バルーザとの戦闘において、何故か勝手に1人で戦闘に参加したフィーンが行方不明になった。
それを知って多くの者が動揺したが、その中でも特に大きく動揺したのは操兵狩人部隊の面々と、デュマシオンをめぐって恋敵であると同時に親友でもあるサイガ党のエアリエルだろう。
ただし、それから少しして……
「それは本当なのか?」
「はい。竜騎士のマトゥがフィーンの無事を確認したそうです」
ヘルガの言葉に呆れればいいのか、喜べばいいのか迷う
先の戦闘において行方不明になったフィーンだったが、その無事をマトゥが確認したらしい。
詳しい話を聞くと、どうやらフィーンはバルーザの中でもハン氏族……あの8本足の人馬重操兵を有する氏族の下にいるらしい。
マトゥはそれを見つけたものの、結局助け出す事が出来ずに戻ってきたとか。
ただ、マトゥからの報告によると、フィーンは別に捕虜といった訳ではなく客人的な扱いだとか何とか。
……あの8本足の人馬重操兵の件を考えると、もしかしたらハン氏族というのはバルーザの中でも特別な存在なのかもしれないな。
ちなみに何故そこまでして必死にマトゥがフィーンを捜していたのかといえば……まぁ、うん。つまりそういう訳だ。
デュマシオン周辺の人間関係……恋愛関係? も複雑怪奇になってきたな。
俺はそういうのにあまり詳しくないものの、ヘルガは女という事もあってか……あるいは単純に情報として重要だと思っているのか、その辺りは分からないものの、とにかくそういう情報に詳しい。
そんなヘルガから聞いた情報によると、デュマシオンを男女的な意味で、恋愛的な意味で好きなのは、アーシェラ、エアリエル、フィーン、ローエンの妹のセーラ、そして帝国の皇女であるサクヤー。
うん、さすが原作主人公だな。
というか、この世界はファンタジーなロボット物の世界だと思っていたんだが、実はハーレム物でもあったりするのか?
……まぁ、ハーレム云々については俺が言うような事でもないと思うが。
ハーレムの件はともかく、フィーンの無事が確認されたのは俺としても嬉しい限りだ。
「ただ……その、フィーンの無事以外に、まだ何かがあるようなのですが……その辺りについては分かりません。練法を使ってもいいのであれば、マトゥとやらから情報を聞き出しますが?」
「いや、別にそこまでやる必要はないだろ。それが知られたら、面倒な事になるし」
「分かりました。今の私であれば月の練法で情報を引き出すのは簡単ですが、紅玉がいるとなるとその痕跡が見つかるかもしれませんしね」
それはつまり、紅玉……アーシェラがいなければ練法を使って情報を引き出していたという事なのだろう。
なら、事態が動くのを待つしかない……そう思っていたところ、数日も経たないうちに事態が動く事となる。
「は? 俺にもか? いや、デュマシオンなら分からないでもないが……」
デュマシオンが呼んでいるという事でやって来たのだが、そこでデュマシオンに言われたのは予想外の事だった。
それは、エリダーヌからの招待状。
正確には、エリダーヌで毎晩のように行われている夜会……いわゆる、パーティに対する招待状だった。
これがデュマシオンだけであれば、話は分からないではない。
ナカーダを使った群雄割拠の状態を作り出したエリダーヌにとって、イシュカークやラグーン国主同盟といった存在は気になるのだろうから。
実際、イフィクラテス率いる軍勢をラグーン国主同盟に向けてきた事もある。
名実共に、エリダーヌは帝国という国の中ではトップの存在だ。
それこそ既に皇帝が瀕死の状態であるロタール帝国そのものと比べても、今ならエリダーヌの方が勝っていると言ってもいいだろう。
そんなエリダーヌの国主であるレクミラーだからこそ、原作主人公であるデュマシオンに興味を抱くというのは分からないでもない。
だが……それでデュマシオンだけではなく俺にも招待状を送ってくるというのはどういう事だ? 考えられる可能性としては、東方の練法師であるサイラスから俺やヘルガについて聞いたことで、興味を持ったとか?
もしくは、バルーザと戦っている中で俺が人馬操兵のアンノウンを使ってるのに興味を持ったのか。
その辺の諸々については、生憎と俺にも分からない。
分からないが……
「俺は傭兵だぞ? お偉いさんを相手にしての態度とか、そういうのは分からない。俺が行けば、エリダーヌの国主の……レクミラーだったか? そいつにもこういう感じで話す事になるから、止めておく。あるいはそれでもどうしても俺を招待したいというのなら、俺がどういう言葉遣いでも構わないという保証が欲しい。それなら行ってやっても構わないぞ」
そう、言うのだった。
結局その件もあって俺がエリダーヌの夜会に参加するという話は取りやめになったのだが、イシュカークの国主であるデュマシオンは傭兵の俺と違って断れる筈もなく、夜会に参加し……何がどうなったのか、エリダーヌの国主であるレクミラーから馬を貰ってきたのだった。
「それはまた……いやまぁ、言われてみれば当然かもしれないが、それでもやっぱり少し無理があるような気がするんだが」
デュマシオンから聞いた内容に、そう返す。
レクミラーから馬を貰ったデュマシオンだったが、それが問題となったのだ。
これが例えば、ただの馬であればそこまで問題はなかっただろう。
だが、どうやらデュマシオンが貰ってきた馬は馬好きとして有名なレクミラーが所有している馬の中でも、最高峰の血筋と能力を持った馬だったらしい。
そんな……お宝と言っても決して間違いではない貴重な馬を譲られただけに、それを知ったサイオンがデュマシオンを処罰することになった訳だ。
サイオンがデュマシオンにその件を話す時は不承不承といった様子で本人も納得していないようだといったことだったが、多分内心は違ったんだろうな。
サイオンにしてみれば、デュマシオンは使い捨ての道具だ。
だというのに、その使い捨ての道具によってバルーザとの戦いにおいてマ・トゥーク軍がかなり消耗したのだから。
外面はともかく、内心ではこの時を待っていたとか、そんな感じだったんだと思う。
ましてや……幸か不幸か、この前の戦いにおいてサイオン率いるバルーザ討伐軍は、エリダーヌ側と同じくらいの勝利を得る事が出来た為、すぐにまた自分達で戦わないといけないとか、そういう事はない。
つまり、サイオンにとって現在はデュマシオンは必要ないのだ。
また、サイオンにしてみれば今度バルーザが攻めて来ても、イシュカーク軍抜きでどうにか出来る自信もあるといったところか?
「それで、どうするんだ?」
「……サイオン閣下から命じられた以上、それを受け入れるつもりだ」
「そうか。まぁ、取りあえず頑張れ」
「アクセル、1つ聞かせて欲しい。今回の一件で俺に対するお前の評価は落ちたか?」
ちょっと意外だったな。
まさかデュマシオンがこういう事を聞いてくるとは。
何気にその辺を気にしていたといったところか。
「いや、今回の件については評価は上がっても下がってもいない」
これは事実だ。
デュマシオンがマ・トゥーク軍を肉壁に使ったことで、サイオンから恨まれていたのは事実だろう。
その上で、イシュカーク軍がいなくてもどうにかなると考えれば、サイオンにとってデュマシオンを処罰する機会にそれを行わない訳はない。
レクミラーから馬を貰ったのが処罰の理由ではあったが、デュマシオンの立場としては、まさかレクミラーからの贈答品としての馬を受け取らない訳にはいかなかっただろうし。
そういう意味では、今回の件は仕方のない事であったのは間違いなく……俺としては、評価に影響しない。
まぁ、これでサイオンから総司令の座を奪うとか、そういう事が出来ていれば大きくプラスになったかもしれないが、さすがにデュマシオンにそういう事は期待出来ないしな。
それにイシュカークという国は有能な貴族は少なく、大半が無能な貴族だ。
もしデュマシオンがサイオンからバルーザ総司令の座を奪ったとしても、書類仕事は手に負えないだろう。
実際、サイオンがバロックから総司令の座を奪った時は、子飼いの部下を連れて来て書類仕事に当てている。
それでも目の回るような忙しさらしい。
それを思えば、デュマシオンにサイオンの代わりは無理だな。
そんな風に思いながら、とにかくイシュカーク軍は前線から後方へと退く事になるのだった。
後方に下がったイシュカーク軍は、ミガールという街の周辺に一時滞在する事になった。
このミガールには体調の優れない皇帝がいて、後方の最重要拠点という扱いらしい。
「さて、デュマシオンはどうすると思う?」
「皇帝に会うかと。現状を打破するには、その方策しかないと思います」
レクミラーとは実質的に敵対しており、サイオンもまた表向きはともかく、その内心においてはデュマシオンに強い嫉妬を抱いている。
……まぁ、デュマシオンの件を抜きにしても、俺やヘルガの件もあるので、本当の意味で友好的にというのは無理だろうが。
「皇帝に? ……今の皇帝が何かの役に立つのか?」
神輿……それも壊れかけの神輿としての役割しかない今の皇帝に、一体どのような役割を期待出来るのか。
そう思ったのだが、ヘルガは俺とは違う意見らしい。
「皇帝は体調に問題があるのは間違いありませんが、それでも皇帝という地位にあるのは事実です。それを使えば、現状を打破出来るかもしれません」
ヘルガの言葉に、そうか? と思ったのだが……そんなヘルガの言葉が正しかったと証明される事になる。
「征夷大将軍……か。それはまた予想外だったな」
ヘルガの予想通り皇帝と面会をしてきたデュマシオンだったが、土産を……それも大きすぎる土産を持って戻ってきた。
デュマシオンの説明によると、この征夷大将軍というのは本来なら皇帝の事を意味している称号……というか、地位らしい。
だが、デュマシオンはそれを貰った訳で、そうなるとデュマシオンは皇帝の代理人的な立場となるらしい。
「ああ。これでこの戦争を終わらせる事が出来る」
決意を込めて言うデュマシオンだったが、本当にそうなのか? と疑問に思う。
いや、征夷大将軍という地位にはそれだけの説得力があるのは間違いないが、だからといってこれで本当にどうにかなるのか? と言われれば、俺としても首を傾げたくなる。
権威があるのは事実だろう。
だが、だからといって実行力もあるかと言われると、それは疑問なのだから。
……まぁ、こうして見る限りでは、デュマシオンにはそれなりに何らかの確信があるらしいが。
「それで、その終わらせる方法については聞かせて貰えるのか?」
「アクセルには言ってなかったが、マトゥによって俺はハン氏族と接触している」
「フィーンの件か?」
フィーンがハン氏族の客分的な立場にあるというのは、俺も知っている。
だが、何故ここでその件について話すのかと、そう疑問を抱いたのだが、デュマシオンは俺の言葉に対して首を横に振る。
「違う。いや、その件もあったのは間違いないが、シュルティ古操兵である人馬操兵を持つバルーザは、かつての龍の王に仕えた一族の後継者だ」
「つまり、竜騎士達と同じと?」
「そうだ。そして俺はハン氏族の族長であるバハールから龍の王の後継者として認められている」
そう言うデュマシオンの表情は、決して嬉しそうではない。
奇岩島で龍の王の残留思念的な存在と接した事で、龍の王という存在はデュマシオンにとって決して好ましい存在ではなかったらしいしな。
そういう意味では、その龍の王の後継者……生まれ変わりと見なされるのはデュマシオンにとって決して好ましい事ではなかったのだろう。
もっとも、それでも今はそれを使わなければならず、だからこそこうして口にしているのだろうが。
「つまり、ハン氏族とやらを味方にして、他のバルーザを倒すという事か?」
「そうなる」
「だが、そこまで上手くいくか?」
「それについては、きちんと説明する」
そう言い、デュマシオンは作戦について説明するのだが……
「上手くいくのか、それ?」
聞き終わったところで、改めてそう返す。
デュマシオンの作戦というのは、簡単に言えばバルーザの勢力圏内にいるハン氏族と協力し、今回の帝国に対する侵略の主導権を握るカン氏族のオル・カンという奴を討つというものだった。
だが、そのオルという奴を討つにしても、当然ながらイシュカーク軍とバルーザの氏族の中ではそこまで規模の大きくない……どころか、13ある氏族の中でも下から数えた方が早い氏族で、その13氏族の中でも最大の規模を持つカン氏族を倒せるのかといった問題があり、そうなるには帝国軍に……サイオンかレクミラーに動いて貰う必要があるのだが……俺にはその2人がデュマシオンの希望通りに動くとは、とてもではないが思えなかった。
だが、デュマシオンは緊張した様子ではあったが、頷いて口を開き……
「任せて欲しい」
そう、告げるのだった。