アンノウンの振るうハルバードが、操兵部隊を率いる指揮官の狩猟機の操手漕を潰す。
普段であれば、俺は操兵の頭部を切断するという攻撃を好む。
これは頭部を切断されれば操兵は頭部と一緒に仮面がなくなって動けなくなるし、頭部の方もかなりの確率で仮面が残っている為に、仮面を回収出来るというのが大きい。
仮面のない操兵にその仮面を使えば、相性にもよるが普通にまた操兵として使えたりもする。
だが、今回俺がやっているのは操手漕を破壊し、そこにいる操手を殺すという攻撃だった。
……いやまぁ、こっちの方が操兵と仮面がセットで、操手漕と装甲を代えればいいだけなので、操兵の為を思えばこっちの方がよかったりするのだが。
ともあれ、俺がこうして頭部を切断するのではなく操手漕を潰しているのは、当然ながら操手漕の中にいる操手……コラム派の貴族を少しでも減らす為だ。
バルーザがデュマシオンに従い、その上で人馬操兵200機に乗っているのはバルーザの中でも勇者と呼ばれる優れた戦士、つまりバルーザの中でも精鋭中の精鋭。
イシュカークのような小国、それも宮廷での政治は得意でも戦闘が決して得意という訳ではないコラム派が、勝てる筈もない。
実際、コラム派の大半は一方的に押されている。
それでも瓦解して敗走しないのは、ローエンという特級の戦力があるからだろう。
……ちなみにそのローエンだが、乗っている機体は奇岩島で見つけたシュルティ古操兵の中でも特殊な機体ではない。
それに乗る前に乗っていた……操兵闘技大会の個人戦で2連覇したのを称えられ、皇帝から下賜された狩猟機だった。
で、ローエンが乗っていたシュルティ古操兵は何故かアーバダーナ砦にあったと。
他にも操兵の各種部品なりなんなりもアーバダーナ砦にあった事を考えると、誰がこれをやったのかは容易に想像出来る。
ローエンがデュマシオンを見限ったんだと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
だからといって、ローエンがコラム派の獅子身中の虫となった訳ではないのは、ローエンが次々と敵を……デュマシオン派の操兵を倒しているのを見れば明らかだろう。
「おっと」
ローエンについて考えていると、近くまで来ていたコラム派の操兵が槍で突いてくる。
アンノウンは人馬操兵なので、長剣は効果が低い。
……いや、人馬操兵の下半身、馬の足の部分を切断すれば、十分な効果はある。
実際、背後からこちらに近付いて来た操兵がそれを狙っているのを確認し……
だが長剣を振るおうとしたその瞬間、人馬操兵の後ろの足による蹴りが命中し、狩猟機が空を飛ぶ。
ぶつかったのがどこなのかは分からなかったが、それでもあの操兵が再びこの戦いに参加するのは不可能だろう。
場合によっては、他の操兵の戦いによって踏み潰され、死んでしまう可能性すらあった。
そうなったらそうなったで、俺としては別に構わないのだが。
そんな風に思いつつ、俺は再びハルバードを振るって操兵の操手漕を潰していく。
俺が狙うのは、あくまでもコラム派の貴族……つまり、操兵部隊の指揮官だけだ。
操兵にとって指揮官がいないというのは、致命的だ。
いや、中には指揮官がいなくても問題なく対処出来るような者もいるかもしれないが、そんなのは当然ながら多くはない。
結果として、指揮官を失った操兵部隊は混乱し、瓦解……とまではいかないが、その動きは極端に悪くなる。
そのようにしていると……
「マジか」
とある操兵部隊に近付くと、指揮官と思しき操兵……趣味の悪い飾りを持つ狩猟機が背を向けて、しかも部下を置いて逃げ出す。
置いていかれた操兵部隊の方は、一体何があったのか理解出来ないといった様子で動きを止め、そしてアンノウンが近付くと手にした武器を地面に落とす。
『降伏する!』
聞こえてきたその声に、うわぁ……と思う。
指揮官は部下を捨てて逃げ出し、置いていかれた部下は戦いもせずに降伏する。
コラム派の貴族らしいと言えばらしいのかもしれないが……微妙な気分になるな。
「ん?」
降伏をすると言った者の扱いをどうするべきか考えていると、ふと動きのいい操兵がいるのに気が付いた。
勿論、それはローエンではなく……それでいながら、俺に見覚えのある機体でもあった。
「ルーラン?」
そう呟く。
それは間違いなくルーランの操兵だ。
ルーラン以外にも、マウとリロイの操兵もある。
ただし、その操兵は奇岩島の件で報酬として貰ったシュルティ古操兵の狩猟機ではない。
俺がこの世界にやって来たのを拾った時に使っていた操兵だ。
ローエンはともかく、何でルーラン達がシュルティ古操兵を使っていないんだ?
そう思ったが、ルーランの事だけ何らかの理由があってそうしているのだろうというのは予想出来る。
ただ……問題なのは、ルーラン率いるプール三兄弟がコラム派としてこの戦いに参加している事だろう。
恐らくはローエンとの関係からそういう感じになっているのだろうとは思うが、だからといってこのまま放っておく訳にもいかない。
ローエンによってデュマシオン派の兵力が消耗しているのは間違いないが、ルーラン達もそのままにするという事は出来ない。
そんな訳で、俺はアンノウンをルーラン達のいる方に向ける。
……勿論、その途中で遭遇したコラム派の貴族は、全員が操手漕を潰されて死んでいたが。
「おっと、そこまでだ」
プール三兄弟の前にアンノウンを移動させると、伝声管を開いてそう告げる。
すると、その言葉を聞いたルーラン達は動きを止め……
『アクセルか。厄介な奴に見つかってしまったな』
ルーランの操兵から、そんな声が聞こえてきた。
そう言いながらも、言葉には特に動揺した様子はなかったが。
「ローエンに負けない程の動きをしていれば、見つけるのも難しくない。……それにしても、何でコラム派なんかに協力している? まぁ、ローエンが何らかの関係をしているんだろうけど」
『正解だ。ちょっと、ローエンと立ち会いをしてな。その為、儂もだが今のローエンも決して最善の状態ではない。その償い……というのは少し違うが、とにかくそんな感じだ』
「なるほど」
ルーランは酔狂と言ってもいいような、そんな趣味を持っている。
実際、傭兵としての依頼についても自分が面白いと思えるような依頼しか受けないのだから。
俺を拾って少ししてからの時……俺がマイルフィーを手に入れた時の依頼も、ルーラン的には俺の為だけという訳ではなく、純粋に面白いと思ったからこそ、受けたんだろうし。
……そんな感じであっても、凄腕として知られている事から考えれば間違いなく腕利きなのだろう。
そんなルーランが……そして弟のリロイとマウが俺の前から逃げたりせずに向き合っているのだから、今この状況ではしっかりと俺と戦う気があるのだろう。
「それじゃあ……こうして戦場で敵同士になった以上、やる事は決まってるよな?」
『そうだな。アクセルを相手に戦うというのも悪くない』
「……その割には、本気じゃないようだが?」
『何だと? 何故そう思う?』
本気じゃないという俺の言葉に、訝しげな様子でルーランが聞いてくる。
どうやら本気でそのように思っているらしいのは、今の様子を見れば明らかだ。
うん? あれ、これ……もしかしたらルーラン的には本気だったりするのか?
「いや、何故って……その操兵、奇岩島で貰ったシュルティ古操兵じゃないだろ?」
『ああ、なるほど。アクセルの言いたい事は分かった。だが、シュルティ古操兵は性能は高いが、整備をするのが非常に難しいのでな。特に儂らが貰った機体は、奇岩島にあったシュルティ古操兵の中でも特別な機体だけに尚更だ』
なるほど。
俺の場合、このアンノウンは工呪会の全面的なバックアップがあるので、その辺りの心配はいらない。
だが、それはあくまでも俺だからであって、ルーラン達は俺のように工呪会のバックアップはない。
「分かった。なら……そろそろ始めるぞ」
そう言いながら、俺はアンノウンにハルバードを構えさせる。
それに対して、ルーランは長剣を構える。
……てっきりリロイとマウの2人もルーランと一緒に俺と戦うのかもと思っていたが、どうやら違うらしい。
ルーランの実力を信じているというのもあるだろうが、一騎打ちに介入しようとする者達に対する牽制というのも大きい。
それでいながら、牽制する相手がデュマシオン派の操兵ではなく、コラム派の操兵だというのは……自分で言うのもなんだが、今回の戦闘で俺はかなりの活躍をしている。
また、イシュカークの者であれば、アンノウンの強さは十分に理解しているだろう。
そんなアンノウンがルーランという強敵と戦うのだから、その隙を逃すようなことをせず、この機会に俺を倒そうと考えるのはおかしな話ではない。
『行くぞ!』
叫びと共に、ルーランの操兵が長剣を構えて接近してくる。
その動きは素早く、それこそその辺の軽量級狩猟機よりも勝っているだろう。
中量級狩猟機でそのような事が出来るのは、ルーランの機体が一品物であるというのもあるし、それと同時にルーランの技量が突出しているかのも大きい。
そんなルーランに対し、俺は素早くハルバードを振るう。
ギン、と。
そんな金属音と共にハルバードと長剣の刃がぶつかり合う。
……だが、その一撃で吹き飛ぶのはルーランの操兵だ。
これは技術もそうだが、単純にアンノウンとルーランの操兵の能力差が大きい。
とはいえ、吹き飛ばされたからといってそれで終わりという訳ではない。
実際、ルーランの操兵はすぐに体勢を立て直すと再びこちらに向かって攻撃してくる。
当然のように狙いはアンノウンの足だが……こちらもそれが分かっている以上、そう簡単にそのようなことをやらせる筈もなかった。
ギン、ガン、ギン、ガン、と。
何度となくハルバードと長剣のぶつかる音が周囲に響き……
そうして戦っていると、不意にルーランの操兵が距離を取る。
「どうした?」
『残念だが、ここまでだ』
そう言い、ルーランの操兵が長剣の切っ先を戦場のとある場所に向ける。
そちらに視線を向けると……
「なるほど」
ルーランが戦闘を中断した理由を理解し、俺もまたアンノウンに構えさせていたハルバードを下ろす。
そうしてルーランが示した方を改めて確認すると……そこではローエンの操兵とデュマシオンのソレイヤードが向き合っている。
ただし、ローエンの操兵はデュマシオンのソレイヤードの前に立つまでに既に相当のダメージを受けており、とてもはないがまともに戦える状態ではない。
だが……それでもローエンはデュマシオンに向かい……ソレイヤードの持つ長剣で、あっさりと倒されるのだった。
「もう、行くのか?」
戦いが終わった後、俺はルーランの操兵にそう声を掛ける。
ちなみに周囲には他に誰もいない。
コラム派の戦力はその多くが降伏するか、あるいは逃げている。
デュマシオン派がそれを追撃しているので、コラム派の戦力は王都のイシュカロンに戻るまでの間に大きな被害を受けるだろう。
『ああ。今回の内乱で敵対した以上、暫くはお前達の前に顔を出せないしな。謝罪の品……と言ってもいいのかどうかは分からんが、俺達が奇岩島で手に入れたシュルティ古操兵は返却させて貰う。扱いにくいというのもあるし』
そう言うと、ルーランは2人の弟を連れて戦場を去るのだった。
「それはまた……ある意味で予想外と言うべきか、それとも納得出来たと言うべきか」
ヘルガからの報告にそう返す。
ただ、そこに若干の呆れがあるのは、ラオダメイアの件を聞いたからだろう。
何でもコラムは王城にある謁見の間で毒によって死んでいたらしい。
ただし、それは他人に毒殺されたのではなく、内乱での負けを悟って自分で毒を飲んで死んだのだとか。
そしてコラムの側には、同じく毒で殉死したメイドが1人いたという。
だが……そんな中で、ラオダメイアのみは違う。
恐らくはコラムによって殺された状態で謁見の間に死体が転がっていたのだ。
それと比べれば、ローエンと一緒に裏切ったダリルの方が素直に感心する。
ヘルガが調べた限りだと、ダリルは仲間のミアに好意を……男女間の好意を抱いていた。
だが、そのミアはローエンを愛しており、ローエンが裏切ったのならと自分もデュマシオンを裏切ってコラム派に行こうとしたのだが、それをダリルが止めたのだ。
そしてミアの代わりに自分がローエンの助けになる為にコラム派に寝返り……戦いの中で死んでしまう。
愛に殉じたと言えば、らしいのかもしれないな。
「恐らく、コラムが一緒に死のうとしたところで、それを嫌がって逃げ出そうとし、そこでコラムに殺された……といったところでしょう」
「だろうな」
俺はヘルガの意見に同意する。
実際、話を聞いた限りではそう判断するしか出来ないのだから。
……まぁ、もしかしたらアーシェラが間者を動かしてそういう風に見えるようにしたという可能性もあったが、それはそれで構わない。
ともあれ、これで内乱が終わったのは間違いなく……そして、俺にとっては幸か不幸か分からないが、デュマシオンはローエンを殺した事によって龍の王の呪縛から解き放たれ、以前のデュマシオンに戻ったのだった。