バシバーンが動いた事によって、戦いの事態は大きく動く。
俺の操縦するギガンティスのハルバードが、目の前に立ち塞がったギガース……さすがに動揺は既にしておらず、寧ろ国主専用機であるギガンティスを俺が使っているというのを許せないといったように集まってくるギガースを次から次に倒していると、ふとギガンティスの操縦席にあるガラス板……映像モニタ的な役割をするそれに、ナカーダ軍の後方、本陣から煙が上がっているのが見えた。
一瞬、誰か他の者が既に前衛を突破してナカーダ軍の本陣に到着したのか? と思ったが、すぐにそれが狼煙……つまり、何らかの合図であった事を理解する。
ヴァーキン軍が、イシュカーク軍の本陣に向かって突撃しようとしたのだ。
……だが、そこにアグライア率いるサイガ党が割って入る。
ヴァーキンという国に対し恨み骨髄のアグライアだ。
当然ながら過去の経緯から、ここでヴァーキンが裏切るという可能性も考えていたのだろう。
これまでの恨みを晴らそうと、猛烈に攻撃する。
ナカーダの奥の手だったのだろう、ヴァーキンの裏切り。
そんな戦いの中で、デュマシオンにとっては最大の戦力であるローエンが前線に出て、次々とギガースを倒していく。
中量級狩猟機ながら、重量級狩猟機に近い戦闘力を持つギガースだったが、それでもローエンを相手にしてはどうしようもなかったらしい。
そんな光景を見ながら、俺もまたギガンティスのハルバードを使って次から次にギガースの頭部を破壊し、倒していく。
重量級狩猟機に近い戦闘力を持つギガースだが、正真正銘の重量級狩猟機であるギガンティスで……それも操縦するのが俺となると、向こうも対処のしようがないのだろう。
そうして戦っていると、バシバーン軍に向かうナカーダ軍の一団に気が付く。
その中でも特に目を引くのは、ギガースよりも大きな重量級狩猟機……ギガンティスだろう。
誰があのギガンティスに乗っているのかは俺にも容易に想像出来た。
そう思っていたのだが、俺の中にある予想は外れたのでは? と思ってしまう。
何故なら、ギガンティスはバシバーン軍に所属する操兵を、次から次に倒していったのだ。
ガイザスがそれなりの技量を持った操兵乗りであるというのは、俺も知っている。
だが、それでもあそこまで一方的にバシバーン軍の操兵を蹂躙するというのは、予想外だった。
だからこそ、あのギガンティスに乗っているのはガイザスではなく影武者……それも相当に腕の立つ操手ではないかと思い、どうせならということでそちらに近付いていく。
というか……バシバーンはラグーン国主同盟に参加した国の中でも尚武の国として知られており、それこそナカーダが自国に攻めてきても、防衛戦なら負けないという思いがあって、ラグーン国主同盟の参加は消極的だったと聞く。
結局、アーバダーナ砦での戦闘でイシュカーク軍が勝利した事もあって、参加したのだが。
……その割には、バシバーン軍はギガンティスに蹂躙されてるな。
尚武の国というのは、一体どこにいった?
そもそも独断専行で、当初の決まりを無視してナカーダ軍に攻撃を仕掛けたものの、それでこうも一方的にやられているのを見ると……まぁ、うん。
口だけなのか、あるいは武断的な性格の持ち主が多いものの、それに実力が伴っていないのか。
もっとも、操兵……特に重量級狩猟機ともなれば、長時間動かすのは操手に強い負担を掛ける。
そういう意味では、バシバーンが捨て駒となってギガンティスの操手を消耗させてくれるのは……
『次はどいつがこの蛮人王の刃によって果てる栄誉を賜るのだ』
ギガンティスから聞こえてきたその声に、俺は反応する。
ギガンティスの操手は影武者かと思っていたが、どうやら本物のガイザスらしい。
その声には、俺も今まで何度か聞いた事のあるガイザスの声で間違いなかった。
あるいは影武者が乗っていて、ガイザスの声を録音か何かして伝声管で流している……そんな可能性もあるが、生憎と俺が知ってる限りだと聖刻世界にそのような技術はない。
つまり、あのギガンティスに乗っているのは本当にガイザスな訳で……なら、このチャンスを見逃す必要はないな。
そんな風に思いながら、ギガースの振るう鎚をハルバードで弾き、返す刃でギガースの頭部を破壊する。
ちょうどその1機を倒したところで、俺の攻撃範囲にいたギガースは全滅した。
勿論、攻撃範囲の外にはまだ多数のギガースがいて、こちらの隙を窺っているのが見えるのだが……
「残念だけど、もうお前達の案内をしている暇はないんだよ」
その言葉と共に、とある方向……具体的にはバシバーン軍がガイザスのギガンティスが数機とはいえ護衛のギガースのいる方向に向かって進み出す。
そんな俺の行動に戸惑うギガースがだったが、それでも俺を……あるいは国主専用機であるギガンティスをそのままにしておくといったことは出来ないと判断したのか、鎚を振るってくる。
だが、ハルバードを使ってその攻撃を弾き、返す刃で頭部を仮面諸共に破壊し……そうして開いた道を進む。
周囲にいたギガースは、俺がどこに向かおうとしているのかに気が付いたらしく、一層攻撃を集中しようとしたところで……
『はあああぁあっ!』
ローエンの操兵が部下を率いてこの場に乱入してきた。
もっとも、ローエンにしてみれば俺の操縦するギガンティスに集中していた為に隙を……背中を見せていたギガースの集団を倒す絶好の機会だと思ったのかもしれないが。
とはいえ、背後から攻撃するというのはローエン的にどうなんだ? 一瞬そう思ったが、帝国騎士とはいえ、ここは正々堂々と決闘の場という訳ではない。
多くの操兵が入り乱れる戦場なのだ。
であれば、背後を見せるという……これ以上ない隙を晒している相手に攻撃するのを、ローエンが躊躇する筈もなかった。
それに俺にとっては、この展開がありがたいのも事実。
「ローエン、俺は向こうのギガンティスに……ガイザスのいる場所に向かう。ここは任せてもいいか」
『分かった!』
短い一言だったが、その言葉を発したのがローエンであるというのは、この場合大きな意味を持つ。
自分の言葉に責任を持つといった様子で、ローエンはその場にいたギガースに攻撃を仕掛け、ローエンと共に行動している面々も次々とギガースに攻撃を行っていた。
俺のギガンティスを倒そうとしていたギガースの群れだったが、ローエンに攻撃されては、とてもではないがそのような余裕はないらしい。
そんな訳で、ある程度余裕が出来たところで、俺は一気にその場から離脱する。
バシバーン軍を蹂躙しているギガンティスに向かったところで、不意にナカーダ軍が動揺した気配を察する。
何だ? そう思ったが、その理由はすぐに理解出来た。
どうやらナカーダ軍の一部が反乱を起こしたらしい。
あるいはアルヴァレスによって説得されたのか。
ともあれ、ナカーダ軍の一部が周囲にいるナカーダ軍のギガースを攻撃しながらアルヴァレス率いる反乱軍と合流するのが目に入ってきた。
それによって動揺したナカーダ軍。
ガイザスも恐らくはその様子に驚いたのだろう。
明らかにバシバーン軍を蹂躙する動きが鈍った。
そうして動きが鈍ったところに、俺の操縦するギガンティスが到着する。
「バシバーン軍は邪魔だ! 引っ込んでろ!」
『貴様っ!』
伝声管を通じて外に出したその言葉に、そう反応する者がいた。
恐らくはバシバーン軍の指揮官なのだろうが……
「ここにいれば、戦いに巻き込まれるぞ。独断専行の結果、全滅してもいいのか?」
『ぐぬぅ』
俺の言葉に、指揮官らしき男が何も言えなくなる。
……まぁ、このまま全滅をしなくても、ガイザスと少数の護衛を相手にバシバーン軍が壊滅に近い被害を受けたのは間違いないのだが……文字通りの意味での全滅と、多少なりとも操兵が残っているのとでは、どうしても印象が違う。
ましてや、当初の国同士の約束を反故にして独断専行をした上での被害となれば……恐らくだが、この指揮官が今後出世するような事はまずないだろう。
それどころか、独断専行の責任をとって引退……最悪の場合は死刑という事も十分にあった。
ともあれ、指揮官もこれ以上ここにいては自分の破滅だと理解したらしく、大人しくまだ生きている部下を率いてこの場を離脱する。
その様子を見ながら、俺は伝声管に向かって口を開く。
「まさか、バシバーン軍が撤退するのを大人しく見ているとは思わなかったな」
『ふんっ、あのような雑魚……余が相手をするまでもないわ』
ん? 以前は儂という一人称だったと思うが……いやまぁ、討伐軍を撃退したのだから、それを理由に皇帝や王の一人称として使われる余というものを使っていても不思議ではないか。
「それで、俺の相手をすると?」
『貴様が使っているのは、余のギガンティスだな。……イシュカーク人らしいと言うべきか』
「それを言うのなら、影武者用とはいえ国主専用機であるギガンティスを盗める状態にしておくのが問題だと思うがな。……それに言っておくが、俺はイシュカーク人じゃない。ああいう連中と一緒にされると困るな」
俺の中にあるイシュカーク人というのは、プライドだけは高い無能という印象だ。
……勿論、デュマシオンやローエンといった者達がいる事からも、全員が無能であるとは思わない。
思わないが、それでもやはり無能揃いというのが俺の中にある強い印象であるのも事実だった。
そういう連中と一緒にされるというのは、それこそ屈辱だろう。
『ほう、話が分かるではないか。だが……余の操兵を盗んだ貴様に掛ける情けはない。その身を以て償うがよい!』
その言葉と共に、ギガンティスが握っていた長剣が振るわれる。
うーん、てっきりもっと激昂するかと思ったんだが、予想が外れたな。
普通なら自分の専用機を奪われ、それを相手に使われるというのは、決して好ましいものではない。
ガイザスの性格を考えれば、それこそブチ切れてもおかしくはないと思うんだが。
勿論、全く怒っていないという訳ではないのか、振るわれる長剣には間違いなく殺気が籠もっている。
その一撃をハルバードで弾こうとし……うん?
がんっ、というかなりの衝撃が、ハルバードの柄を通して伝わってくるに違和感を抱く。
中量級狩猟機のギガースと違い、ギガンティスは間違いなく重量級狩猟機だ。
当然ながらその力もギガースとは比べものにならない程のものであるのは間違いない。
ないのだが、それにしても今の衝撃は……
俺も別に、重量級狩猟機と戦うのはこれが初めてという訳ではない。
例えば、アグライアの操縦するメガバンデスという重量級狩猟機との模擬戦をギガンティスでやった事もある。
その時に武器と武器をぶつけ合うといった経験はあるが、それを込みで考えてもこれは明らかにおかしい。
サイクスから聞いた話だと、メガバンデスとギガンティスでは使っている素体は同じだって事だったし。
そんな疑問を抱きつつ……だが、言ってみればそれだけの事ではある。
膂力についてはこちらの予想外ではあったものの、それ以外の部分でガイザスのギガンティスが俺の操縦するギガンティスに勝っているところはない。
それを示すように、長剣の一撃を弾き、あるいは回避してこちらにダメージがないのに対し、ガイザスのギガンティスはハルバードによってダメージを蓄積していく。
『き……貴様ぁっ!』
やがて自分だけが一方的にダメージを受けている状況が我慢出来なくなったのか、大振りの一撃を放ってくる。
それが、俺の狙いであったとも気が付かず。
ガイザスは戦士として相応の才能があるのは間違いないだろう。
だが、それはあくまでも相応の才能であって、例えばローエンに勝るといったような才能ではない。
……ある意味、国主がそのような中途半端な才能を持っていたのが不運ではあったのかもしれないが。
ともあれ、その中途半端な才能で俺に一方的にダメージを受け続けているのが我慢出来なかったらしく、大振りの一撃を放ってきたのだが……その一撃を回避し、ハルバードを操手漕に叩き込もうとした、その時……
「はっ!?」
何故そこで動ける? と思えるような、俺にとっても予想外の動きで、操手漕に放たれた一撃を回避する。
もっとも、それはあくまでも致命傷の一撃を回避したというだけであって、その機体には間違いなく大破といった大きなダメージを与える事に成功する。
すると次の瞬間、ガイザスの窮地を助けようと周囲にいたギガースが俺に攻撃を仕掛け……そのギガースを倒したところで気が付くと、ガイザスの操縦するギガンティスは戦場から逃げ出し、残っていたナカーダ軍がそれに合流し……ヴァーキンに向かって進む。
……なお、今まで一切戦闘に参加していなかったマルケア国の軍勢は、目の前をナカーダ軍が通ったにも関わらず、一切手出しをしなかったのだった。