雄英からミッドナイトに連れられて病院にやって来た俺は、そこで待っていたオールマイトによってナイトアイの病室に連れていかれる。
そこには死穢八斎會のガサ入れによって怪我をした……それこそ重傷と呼ぶに相応しい怪我をしつつ、それでも特に命に別状はないナイトアイの姿があり、そのナイトアイがいきなり俺に『お前は誰だ?』といった質問をしてきたのだ。
……さて、これは一体どう反応すればいいんだろうな。
「えっと、一体何故急にそのようなことを聞くんですか?」
戸惑った様子を見せつつ、そうナイトアイに返す。
ナイトアイが一体何を考えて今のような疑問を口にしたのか、俺には全く分からなかった。
……いや、あるいはナイトアイがオールマイトの元サイドキックであるという事を考えれば、もしかしたらオールマイトから俺の事について聞き出したといった可能性もある。
とはいえ、ナイトアイとオールマイトは喧嘩別れをしたという話だったので、その可能性は少ないと思う。
だとすれば、相澤から……いや、相澤はそう簡単に他人に生徒の秘密を話すような性格ではない。
だからこそ、俺はナイトアイの質問が理解出来ないと……一体何故そのように言われるのかと、そう聞き返す。
「質問に質問で返すのはどうかと思うが、いいだろう。アークエネミー、私の個性は覚えているな?」
「予知ですよね?」
「そうだ」
俺の言葉にあっさりと頷くナイトアイ。
以前ナイトアイの事務所で会議を行った時、そこに集まったプロヒーローの1人が自分にでもいいから予知の個性を使えと、そう言った。
だが、ナイトアイは無理矢理な理由をつけて……どうあっても、予知という個性を使う事はなかった。
その一部始終を見ていた身としては、本当にナイトアイは予知という個性を持っているのか? とすら疑問に思いすらしたのだが……まぁ、さすがに予知という個性を持っていない事はないだろう。
「その私の個性によると、私は昨日の死穢八斎會の一件で死んでいる筈だった」
「……何?」
ナイトアイの口から出た予想外の言葉に、俺は改めてナイトアイを見る。
だが、ナイトアイは俺と視線が合っても、視線を逸らすような事はしない。
そんなナイトアイの様子を見ると、恐らくは……いや、間違いなくナイトアイは昨日の一件で自分が死ぬと予知していたのだろう。
俺の言葉遣いに眉をピクリと動かしたナイトアイだったが、今の自分の言葉がそれだけ俺に大きな驚きを与えたというのは理解しているのか、注意してくる様子はない。
「えっと……でも、ナイトアイはこうして生きてますよね? 重傷ではありますが」
「そうだな。それが君をここに呼んだ理由だ」
「えっと……俺を? 一体何がどうなって?」
予知によると、本来死ぬ筈だったナイトアイが生き残っているのと、俺がこうして病院に……ナイトアイの病室に呼ばれたことに一体どういう関係があるのか。
「アークエネミー、私は恐らく君が私の見た予知に影響を与え、こうして生き残る事が出来たのだと思う。……もっとも、怪我の影響で個性は……」
ナイトアイの様子からすると、この重傷によって個性に何らかの影響を与えたといったところか。
それが具体的にどのような影響なのかは分からない。
とはいえ、ナイトアイの様子から見て、プラスに影響を与えるような事ではないのは間違いなかったが。
ただ、その辺については俺も聞かない方がいいだろう。
「以前の会議の時に聞いた話だと、予知で見た未来は変える事が出来ないと……ナイトアイはそう思っていたようですけど?」
「その通りだ。だからこそ、私は予知で見た未来を変えた君が一体何者なのかが気になって、こうして連れてきて貰ったのだ」
「そう言われても……」
さて、この状況をどうしたものだろうな。
……ちなみにオールマイトは、ナイトアイが口にした、予知によれば自分が死んでいたという言葉を聞いて驚き、強いショックを受けている様子だった。
どうやらオールマイトもナイトアイが昨日の一件で死んでいたかもしれないとうのは、聞いていなかったらしい。
もっとも、プロヒーローというのはヴィランと戦うのが仕事という者も多い。
中には災害救助とかそっち方面が専門の者もいたりするので、それでも絶対という訳ではないが。
ともあれ、そんな訳でプロヒーローならヴィランとの戦いで死ぬ可能性はあるし、実際にそういう感じで死んだプロヒーローも年間それなりの人数になるらしい。
身近なところでは、プッシーキャッツのマンダレイの親戚もヴィランによって殺されていたしな。
そんな訳で、プロヒーローがヴィランに殺されるというのはそこまで珍しい事でないのは間違いない。
だが……それでもやはり自分の知り合いがとなると、オールマイトにも色々と思うところはあるのだろう。
そもそも、オールマイトは日本のNo.1ヒーローだ。
また、昔からAFOと戦ってきているのもあって、知り合いが死んだというのもそれなりにあっても間違いない。
それでも人の死に慣れるといった事はないのだろうが。
この辺はプロヒーロー……相手がヴィランであっても殺すのは禁止されているからなのかもしれないな。
「私には話せないと? オールマイトの様子を見ると、どうやら彼は知ってるようだが」
「ちょっ!?」
まさかここで自分の名前が出るとは思っていなかったのか、慌てた様子でオールマイトが叫ぶ。
先程のナイトアイが死んでいたのかもしれないという言葉は、一瞬にして忘れてしまったかのようにも思える。
あるいはナイトアイがここでオールマイトの名前を出したのは、予知では自分が死んでいたという事を知ったオールマイトの意識をその件から逸らす為だったのかもしれないが。
「……まぁ、俺が色々と特殊な存在であるのは認める」
オールマイトの様子から、沈黙したままという事は出来ないと判断し、そう言う。
言葉遣いも雄英の生徒であるアクセル・アルマーから、シャドウミラーを率いるアクセル・アルマーのものに変えて。
そんな俺の変化を見たのか、ナイトアイがピクリと反応する。
とはいえ、それは先程……俺が意図せず『何?』と聞いてしまった時のものとはまた違った感じではあったが。
「私の予知を変えた要因は君であると、そう認めるのだな?」
「どうだろうな。俺が特殊な存在であるのは間違いないが、だからといってお前の予知に俺が関係したのかどうかは何とも言えない」
「どういう意味だ?」
俺の言葉を聞いたナイトアイは、若干戸惑った様子でそう言ってくる。
ナイトアイにしてみれば、自分の個性である予知が外れたのは俺というイレギュラーが関係していると、そのように思ったのだろう。
だが、実際には俺はナイトアイの言葉を肯定しなかった。
ナイトアイにしてみれば、一体どういう事だと思うのはおかしな話ではない。
とはいえ、この件については俺にも言い分はある。
この世界に原作があるという事を考えれば、それこそ原作主人公である緑谷の影響によって、原作においてもナイトアイが死穢八斎會の一件で死ななかった可能性は十分にある。
であれば、今回ナイトアイが死ななかったのは、俺の影響ではなく原作主人公である緑谷の為であるかもしれない。
……というか、個人的にはそちらの可能性の方が高いと思えるくらいだ。
なので、俺としてはナイトアイの言葉を素直に肯定する事が出来なかった訳だ。
「どういう意味も何も……俺だけではなくて、他の者達の影響もあってそうなったのではないかと、そう言ってるんだよ」
相澤とミッドナイトがここにいなければ、あるいは緑谷がOFAの後継者だからという理由を口にしてもいいかもしれないが。
というか、ナイトアイは緑谷がOFAの後継者であるというのは知ってるのか?
オールマイトとナイトアイが喧嘩別れをした上で緑谷がナイトアイの事務所にインターンで行ってるのを考えれば、緑谷がOFAの後継者であるというのとかは知ってそうだよな。
「私の予知でそのような事が起きるとでも?」
「予知と一口に言うけど、予知……運命の類は変えられたりするんじゃないか? そういう意味では、他の者達の影響で予知の結果が変わったとしても、おかしくはないと思う。あるいは……俺が直接どうこうした訳じゃなくて、イレギュラーな存在である俺がいたから、それによって俺が直接どうこう動くよりも、他の者達に影響を与えて予知の結果を変えたという可能性もあるだろうな」
「……なるほど。君以外の者が影響して予知を変えたというよりは、君が存在する事によって他の者達に影響を与え、結果として私の予知が変わったという方が納得出来るな。それで、結局君はどのようなイレギュラーなのだ?」
ナイトアイとしては、やはり最終的にはそこが気になるのか、聞いてくる。
だが、俺はそんなナイトアイの言葉に首を横に振る。
「悪いが、俺がどういう風にイレギュラーなのかというのは、公安から話すのを禁じられている」
「何? 公安から、か?」
ナイトアイは俺の口から公安という言葉が出て来たのが意外だったらしく、驚いたように言う。
まぁ、実際今の俺は10代半ばの雄英の生徒にしか見えない。
であれば、今の俺を見て公安という言葉が不似合いなのは間違いない。
「そうだ、公安からだ」
とはいえ、これは半ば本当だが半ば嘘でもある。
……いや、嘘というのは少し大袈裟か?
公安からは、俺……というか、シャドウミラーについて出来れば秘密にしておいて欲しいと要望されている。
だが、それはあくまでも要望であって、要求でも……ましてや、命令でもない。
俺が話そうと思えばそれを公安が止める事は出来ないし、話したからといって俺に何らかのペナルティがある訳でもない。
……まぁ、目良辺りから恨み節を言われるかもしれないが。
とはいえ、言ってみればその程度の事だ。
だが……それでも、ここでナイトアイに教えるというのは微妙なところだろう。
あるいはこれで、ナイトアイの個性がそのままであれば、俺についての事情を話す事によって、予知で何かあった時……具体的にはAFOがタルタロスから脱走した時とか、そういうのを予知で見て貰い、即座に対処するといった方法もある。
だが……
「1つ聞かせてくれ。さっきお前は今回の怪我の影響で個性がどうとか言っていたが、予知という個性に何か悪影響が起きているのか?」
「……そうだ。ただ、それは今こうして怪我をしたからそれによって予知が不規則になっている可能性が高い。怪我が治れば、再び予知を自由に使えるようになる可能性はある」
「なるほどな。となると、悪いが今のお前にはまだこちらの事情を説明は出来ない」
怪我が治った時、本当に予知が以前と同じように使えるようになっていたのなら、俺の事情を話してもいいだろう。
もっとも、その時は既に公安が異世界の存在を、シャドウミラーの存在を公開しているという可能性もあるので、そういう意味では絶対ではないが。
「公安から止められているのでは?」
「そうだな。ただ、正確には絶対に禁止といった強制力があるものではなく、出来れば俺の事情についてはあまり話さないで欲しいと、そう言われているだけだ」
「つまり、君は公安と対等の立場を持つと?」
「ああ」
訝しげな……信じられないといった様子のナイトアイにそう返すが、実際には対等どころか、シャドウミラーの、そして俺の方が立場は上と言ってもいい。
何しろシャドウミラーにとって、このヒロアカ世界は個性という特殊能力があり、それに関連してサポートアイテムのようにかなり高い技術力を持っているという意味では非常に興味深いものの、それでも絶対にこの世界しか存在しないといった訳ではない。
同じように特殊能力を持つ原作の世界というのは、他にもあるだろう。
……俺の原作知識がなくなった影響もあってか、具体的にどの世界とは断言出来ないか。
しかし、そんなシャドウミラーとは違ってこのヒロアカ世界にとってシャドウミラー……というか、その拠点であるホワイトスター以外に異世界の存在とは接触出来ない。
いやまぁ、このヒロアカ世界であれば、それこそ異世界とヒロアカ世界を繋げられるような個性とか、そういうのがあってもおかしくはないのかもしれないが。
とはいえ、そういう個性があればどんなに隠そうとしても、全てを完全に隠すといった事は出来ない。
そういう情報が今のところないのを考えれば、取りあえず今のところそういう個性の持ち主はまだいないと思ってもいい筈だ。
あくまでも俺の予想であって、実際にどうなのかは分からないが。
「だから、もし俺の正体を知りたいようなら、公安から許可を貰ってくれ。そうすれば教えてもいい」
実際、公安がナイトアイをどう判断しているのかにもよるだろうが、もし公安からの許可があれば、シャドウミラーについて説明してもいいし、あるいはホワイトスターに招待してもいい。
そう思いながら、告げるのだった。