サー・ナイトアイが呼んでいたプロヒーローが全員集まったという事で、会議が始まる。
「まずは皆さん、私の要望によってこうして協力してくれた事に感謝します。ここに集まったプロヒーローの方のうち、何人かからは色々と情報を聞かせて貰いました」
そう言うサー・ナイトアイの視線は、ファットガムを始めとした何人かに向けられていた。
……そういえば、この前切島がネットニュースに載っていた時、切島にしては何かこう、ちょっとらしくない対応の仕方だった事を思い出す。
だとすれば、恐らくだが切島がニュースになった一件で今回サー・ナイトアイがこうして多くのプロヒーローを集めた一件に何か関係していると思ってもいいだろう。
具体的にそれが何なのかは、分からないが。
それを今からサー・ナイトアイが説明するという事なのだろう。
もしかして……と、ルリから聞いた話の件で予想はしているが……
「そうして貴方達に提供して貰った情報のお陰で、調査が大幅に進みました。死穢八斎會という小さな組織が何を企んでいるのか、知り得た情報の共有と共に協議を行わせて貰います」
やっぱりな。
それがサー・ナイトアイの言葉を聞いた俺の素直な感想だった。
ヤオモモから聞いた、ここ最近の死穢八斎會に所属する者達が以前俺が住んでいた場所の近く、壊理を保護した場所の近くに頻繁に出没しては、色々な店の店員を買収しているという件。
その流れから、何となく死穢八斎會も原作に関係すると思っていたのだが……まさに今ここで、サー・ナイトアイの口からそれが証明されてしまった訳だ。
こうなると、やっぱり俺達の方で死穢八斎會を潰すといった事は出来ないか。
個人的には……本当に個人的には、もの凄く自分達の手で死穢八斎會を潰したい。
潰したいのだが、今まで俺はかなり原作に介入しており、その分だけ緑谷の実戦経験が減ってしまっている。
勿論、全てを完全に原作通りにしなくてもいいのは間違いない。
極論すれば、緑谷が実戦経験の不足から勝てない相手がいたとしても、俺が……そしてシャドウミラーの力を使えば、容易に対処は出来るのだから。
だが、そうなると辻褄の合わないような事であったり、原作通りの流れならシャドウミラーの利益となった何かが失われる可能性が高い。
ましてや、このヒロアカ世界は個性という名の特殊能力が存在する特殊な世界だ。
生身での戦いとなると、ネギま世界、ペルソナ世界、鬼滅世界といったような世界も存在している。
だが……このヒロアカ世界は、魔力や気といったようなものではなく、個人によって能力が変わってくるのだ。
そう考えれば、このヒロアカ世界がどれだけ特殊な世界なのかが分かりやすいだろう。
なので、出来ればこのヒロアカ世界で入手出来る物は全て手に入れたい。
……いやまぁ、俺が介入した事によって本来なら入手出来なかった何かを入手出来るといった可能性もあるので、俺の介入が必ずしも駄目という訳ではないのだが。
ともあれ、後でホワイトスターに連絡し、死穢八斎會の件については俺達は手を出さない事にしたと知らせておこう。
もっとも、ルリやラピスがそんな俺の言葉に納得出来るかどうかは微妙なところだ。
まさか、ハシュマルを連れてヒロアカ世界にやって来て、死穢八斎會の拠点……組事務所を襲撃したりとか、しないよな?
ルリやラピスがどれだけ壊理を可愛がっているのかを思えば、何となく本気でそんな事をやりそうなんだよな。
レモンとかにしっかりと見て貰っておくように言っておいた方がいいかもしれないな。
そう思いつつ、俺はサー・ナイトアイの説明に耳を傾ける。
「順を追って話しますが、まずは会議室に移動しましょう。その方が色々と説明もしやすいので」
ここで説明するんじゃないのかよ。
そう突っ込みたくなったが、そっちの方が説明しやすいというのなら、そうした方がいいのは間違いない。
そんな訳で、会議室に移動する。
さすが元オールマイトのサイドキックだけあって、どうやらこのビルの全てがサー・ナイトアイの事務所だったらしい。
ちなみに龍子の事務所もビルの中にあるが、あくまでもビルの1フロアだけだ。
他の階層には、何らかの会社とかが入っているのだろう。
以前龍子の事務所で寝泊まりしていた時、サラリーマンらしい者達を見た事がある。
「相澤先生、一体なんでここにいるの?」
俺がこのビルについて考えていると、葉隠が瀬呂と共に相澤に近付いてそう声を掛けていた。
ちなみに、相澤も当然ながら雄英の敷地内に住んでる筈なのだが……こちらもビッグ3の面々と同じように俺達よりも先に来ていたな。
まぁ、相澤の場合は教師なんだから電車じゃなくて車で移動したとか、そういう可能性もあるが。
龍子も結構な高級車を持っていたし。
「俺は協力を頼まれたから来たんだ。ざっくりとだが事情も聞いている。それより、いつまでもここにいて他のヒーローを待たせる訳にもいかない。さっさと行くぞ。……アクセル、ちょっと来い」
何故か他の面々を先に行かせた相澤は、俺を呼ぶ。
「どうしました? 2階にいくんじゃ?」
「……死穢八斎會、お前は知ってるか?」
俺の言葉に、真剣な……そして厳しい視線を向け、そう相澤が聞いてくる。
あれ? 何でそんな感じになるんだ?
そんな疑問を抱きつつも、一体どう答えるべきか迷う。
とはいえ、相澤の様子を見ると下手に誤魔化さない方がいいだろうと判断する。
もしここで適当に誤魔化したら、その時は相澤の俺に対する信用がなくなる……とまではいかないものの、それでも悪化するのは間違いない。
「壊理とどうやら関係があるらしいというのは予想出来ている」
それでも断言しなかったのは、明確にそうだという証拠はまだない為だ。
いやまぁ、それでもルリやラピスのお陰でほぼ確定してはいるのだが。
「……そうか。実は最近、警察に死穢八斎會についてのデータが送られてくるという事があったらしいが、何か知らないか?」
知らないか? と聞いてはいるものの、それは俺が知っているという前提での質問なのは間違いなかった。
「死穢八斎會と敵対している奴の仕業であるのは間違いないだろうな」
「俺はそれがお前の仕業でないかと思っているんだがな」
「俺じゃないな」
これは事実だ。
実際、死穢八斎會のパソコンにハッキングしてデータを抜いたのはルリやラピスなのだから。
……ちなみに本来はそういうのはハッキングではなくクラッキングと呼ぶらしいが、その辺はもう今更の話だろう。
ハッキングという単語の方が分かりやすいし。
ともあれ、死穢八斎會の事務所にあるパソコンに侵入したのは間違いなく俺ではないので、これは自信をもってやれた。
というか、ルリやラピスがそこまでやるというのは、俺にとっても完全に予想外だったのは事実だ。
「……そうか」
俺を見て、その言葉を信じたのか、それとも誤魔化しているというのは分かっていたが、それはそれで構わないと判断したのか。
その辺りは俺には分からなかったものの、とにかくそんな感じで相澤が納得したのであれば、その件について俺がこれ以上いう事はない。
話が終わると、俺は相澤と共に会議室に向かうのだった。
「えー、それでは説明を始めさせてもらいます」
サー・ナイトアイのサイドキックであるバブルガールが、会議室に座った面々を前にそう言ってくる。
峰田が見たら狂喜乱舞しそうな、下乳の出ている際どいヒーローコスチュームを着ているバブルガールは、そんな自分の姿を気にした様子はない。
ちょっと動けば胸が丸見えになりそうな気がするんだが……まぁ、うん。多分だが、ヒーローコスチューム側の方でそうならないようにはしてるのだろうと思っておく。
そんな風に考えている間にも、バブルガールの説明が進む。
ナイトアイ事務所は強盗団のヴィランの件で疑問を抱いた事で、死穢八斎會の存在を疑問に思い……というか、気が付いて調べていたらしい。
その結果として、死穢八斎會は何らかの薬を捌いている疑惑が判明した。
薬の種類は幾つかあり、その薬の一つが個性強化薬と称される薬で、この前俺達が龍子の事務所にインターンで行った時に抗争していたヴィラングループの片方、両方か、ともあれその個性強化薬を使っていたらしい。
また、他の薬として重要……というか、これが理由でこうしてサー・ナイトアイが龍子を始めとして多数のプロヒーローに協力を呼び掛けたのが、ファットガムや切島、そして天喰が遭遇したヴィラン達の持っていた薬だ。
この薬は個性強化薬とは違う……というか、全く逆の効果を持ち、その薬を使われると個性が使えなくなるらしい。
実際、天喰がその薬の入った弾丸によって、一時的に個性を使えなくなったとか。
……不幸中の幸いなのは、その薬を使われて個性が使えなくなるのは一時的なもので、天喰も翌日には普通に個性を使えるようになっていたらしい。
それを始めとして、最近多発している組織的な犯行の多くが死穢八斎會と繋げようと思えば繋げる事が出来るらしい。
「だが……それではまだちょっと分からんな。それだと死穢八斎會をどうにか黒にしたくて無理矢理こじつけているように思える。もっとこう……バシッと死穢八斎會と繋がるような何かはないのかね?」
バブルガールやサー・ナイトアイ、他にもセンチピーダーというサー・ナイトアイのサイドキックの説明を聞いていたプロヒーローの1人がそう言う。
俺の認識では壊理の件もあり、既に死穢八斎會は黒……それも完璧な黒だ。
ギリリ、と。
我知らず拳を強く、強く、強く握り締める。
壊理の巻き戻しという個性、そして俺達が壊理と接触した場所で最近姿を現しているという死穢八斎會の下っ端、そして壊理から聞いた、治崎の分解・再構築が可能という個性。そして天喰が受けた個性破壊弾とでも呼ぶべき薬の入った弾丸。
それらのことを考えれば、それは連鎖的に繋がっていく。
そして事実、サー・ナイトアイも治崎の個性がオーバーホールというものであると説明し……それを聞いたプロヒーロー達の中には、既に何が起きたのかを予想している者もいて、怒りの表情を浮かべている者も多い。
ギリリ、と。
再度俺は拳を握り締める。
そんな俺の姿に気が付いたのか、それとも何かおかしいと思ったのか、拳藤がこちらに視線を向けてくるが……
「ですが、こちらにとっては有利な事もあります。既に何人かにはお知らせしましたが、最近何故か警察に死穢八斎會の内部文書……それも決して他人に見せてはいけないような、そんなデータが何故か警察に送られてきています」
そうサー・ナイトアイが口にした瞬間、間違いなく相澤の視線は俺に向けられていた。
先程そのデータの件は俺の仕業ではないと口にしたものの、やはり相澤としては完全に納得はしていなかったらしい。
何となく予想は出来ていたが。
だが、相澤に視線を向けられたことによって、不意に握り締めていた手から力が抜ける。
今の様子のままだと、やっぱり俺が死穢八斎會のデータを警察に送ったのではないかと、そのように思われる判断したからというのが大きい。
「何だよ、そんなデータがあるのなら、さっさと死穢八斎會にガサ入れすればいいじゃねえか」
「そうしたいところなのですが、警察に送られたデータによると個性強化薬の方はともかく、個性破壊薬の方は何故か急激に取引の数が減っているのです」
「はぁ?」
プロヒーローの1人が、サー・ナイトアイの言葉にそんな声を漏らす。
他の者達も、揃って理解出来ないといった様子を見せていた。
当然だろう。個性強化薬の方は以前から存在していたので、それが違法売買されているという事で問題にはなっているかもしれにないが、個性破壊薬の方は初めての物だ。
……実際には俺達が知らないだけで、このヒロアカ世界のどこかでは同じような物を作っていてもおかしくはないが。
実際、このヒロアカ世界には無個性……個性を持たない者達こそが本当の意味での人間で、個性を持っている者達は異常だと考えている集団であったり、そこまで極端ではなくても個性の中でも異形系だけは許容出来ないと考えている集団とかもいるのだから。
であれば、個性破壊薬を実用化させようとする者がいてもおかしくはないだろう。
「恐らくですが、この個性破壊薬についてはまだ試作段階で、何らかの欠点が見つかって取引量が減ったと予想しています」
サー・ナイトアイのその言葉に、話を聞いている者達は安堵する。
……とはいえ、それでも壊理――名前は知られていないが――という存在がいるというのはサー・ナイトアイにも知られており、壊理の手足に包帯を巻かれている光景が何度か見られている事から、個性破壊薬の由来について想像出来る者は、それぞれが厳しく、深刻な表情を浮かべているのだった。