「うわ……何だあれ」
アンノウンに乗って城から脱出するデュマシオン達に合流したのだが、デュマシオンの操縦するソレイヤードの命令によってスィナーグが本来の性能以上のものを発揮し、次から次にコラム派の操兵を倒していく。
以前にも何度かこのような……ソレイヤードの命令によってスィナーグが動く、いわゆる奇岩島での墓守的な感じで戦力とした事があったのだが、今もまさにそんな感じで動いている。
これ、正直なところ一体どうなってるんだろうな?
W世界のMD的な?
あるいはX世界のビットMS的な?
現象としては同じようなものなのだろうが、その方法は多分違うだろう。
ともあれ、そうしてデュマシオンと無事に合流してアーバダーナ砦まで移動したのだが……
「何か違うな」
「そうですね」
アーバダーナ砦にある、以前俺が使っていた部屋でヘルガと共にそう話す。
違うというのは、デュマシオンだ。
何と言うか、アーバダーナ砦に来てからその性格が全く違うようになったように思える。
もっとも、甘ちゃんなところが抜けて冷徹に判断出来るようになったのは相応に評価出来る。評価出来るのだが……
だからといって、疑心暗鬼になりすぎるというのもどうかと思う。
具体的には、俺に陰共をつけている事だ。
これが俺との連絡役とか、護衛……は意味がないとは思うが、とにかくそんな感じでの話なら納得出来ないでもない。
だが、陰共を俺達に付ける目的が監視というのは、どうなんだ?
その為、ヘルガはかなり不機嫌になっている。
まぁ、ヘルガも女だ。
陰共の性別は分からないが、それでも陰共にじっと見られているとのは好ましい事ではないだろう。
ましてや、陰共に監視されている以上は夜の行為も出来ないし。
……さすがにヘルガも他人に見られながらそういう行為をして興奮するという性癖はないらしい。
あるいはこの先……将来的にはそういう性癖を身に付ける事もあるのかもしれないが。
ともあれ、イシュカークにある砦で指揮を執って周辺から侵略してくる敵軍と戦っていたフィンデンという貴族……以前のアーバダーナ砦で暴走したザットスの僚友とも呼ぶべき、イシュカークでは数少ない有能な貴族も合流し、アーバダーナ砦の戦力は着々と整っていく。
ちなみにバルーザも城を脱出した後で既に合流しており、竜騎士達にしてみればアーバダーナ砦の側にある山に龍操兵用の施設もあった事からこの辺りを拠点としているので、そちらについての戦力は関係ない。
そうして戦力が整うと、デュマシオンが全員を集めて会議が開かれる事になるのだった。
やっぱり、以前までとは違うな。
それが会議室に姿を現したデュマシオンを見て、俺が感じた事だった。
以前のような自信のなさはなくなっている。
これがあるいはアーシェラが言っていた立ち直ったという事なのか?
そうも思ったが、すぐにそれを否定する。
何故なら、今のデュマシオンからは悪意のようなものが感じられる為だ。
いや、これは悪意と表現してもいいのかどうか、ちょっと疑問だが。
ともあれ、今のデュマシオンが普通の状態でないのは明らかだった。
「どう思う?」
「……考えられるとすれば、龍の王の残滓が表に出てきているという事でしょうか?」
デュマシオンがこれからの方針……具体的には、イシュカークに攻め込んでいる全ての国を撃破するというのを聞きながら、ヘルガと会話を交わす。
デュマシオンの言葉を聞いた者の多くは、デュマシオンが一体何を言ってるのかと、そんな視線を向けていた。
まぁ、分からないではない。
現在のデュマシオンは国主の座を追われた身だ。
そんなデュマシオンが、国主の座を奪還するよりも前に侵略者達を倒すと、そう言ってるのだから。
……それに今まで公の場では一人称は私、そして私的な場では俺だったのが、余となっているのにも違和感がある。
「けど、龍の王の残滓は奇岩島でデュマシオンが倒した……というか、消し去った筈だろう?」
「はい。ですが、龍の王ともあろう存在が、何かあった時の為に対処をしておかないという事はあるでしょうか?」
「……なるほど」
俺は具体的に龍の王という存在については知らない。
いや、一応ヘルガからある程度の知識は教えて貰っている。
ただ、その知識についても矛盾しているような事もあるんだよな。
例えば、ある言い伝えでは龍の王は元々それ以前の文明……それこそシュルティ古操兵にも存在しない呪操兵を作れる文明の知識を受け継ぐ一族の者で、その知識を悪用してシュルティ文明を築いたとか。
あるいは元々は他人を強く思いやるような善良な人間だったのだが、部下や家族、恋人といった者達に裏切られた結果、残虐な性格になったとか。
その辺りの詳細については生憎と俺にも分からないから何とも言えないのだが……伝承として伝わっている内容が途中で変わるというのは、そう珍しいことではない。
場合によっては、それこそ誰かが意図的に変えたとか、そういう事があってもおかしくはない。
そんな風に考えていると、デュマシオンはまずはナカーダを攻めているバシバーンの部隊を殲滅するという風に説明する。
「……そこでだ、アクセル。お前には1つ頼みがある」
ヘルガと話していると、不意に俺の名前が出て来るのでデュマシオンに視線を向ける。
「何だ?」
「アクセルは余の傭兵だな?」
「まぁ、一応そういう事になっている。何だ、仕事でもあるのか?」
俺が傭兵というのは、あくまでも表向きの話でしかない。
実際には至高の宝珠の先代翡翠からの要望と、デュマシオンの近くにいれば色々と事態の変化が起こるからというのが大きい。
それによってスィナーグや呪操兵、隠形機といった普通では入手出来ないような操兵を入手する事が出来たのだから。
だが同時に、表向き傭兵であるということはきちんと傭兵として働かなくてはいけないという事も意味していた。
であれば、デュマシオンは一体俺に何を言ってくるのか……そう思って尋ねたのだが……
「仕事と言ってもいいかは分からぬが、余がバシバーン軍を掃討する際には当然ながらかなりの戦力を引き連れていく事になるであろう。そして当然ながら我が愚弟もこのアーバダーナ砦については知っている。そしてアクセルは歴戦の……それこそ、ローエンに勝るとも劣らぬ技量を持つ操兵乗りだ」
ローエンの名前を出す時、微妙に表情が変わったな。
自業自得だというのはデュマシオンも理解しているのだろうが、それを知った上でもやはりローエンについては色々と思うところがあるのだろう。
「つまり、俺はアーバダーナ砦に残れと?」
「そうなる」
「……俺のアンノウンは人馬操兵だ。広い場所でこそ本領を発揮出来る。籠城しての戦いに向いていないのは、お前も知ってると思うが?」
勿論、アンノウンの性能は重量級狩猟機並のものがあり、普通に戦っても強いのは間違いない。
だが、それでもやはり一番能力を発揮出来るのは、自由に走り回りながら戦う時なのだ。
籠城戦では、アンノウンの性能は半分程しか発揮出来ないだろう。
「アンノウンに乗ればそうだろう。だが、アクセルにはスィナーグを与えていたな? あれなら問題ないであろう。アクセルなら、スィナーグであっても十分に乗りこなせる筈」
そう来たか。
そういう風に言ってくる理由は理解出来ないでもない。
デュマシオンは俺が普通とは違う存在であるというのは十分に理解しているのだから。
であれば、そんな怪しい存在であると俺と一緒に行動するのは避けたいと……そう思ったのだろう。
どうするか。
そう考えるも、アーバダーナ砦に残っても問題はないだろうと判断する。
そもそもの話、俺がデュマシオンに味方したのはコラム派の貴族を出来るだけ多く殺す為だ。
そういう意味では、他国との戦いを行うデュマシオンと行動を共にするよりも、もしかしたら攻めてくるかもしれないコラム派に対処出来るようにしておいた方がいい。
……それに、今のデュマシオンは猜疑心の塊だ。
であれば、俺と一緒に行動すればそれはそれで、色々と余計な事を考え、妙な事をしてこないとも限らないのだから。
「なるほど、分かった。その要望を受け入れよう」
そう、言うのだった。
「……で、結局は特に何も起きなかった、か。てっきりコラム派の部隊が攻めてくると思っていたんだけどな」
アーバダーナ砦に帰還したデュマシオン達を眺めながら、そう呟く。
アーバダーナ砦を発ったデュマシオンは、ナカーダに攻め込んでいたバシバーン軍を人馬操兵を使って蹂躙し、バシバーン軍を率いていた者の首をバシバーンの王宮に送ったらしい。
その効果は激烈で、イシュカークに攻め込んできた者達の動きは鈍くなり、人馬操兵の機動力を最大限に活かして各個撃破していった。
そうしてイシュカークを攻めていた周辺諸国を撃退し終わって、アーバダーナ砦まで戻ってきた訳だ。
首を送るというのは、普段のデュマシオンならとてもではないがやらない……いや、出来ない事で、その辺を考えてもやはり龍の王がデュマシオンの身体を操っている可能性は否定出来ない。
さて、どうしたものだろうな。
個人的に普段の優しいのではなく甘いデュマシオンよりは、今の龍の王の方が優れているし、寧ろ好感が持てる。
だが同時に、今のデュマシオンはあくまでも龍の王であって、デュマシオンではない可能性が高い。
それは原作の流れ的に不味いだろう。
「アーシェラはどう考えているか、分かるか?」
「いえ。ですが、決して今の状況を良しとしていないのは間違いないかと」
「だろうな」
アーシェラにしてみれば、自分の想い人が全く別人のような存在になってしまっているのだ。
その辺りを考えれば、やはり思うところがあるのは間違いないだろう。
……とはいえ、今の状態でどうにか出来る訳ではないのも事実だし。
「アクセル様としては、デュマシオンを一体どうなさるのでしょう?」
「取りあえず様子見だな」
そう、俺はヘルガと話をするのだった。
デュマシオンがイシュカークに攻め込んでいた周辺国の軍勢を撃破したという話は、瞬く間にイシュカーク中に広がったらしい。
恐らくは自然と情報が広がったのではなく、アーシェラに命じて間者匠合……黒の剣を使い、噂をばらまいたのだろう。
結果として、王都イシュカロンにおいてもコラム派の貴族達は民衆達からの厳しい視線を向けられる事になる。
もっとも、コラム派の貴族達にしてみれば貴族以外の者達は有象無象といったような考えだ。
それこそ一般人は自分達の財産で、殺しても自然とまた増えるといったように認識している者も多い。
……そんなコラム派だったが、それでもデュアマシオンの軍勢との決着をつける為に動いたのは、コラム派に寝返った者達の中でもデュマシオンの強さを知っている者達が、このままだと危険だと判断したからなのだろう。
実際、バルーザ戦役が終わった後のデュマシオンは引き籠もっているだけで、何も行動らしい行動はしなかった。
それによってコラム派の貴族が好き勝手に動いた訳だが……無気力であろうとも、デュマシオンはデュマシオン。
征夷大将軍になったのは伊達ではないし、バシバーン軍の指揮官の首をバシバーンの王宮に送ったのも効いていた。
そんな訳で、後がないコラム派とデュマシオン派は決戦を行う事になった。
「それで、俺の狙いはコラム派の貴族達という事でいいんだな?」
「はい、そのように指示されております」
俺の言葉に、サライはそう言ってくる。
もっとも、その身体は操兵狩人の紅としての鎧に覆われており、至高の宝珠の先代翡翠によって与えられた、付けている間は視力が復活するという練法が掛かっている仮面を付けている。
そんな操兵狩人状態のサライだが、言葉には微妙に不安そうな色があった。
サライもまたかつてのデュマシオンを見て仕えたいと思っただけに、今のデュマシオンには色々と思うところがあるのだろう。
「それにしても、デュマシオン本人じゃなくてサライを伝言役として寄越すとはな。デュマシオンも偉くなったものだな」
「いえ、それは……」
「ああ、別に庇わなくてもいい。お前には色々と思うところがあるのは間違いないだろうが、俺個人としては今のデュマシオンも決して嫌いじゃないしな」
そう言うと、サライは動きを止める。
まさか、俺が今のような事を言うとは思っていなかったのだろう。
「それよりも、ダリルの件をデュマシオンはどう思っている?」
「……」
サライの無言が、デュマシオンの様子を容易に想像させる。
操兵闘技大会の時からデュマシオンを支えた騎士の三羽ガラスの1人、ダリルは何を思ったのかコラム派に寝返ったのだ。
それがまたデュマシオンにどのような感情を抱かせるのか……それは考えるまでもないだろう。