「どうだい!?」
そう自慢げに言うのは、サイクス。
その背後には、ギガンティスがある。
以前見た時と比べると多少意匠は違っているものの、もっとも大きな違いはハルバードを持っている事だろう。
ギガンティスの武器はギガースとは違って、長剣だ。
この辺りはガイザスが思ったよりも腕が立つのか、それとも国主専用機がギガースと同じ鎚では格好が付かないと判断したのか、その辺りは分からない。
ただ、サイクスが長剣ではなくハルバードを用意したのは、俺がマイルフィーの時も、アンノウンの時も槍を使っていたからか。
なら、素直にこのギガンティスでも槍でいいと思うんだが。
「ぱっと見だと、武器が長剣からハルバードに変わったようにしか見えないな。いやまぁ、細かいところは色々と変わってるんだけど」
「そうだね、基本的には調整とかそっちが主だったから。ハルバードにしたのは、このギガンティスは重量級狩猟機で圧倒的な膂力があるからね。槍よりもハルバードの方が向いていると思ったんだよ」
なるほど、槍で必要なのは速度だ。
勿論最低限の力も必要とされるが、力がありすぎても、その力を無駄にしてしまう。
であれば、その膂力をもっとしっかりと活かすことが出来るハルバードを使った方がいいというのがサイクスの判断だったらしい。
別の武器を持たせるのなら相談をしてもいいと思うんだが。
その辺はサイクスだしという事で、問題はなかった。
「じゃあ、早速動かしてみてくれるかな」
そう促され、俺はギガンティスの操手漕に乗り込む。
ちなみに操兵というのは操手漕で決まった合い言葉……というか、呪文か? それが必要なのだが、ギガンティスを奪ってきた時に当然ながらその辺についてもしっかりと確保しているので、問題ない。
サイクスくらいに腕利きの操兵鍛冶師であれば、その辺もリセット出来たりもするのかもしれないが。
ともあれ、そうしてギガンティスを動かすと……アーバダーナ砦に来た時にも思ったが、やっぱり動きが鈍いな。
重量級狩猟機である以上、人馬操兵……それも俺の魔力によって侵食されたアンノウンであったり、中量級狩猟機であっても速度を重視したマイルフィーと比べるのがそもそも間違っているのかもしれないが。
そんな風に思いながらハルバードを手にして振るう。
なるほど、重量級狩猟機だけあって力はマイルフィーよりも明らかに上だが……ぶっちゃけ、アンノウンの方が膂力という意味では上のような気がするな。
勿論、普通の人馬操兵であれば重量級狩猟機に力で劣るのかもしれないが、アンノウンは特別だし。
けど、さっきのサイクスの言葉を考えれば、俺はアンノウンで槍を使っていた訳で、そうなるとアンノウンの力を最大限に活かしていなかったのかもしれないな。
そんな風に思いつつ、広い場所で演舞とまではいかないが、ギガンティスを動かしていく。
気が付けば、アーバダーナ砦にいた結構な人数が……それこそ、イシュカーク軍や傭兵は勿論、竜騎士達までもが様子を見に来てた。
あれ? 竜騎士はアーバダーナ砦から、近くにある龍操兵を運用するのに丁度いい山の洞窟に移り住んだ筈なんだが……まぁ、何らかの用件があってこっちに顔を出すような事もあるか。
そんな風に思いながら、俺はギガンティスの試乗を進めるのだった。
同盟……正式名称はラグーン国主同盟という名称になったらしいが、それが無事結ばれたらしい。
アーバダーナ砦が攻めてきたナカーダ軍を見事に撃退したのが大きい。
もっとも、今回の件では俺はそこまで活躍していない。
城攻めされた当初は基本的に操兵狩人の面々がメインでゲリラ戦を仕掛けていたし、その後で龍操兵を使って操兵を部品ごとに運んで、運んだ先で操兵を組み立てるという作戦を軍師のサライが考えた時も、ギガンティスは出来れば使わないで欲しいと言われたのが大きい。
折角奪ってきたギガンティスを使わないのか? と思ったのだが、サライ曰く、もっと決定的な場面でギガンティスは使いたいらしかった。
いやまぁ、その気持ちも分からないではないけどな。
ナカーダ軍にしてみれば、まさか自分達の国主専用機であるギガンティスが、敵として出てくれば間違いなく動揺するだろう。
だからこそ、サライとしてはもっと重要な時にその効果を持ってきたいと思ったのだろう。
そんな訳で、アーバダーナ砦の防衛戦で俺がやったのは、ナカーダ軍の間者を片付けるといったことくらいだ。
それについても、アーシェラの部下に気が付かれないようにとかだったので、そこまで大活躍という訳ではない。
ともあれそんな感じでアーバダーナ砦での戦いは終わり、アーバダーナ砦を攻めていたギガースの群れもその大半が撃破されるなり、鹵獲されるなりしていた。
……ちなみに、アルヴァレスが率いるナカーダの反乱軍から、イカサマとか呼ばれている奴を始めとした面々がこっちに合流したりもしたのだが……まぁ、それは特筆すべき事ではないだろう。
もっとも、その連中はデュマシオンが仲間を見つける為の旅をしていた時に、アルヴァレスと一緒に関わった騒動の関係者だったらしいが。
「お、来たな」
龍操兵……それも簡易型ではなく、龍の王の時代から使われている龍操兵、真の龍操兵と呼ばれている龍操兵が姿を見せる。
その背にはソレイヤードが乗っていた。
俺の言葉が聞こえたのだろう。周囲にいた者達が空に視線を向けるものの……戸惑った様子を見せる。
無理もないか。
混沌精霊の俺が見えたからといって、他の面々も同じように見える訳ではない。
中には嘘を吐くなといったような視線を向けてくる者もいたが、それについては気にしない。
実際にある程度の時間が経てば、龍操兵が……それもソレイヤードを乗せた姿を見る事が出来たのだから。
アーバダーナ砦を攻めているナカーダ軍と戦っている時は、簡易版の龍操兵で操兵を部品状態にして運ぶといった事をしたものの、真の龍操兵ともなれば操兵を背に乗せて運べるらしい。
龍操兵に乗る者達を竜騎士と呼ぶが、あの光景を見ると龍操兵に乗っているソレイヤードこそが竜騎士と呼ぶべき存在に思える。
やがて龍操兵が着地すると、周囲に集まっていた者達は歓声を上げ……それを聞いたデュマシオンは感極まったのか、その人の群れに飛び込むのだった。
ナカーダとの決戦は、当初のデュマシオンの予想外の形で進む。
当初デュマシオンは同盟……ラグーン国主同盟に参加した他の国にはイシュカークの国境付近に戦力を派遣して貰い、ナカーダがそれに戦力を割き、戦力が減ったナカーダ軍を……ガイザスを倒すつもりだったらしい。
だが、アーバダーナ砦が見事なまでにナカーダ軍に勝利した為、ラグーン国主同盟に参加している国……特に最初はラグーン国主同盟に乗り気ではなかった国は、考えを変えた。
アーバダーナ砦の勝利によって、ナカーダはそこまで強くないと、そう思ったのだろう。
結果としてそれぞれの国が戦力を派遣し、正面からナカーダ軍と戦う事になった訳だ。
戦場となったのは、ヘイデルタールという地。
ここは三方を山で囲まれている場所で、逃げる場所もない。
背水の陣ならぬ、背山の陣とでもいうべきか?
また、それ以外にもヘイデルタールという地はかつてイシュカークがイスカという国で今よりも大きく……それこそラグーン国主同盟に参加した国の全てがその領土だった頃、ナカーダはイスカから独立する為の大きな戦いがあり、それがこのヘイデルタールという地だったらしい。
その時の勝敗については、ナカーダが独立している今、どっちが勝ったのかというのは考えるまでもないだろう。
そんなヘイデルタールという地でイシュカーク軍を始めとするラグーン国主同盟軍と、ナカーダ軍が向かいあっているのだが……
「やっぱりここで出したのは正解だったか」
イシュカーク軍の面々が集まっている中で、俺はそう呟く。
そんな俺の言葉に真っ先に反応したのは、軍師のサライだ。
「ギガンティスはナカーダ軍の象徴とも呼ぶべき操兵ですから。……実際にナカーダ軍の前に出た時、その効果を最大限発揮するかと」
現在、ギガンティスはナカーダ軍からは見えない場所にある。
だが、ラグーン国主同盟に参加している他の国から派遣された軍隊は、この戦闘において主導権を握るイシュカークに挨拶に来た時、イシュカーク軍の中にギガンティスがあるのを見て、多くの者が驚いていた。
個人的に一番気になったのは、ヴァーキンの使者だろう。
何だか他の国と比べても、明らかに驚きが大きかった。
その時、偶然サイガ党を率いるアグライアも一緒にいたのだが、アグライアが浮かべた笑みは……まさに、獰猛な肉食獣といった感じだった。
まぁ、無理もないか。
サイガ党はヴァーキンから自分達に仕えるように言われたのを断ったところ、ヴァーキンの国軍に襲われる事になり、その時の戦いでサイガ党の多くの者が……それこそ、アグライアの夫もまた、死んでいるのだから。
それ以外にも、現在のイシュカークの王都ではヴァーキン出身のラオダメイヤという、デュマシオンの父親がまだ生きていた頃に後妻だった女が、ガイザスに身体を売って豪華な……それこそデュマシオンの父親が生きていた頃以上に豪華な生活をしており、イシュカークの国民に恨まれているらしい。
そんな諸々があって、アグライアとしてはヴァーキンに対し、色々と思うところがあるのだろう。
まぁ、原作的な流れを考えても、ヴァーキンがラグーン国主同盟を裏切るといったようなことがあっても不思議ではないと思うけど。
ともあれ、そうして準備も終わり……やがて、戦いが始まるのだった。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド、と。
戦闘が始まったことで、イシュカーク軍とナカーダ軍がぶつかる。
なお、イシュカーク軍の中にはアルヴァレス率いるナカーダの反乱軍も一緒に行動している。
まずは先鋒という事で、イシュカーク軍と反乱軍がぶつかったのだが……ざわり、と。
俺が操縦するギガンティスが前に出たのを見た瞬間、ナカーダ軍のギガースが動揺したように動きを止める。
中には操縦を誤った為に、転んでいるギガースの姿もある。
俺が奪い、サイクスによって改修されたギガンティス。
……本来なら改修をすれば名称を変えるという事も珍しくない。
具体的には、サイガ党のエアリエルが操縦するマイルフィーの改修機がエウロスという名称を持っているように。
だが、この操兵は名称的にはギガンティスのままだ。
改修はしたものの、エウロスのように思い切った改修をした訳ではないからというのが大きい。
細部はそれなりに違っているのだが、一番大きな違いは長剣ではなくハルバードを使っているというところからも、わざわざ名称を変える必要までないというのが分かるだろう。
……あるいは、サライ辺りがこの戦いを予想し、サイクスに外見は違わないようにして欲しいと要望したのかもしれないが。
ともあれ、ギガンティスが出たというのは、ナカーダ軍にとっては致命的だった。
ナカーダ軍に所属する騎士というのは、主であるガイザスに対して愚直なまでの忠誠心を捧げている者達だ。
……実際にはアルヴァレスのような者達もいたのだが、そのアルヴァレスがガイザスにどのように扱われたのかを考えれば、他にそういう者達がいても排除されただろう。
そんな中で、国主専用機であるギガンティスが出たのだから、それに驚くなという方が無理だった。
そして当然のように、イシュカーク軍とナカーダ反乱軍はその隙を見逃さない。
元々この為にギガンティスをここまで温存してきたのだから、サライが前もってこういう風になるから……と、そう指示を出しておくのは当然だろう。
その結果として、最初は互角だった戦いもこちらが有利な状況となり……
「は?」
だが、ガラス板に映し出される景色を見て、そんな声を漏らす。
何故なら、そこにはイシュカーク軍からそう離れていない場所に配置されていたバシバーンの援軍が一気に動き出していたからだ。
ラグーン国主同盟に加盟するバシバーンという国は、援軍こそ派遣してきたものの、本来であればこちらからの要請がない限り動かない筈だった。
だというのに、一体何故?
そう思ったが……ラグーン国主同盟そのものがまだ出来たばかりで、明確なルールらしいルールも決まってはいない。
それを思えば、バシバーンがこうして独断専行をするのも仕方がないのだろう。
……イシュカークにもザットスという独断専行の代名詞とでも言うべき者がいるので、不思議とそういうものかと慣れてしまう。
もっとも、あくまでもイシュカーク軍の武将の1人であるザットスと、こうして他国に援軍に来たのに独断専行をするというのは、立場的に違いがあるが。
ともあれ、面倒な事になったと思いつつ、俺はギガンティスでハルバードを振るってギガースの頭部を仮面諸共に破壊するのだった。