ソレイヤードの同型機だ』
伝声管を開いて尋ねると、デュマシオンからそんな答えがくる。
まぁ、同型機だというのは見れば分かるけど。
ただ、そうなるとイシュカークに眠っていたソレイヤードは、この奇岩島から誰かが持ち出した操兵という事になるのだが。
また……
「デュマシオンのソレイヤードと違って、あの操兵は随分と新しいように見えるけどな」
そう、口にする。
実際、こちらに近付いてくるソレイヤードの同型機は、デュマシオンの使っているソレイヤードと比べれば明らかに新品的な感じがするのは間違いない。
とてもではないが、ソレイヤードと同じようにシュルティ古操兵……千年以上昔の操兵には見えない。
新たに現れたソレイヤードは、ゆっくりとこちらに近付いてくるとある程度離れた場所で動きを止める。
『王ノ墓ニ近付ク者ヨ……オ前ハ龍ノ王ナノカ?』
その操兵から聞こえてきたのは、全く抑揚のない……いや、それだけでは片付ける事が出来ないような、そんな声。
伝声管を通った声は本来の声よりも低くなるのだが、この声はそれとは明らかに違う……そう、違和感があった。
『そうだ……と言えば、ここを通してくれるのか?』
デュマシオンのその問いは、明らかに駄目元だろう。
自分の言葉を聞いてくれたらいいなといった程度の、そんな言葉。
実際、ソレイヤード……いや、どっちもソレイヤードだけに紛らわしいな。王の墓と言っていたし、それを思えば墓守とでもしておくか。
その墓守は、即座にデュマシオンの言葉に答える。
『龍ノ王ヲ名乗ロウガ名乗ルマイガ、我ト戦ッテ貰ウ。ソレガ定メダ。我ヲ倒サヌ限リ、墓所ノ扉ハ開カレヌ』
その言葉と同時に、墓守は動く。
……そう、とてもではないが操兵とは思えぬ程の動きで。
瞬動……というの少し大袈裟かもしれないが、それでも操兵……従兵機は勿論、狩猟機とは思えないような、そんな速度での動き。
俺がそれに咄嗟に反応出来たのは、混沌精霊だからというのもあるだろうし、俺が生身での高速戦闘に慣れているからというのもあるだろう。
咄嗟にマイルフィーでソレイヤードを吹き飛ばし、墓守がいつの間にか腰の鞘から抜いた長剣の一撃を槍で防ぐが……
「マジか」
マイルフィーの槍が、柄であっさりと切断されてしまう。
ナカーダ製の高純度な鉄で作ったこの槍は、かなり頑丈なんだが。
シュルティ古操兵の一撃と考えれば無理もないか。
ともあれ、マイルフィー唯一の武器である槍が切断されてしまった以上、既に武器はない。
いや、柄で切断されたとはいえ、まだ槍の穂先は無事なので、そうい意味では短槍として使えない訳でもない。
それに……俺にはまだ取れる手段は幾らでもある。
切断された槍のうち、穂先のない部分……石突きの方を墓守に向かって投擲する。
「っ!?」
その動きに、息を殺したのはヘルガ。
しまったな。俺の使い魔となって魔力的に強化されたのは間違いないが、それでもヘルガは元々練法師……肉体的な能力という意味では、そこまで強くはない。
そんな中で俺が操縦するマイルフィーという、ただでさえ中量級狩猟機の中では小柄で、それ故に操手漕が狭い中にいるヘルガは、たまったものではないだろう。
チラリと操手漕のガラス板……映像モニタ的な役割を果たしているそれを見ると、ソレイヤードから下りたルチャが離れていところだった。
デュマシオンも、ルチャを連れたまま墓守との戦闘は出来ないと判断したのだろう。
元々デュマシオンの操兵の操縦技術はそこまで高くはない。
……そんな操縦技術で、操兵闘技大会においてガイザスとの一騎打ちを実行したのは、素直に感心出来るが……あの時とは違って、今回は敵もシュルティ古操兵だ。
ガイザスとの戦いの時のように、シュルティ古操兵としての特殊な力を使って相手の動きを止めるといったようなことはまず出来ないだろう。
そんなデュマシオンだったが、ソレイヤードを立ち上がらせるとこちらに向かって突っ込んで来る。
墓守の長剣の一撃は受ければ槍が切断されたことからも、回避するしかない。
かといって墓守の一撃は極めて強力で、回避するにもマイルフィーをそれなりに激しく、素早く動かす必要がある。
ヘルガは今は何とかその動きに耐えてはいるものの、このまま続けると危険なのは間違いないだろう。
ソレイヤードの体当たりによって、墓守の動きが止まる。
その隙にマイルフィーを墓守から離し、操手漕を開ける。
「ヘルガ!」
「はい!」
具体的に何をしろとは言わずとも、ヘルガもまた俺が何をしろと言ってるのか理解出来たのだろう。
素早く操手漕から飛び出す。
……それで無事に着地出来るのか? と思ったが、その辺は問題ないらしい。
練法を使ったのか、それとも俺の使い魔になった影響によるものか、ともあれヘルガは空中で体勢を整え、無事に地面に着地すると素早く動き、離れた場所にいたルチャをひっ捕まえて距離を取る。
これは別に、ヘルガが子供思いだからとか、そういう考えでやった訳ではないだろう。
単純に、戦場になっている場所にルチャがいると、俺やデュマシオンがそちらを気にしてしまうからだと思われる。
実際、ルチャを戦闘に巻き込む心配がなくなったので、多少は楽になったのは事実だ。
そうして十分にヘルガ達が離れた瞬間、いつの間にか長剣を握って墓守と戦っていたソレイヤードが、手甲でその長剣の一撃を受けると同時にソレイヤードの懐に潜り込み、右手で押す。
掌底の一撃のように、力を込めて一撃を放った訳でもない。
ただ軽く触れたようにしか見えない一撃だったが、その一撃がもたらした効果は大きい。
ソレイヤードが、闘技場の端にまで吹き飛ばされたのだ。
やばい。
あの勢いで吹き飛ばされたとなると、デュマシオンは……かといって、マイルフィーの武器は既に短槍になってしまっているし……仕方がない、か。
このままでは危ないと判断し、俺は空間倉庫の中からミロンガ改のビームマシンガンを取り出す。
本来なら機体の……ミロンガ改の動力炉のエネルギーを消費するビームマシンガンだが、既にエネルギーは充電されているので、ずっと撃ち続ける事は無理でも、ある程度撃つ事は出来る筈だった。
マイルフィーは中量級狩猟機としては小柄なので、上手い具合に外に……マイルフィーが持てるような感じでビームマシンガンを取り出す。
ミロンガ改とマイルフィーでは当然ながら大きさが違う――それこそ半分以下、あるいは三分の一程――が、幸いマイルフィーは操縦以外にも俺が考えたように動かす事も出来るので、マイルフィーはビームマシンガンを構えると、トリガーを引く。
これが実弾を発射する銃火器であれば、マイルフィーもその衝撃に耐えられなかっただろう。
あるいは、ビーム系の武器でも極端に高い威力であれば、こちらもまた耐えられなかった筈だ。
だが、ビームマシンガン程度なら……そう思ったのだが、マイルフィーにしてみれば、ビームマシンガンでも予想外に強力な反動があった。
慌ててその反動を殺しつつ、放たれたパレット状のビームを墓守に集中させる。
ソレイヤードの長剣の一撃は手甲であっさりと防いだ墓守だったが、まさかビームなどというものを防げる筈もなく……墓守は、俺の予想以上にあっさりとその機体をパレット状のビーム弾によって貫かれ、動きを止める。
「どうやらやった、か」
俺は完全に動きを止めた墓守を見ながら、そう呟くのだった。
「アクセル様、お疲れさまです」
マイルフィーから下りた俺に、ヘルガがそう言って近づいてくる。
ちなみにヘルガと一緒に行動していたルチャはどうしたのかと思ったが、どうやらソレイヤードの近くにいるらしい。
まぁ、ルチャにしてみれば自分の保護者的な立場であるデュマシオンが心配なのだろう。
「それにしても、アクセル様。あの光を放つ武器は……」
「ビームマシンガンだな。ああ、このままにしておくのは不味いか」
ヘルガに言葉を返しつつ、俺はマイルフィに近付くとビームマシンガンを空間倉庫に収納する。
「ビームマシンガン、ですか?」
「そうだ。ヘルガも俺の記憶をある程度の覗いたのなら、その辺についても理解していてもいいんじゃないか?」
「……いえ、一度に大量の情報が入ってきたので、まだそれを完全には整理出来ていませんから。それにしても、アクセル様の世界にはあのような兵器が普通にあるのですね。この聖刻世界では信じられない事です」
しみじみと呟くヘルガ。
実際、その言葉には色々と思うところはあるのだろう。
とはいえ、ビームマシンガンはともかく、この世界も聖刻石を使った仮面で操兵を動かしているというのは、俺から見ても素直に凄いと思う。
剣と魔法の世界ではあるが、ダンバイン世界とはまた違うんだよな。
多分、操兵はシャドウミラーの技術班が知ったら、もの凄く興味を引くと思うんだけどな。
そんな風に思いつつ、俺は墓守の方を眺めるのだった。