「うわ、マジかあれ……」
瞬動を使える俺は、龍子からの指示で先行したのだが……そんな俺が見たのは、ヴィランのグループが戦っている光景だった。
もっとも、この場合はヴィランのグループというよりはそのグループの双方に1人ずついる巨大化の個性を持つ者同士の戦いが強烈な印象を残す。
片方は、鮫? といった印象を受けるような存在で、もう片方は顔はちょっと異形系っぽいが、身体は普通の人間の男のそれだ。
双方共に周辺のビルと同じくらいの大きさになっており、戦っていた。
……巨大化の個性って、それなりに希少だって話を以前聞いた覚えがあったんだが、その辺はどうなっているんだろうな。
あるいは不運にも巨大化の個性を持っている奴が双方のヴィラングループにいたのか。
ともあれ、そんな2つのヴィラングループによって周辺の被害はとんでもないことになっている。
当然ながらヴィランとは全く関係のない一般人までもが、その騒動には巻き込まれており、怪我人も多い。
「ちっ」
思わずそう舌打ちしたのは、怪我人の多さもそうだが……スマホで動画を撮っているような連中がそれなりにいるという事だろう。
普通なら、こんな状況であれば即座にこの場から逃げ出してもおかしくはないのに、スマホのカメラ越しにこの光景を見ているので、現実感の類がないのだろう。
厄介極まりないとしか言えないそんな状況ではあったが……幸いにも俺よりも先に到着していた警官達が半ば強引にそういう連中を避難させていた。
中にはそんな警官達に逆らうような者も何人かいたが、そのような者達は半ば強引に……乱暴にと言ってもいいのかもしれないが、とにかく引っ張られていく。
本来ならここで炎獣でも出して怪我をした者達……あるいは瓦礫で動けなくなっているような者達を助けたいところだが、それはそれで難しかったりする。
何しろこの状況でいきなり炎獣……白炎によって構成された獣なんかが出てくれば、それをヴィランの個性によるものと考えるような者も出て来るだろう。
あるいは俺がもっと有名になっていて、個性ということになっている混沌精霊には炎獣によって生み出せる何かがあるというのがもっと大々的に広がっていれば、もう少しどうにかなったかもしれないが……そんなのは今更の話か。
そんな訳で、この状況で俺がやるべきなのは暴れているヴィランを倒す……殺すのではなく、気絶させて警官に引き渡す事だな。
出来ればあの巨大化しているヴィラン達に対処をした方がいいと思うんだが、今のこの状況でそういう事をすると、警官達からも怪しまれそうだな。
その場合は仮免を見せればいいだけだが、今のこの状況でそういうことをしているような余裕はない。
……いやまぁ、警官の中にも杓子定規なだけじゃなくて、臨機応変に対応出来る者とかはいると思うから、そういう相手と接触出来れば俺が巨大化した2人のヴィランの対処をしてもいいんだが。
そんな風に思いつつ、俺は少し離れた場所で争っているヴィラン達に近付く。
幸いなことに、そのヴィラン達は周囲に誰もいない状況で争っていた。
単純に他の者達からはぐれたのか、あるいは何かもっと別の理由があるのか。
その辺りは俺にも分からなかったものの、とにかく今は少しでもヴィランの数を減らすのを優先するべきだった。
そんな訳で、そんなヴィラン達に向かう。
「んだとごらぁっ!」
「くたばれや、クソが!」
らしい言葉遣いで戦っているヴィラン。
片方は石に覆われた拳で相手を殴ろうとし、もう片方は腕から生えた木の棒で相手を殴ろうとしている。
言ってみれば、メリケンサックと木刀の戦い的な?
それなりに喧嘩慣れをしているらしく、双方共に相手を攻撃する動きに躊躇がない。
だが……ヴィランだけあって、相手を攻撃するのには慣れている様子だったが、この状況で自分達が狙われるといったようなことは考えていなかったらしい。
俺がかなりの距離まで近付いても、それぞれ自分の目の前にいる相手だけを見ていた。
「そこまでだ」
そんな状況であっても、声を掛ければ当然のようにこちらの存在には気が付き、戦いを止めてこちらを見ようとしたが……次の瞬間には双方共に俺の一撃によって気絶する。
多少は喧嘩慣れをしていたとしても、結局はその程度でしかないのも事実。
チンピラよりちょっと危険なタイプである以上、俺としては倒しやすい相手でしかない。
そんな訳で気絶した二人のヴィランを捕まえつつ、避難誘導を行っている警官に近付く。
するとその警官もすぐに俺の姿に気が付いたのだろう。
慌てた様子で近付いてくる。
「プロヒーローの方ですか?」
「ああ、このヴィラン2人を頼む」
実際には俺はあくまでもインターンで来ているだけなので、プロヒーローという訳ではないのだが、向こうがそんな風に勘違いをしてくれるのなら、それに乗っからせて貰うとしよう。
ここでウダウダとやってる暇はないしな。
仮免を見せたりするのも面倒だし。
そんな訳で、この警官に気絶したヴィランを引き渡すと、続けて他に暴れているヴィラン達を倒しては、警官達に引き渡していく。
そうして10人程のヴィランを引き渡していると、ようやく龍子達が到着する。
「アク……いえ、アークエネミー、状況は?」
いつものように俺を名前で呼ぼうとした龍子だったが、すぐに今はプロヒーローとしての活動の時間だというのを思い出したらしく、ヒーローネームで聞いてくる。
「見ての通り、巨大化したヴィランを含む2つのヴィラングループが抗争をしている状況だ。今は巨大化している奴以外のヴィランを倒しては、警官に引き渡していた」
「そう。……なら。マウントレディ、あの巨大化しているヴィランの相手をお願い出来る?」
「それはいいけど。相手が2人いるから、私だけでどっちも鎮圧するのは無理よ? ここが街中じゃなければ、どうにか出来たかもしれないけど」
優のように大きくなる個性というのは、強力だ。
一定の強さまでにしか通用しないが、それでも大きいは強いのだから。
だが、街中で巨大な存在が暴れれば、当然のように周囲に被害が出る。
……実際、優は以前にはその影響で報酬とかの大半を修理費として支払っていたくらいなのだから。
だからこそ、優としては今のこの状況で自分だけで巨大化した2人のヴィランの相手をするのは難しいと、そのように思ったのだろう。
「分かったわ。なら……もう片方はアークエネミーにお願い出来る? ネジレちゃんは私と一緒に他の子達を率いて巨大じゃないヴィランを鎮圧していくわよ」
そう龍子が指示を出し、すぐに行動に移る。
俺が巨大化したヴィランを1人受け持つのはいいけど、龍子の個性を使ってドラゴンになれば、巨大化したヴィランに対処可能だと思うんだが。
あるいは優が懸念したようにドラゴンに変身すると周辺に被害を与える可能性が高いから、今のように指示を出してきたのかもしれないが。
ともあれ、この場の指揮官である龍子からの指示が出た以上、後は行動するだけだ。
「マウントレディ、お前はどっちをやる?」
「私は魚っぽいヴィランをやるわ」
「なら、俺が残りの1人だな」
そうして短く言葉を交わすと、それぞれに行動する。
龍子を始めとして他の面々も既に行動を起こしている。
視線の先では、拳藤が巨大化した拳の一撃でヴィランを殴り飛ばしているのが見えた。
また、瀬呂のテープによって拘束され、動けなくなったヴィランもいれば、手袋や靴を脱ぎ、完全に透明になったのだろう葉隠の攻撃を受けて気絶したっぽいヴィランの姿も見えている。
それ以外にも、龍子やねじれによって次々と捕らえられていくヴィラン。
龍子は個性を使ってドラゴンに変身しなくても、普通に相手を拘束することが出来ていた。
この辺は、人気だけじゃなくてきちんと実力もあるということの証だろう。
そんな風に思っていると、優が個性を使って巨大化する。
突然現れた優の姿に、巨大化していたヴィランの2人も当然ながら気が付き……
「げっ、マウントレディ!?」
魚類の顔を持つヴィランがそう叫ぶ。
2人いるヴィランのうち、そっちが驚いたのは、巨大化した優が明らかに自分に狙いを定めていると理解したからだろう。
もう1人の巨大化したヴィランは、優の意識が自分に向けられていないのを理解したらしく、そっと後退りする。
少し慌てたように周囲の様子を見ているのは、自分の仲間達がどうなったか気になってのものだろう。
もっとも、暴れていたヴィランの多くは既に龍子達によって鎮圧されており……いつの間にか戦っていたヴィランのグループが協力して竜子達と戦っているといったような状況になってはいたが。
そんな仲間達に戸惑った様子を見せ……うん、そこだ。
道路の中央、倒れてもビルに倒れ込まないような場所まで巨大化したヴィランが移動したのを見て、虚空瞬動を使って一気に接近し、顎先に向かって拳を振るう。
巨大化したヴィランは自分が一体何をされたのか分からないまま、一瞬にして脳震盪を起こして地面に倒れ込むのだった。
そして優と向き合っていたもう1人の巨大化したヴィランも、いきなりの展開に驚き、思わずこちらに視線を向け……優がそんな行動を見逃す筈もなく、あっさりと取り押さえられるのだった。
「ふぅ……今日はご苦労様。しっかりと貴方達の力も見せて貰ったわ」
暴れていたヴィランの鎮圧が今日の最大の仕事だった。
……実際には他にも何件かヴィランが暴れるといったようなことがあったのだが、そちらについては特に苦戦するようなこともなく、無事に鎮圧する事に成功している。
やっぱり今日のパトロールで一番印象に残ったのは、あの巨大化した2人のヴィランなんだよな。
「あれだけの実力があれば、今度の集まりにはアクセルだけじゃなくて貴方達も連れていっても構わないわね」
「えっと、何の集まりがあるんですか?」
拳藤のその問いに、龍子は真剣な表情で口を開く。
「ヒーローネットワークを使って、協力の要請があったのよ。協力を要請してきたのは、あのオールマイトの元サイドキック、サー・ナイトアイよ」
オールマイトの元サイドキックというところで、何人かが反応するが……なるほど、今回の騒動はこんな感じなのか。
サー・ナイトアイの事務所には緑谷が行っている。
つまりこれもまた、原作の流れに俺が巻き込まれた形なのだろう。
もっとも、これは元々原作でも龍子が騒動に巻き込まれていたのか、あるいは優とチームアップをしている事で戦力として数えられるようになったのか……その辺りは、俺には分からなかったが。
ただ、次のヒーロービルボードチャートでトップ10入り間違いなしと言われているのを思えば、原作でも普通に龍子は今回の騒動に巻き込まれていたような気はするけど。
「サー・ナイトアイはプロヒーローの中でもトップクラスの実力を持ってますよね? そんな人でも応援を要請するような事件があったんですか?」
瀬呂にしてみれば、授業で直接オールマイトから教えて貰っているだけに、そのオールマイトの元サイドキックが協力を要請するというのが驚きなのだろう。
……もっとも、オールマイトはプロヒーローとしては文句なしの存在だが、教師としては新米でしかない。
実際、相澤に色々と注意されている光景を見ることも多かったし。
「ヒーローネットワークで協力を要請してきたという事は、間違いなくそういう事なんでしょうね。内容については実際に会議をする時に説明するらしいから、具体的にどういう事でそうなったのかとか、その辺についてはまだ分からないわ」
「ねぇ、ねぇ。何でサー・ナイトアイがそんなに苦戦するの? 不思議、不思議」
「あのね、ねじれ……プロヒーローには相性というのもあったりするのよ。それを思えば、サー・ナイトアイがヒーローネットワークで助けを求めたからといって、そこまで不思議がる事はないでしょう?」
そうねじれに言う龍子だったが……サー・ナイトアイの事務所には緑谷がいて、そしてプロも含めたヒーローの中でトップクラスと相澤に称されるミリオもいる。
その辺の状況を考えれば、戦力的に問題があるとは思えないんだが。
それにサー・ナイトアイの事務所は緑谷曰くそこそこの大きさで、サイドキックもそれなりにいると聞く。
……ちなみにサー・ナイトアイの事務所で峰田一押しなのがバブルガールというヒーローらしい。
峰田の一押しという事でどういうヒーローなのかは分かって貰えると思う。
三奈と同じく皮膚の色が一般人と違う……というのはともかく、上半身の大半が露出しており、下着も着けていない……それ、戦いになったら間違いなく胸が見られるだろうと思える、そんなヒーローコスチュームを着ている女のプロヒーローだ。
ある意味、ミッドナイトの今のヒーローコスチュームよりも危険な存在なのは間違いなかった。