転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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番外編263話 聖刻群龍伝編 56話

「ヴァーキンの降伏まではあっという間だったな」

「そうですわね。ですが、これで正真正銘ラグーン国主同盟として成立したのは間違いないのですから、悪くなかったのでは?」

 

 パーティに参加しながら、俺はヘルガとそんな言葉を交わす。

 このパーティは、イシュカークの首都がイシュカロンからミカエラという場所に遷都された事による祝賀パーティだ。

 ちなみに俺とヘルガの会話から分かるように、遷都前にヴァーキンは既に攻められ、降伏している。

 ヴァーキンという国はラオダメイアの母国でもあるし、実際にラオダメイアを通して色々とイシュカークに陰謀を仕掛けてきたし、他にもガイザスとの決戦の時にラグーン国主同盟を裏切ってイシュカーク軍に攻撃を仕掛けたり、逃げ出したガイザスを匿ったり、コラム派の反乱が行われる前にイシュカークに攻めて来たり……と、本当に色々とやらかした国だ。

 なので、デュマシオンとしてもヴァーキンをそのままには出来なかったのだろう。

 もっとも、ヴァーキンは結局のところ小国でしかない。

 ヴァーキン攻めには結局俺が戦いに参加するまでもなく、あっさりと負けてしまったのだが。

 少し意外だったのは、デュマシオンがヴァーキンの扱いをそこまで酷い事にはしなかった事だろう。

 ローエンとの戦いによって龍の王の呪縛から解き放たれはしたのだが……ヴァーキンがやらかしてきた事を思えば、甘いと思うのは俺だけではない筈だ。

 実際、イシュカークの中でもそういう話は聞かれるし。

 ただ、デュマシオンが一皮剥けたのは間違いなく……今のデュマシオンに対し、何かを正面から言える者はいない。

 正確にはそういう風に言える者はそれなりにいるのだが、そのような者達はヴァーキンの扱いに対して特に不満を持っていないらしいので、ヴァーキンの扱いに対して不満を持っている者の中には正面からデュマシオンに言える者はいないというのが正しいか。

 そんな風に思いながら、俺はデュマシオンに視線を向ける。

 そこにいるのは、デュマシオン以外にちょび髭が印象的な男と、筋骨隆々の大男だ。

 ちょび髭の方はハダートといってヒクソスという列強に数えられる国の国主で、筋骨隆々の大男はカフラー。海洋国ラグールの国主だ。

 ……もっとも、ハダートはともかくカフラーはイシュカークではかなり知られている。

 何しろナカーダに占領されていた時から物資を運んでくれた相手だし、バルーザとの最終決戦においてもバルーザの勢力圏内に侵入する時はラグールの船を使わせて貰ったのだから。

 

「アクセル様、あちらも……」

「ん?」

 

 ヘルガに示された方を見ると、そこにはエアリエルとフィーンの姿があった。

 どちらもデュマシオンに男女的な意味で好意を抱いていたのだが、内乱の後の諸々でいつの間にかデュマシオンとエアリエルがくっついていた。

 ちなみにフィーンの方はデュマシオンではなく、バルーザの中で最初にデュマシオンを認めたハン氏族の長、バハールとそういう関係になっているらしい。

 そんな2人に近付いていくのは……ソーキルドだ。

 帝国からの使者という事で来ているらしい。

 デュマシオンが帝都から追い払われた事を思えば、よく顔を出せたなと思う者も多いだろう。

 実際、このパーティに参加している者の多くからそんな視線を向けられているのだが、ソーキルドはそのような視線は全く意に介していない。

 そのくらいの面の皮の厚さでなければ、実質的な敵対国であるイシュカークにやったきたりはしないが。

 だが……そんな中、不意にフィーンがソーキルドの頬を叩く。

 拳ではなくビンタだったのがちょっと疑問だが……

 

「アクセル様?」

「今の流れが少し不自然だ。ちょっと見てきてくれ」

 

 そう言う俺の言葉にヘルガは頷き、俺から離れていくのだった。

 

 

 

 

 

「まぁ、そんな事だろうとは思ったけどな」

 

 パーティが終わった後、ヘルガからの報告にそう返す。

 このミカエラは川……それもかなり深い川の港でもある。

 その港に来る船が、いきなり燃えたらしい。

 また、新王宮建設予定地には現在門だけがあるのだが、その門はイシュカークの国産品であるガラスが使われたかなり豪華な代物で、イシュカークの新たな象徴……というのは少し大袈裟かもしれないが、とにかくこのパーティの目玉でもあった。

 実際このパーティに参加している者達の多くは日中にその門を見て感嘆の声を上げたらしいし。

 その門が破壊されるとイシュカークの面目は丸潰れになるのだが、燃えている船の件を陽動としてそれを破壊しようとした聖刻の園の練法師がいたのだが、こちらはエアリエルと……こっそりと援護したヘルガによって防がれたらしい。

 

「どうやら、あの騒動の時にドサクサ紛れにソーキルドが今回の件を教えたようですね」

「つまり、今回の騒動はサイオンの仕業か」

「恐らく……いえ、間違いなく。あの男であれば、このような事をしてもおかしくはないでしょうし」

 

 そう言うヘルガの視線には呆れと軽蔑の色がある。

 以前ヘルガはサイオンに仕えていたのだが、今となってはもうそういうのは関係ないといったところか。

 

「デュマシオンも恨まれているな」

「いえ、この場合はアクセル様では?」

 

 ヘルガの言葉に、そうか? と疑問を抱く。

 だがすぐに俺がサイオンの片腕と片目を奪った事を思いだし、それもそうかと納得する。

 サイオンは同じ龍の器としてデュマシオンに強い対抗心……というか、敵対心を持っているのは間違いない。

 だが同時に自分の片腕と片目を奪った俺に対しては強い憎悪を抱いてもおかしくはない。

 サイオンは有能だが、見るからにプライドの高い男だ。

 個人的には人に使われる事によってその能力を発揮出来るのだろうと思うが、そのプライドの高さから決して人に仕えるといった事は出来ない。

 

「どちらにしろ、帝国がちょっかいを出してきたのは間違いないな。……まぁ、サクヤーの件も関係してるのかもしれないが」

 

 デュマシオンの女であるサクヤーは、何故か帝都を出奔した。

 いや、何故かというのは違うだろう。

 愛する男を求めての行動であるのは間違いないのだから。

 だが、そのサクヤーは旅の途中で行方不明になった。

 サイオンが何か手を回したのか、それとも盗賊の類に捕らえられたのか。

 その辺りの理由は俺にも分からないが、恐らく……本当に恐らくの話だが、無事ではすまない筈だ。

 ナカーダのイシュカーク侵攻から始まった群雄割拠。

 それによって盗賊がかなり増えているというのは、俺も知っている。

 もしそんな盗賊達に皇女のサクヤーが捕まっていたら……それこそ18禁的な状況になっていてもおかしくはない。

 とはいえ、この世界が原作ありきという事を考えると、恐らくそんな心配はいらないと思うけど。

 

「その件もありましたね」

 

 ヘルガはそこまで興味を抱いていないといった様子でそう言う。

 実際、ヘルガにしてみればデュマシオンの女であるサクヤーという存在は決してそこまで興味深い存在という訳ではないのだろう。

 

「アクセル様が気になるなら、こちらでも捜索してみますが?」

「いや、その辺は別に気にするな。俺達が関わる事でもないしな。それに……今回はこの程度ですんだが、次のパーティでは何が起きるか分からないし」

 

 このミカエラは、あくまでもイシュカークの首都だ。

 それと比べて、もう少ししたら行われるパーティは、ラグーン国主同盟全体の首都――という表現がこの場合正しいのかどうかは分からないが――の誕生を祝うパーティだ。

 アマルーナという名の首都を祝う為の。

 

「サイオンもまた動くと思っていいでしょう」

「だろうな。俺もその意見には賛成だ」

 

 そうして俺とヘルガはパーティの後の余韻を楽しむのだった。

 

 

 

 

 

「噂をすればって話はあるけど……うん、これは予想外だったな」

 

 イシュカークの首都の件から少し経ち、アマルーナが連合の首都として宣言されたパーティで、俺は視線の先の光景に驚くことしか出来なかった。

 このアマルーナにはガス灯が存在したり、イシュカークのガラス技術を使った水晶宮があったりと、この世界について知ってる者が多ければ驚くような光景がそこには広がっていた。

 ちなみにそんな中でも最も驚いたのは、エアリエルが女らしい格好をして、いかにも淑女といった様子で姿を現した事だろう。

 ……ましてや、そのようにして姿を現すよりも前には男物の服を着て護衛のような感じでデュマシオンの側にいたのだから、余計にその格差に驚く者は多かった。

 だが……そんな者達であっても、目の前の光景を見れば驚くのは当然だろう。

 このパーティには多くの国から使者がやってきている。

 その中でも、イシュカークと因縁浅からぬエリダーヌからも使者が来たのだが……その使者は、予想外なことにエリダーヌの国主であるレクミラーだった。

 バルーザ戦役の時にもレクミラーを見た事があったが、印象としては黄金の獅子といった感じか。

 もっとも、こう……何か少し違和感? そんなものがあるが。

 ともあれ、そうしてレクミラーが姿を現した事で多くの者達の視線がそちらに向けられたのだが、そんな中で別の反応をした者がいた。

 それがデュマシオンで、そのデュマシオンの視線はレクミラーの後ろにいた、サクヤーに向けられていたのだ。

 その手に赤子を抱いたサクヤーは、そんなデュマシオンを見ると涙を流す。

 あの様子からすると、サクヤーの抱いている子供はデュマシオンの子供なのだろう。

 ……まさか、レクミラーの子供なんて事はないと思うし。

 そんな様子を見ながら、またこれは一波乱あるなと、そう思うのだった。

 

 

 

 

 

 サクヤー皇女の出現から、事態は目まぐるしく動く。

 やはりサクヤーが抱いていた子供はデュマシオンの子供で間違いなかったらしく、それを知ったデュマシオンはサクヤーに結婚を申し込んだらしい。

 その噂通り結婚式は行われ、サクヤーは正式にデュマシオンの妻……イシュカークの王妃にしてラグーン国主同盟の王妃的な存在となる。

 ……実際には別にデュマシオンはラグーン国主同盟の王という訳ではないのだが、主導的な立場にあるのは間違いない。

 あるいは以前……コラム派の内乱があるまでなら、デュマシオンにそこまでの地位が与えられる事はなかったのだろうが、それと前後して起きた、周辺国のイシュカークへの侵攻。

 特にバシバーンの指揮官の首を送りつけたというのは、周辺諸国の持つデュマシオンは甘いという認識を一変させた。

 実際には龍の王の呪縛……というか、影響されてのもので、普段のデュマシオンではとてもではないがそんな事は出来ないのだが……まぁ、その辺りは知られるような事はないだろうし。

 まぁ、そんなデュマシオンも色々と忙しかったのは間違いないのだろうが……そんな中、急激に事態が動く。

 

「は? バルーザの人馬操兵がか?」

 

 驚きと共にそう返すと、報告を持ってきたヘルガが頷く。

 

「はい、どうやらブランデン周辺で略奪を繰り返し、それなりに大きな勢力となっているようです」

 

 ブランデンというのは、バルーザがラムクト山脈を越えてやってきた場所の一つだ。

 だが、バルーザはデュマシオンに忠誠を誓った。

 だというのに、そのバルーザの……ましてや人馬操兵がブランデンを中心としたその周辺で略奪を行っているというのは、ちょっと信じられない。

 バハールを見れば分かるが、バルーザにとって龍の王というのは絶対の忠誠を誓うべき存在だ。

 例えば、もし龍の王が死ねと命じれば、何の躊躇もなく命を差し出す……そんな者達がバルーザなのだ。

 だというのに、そのバルーザがデュマシオンの命令を破ってラムクト山脈を越えてくるというのは、理解出来ない。

 

「何でまたそんな事に?」

「まず……私が入手した情報によれば、今回の騒動を起こしたのはカン氏族です」

「ああ、なるほど。それは分からないでもない」

 

 カン氏族というのは、オル・カンが率いていた氏族だ。

 そしてオルは龍の王については全く信じておらず、自分達の利益の為に侵略を行っていた。

 その結果として、真の龍操兵に乗ったソレイヤードによって倒された訳で……それはつまり、バルーザの中でも最大勢力たるカン氏族ではあったが、その最大勢力が龍の王に逆らった最大の戦犯という事になり、バルーザの中でも肩身が狭くなり、それでラムクト山脈を越えてきたのだろう。

 その点でもまたデュマシオンの……龍の王の命令に逆らったという事を意味していたが、その辺りについてもやはりオルの影響なのだろう。

 

「その為、同じバルーザの者という事で、バハールが部隊を率いて人馬操兵で出るという事になったようです」

「……そうか」

 

 念動力とは違うが、また妙に嫌な予感がしながらも、この件については口出し出来る筈もなく……俺はそれ以上は何も言わない。

 だが、それから少ししてバハールが死んだという事を聞き、その上でカン氏族を取り込んだのだが、ガイザスだったと聞かされて、驚く事になる。

 ……それよりも驚いたのは、ヘルガ曰くどうやらガイザスもまた龍の器だという事だったが。

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