転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編235話 聖刻群龍伝編 28話

「ここがサイガ党の借りてる宿か」

 

 アグライアに案内された宿を見て呟く。

 工呪会に用意された宿は、高級宿……とまではいかないが、平均よりも上のランクの宿だった。

 もっとも、イシュカークに近い……つまり、辺境の街の中で平均よりも上だ。

 帝都にいた時に俺やプール三兄弟が旧市街で使っていた宿よりも多少マシといった程度の宿でしかない。

 そしてサイガ党の泊まっている宿は、そんな俺達が使っている宿と比べても明らかに格下の宿だった。

 スラム街……とまではいかないが、それでも人通りはそこまで多くはなく、中には明らかにチンピラ……というか、追い剥ぎのような者達もいる。

 もし俺とヘルガだけであれば、あるいは俺はともかくヘルガの美貌を目当てに襲ってきていたかもしれない。

 ……勿論そうなれば、襲ってきた奴がどうなるのかは考えるまでもないだろう。

 ただ、俺達と一緒にいるアグライアは見るからに傭兵といった感じだ。

 サイガの赤鬼という異名を知らなくても、迂闊に手を出していいような相手ではないというのは容易に理解出来る筈だ。

 そんな訳で、俺達は特に何のトラブルもなくサイガ党の宿まで来る事が出来た。

 

「ディアに雇われているのなら、私達はお仲間だ。それに……今のイシュカークの状況を思えば、私達と一緒に行動した方が、そっちにもいいだろう?」

 

 アグライアの言葉に、俺はだろうなと頷く。

 プール三兄弟と行動を共にしていたことで、俺もそれなりにこの世界における傭兵の流儀については知っている。

 だが、プール三兄弟は純粋な傭兵という訳ではない。

 ……いや、寧ろ傭兵は生活する為の金を稼ぐのが目的で、本来の目的はシュルティ古操兵の探索とか遺跡漁りだ。

 なので、一応傭兵の流儀は教えて貰ったものの、それが全て正しいとも、どこででも通用するとも思っていない。

 そういう意味では、生粋の傭兵であるサイガ党と行動するのは悪くないだろう。

 

「そうだな。こっちとしても人手は多い方がいいし」

「よし、合格だ。なら入りな」

 

 アグライアに勧められ、俺とヘルガは宿に入る。

 2階建ての宿は当然のように1階は酒場となっており、そこではサイガ党の者達が酒を飲んでいた。

 だが、宿に入ってきた俺達を見ると、訝しげな表情を向けてくる。

 サイガ党が借り切っているこの宿に見知らぬ俺達が入ってきたのだから、そういう対応になってもおかしくはない。

 何人かは俺と一緒にいるヘルガを見てだらしなく相貌を歪めたりもしたが……何か問題が起きるよりも前に俺達の後ろからアグライアが姿を現したので、特に騒動が起きたりはしなかった。

 

「族長!」

 

 そんな中、1人で酒を飲んでいた女が1人、こっちに……というか、言葉からするとアグライアに向かってやってくる。

 当然ながら、その女……動きやすいようにだろう、髪は短くしており、意思の強さを感じさせる目を持つ女は、俺とヘルガに訝しげな視線を向ける。

 

「エアリエル、何か問題はなかったかい?」

「はい、族長。何人かの馬鹿共が宿の外に出ようとしましたが……」

 

 そこで言葉を止めた女、エアリエルは顔を腫らしている数人の男達に視線を向ける。

 それを見れば、何がどうなってそうなったのかというのは予想出来る。

 見た感じだと、このエアリエルという女はサイガ党のNo.2といった感じらしい。

 あるいはそれよりも副長とかそういう表現の方が似合うか?

 そんな風に思っていると、エアリエルの視線が俺に向けられる。

 

「それで、族長。この2人は?」

「あんたも聞いただろう? 今日操兵工房に入ったっていう、馬の下半身を持つ操兵。それの操手だよ。操兵闘技大会でプール三兄弟と一緒だった奴だ。私達と同じくディアの味方らしい」

 

 プール三兄弟という言葉に、エアリエルの表情が一瞬不愉快そうなものになる。

 何だ? ルーラン達を嫌ってるのか?

 ルーラン達は傭兵として色々と特殊な存在だから、生粋の傭兵であるサイガ党のNo.2である人物にしてみれば、不愉快に思ってもおかしくはないだろう。

 とはいえ、その嫌悪感に満ちた表情はすぐに消え、生真面目そうな様子でアグライアに尋ねる。

 

「この者が? ……では、私達と共に行動を?」

「そうなるね。腕については、操兵闘技大会で見ているし」

 

 そうアグライアが言うと、エアリエルはともかく、話を聞いていた他の面々が感心した様子を俺に向けてくる。

 これ……多分だけど、アグライアは普段はあまり他人を褒めたりはしないんだろうな。

 だからこそ、こうして今のような言葉に驚いているのだろう。

 

「……分かりました。ですが、そうなると指揮系統はどうしますか?」

「そうだね。……アクセル、どうする? 私達と一緒に行動するのなら、こっちの指揮に従って貰う事になるけど」

「その辺は任せる。もっとも、俺のアンノウン……人馬操兵は、見たら分かったと思うが普通の操兵と比べるとかなり性質が違う。場合によっては、それを最大限に活かす為に独自に行動させて貰う事になると思うが」

「貴様……そんな事が許されると思っているのか」

「おやめ、エアリエル。……それならそれでもいいさ。あんたの技量を思えば、そのくらいの事は当然だろう。それに、あのアンノウンだったかい? 確かに私が見た限りでは、とてもではないが普通の戦力として使うのは無駄だし、何より私達と違ってあんたはディアに直接雇われているんだ。それを思えば、そのくらいは仕方がないだろうさ」

「族長!?」

 

 まさかアグライアが今のように言うとは思っていなかったのか、エアリエルは不満そうな様子を見せるが……

 

「エアリエル、指揮官は私だよ、それに……元々アクセルは私達とは別の戦力だったんだ。それを思えば、そのくらいは仕方がないだろうさ」

「……分かりました」

 

 エアリエルは不承不承ながら、そう言う。

 とはいえ、言葉では納得したものの、内心では全く納得していないのはエアリエルの表情を見れば明らかだ。

 

「悪いね、アクセル。……ただ、うちも傭兵だ。それもその辺のすぐに裏切るような傭兵じゃなくて、雇い主が義理を通す限りは裏切ったりしない。だからこそ、アクセルの扱いに納得出来ないところもあるんだろうけど……その辺はナカーダとの戦いで実力を見せておくれ」

 

 そう言ってくるアグライアに、俺は頷くのだった。

 

 

 

 

 

 サイガ党との話し合いを終えた後、俺とヘルガは宿に戻ってきた。

 出発は明日の早朝という事で、そろそろ寝る必要があるのだが……

 

「アクセル様、サイガ党については心配はいりません」

 

 部屋の中でヘルガがそう言ってくる。

 

「その様子からすると、もしかしてヘルガはサイガ党について何か知ってるのか?」

「はい。実は私がサイオンの下にいた頃、サイオンがサイガ党を雇った事があります。その時にもサイガ党は際立った活躍をしていました。……もっとも、ヴァーキンとの戦で半ば壊滅状態だったという話ですが」

 

 ヴァーキンについては俺も知っている。

 元々サイガ党というのは傭兵集団だった訳ではなく、ヴァーキンという国に仕えていた貴族か何かだったらしい。

 それが当時の国主に疎まれて貴族から傭兵になったんだったか?

 で、それから暫く……何十年か、もしくは百年以上かが経過し、今から少し前にヴァーキンが名高いサイガ党を召し抱えようとしたが、それを当時のサイガ党が断った結果、国軍を差し向けられたものの、結果として国軍は大きなダメージを受けて、サイガ党も半数近くが脱出に成功したと。

 ……ちなみに、デュマシオンの父親の後妻、弟の母親が現在のヴァーキンの国主の妹だとか。

 こうして見ると、原作的にヴァーキンは明確に敵国だよな。

 

「サイオンがサイガ党を雇った時の働きは?」

 

 俺が知っているサイガ党の傭兵はアグライアだけだ。

 ルーラン達からもサイガ党が腕の立つ傭兵団だというのは聞いているから、それは事実だと思う。

 だが、それでも俺は実際に自分の目で見た訳ではない。

 なので、実際にそれを知っているヘルガに聞くのは当然の事だった。

 

「腕が立つのは間違いないですね。サイオンもそれを見越して激戦となっていう場所に投入しましたし。ただ……サイオンという人物は、自分の戦力は極力使わず、他人を利用するという事に長けています。もっとも、傭兵というのはそういうものである以上は、おかしな事ではないと思いますが」

 

 そう言いつつも、ヘルガの態度にはサイオンという元の雇い主に対する嫌悪感が若干だがある。

 これもまた、俺の使い魔になった影響なのかもしれないな。

 そんな風に思いつつ、俺は明日に備えて英気を養うべくヘルガをベッドに押し倒す。

 ヘルガは驚きつつも、嬉しそうに俺を迎え入れるのだった。

 

 

 

 

 

「アクセル様、サイガ党から使いの者が来ました」

 

 サイガ党と行動を共にするようになってから数日……俺達は、サイガ党と行動を共にはしていたものの、つかず離れず……といった感じの距離感で行動していた。

 その理由は幾つかある。

 例えば、人馬操兵のアンノウンに恐怖を抱いた者がそれなりにいた事。

 傭兵でも……いや、傭兵だからこそかもしれないが、半人半馬の悪魔という存在に恐怖した者が多かった。

 まぁ、普通の操兵と比べて人馬操兵のアンノウンは……それこそ歩兵と騎兵くらいの差があるだけに、どうしても目立つというのも大きかったが。

 その為にどうしても目立ってしまうから、盗賊とかがいたら狙われやすいというのもあったのだろうが。

 他にもサイガ党の男が何人かヘルガにちょっかいを出して痛い目に遭ったというのがある。

 元々サイガ党の中でも戦える者達の多くは、ヴァーキン国の国軍との戦いで死んでしまっている。

 なら、今のサイガ党はなんなのか……それはアグライアがルーフェンの旧市街地にある酒場に来た事からも分かるように、相応の技量を持った者達をスカウトした形だ。

 サイガ党は一族で傭兵をやっているのでは? と思ったが、この前アグライアから聞いた話によると、スカウトした傭兵達と一緒に行動している時に一族の女達とくっつけて一族に迎え入れるらしい。

 それはそれでどうなんだと思わないでもなかったが……まぁ、実際にそれで上手くいっているのなら、問題はないだろう。

 だが、まだサイガ党の女とくっついていない男、あるいは腕が悪くて一族に迎え入れる必要はないと判断された者……そんな者達にとって、ヘルガのような美人を見ればちょっかいを出したくなるのは当然だった。

 ちなみ現在のヘルガは、当然ながら練法師としての姿ではなく、騎士服的な感じの服を着ている。

 着ているのだが……だからといって、それでヘルガの女らしさが損なわれる訳ではなく、それどころか騎士服を着ているだけに、余計に女らしい身体の曲線を強調していたりする。

 ……それを見た傭兵が妙な考えを抱いてもおかしくはない。

 ましてや、俺に抱かれるようになってからヘルガの女らしさは以前よりも確実に増しているし。

 そんな訳で、アグライアからの要望によって俺はサイガ党と行動を共にしてはいるものの、ある程度の距離を保っている訳だ。

 

「それで、用件は?」

「デュマシオンが仲間を率いて王城から脱出し、ナカーダ軍に追われてるようですから、その援軍をと」

「……まぁ、俺向けか」

 

 元々クレイトー商会とかいう大きな商会に雇われた形になっているサイガ党と違い、俺はデュマシオンに直接雇われている。

 ……もっとも、実際には金を貰っている訳ではなく、至高の宝珠の先代翡翠からの要望によるものだったが。

 とはいえ、シュルティ古操兵を貰っている……それも部品取り用に墓守の機体も貰っている以上、下手にデュマシオンから金を貰う必要もないのだが。

 

「アクセル様、行かれますか?」

「ああ、機動力という点では俺のアンノウンが一番向いてるだろうし」

 

 エアリエルのマイルフィー……正確にはかなり改修してエウロスとかいう別の名前になっていたのだが、ともあれそのエウロスもかなりの速度は出せる。

 だが、それはあくまでも瞬間的に出せる速度でしかない。

 それと比べると、アンノウンは馬で移動するかのように常に高い機動力を発揮する。

 歩兵と騎兵のどちらが高い機動力を持っているのかというのは、少し考えれば分かるだろう。

 なので、こういう……ある程度の距離がある中で移動する時は、普通の操兵よりも人馬操兵の方が向いているのは明らかだった。

 

「分かりました。では、すぐにアクセル様が向かうと伝えておきます。……存分にその力を振るって下さい」

 

 ヘルガの言葉に頷いてどこに向かえばいいのかを確認すると、俺はアンノウンの操手漕にある鞍に跨がり……考えてみれば、ギアス世界の紅蓮系統のコックピットに少し近いかもしれないなと、そんな風に思いながら、アンノウンを進めてデュマシオンの救援に向かうのだった。

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