龍子の事務所でインターンに行った翌日……教室に入ると、上鳴や三奈がスマホをこっちに向けてくる。
「みろよ、アクセル、瀬呂、葉隠。これ、これ!」
「あー、もう、本当に羨ましいなぁ! あのトーナメントで勝ってれば、私もニュースになってたのに!」
上鳴と三奈が見せてくるのは、昨日の一件の奴だった。
結構な活躍をした事もあってか、それなりに大きくネットのニュースになっている。
……朝食の時に1階の共用スペースにあるTVでは、特に俺達についてのニュースとかはやっていなかったんだが。
この辺の小さなところを拾うのも、ネットニュースらしいよな。
「おい、これみろよ。切島の件もニュースになってるぞ!」
砂糖がこちらもスマホを見せてくると……なるほど、そこには切島の一件が書かれていた。
「あー……あはは。ちょっとその、頑張ってみたんだよ」
「何だ、ニュースになった割にはあまりやる気がないっぽいな」
てっきりもっとテンションが上がっているのかと思ったんだが、切島の様子を見る限りだと、そういう訳でもないらしい。
「ちょっとあったんだよ。詳しい話は言えないけど」
うーん、切島らしくない。
そんな風に思っていると、ヤオモモがこちらにやってくる。
「アクセルさん、少しよろしいでしょうか?」
「ん? どうした? ……飯田の方はいいのか?」
教室の中では、飯田が学生は勉強第一! といったようなことを主張していた。
いやまぁ、その言葉は決して間違っている訳じゃないんだけどな。
「はい。皆に対する忠告は飯田さんに任せておけば構わないでしょう」
「……そういうのが向いてるのは間違いないけどな」
こう……何と言うか、飯田は正論パンチが好きなんだよな。
それが正論だから、その件について不満があっても、言い返すのが難しい。
とはいえ、今の飯田はプロヒーローとしてやっていく上で利点にもなるが、欠点にもなると思う。
その辺りの判断はちょっと難しいよな。
「ええ。それで……うちの者から連絡が入ったのですが、死穢八斎會という組織をご存じですか?」
「死穢八斎會? 何だ、その何とも言えないような名前は」
「暴力団です」
「……暴力団……まだ生き残っていたんだな」
ヒーロー社会になった事によって、暴力団というのは一気に数が減った。
その代わりにヴィランの集団が出てきたのを思えば、結局のところより危険になっただけって感じではあるんだけどな。
ともあれ、今となっては暴力団の類は非常に少ない。
絶滅危惧種といった表現が相応しいような、そんな存在だろう。
まぁ、暴力団が絶滅してもそれで困るような事はなかったりするので、いつ絶滅してくれても構わないとは思うけど。
そんな暴力団について、一体何が?
「はい。多くの暴力団は壊滅するか、あるいは解散するか……もしくは地下に潜ったりしているらしいですが、この死穢八斎會というのはまだ堂々と暴力団としてやっています」
「それはまた……ある意味凄いな」
このヒーロー社会で暴力団をやっているというだけで、プロヒーローに狙われてもおかしくはない。
実際、プロヒーローは解決した事件によって報酬を貰う出来高制だ。
それだけでは生活出来ない者もいるので、副業も認めているが。
寧ろプロヒーローの中にはその副業こそが本業になっているような者も多いと聞く。
そんなプロヒーローが過剰な状態だけに、暴力団なんてのはいい標的だと思うんだが。
それでも今もこうしてまだ暴力団としてやっていけているという事は、何かがあるんだろうな。
「ええ。ただ……その……」
そこまで言ったヤオモモは、周囲にいる者達が俺達に意識を向けていないのを確認すると、それでも周囲に聞こえないように小声で話す。
「実は、その死穢八斎會……どうやら壊理ちゃんと関係があるようなのです」
「……何?」
ヤオモモの口から出たのは、俺にとっては完全に予想外の言葉。
……いや、でも考えてみればそこまで予想外でもないのか?
仮免試験の前に壊理を保護して、そして今この時に死穢八斎會の名前が出た。
緑谷からは何も聞いていないし、龍子からの情報もないが……恐らくサー・ナイトアイの一件は、タイミング的に死穢八斎會が関係しているような気がする。
もっとも、実際には全く別の話という可能性もないではないのだが。
「何でそう判断したんだ?」
「うちに入った情報によると、私達が壊理ちゃんを助けた場所に少し前から死穢八斎會に所属する人達が姿を現しているそうです」
「……今更か?」
これが、俺達が壊理と遭遇してすぐの時であったりすれば、死穢八斎會が壊理の件に関係しているというのは分かっただろう。
だが……俺達が壊理と遭遇してから、既に結構な時間が経っている。
だというのに、何故今更死穢八斎會が姿を現しているのかが分からない。
……他にも分からない事としては……
「そもそも何でそういう情報がヤオモモの家に入るんだ?」
そう、それもまた疑問だ。
だが、ヤオモモはそんな俺に対して笑みを浮かべる。
「アクセルさんも知っての通り、私のおうちは資産家です。そうなれば、色々と情報が入ってきますし……一応、壊理ちゃんの件もあって、念の為にその辺りの情報を入手出来るようにしていたのです」
そう言ってくる。
まぁ、ヤオモモの家……八百万家は日本においても有数の名家という話だし、それを思えば、そういう情報が集まってきてもおかしくはないのか?
あるいは、もしかしたら情報が集まってきたというのは誤魔化す為に言ってるだけで、もしかしたら諜報部……という程に大袈裟なものではないが、とにかくそんな感じの者達がいたりしてもおかしくはない。
「話は分かった。それで、死穢八斎會とやらの連中は具体的に何をやってるんだ?」
「例えば、どこかの店で働いている人の中でお金に困っている人に接触して、お金と引き換えに防犯カメラの映像データを貰っているとか」
「それはまた……」
完全に当たりだな。
とはいえ、不幸中の幸いと言うべきか、俺達が壊理を確保してから影のゲートを使って転移する姿は見られていない。
だとすれば、例えば壊理を連れて歩いている俺やヤオモモ、拳藤といった面々を防犯カメラの映像データで確認しようとしても難しい。
とはいえ、俺達が壊理と接触したところの近くに防犯カメラの類があったら、俺達が壊理と入ったのが映像データに残っているのを最後に、それ以後はどこにもいないという事であやしまれてもおかしくはない。
そうなると問題は……
「俺達が壊理と遭遇した場所の近くに、どれだけの防犯カメラがあったか……そして防犯カメラがあったとすれば、そのデータが死穢八斎會に渡っているかどうかだな」
「数はあまり多くはありませんが、それでも幾つかはあるそうです」
「……となると、今更だがその辺りをどうにかした方がいいな」
映像データをどうにか出来れば、もし死穢八斎會がそれを入手したとしても、そこに俺達の姿はない。
「ですが、そのような事は出来るのですか?」
「俺が直接行ってどうにかするって方法もあるが……ヒーロー社会でそれは出来るだけ避けたいんだよな」
例えばサイコメトリーやそれに類した個性の類があるとも限らない。
あるいは、それこそある程度過去の映像を再現出来るよといったような個性があってもおかしくはないのだから。
それこそこの世界においては、色々な……俺には想像も出来ないような、そんな個性がある可能性も十分にある。
であれば、俺が影のゲートで直接出向くというのは自殺行為に等しい訳だ。
となると……頼れるのは、ルリとラピスか。
あるいはネギま世界の長谷川辺りにも声を掛けてもいいのかもしれないが、多分ルリとラピスでどうにかなると思う。
ただし、ルリとラピスでどうにかなるのは、あくまでもその防犯カメラのデータを保存しているPCがネットに接続していればの話だ。
……まぁ、このヒロアカ世界では基本的にネットに繋がっている事が多いので大丈夫だとは思うが。
これがもっと……そう、例えば公安にあるPCとかなら、それこそハッキングとかそういうのに備え、敢えてネットに接続させていないとか、そういう事もあったりもするんだろうが、さすがに街中にある普通の店でそこまでって事はないと思う。
他に考えられる可能性があるとすれば、単純に古いPCを使っているからネットに繋がっていないとかだろうが……さすがにそういうのはないと思う。
まぁ、その辺はルリやラピスに頼んでみればどうにかなるだろ。
それでもしネットに繋がっていない防犯カメラの類があったら……そうだな、この姿は色々と有名になったし、20代の姿はシャドウミラーの代表としての顔もあるから、10歳の姿で対処すればいい。
「そうですわね。ですが死穢八斎會の件を考えると、やはり出来るだけ早く対処をした方がいいと思いますが」
「その辺は俺に任せてくれ。今夜にでもこっちの方で処理してみせる。……ちなみに、死穢八斎會の件で壊理がどう関係してくるのか分かるか?」
「そこまでの情報はまだ入っていません。ですが……こちらで入手した情報によると、死穢八斎會の組長を含めた幹部に壊理ちゃんのような子供がいないというのは分かっています」
「……だろうな」
壊理から話を聞いた限りだと、両親についての話題は一切なかった。
恐らくだが、壊理は両親については知らないのだろう。
つまり、そうなると死穢八斎會が壊理をどこかから連れてきたという事になる。
何故壊理のような子供を? と思えば、その辺りについては巻き戻しという壊理の個性を考えれば、容易に想像出来るだろう。
「とにかく、アクセルさんも気を付けて下さい。……まぁ、アクセルさんなら大丈夫だとは思いますけど」
ヤオモモは、俺についても十分に知っている。
であれば、もし死穢八斎會が俺にちょっかいを掛けてきてもどうとでも対処出来ると、そのように思ってるのだろう。
もっとも、ヤオモモにそこまで信頼されるのは悪い気分ではないが。
……あるいはいっそ、死穢八斎會が俺の敵だと判明している以上は、先制攻撃をして殲滅してしまった方がいいのか?
そうも思うが、今までの自分の行動を思えば、それはそれで不味いとも思うんだよな。
何だかんだと俺は原作に介入し、その結果として原作主人公である緑谷の実戦経験をかなり奪っている。
その代わりという訳でもないが、自主訓練において緑谷はかなり徹底的に鍛えている。
鍛えてはいるが……訓練はやはり訓練で、実戦でしか得られない経験というのは間違いなくあるのだ。
であれば、ここはいっそ俺があまり積極的に手を出すようなことはせず、緑谷に任せるというのも悪くはないと思う。
……あくまでも死穢八斎會の件が原作のイベントで、龍子が言っていた件と関わっていればの話だが。
ここまで色々と考え、しかも今日にでもルリやラピスに協力して貰って壊理を助けた前後の映像データを消してもらって……そこまでして、実は死穢八斎會の件は原作とは全く関係なかったという事になれば……まぁ、うん。
もし原作とは関係がなかったとしても、それでもこの件で死穢八斎會という外道共が潰れるのであれば、俺にとっては問題はないか。
ともあれ、死穢八斎會を潰すのは取りあえず待って、龍子の事務所のインターンでサー・ナイトアイとの会議に参加した後で死穢八斎會が関係なかったら、俺の方で潰すとしよう。
「死穢八斎會については俺に任せておけ。壊理の件もあるし、そのままにする訳にもいかないからな」
「はい、アクセルさんにお任せします。……ですが、その、私にも多少は出来る事がないでしょうか?」
ヤオモモが真剣な表情でそう言ってくる。
ヤオモモも壊理については色々と思うところがあるらしい。
……まぁ、壊理の様子を見れば、そんな風に思ってもおかしくはないけど。
「なら、そうだな。ヤオモモの家の方でもっと死穢八斎會についての情報を集めてくれ。ただし、この件についてはあくまでも可能な範囲の話で、無理をする必要はない」
情報というのは、あればあっただけいい。
……もっとも、大量の情報があったとしてもその真偽を見抜いたり、上手く使えるのかというのはまた別の話だったりするが。
ともあれ、ヤオモモの様子を見ると自分でも壊理の為に何かしたい、壊理を虐待――といった表現では生温いが――していた者達に思い知らせてやりたいという風に思っているのは間違いない。
であれば、もしここで俺が何もしなくてもいいと言ったら、妙な方向で暴走する可能性もある。
であれば、ここはヤオモモにもある程度の仕事を与える事で変な方向に暴走しないようにしておく方がいいのは間違いない。
そんな俺の言葉に、ヤオモモは分かったと真剣な表情で頷くのだった。