ニュルリと生徒指導室に入ってきたオールマイトだったが、当然のようにその後ろには相澤の姿もある。
相澤にしてみれば、オールマイトを呼んだからそれで自分の役目が終わったとか、そういう風に考えてはいないのだろう。
俺としても、何かアドバイスが欲しい時とかの為に相澤にはいて欲しいと思うし。
「それで、アクセル少年。私に用事があるという事だったが、一体何かな?」
「一応言っておくが、今は雄英の生徒のアクセル・アルマーじゃなくて、シャドウミラーの代表のアクセル・アルマーだ」
「……何かあったのかな?」
俺の言葉に、オールマイトは真剣そうな表情でそう聞いてくる。
オールマイトにしてみれば、今の俺の一言で色々と思うところがあったのだろう。
「相澤からは何も聞いてないのか?」
「言っていない。職員室であの件について話せば、オールマイトが暴走する可能性もあったからな」
「相澤君、それはちょっと言いすぎじゃないかな?」
相澤の言葉に不満そうに言うオールマイトだったが、相澤はジト目を向ける。
多分、俺が知らないだけで今までにもオールマイトは色々とやらかしていたりするんだろうな。
プロヒーローとしては、文句なしにオールマイトの方が相澤より……イレイザー・ヘッドよりも格上だ。
だが、教師として考えた場合はその立場は完全に逆転してしまうのだ。
まぁ、オールマイトはまだ教師1年目だし、そう考えれば分からないこともないけどな。
「アクセル、説明を」
これ以上はオールマイトと話をするのは非効率的だとでも思ったのか、そう相澤が俺に話を促してくる。
そんな相澤にオールマイトが微妙な表情を浮かべていたものの、それ以上は何も言わない。
俺から話を聞くのを優先した方がいいと思ったのだろう。
「それで、アクセル少年。一体どうしたんだい?」
相澤と共に俺の向かいに座り、そうオールマイトが聞いてくる。
「そうだな。まずは……俺が壊理を助けた件から話すか」
そう言い、俺は諸々の事情を説明するのだった。
「……そうか」
全てを聞いたオールマイトは、沈痛な表情でそう呟く。
その呟きには力が入っていない。
それだけ、俺の説明……壊理の皮膚や肉、骨を使って個性破壊薬を作っているというのが、オールマイトに許容出来なかったのだろう。
オールマイトも長い間AFOと戦ってきた。
その中でエグい光景も色々と見てきただろうが、それでもこうして壊理の件を聞くと色々と思うところがあるのだろう。
実際、壊理の件については知っている相澤ですら、改めて聞いたところで厳しい表情になっているし。
壊理と直接会った事がある相澤だけに、余計にその件については思うところがあるのだろう。
「そんな訳で、オールマイトには壊理の件は自分が片付けたという事にして、ナイトアイには少しでも早く死穢八斎會のガサ入れを行うように言って欲しい。……出来るか?」
「アクセル少年がこの話を私に持ってきたという事は、ナイトアイが私のサイドキックだった事は知ってるんだね?」
「ああ、緑谷から聞いてはいる」
「……そうか、緑谷少年なら知ってるだろうね」
少し……少しだけ面はゆそうな様子でオールマイトは言う。
緑谷は小さい時からオールマイトのファンで、今やオールマイトオタクと言ってもいい。
実際にはヒーロー全般について詳細な知識を持っており、プロヒーローについて聞けば、何でも教えてくれる。
凄いのは、俺が知る限りだと既に引退していたり、あるいは地方でしか活動していないようなマイナーなプロヒーローについての情報もしっかりと持っている事だ。
毎年のようにプロヒーローは増えているというのに、その全てを覚えている辺り……あるいはこれが緑谷の原作主人公としての力だったりするのかもしれないな。
そういう意味では、ネギま世界のネギと同じ系統と言ってもいいのかもしれないな。
ともあれ、そういう風に知識を蓄えているからこそ、緑谷は何かあった時もブツブツと言うのだろう。
そして、そんな緑谷だがプロヒーローの中で一番詳しい相手は、当然のようにオールマイトだ。
だからこそナイトアイがオールマイトの元サイドキックであるというのも知っていただろうし、その2人が実質的に喧嘩別れをしたというのも知っている。
「喧嘩別れをしたというのは知っているが、今の状況で必要なのはオールマイトが壊理を確保したという風にナイトアイに説明し、死穢八斎會のガサ入れを少しでも早くする事だ。……頼めるか?」
「それは構わないが、ナイトアイは生真面目な性格をしている。ここで私が口出ししても、必ずしもアクセル少年の要望通りになるとは限らないが、それでも構わないかい?」
「それでもオールマイトならやってくれると、俺は信じている。……ちなみに本来のガサ入れの準備が整うのが具体的にいつなのかは分からないが、そこで時間を掛ければ掛ける程に、個性破壊薬による被害が増える……かもしれない」
オールマイトを脅すような形でそう言うものの、実際にはそれは正しくないと思う。
何しろ、個性破壊薬の原材料である壊理をこっちで既に確保している以上、追加で個性破壊薬を作る事は出来ない。
……非常に苛立たしいが、まだ薬にしておらず、保存している壊理の血肉、骨……そんな部位がある可能性もあるので、絶対に作れないという訳でもないと思うが。
そういう意味では、絶対にもうこれ以上個性破壊薬を作れないという訳ではないと思うが、それでも作れる数は限られている。
死穢八斎會……というか、それを率いている治崎か。その治崎にしてみれば、そのような状況である以上は個性破壊薬をそう簡単に売ったり、使ったりといった事は出来ないだろう。
だが、それでもこれはあくまでも俺の予想だ。
ましてや、ナイトアイからの報告によると死穢八斎會はヴィラン連合と接触しているらしいし。
……神野区でAFOの個性によって逃げ出したと思っていたヴィラン連合だったが、意外なところで繋がったな。
もっともヴィラン連合とヤクザの2つが上手くいくとは思えないのだが。
考えられる可能性としては、お互いがお互いを利用しあっているとか、そんな感じか?
「それに、AFOの手先だったヴィラン連合については、オールマイトも気にしていただろう? なら、死穢八斎會の一件でヴィラン連合と関わる可能性も……絶対ではないと思うが、あると思う」
「本当かね!?」
「お……おう……?」
俺としては、ヴィラン連合の件については何となく口にしただけだった。
オールマイトの宿敵であるAFOの手先だった連中なので、その辺で少しでもオールマイトの興味を惹くことが出来れば……と。
そのように思ってのことだったのだが、オールマイトの反応は俺の想像を大きく超えていた。
正直なところ、まさかここまでオールマイトがヴィラン連合に反応するとは思わなかった。
だからこそ、一気に顔を近づけて……俗に言われる、画風が違うというオールマイトの顔を間近で見た事に驚き、今のような言葉を口にしてしまったのだ。
「ああ、すまない。どうやら驚かせてしまったみたいだね」
そしてオールマイトも俺の様子を見て、自分が過敏に反応したのを理解し、そう言ってくる。
「いや、別にそれはいいけど……ヴィラン連合は何かあるのか?」
「AFOの件でちょっとね」
「……なるほど」
ヴィラン連合がAFOの手先として動いていた以上、AFOに関係する何かがあってもおかしくはない。
そう思いながら……神野区での戦いの時、俺がヤオモモ達を影のゲートで避難させ、戦場に戻ってきた時にオールマイトの様子がおかしかった事を思い出す。
オールマイトとAFOだけではなく、もしかしたらオールマイトとヴィラン連合の間にも、何かあるのかもしれないな。
「それで、アクセル少年。その死穢八斎會というのは本当にヴィラン連合と関わりがあるのかな?」
「どうだろうな。俺が知ってるのは、あくまでも死穢八斎會を率いる治崎がヴィラン連合と接触しているという事だけだし。今回の件に関係があるかもしれないが、あるいはそういうのとは全く関係がないかもしれない」
具体的には、死穢八斎會が売っている個性強化薬や個性破壊薬、あるいはそれ以外の普通のという表現はどうかと思う、とにかく普通の麻薬とか。
そういうのをヴィラン連合に売っているとすれば、死穢八斎會とヴィラン連合の関係は何らかの理由で手を組んだというよりも、商売による関係だけという可能性も十分にある。
……まぁ、原作の流れを考えると、死穢八斎會とヴィラン連合は何らかの協力関係にあるという可能性の方が高いとは思うが。
「ともあれ、ナイトアイに対する忠告? 助言? それは頼めるか? 出来るのなら至急やってくれ」
「分かった、任せて貰おう。ナイトアイには良い顔をされないかもしれないが……それでも今の状況を考えれば、少しでもしっかりとする必要があるのでね」
「って事になったが、相澤もそれでいいか?」
尋ねると、相澤は俺の言葉にしっかりと頷くのだった。
ナイトアイの事務所で会議をした日の夜、俺、瀬呂、葉隠、緑谷、切島は寮の中で話していた。
「来たか?」
そう尋ねる切島に、俺を含めた他の面々もそれぞれに頷く。
切島が口にした来たか? というのは、ナイトアイからの連絡だ。
あの会議に参加していた者達、死穢八斎會のガサ入れに参加する者達全員に送られたメール。
……原作において、このメールがいつ来たのか俺には分からない。
ただ、出来れば……本当に出来ればだが、このメールが来たのは原作よりも早くなっていて欲しい。
オールマイトの介入が具体的にどのくらいの効果があるのかは、生憎と俺にも分からないのだから。
「それにしても、まさか1日で準備を整えるってのは、凄いよな」
感心したような、瀬呂の言葉。
「けど、子供はどうなったのかな? こうして連絡が来たって事は見つかったとか?」
「葉隠が言うように、多分どこにいるのかは見つかってるんだろうな」
まさかホワイトスターで保護してるといった事を言える筈もないので、そう誤魔化しておく。
「具体的な場所を知らせないのは、万が一の時があったら大変だから……とかかな?」
「緑谷の言葉が正解だと思うぞ。何しろ、その子供の血肉や骨が個性破壊薬の原材料になっている可能性が高いんだ。であれば、その子供を死穢八斎會に見つからない場所に保護しておくというのは非常に重要だ」
そう言いながら、ギリリと拳を握り締める。
既に壊理を保護しているとはいえ、それでも壊理を薬の材料にする為に数え切れない程に虐待……いや、虐待といった表現では足りないような、そんな事をしてきたのを思うと、許せない。
「アクセル君……ね、私達も頑張って、その子がしっかりと出来るようにしよう?」
葉隠が俺の握り締められた拳の上からそっと包み込むようにし、そう言う。
そんな葉隠の様子に、俺も不思議と力が抜ける。
……もう壊理を保護しているからというのが、この場合は大きな意味を持っているのかもしれないが。
「そうだな。……ん? ああ、拳藤からだ」
葉隠と話していると、スマホが着信を知らせる。
そこに表示されているのは、拳藤。
この状況で俺に電話をしてきたという事は、それはつまり拳藤もまたナイトアイからのメールを見たのだろう。
「むぅ」
何故か若干不満そうな葉隠から手を放すと、電話に出る。
「もしもし、拳藤か? どうした……って、言わなくても、何となく分かってはいるけど。ナイトアイからのメールの件だろう?」
『ああ、そうだよ。その様子だとアクセルもメールは確認したみたいだね』
「今、ちょうど昨日の会議に参加した面子で話していたところだ」
そう言うと、電話の向こうの拳藤は微妙な感じになってるっぽい。
いやまぁ、B組の中で今回の死穢八斎會の一件に関わっているのは拳藤だけだし、この重要性を考えれば他の者にそう簡単に喋れる筈もない。
そういう意味では、こうして何人もが今回の件に関わっている俺達と比べると、肩身が狭い……というのは少し違うか? とにかく秘密を持っていて、それを誰にも話せない事に思うところもあるのだろう。
龍子の事務所にインターンで行く者達を決めるトーナメントで、茨が優勝か準優勝をしていれば、B組にも拳藤がこの件を話せる奴がいただろうに。
それでも緑谷達よりも余裕があるのは……壊理が既にホワイトスターで保護されており、死穢八斎會が、治崎が何かをしようとしても絶対に不可能だというのを知ってるからだろう。
雄英のゲートを発見し、それを使ってホワイトスターに行く……それがどれだけ無謀なことなのかは、拳藤も十分に理解してるらしい。
そうして俺達は色々と話し……そして、いよいよ死穢八斎會のガサ入れが始まるのだった。