俺がナカーダの国主であるガイザスの専用機であるギガンティスを奪ってきた件がそこまで問題にならなかったのは、デュマシオンの判断があったというのもあるが……
「なるほど、あれがアルヴァレスか」
パーティ会場の中で、俺はヘルガと共にギガンティスの件がそこまで大きな騒動にならなかった理由となる人物を見ていた。
アルヴァレス……それはナカーダにおいても強い影響力を持っていた軍人の名前だ。
だが、ガイザスが国主になった事によって邪魔になったらしく、暗殺者によって殺された……という事になったらしい。
いや、ちょっとパーティ会場の中で聞いた話によれば、実際にアルヴァレスの屋敷は燃やされていたらしい。
それを思えば、暗殺されそうになったから姿を眩ませたというのが正しいところなのだろう。
そのアルヴァレスは現在ナカーダで反乱軍を率いているらしい。
……そんな大物とデュマシオンはこれが初対面という訳ではないらしく、それどころか和気藹々と言った様子で話している。
一体どこでデュマシオンはアルヴァレスと会ったんだろうな。
そう思ったが、考えられる可能性は、デュマシオンがサイガ党や操兵狩人のランツェン兄妹と会った、味方となる者を捜して放浪していた時だろうというのは予想出来た。
というか、それ以降はとてもではないがナカーダに行く事が出来た時間的な余裕はなかっただろうし。
それにナカーダはイシュカークと不倶戴天の敵と呼ぶべき存在だ。
それを思えば、デュマシオンとしてもナカーダの様子をしっかりと把握しておきたかったと、そのように思ってもおかしくはない。
……それでも、反乱軍を率いているアルヴァレスとどうやって面識を持ったのかは、ちょっと分からなかったが。
アーシェラの能力を思えば、そちらでどうにかしたのかもしれないな。
そんな風に思っていると、やがてデュマシオンと話していたアルヴァレスが俺を見てくる。
俺の視線に気が付いたのか、それともデュマシオンとの話の中で俺の話題が出たのか。
その辺りは俺にも分からなかったが、ともあれデュマシオンとアルヴァレスがこちらに向かってやって来た。
……そんな様子を、ザットスが羨ましげにしているのに呆れる。
ザットスは独断専行し、しかもアーバダーナ砦の戦力を引き連れてナカーダ軍に攻撃を仕掛けて逆撃を受けて、大きな被害を被った。
イシュカークの貴族=無能という方程式を改めて俺に教えた騒動だ。
何でもザットスの暴走によって、イシュカーク貴族の中でも大貴族としてアーバダーナ砦の中でも貴族の代表的な立場にあった人物……三羽ガラスと呼ばれているデュマシオンの部下の1人の女騎士ミアの父親も死んだらしい。
そんな騒動を起こしたザットスは自分の失敗を反省するために地下牢で謹慎していたらしいが、とにかくアルヴァレスが来たという事でいてもたってもいられなくなったらしく、地下牢から出てパーティに参加したらしい。
お前の反省はその程度か? と思わないでもなかったが、イシュカークの貴族なんだから結局その程度なのだろう。
「お主が、ガイザスからギガンティスを奪ってきた男か! いやぁ、愉快愉快。よくぞそのような事が出来たものだ」
笑みを浮かべつつ、そう言ってくるアルヴァレス。
デュマシオンから俺の事についてはどのように聞いているのかは分からないが、それでもこうして様子を見る限りだとこっちに対して友好的なのは間違いない。
「イシュカークを占領したし討伐隊を撃退したという事で驕りもあったんだろうな」
まぁ、実際に討伐軍もイシュカーク軍もかなりの被害を受けたのは間違いない。
完勝……と呼ぶにはデュマシオンを逃してしまったが、それでも大勝であったのは間違いない。
まさかそのような状況ですぐに反撃に出て来るというのは、ガイザスにとっても予想外だったのだろう。
ましてや、それがガイザスの暗殺を狙うとか、あるいは騎士を狙うといったようなものではなく、操兵とはいえ国主専用機を奪われるというのは、予想外だった筈だ。
実際、ギガンティスの仮面は探すまでもなく操兵にそのまま装着されている。
多分、いつでも……即座に影武者として出られるようにだろう。
俺が知ってる限りだと、ガイザスの性格からして少しでも遅れると平気で影武者のギガンティスを操縦する操手を殺したりしてもおかしくはないし。
後は、影のゲートで忍び込み、空間倉庫に収納して再度影のゲートで転移すればいい。
所要時間、数分……どころか、十数秒。
これを塞げる筈もない。
いや、あるいは練法師がいれば魔法を察知出来るか?
そうも思ったが、ヘルガから聞いた限りだとこの世界で使われている練法と魔法は、似て非なるものらしいしな。
なので、もしナカーダに練法師がいても、俺の魔法については一切気がつけないらしい。
勿論、それは離れた場所で使っていた場合に気がつけないという事で、すぐ目の前で魔法を使ってみせれば、当然ながら気がつくだろうが。
「そうか。だが……ガイザスも影武者用とはいえ、自分の専用機を奪われたのは間違いない。もう同じ事は出来ぬと思った方がいい」
「そうかもしれないな」
俺の言葉に、イシュカーク貴族の面々は不満そう表情を浮かべる。
俺がイシュカーク貴族を無能と判断しているのは、別に公言している訳ではないものの……まぁ、態度とかそういうので、色々と思うところもあったりするのだろう。
また、それを抜きにしても、アルヴァレスのようなナカーダどころか周辺諸国にも名前が響いている人物と敬語も何もなしで話しているのには、色々と思うところがあったりするのかもしれないが。
ともあれ、そんなイシュカーク貴族の視線は無視して、俺はアルヴァレスとの会話を楽しむのだった。
アルヴァレスが来た翌日の夜、俺はデュマシオンの私室に呼ばれていた。
もっとも、顔見知りとはいえ夜にデュマシオンだけで俺と会うというのは不味いと思ったのか、デュマシオン側にはローエンと、アルヴァレスを連れてきたアーシェラが。そして俺の側にはいつものようにヘルガがいたが。
「なるほど。ナカーダに……そして後ろにいるだろうエリダーヌを相手に戦うには、イシュカークだけでは難しいから、他の国を頼るか。……その考えは分からないでもないが、受け入れると思うか?」
自分達だけでは勝てないので、他に協力を求める。
これはそこまで珍しい発想ではない。
いや、寧ろ発想としては一般的だろう。
とはいえ……発想そのものはともかく、それを他の近隣諸国が受け入れるかどうかというのは、また別の話だが。
「分からない。だが討伐軍が負けた以上、他に手はない。……いや、ナカーダを倒すだけなら何とかなるかもしれないが、アクセルも言ったようにエリダーヌの件もあるし……何より、それだけではなく経済活動についても、他の国と一緒になれば誰にとっても利がある筈だ」
「へぇ」
俺の中でデュマシオンの評価が少し上昇する。
てっきり、ナカーダと……その背後にいるエリダーヌを相手にする事だけを考えているのかと思ったのだが、どうやらそれだけではなかったらしい。
きっちりとそれ以外の事も考えていたのは、評価に値する。
もっとも、これまでの行動で大分評価が下がっているのを思えば、若干プラスに評価されても意味はなかったりするが。
「話は分かったけど、それを俺に聞かせてどうするんだ?」
「……アクセルは、こう言ったらなんだけど、俺が雇っている傭兵という形になってはいるが、師匠の……キール・ベール、先代翡翠からの頼みで俺に協力してくれているんだろう?」
「まぁ、そうだな」
実際、傭兵という事になってはいるが、別にこれといった報酬を貰ってる訳でもないし。
敢えて報酬となると、寝泊まりする部屋がアーバダーナ砦の中でもちょっとだけ豪華な場所であることと、食事が出される事くらいか。
もっとも、スィナーグというシュルティ古操兵を奇岩島の一件で報酬として貰っていると考えれば、この先も色々と期待が出来そうではあるが。
「だから、前もって言っておく必要があると思ってな」
「そういう意味で特別扱いか。……ちなみに、そっちの行動に俺が出しゃばる必要はないのか?」
「正直なところを言わせて貰えば、アクセルがいてくれると安心出来るが……アクセルに不愉快な思いをさせる事になるだろうしな。それ以外にもこれから先、万が一の事を考えればアクセルにはここに残って欲しい。このアーバダーナ砦が占拠されるような事にでもなれば、どうしようもないしな」
「なるほど」
小国を纏める……軍事同盟的なものを作る為の会議を行うとなれば、当然ながらそれぞれの国から相応の地位の者が来るだろう。
それはつまり、気位の高い者達という事になる。
そんな者達に対して、敬語を使わない――使えないのではなく――俺という存在は、決して好ましくはないだろう。
それにアンノウンを無理に使う事が出来ない今、俺が使えるのは奪ってきたギガンティスだけだ。
国主専用機だけあって状態はかなり良いものの、そのまま使う訳にはいかないので、現在サイクスが改修している。
ただ、改修しても重量級狩猟機であるのは間違いない。
重量級狩猟機は極めて強力な操兵ではあるものの、機動性という点では他の操兵に劣る。
まさか、そんな重量級狩猟機のギガンティスでデュマシオンと一緒に行動するのは無理だろう。
いやまぁ、デュマシオンのソレイヤードも決して個としての性能は高くないから、ギガンティスであればもしかしたら同じような移動速度になる可能性も……まぁ、否定は出来ないが。
だが、対ナカーダとの話が嫌でも上がる中で、そのナカーダの国主ガイザスの専用機を持っていったら……どうなるんだろうな?
ふざけるな! と怒鳴られるか、あるいはガイザスから貴重な重量級狩猟機を奪ってきたという事で感心されるのか。
イシュカークの貴族を見る限り、8:2で前者のような感じがするんだよな。
その辺の諸々を考えれば、ここはやっぱり俺はアーバダーナ砦に残った方がいいだろう。
なので、俺はこっちに残るという事にする。
「もしアーバダーナ砦が見つかってナカーダ軍に攻められても、それを持ち堪えることが出来れば、それはつまりディアにとって有利になるのは間違いないわ」
俺とデュマシオンの会話を聞いていたアーシェラが、複雑そうな様子でそう言う。
未だにアーシェラは俺という存在を完全に信用はできないのだろう。
それについては仕方がないと思うし、過去に何度もぶつかり合ったというヘルガがいるのも、アーシェラにとっては思うところがあるのだろう。
だが、それでも少し前と比べると多少……本当に多少ではあるものの、警戒が下がったのは、デュマシオンと戦いを共にしたというのもあるし、何より俺がナカーダ軍からギガンティスを奪ってきたというのが大きいのだろう。
俺が裏切るつもりなら、それこそギガンティスを奪うといったような事を出来る為に、どうとでも出来ると考えたというのもあるかもしれない。
その辺りの理由についてはともかく、多少なりとも協力的になってくれるのなら、こっちとしては助かる。
……もっとも、アーシェラが俺とヘルガに対して複雑な思いを抱いているように、ヘルガもまたアーシェラに対しては複雑な思いを抱いてるようではあったが。
「イシュカーク軍の戦力が高ければ、同盟を結ぶ為の会議においても有利になるのは間違いないしな。まぁ、頑張れ」
そう、言っておく。
実際、同盟を結ぶ為の旗振り役として行動したデュマシオンだが、国力――国は占領されているが――が低いと、どうしても侮られる。
ましてや、元々イシュカークはオラストの無能ぶりもあってこの周辺の中でも国力は最下位……とまではいかないが、それでも下の方であるのは間違いないのだから。
そんなイシュカークだけに、せめて戦力だけはしっかりとしたものがあると示す事は、デュマシオンにとっても大きい筈だ。
「分かっている。……こう言ってはなんだが、アクセルがいるから安心出来るというところがあるのは間違いないんだよな」
デュマシオンのその言葉に、ローエンも同意するように頷いていた。
ローエンにしてみれば、アーバダーナ砦を守る戦力は多ければ多い程にいいといったところか。
そんな風に話をし……翌日、デュマシオンはアーバダーナ砦を出るのだった。
「うーん……やっぱりこのアーバダーナ砦は、デュマシオンがいてこそなんだよな」
デュマシオンが出発してから数日……その数日で、アーバダーナ砦の中はかなりギクシャクしていた。
具体的には、イシュカーク貴族、傭兵、竜騎士といった3つの集団がそれぞれ行動している感じだ。
元々それっぽい感じにはなっていたが、デュマシオンがいなくなった事で、それが特に顕著になったといったころか。
「どうします?」
「放っておけ」
俺はヘルガにそう答え、事態が動くのを待つのだった。