転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編239話 聖刻群龍伝編 32話

 イシュカークの秘密兵器……奥の手ともいえる、シュルティ古操兵のスィナーグ。

 その性能は、それこそ一騎当千、万夫不当……とまではいかないものの、一般的な工呪会製の操兵数十機分くらいにはなるというのが、墓守のスィナーグと戦った俺の感想だった。

 だが、今のイシュカークに必要なのは、見映え……極論を言えば、質より量だ。

 個人的には馬鹿らしいと思わないでもなかったが、貴族という立場を考えれば、分からないでもない。

 エアリエルとフィーンが今にもぶつかりそうな様子を眺めつつ、そんな風に思う。

 エアリエルにしろ、フィーンにしろ……そして今はいないもののアーシェラにしろ、デュマシオンに惚れているのは間違いない。

 そういう意味では、アーシェラはともかくフィーンとエアリエルの2人とヘルガの相性は決して悪くない。

 あるいはヘルガが既存の練法師のままであれば、そのような状況であってもお互いの関係は良好にはならなかったかもしれなかったが、今のヘルガは俺の魔力によって使い魔となり、一般的な練法師とは全く別の存在となっている。

 実際、スィナーグを預けていて操兵工房ではヘルガとフィーンはそれなりに仲良くやっていたし、イシュカークに向かっている時にサイガ党と合流した時も、ヘルガとエアリエルはそれなりに仲良く話しているのを見た事がある。

 これについては相性云々よりも、元々戦いの場に出向く女が多くはなく、その上でフィーンやエアリエルが好きなデュマシオンを、ヘルガは何とも思っていない……自分で言うのも何だが、文字通りの意味で俺に身も心も全てを捧げているから、というのも大きいのだろう。

 

「ヘルガ」

 

 俺の言葉にヘルガがすぐに頷き、フィーンとエアリエルの間に入る。

 そうして何かを口にすることで2人の喧嘩を止める。

 それを見たデュマシオンが、フィーンの兄であるサライと話をしながらも困っていたのだが、ヘルガに……そしてヘルガに指示をした俺に感謝の視線を向けてくるのだった。

 

 

 

 

 

「なるほど、お前が来るのをデュマシオンは読んでいた訳だ」

 

 スィナーグが到着した日の午後、イシュカーク公館に姿を現したのはイザーク。

 当然ながらイザークという名前であってもSEED世界出身のイザークではなく、この世界において操兵を……より正確には操兵に使う素体を作る事が出来る数少ない組織、工呪会の帝国地域の総支配人だ。

 人馬操兵の素体を生み出した遺跡の一件で俺とも顔見知りの人物。

 

「これはアクセル殿、久しぶりですな」

 

 イザークは俺を見ると、満面の笑みで……俺と会えたのが心の底から嬉しいといった様子でそう挨拶をしてくる。

 俺がいるのは、イシュカークの公館の玄関ホール……と呼ぶ程に大袈裟なものではないが、とにかくそんな場所だ。

 

「そうだな。巨人の足跡には奇岩島でも襲撃されたし、スィナーグを運んで来る途中でも何度か巨人の足跡には襲われたらしいが」

 

 これはサライ経由の情報だ。

 ナカーダがイシュカークを占領した事から始まった今の世の中において、操兵というのは……それがシュルティ古操兵というのを知らなくても、貴族や領主といった者達にとっては是非とも欲しいだろう。

 実際に何度か襲われたうちの数度はそういう貴族や領主といった者達だったらしいし、盗賊の襲撃もあったが……それでも巨人の足跡による襲撃も間違いなくあったとサライは言っていた。

 ぶっちゃけ、操兵工房で工呪会の操兵鍛冶師がスィナーグの整備をしたのだから、襲撃するよりも前に、そこで奪っておけば良かったのでは? そう思わないでもないが、その辺はその辺で違ったらしい。

 あるいは工呪会と一口に言っても、派閥の類があるのかもしれないな。

 

「さて、何の事でしょうか? 私には分かりかねますが……」

 

 イザークは不思議そうな表情でそう言う。

 奇岩島の件でもそうだが、サライ達を襲撃した件についても証拠を残していないという自信があるんだろうな。

 実際にサライも物的な証拠はなく、あくまでも状況証拠だけだって言っていたし。

 

「そうか? まぁ、今回は被害が出なかったからよかったが……もし被害が出ていれば、俺も黙ってはいられなかったってのを覚えておくといい」

 

 イザークの頬を軽く叩きながら、そう言う。

 普通に考えればこれ以上ない程の侮辱ではあるのだが……俺がジワリと放つ殺気に反応してか、イザークは額に汗を掻きながらも、何も言わずに俺の行為を受け入れるのだった。

 

 

 

 

 

「デュマシオンも上手くやったな」

 

 ヘルガからデュマシオンとイザークの交渉の結果を聞き、そう呟く。

 

「デュマシオンが上手くやったのは間違いありませんが、アクセル様が最初にあの者に会ったというのが大きいと思いますが」

 

 俺と敵対する事が、工呪会にとって非常に大きなマイナスとなる。

 それを理解したからこそ、デュマシオンとの交渉においてもあっさりと退いた……その可能性はあると思う。

 とはいえ、それでもデュマシオンからの要望が話にならないようなものであれば、恐らくイザークなら命懸けであってもそれを受け入れる事はなかっただろう。

 そういう意味では、やはりデュマシオンが相応の成果を発揮したと……そのように思ってもいい筈だ。

 

「俺のお陰というのもあるかもしれないが、それでも上手い具合に交渉が出来たのならそれで構わないだろ。……まぁ、デュマシオンが何だか妙にやる気になってるのが疑問だけど」

 

 黒薔薇夫人に会いに行ってから、デュマシオンはかなりやる気になっているのは間違いない。

 一体何があったのかは分からないが。

 考えられる可能性としては、黒薔薇夫人は未亡人ではあるが、まだ若く美人だと聞く。

 であれば、デュマシオンも年上の美人にいいように使われている……そんな可能性もあるのかもしれないな。

 まぁ、個人的にその辺りについては、俺としてはどうでもいい。

 理由はどうあれ、デュマシオンがやる気に満ちているのであれば、協力者である俺にとっても悪い話ではないのだから。

 そんな風に思いながら、俺はヘルガと話を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 イザークとデュマシオンの交渉が終わってから暫くして……現在、俺はアンノウンに乗って懐かしい場所にいた。

 帝都の円形闘技場……操兵闘技大会の行われた場所だ。

 現在そこには、ナカーダの討伐に向かう多くの者達が集まっている。

 当然ながら生身でという訳ではなく、俺がアンノウンに乗っている事からも分かるように、操兵でだ。

 ……で、そうなれば当然のように半人半馬の悪魔と呼ばれた人馬操兵に乗っている俺は目立つものの、工呪会……というか、イザークの根回しだったり、あるいはデュマシオンが協力を要請した黒薔薇夫人の影響で、今のところは問題になっていない。

 とはいえ……それはあくまでも今のところだ。

 良い意味でも、悪い意味でも目立つアンノウンは、それだけに人の興味を惹く。

 そもそも最近では、半人半馬の悪魔というのは人馬操兵ではなく、死も厭わずに突っ込んでる騎兵を指す言葉として認識している者も多い。

 だが、そんな者達がアンノウンを見てどういう風に感じているのか……少し気になるな。

 

「アクセル様、不躾な視線を向けてくる者達が多いですが、それは構わないのでしょうか?」

 

 アンノウンの操手漕に乗っているヘルガが、そう聞いてくる。

 アンノウンの操手漕は普通の操兵の操手漕と違って鞍型のものだ。

 それも影響してか……あるいは単純にアンノウンが大きいのも影響しているのか、操手漕の中はそれなりに余裕がある。

 具体的には、ヘルガが一緒に乗るくらいは問題ないくらいには。

 

「この状況で直接こっちに手を出してくる事はまずないだろ」

 

 俺に手を出せば、工呪会を敵に回すという事だ。

 それはつまり、戦乱の世となった――まだ大多数はそこまでの実感はないだろうが――中で、この聖刻世界において最強の兵器である操兵、それも狩猟機を入手出来なくなるという事を意味している。

 勿論、新品ではなく中古で集めるとかすれば入手は出来るだろうが……当然ながら、中古は新品よりも性能は落ちるし、妙な癖があったりもする。

 それを思えば、工呪会を敵に回したいとは思わないだろう。

 ……まぁ、帝国貴族の中にはその辺りも考えられないとか、あるいはその程度はどうとでも出来ると考えるような者がいてもおかしくはないが。

 

「分かりました。では、その件については何かあってからにしましょう。……それよりも、アクセル様。向こうをご覧下さい」

「ん?」

 

 ヘルガが示す方に視線を向ける……正確にはガラス板に映し出されている光景を見ると、そこには黒く塗られた操兵の一団の姿があった。

 

「あれは?」

「ドレーバ国のモントデール黒騎士団です。帝国の住人なら誰でも知っている……そんな騎士団となります」

「そういう連中も討伐軍に入っているのか。だとすれば……」

 

 この討伐軍の上層部は、無能が揃っているらしい。

 そもそも総大将が以前に起きた反乱の鎮圧軍を率いたのだが、相手の罠に嵌まり、結果として帝国軍が負けてしまい、かなり屈辱的な和平を結ぶ事になったという……そんな人物なのだ。

 普通に考えれば、そのような人物に総大将を任せるといった事はないだろう。

 だが、それが実現した辺りに、帝国軍の無能さが見て取れた。

 ……というか、多分原作的な流れを考えると帝国軍はナカーダに負けるんじゃないか? と思うのは決して間違ってはいないだろう。

 もしくは、優秀な人材が現場にいるとなると、無能な上層部の尻拭いを現場がどうにかするとか、そんな感じになるのかもしれないな。

 そんな風に思いながら、俺は式典が終わるのを待つのだった。

 

 

 

 

 

 帝都を出発した討伐軍だったが、やはり無能は無能という事か……あるいはナカーダ軍よりも圧倒的な数の操兵を揃えたからか、もしくは他にも色々と理由があるのかもしれないが、とにかく士気の低さが目立った。

 出立してからまだそこまで経っていないのに、既に厭戦気分の者が多い。

 見るに見かねたデュマシオンが総大将に会いに行ったものの、ろくに相手にもされなかったらしい。

 なので、そんな感じで討伐軍は進んでいたのだが……

 

「おい、そこの男。その女を私に引き渡せ」

 

 野営の時、不意にそう声を掛けられる。

 声のした方に視線を向けると、そこにいたのは帝国貴族と思しき男。

 その男の視線が向けられているのは、当然ながら俺……ではなく、ヘルガ。

 男の好色な視線を見れば、一体何を考えているのかは明らかだ。

 いやまぁ、ヘルガは別に顔を隠すような事はしていないし、服装も一応男装はしているものの……それが身体のラインを強調し、余計に色香を漂わせていた。

 それを思えば、男に絡まれるのは当然だろう。

 実際、帝都を出立してから今まで何度か男に言い寄られているのを、見ている。

 ……もっとも、言い寄ってきたのは傭兵達だったが。

 この男のように、貴族がヘルガに言い寄るといったことはまずなかった。

 

「ヘルガ、どうする?」

「アクセル様以外に抱かれるなどごめんですわね。それに……この男、下手くそですし」

 

 何でそう断言出来る?

 一瞬そう思ったが、ヘルガは凄腕の練法師だし、人当たりもそこまで悪くはない。……あくまでもそれは表向きの話だが。

 ともあれ、そんなヘルガだけに、あるいはこの男の情報を誰か他の女から入手していたのかもしれないな。

 

「……貴様っ!」

 

 男は数秒、自分が何を言われたのか分からなかったらしい。

 それでもヘルガの言葉が頭に染み渡ると、目を吊り上げ、腰の鞘から長剣を引き抜こうとし……ピタリと、その動きを止める。

 ちなみに男が声を掛けてきた時はそれなりに周囲に人がいたのだが、ヘルガが何かをしたのだろう。

 いつの間にか周囲には誰の姿もなくなっていた。

 

「……」

 

 ヘルガが指さしただけで動きを止め、どうやら見た感じでは声も発せないようになっている男。

 そんな男に対し、ヘルガは口を開く。

 

「そうね。女好きの貴方には男好きになって貰おうかしら。それも性欲が我慢出来ず、自分の仲間……女を権力や力で無理に抱くといった趣味を持つ男に性欲を抱いて、我慢出来なくなって、その場で男に襲い掛かるわ。……行きなさい」

 

 そうヘルガが言うと、男は何も言わずに……練法を使われた事そのものに疑問を抱いた様子もなく、この場を立ち去る。

 

「何をした……とは聞かないでおくよ」

「ふふっ、そうして下さい。アクセル様に迷惑を掛ける訳にはいきませんし」

 

 それはつまり、今の一件が公になれば俺に迷惑が掛かるという事なのか?

 まぁ、練法を使った悪戯がそう簡単に知られたりはしないだろうが。

 そんな風に思い、俺はそれ以上聞くのを止める。

 ……なお、その日の夜に男が男を強姦しようとしたとして大きな騒動となり、しかもその騒動の中には総大将の側近もいたとかで、色々とあったのだが……それを聞いた俺は、ただ素直に驚いてみせるのだった。

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