「じゃあ、俺はついでに緑谷達の見舞いに行ってくるから……いや、行ってきますね」
ナイトアイとの話が終わり、俺は再びシャドウミラーを率いるアクセル・アルマーから、雄英の生徒としての口調に戻ってそう言う。
「ああ、そうしてやれ」
相澤はそんな俺の態度に慣れた様子でそう言い、緑谷の病室について教えて貰う。
ちなみに切島は緑谷と同じ部屋に入院しているらしい。
拳藤、葉隠、瀬呂といった面々は、戦いの激しかった建物の中ではなく外にいた事もあり……ついでに俺が結構鍛えていたのも影響してか、怪我らしい怪我はしていなかった。
せいぜいが、数日もあれば治るような、そんな怪我でしかない。
なので、1年で入院してるのは緑谷と切島だけとなる。
ちなみに緑谷はともかく、切島は宝生のような死穢八斎會の幹部と戦って怪我をしたらしい。
それもファットガムと一緒に戦って2人の幹部を倒したらしいので、大殊勲だろう。
ちなみにビッグ3の中では、天喰のみが入院しており、他の2人……ねじれとミリオは軽傷程度らしい。
まぁ、ねじれは外で多くの仲間達と共に戦っていたし、龍子と優の2人もいた。
ミリオの場合はその個性によって基本的に攻撃は無効化される。……俺の場合は、身体が魔力で構成されている影響か、ミリオの透過という構成を精神コマンドの直撃を使わずとも無力化出来たりしたが。
ともあれ、そんな訳で入院しているのはそれなりにいるものの、致命傷という訳ではない。
見舞いに行くんだし、売店で何か買って行った方がいいか。
そう思い、病院の1階にある売店で適当に飲み物やスナック菓子を購入すると、緑谷達の病室に向かう。
コンコンとノックをすると、すぐに中から『はーい』という返事があった。
部屋の中から聞こえてきたのは緑谷の声で、その声を聞く限りでは怪我もそこまで深刻ではないのだろう。
そうして扉を開けると、そこには……
「うわぁ……」
部屋の中の光景に、思わずそんな声を出す。
部屋の中にはベッドが2つ。
……本来ならこういう部屋なら4つベッドがあってもおかしくはないのだが、この辺は恐らくインターンとして死穢八斎會の一件に協力したご褒美的な感じか?
いや、だとすれば個室だろう。
わざわざ2人部屋にするのが分からない。
あるいは死穢八斎會の一件で怪我をした者達を纏めておくという意味では……それならそれで、4人部屋にしてもおかしくはない。
普通に考えれば、1年だからという事で一纏めにしてあるのかもしれないな。
ともあれ、部屋の中を見て俺が今のような言葉を口にしたのは、緑谷と切島を見ての感想だ。
……いや、緑谷はそこまで重傷といった様子ではなかったから、そういう意味では切島だけを見て今のような声を上げたといった方が正しい。
何しろ緑谷の怪我はそこまで酷くないのに対し、切島は身体中が包帯だらけなのだから。
2人の対比は、かなり凄い事になっている。
「えっと……緑谷はともかく、切島は大丈夫か?」
「おう。後でリカバリーガールが来てくれるって言ってたから、それまでの辛抱だ」
そう言ってくる切島は、言葉を話すだけで微妙に痛みを感じているっぽい感じだ。
これだと、あまり切島に声を掛けたりとかはしない方がいいかもしれないな。
まぁ、切島も言ってるようにリカバリーガールが来れば、怪我の治療はすぐに出来る。
……もっとも、リカバリーガールの治療も絶対という訳ではない。
そういう意味では、やはり怪我というのはしない方がいいのだが……まぁ、切島の個性を考えれば、こうして怪我をしてしまうのはおかしくないか。
何しろ切島の個性は硬化だ。
ゲーム的には、いわゆるタンク的な役割となる。
それもいわゆる避けタンクといったものではなく、防御で敵の攻撃を防ぐタンクだ。
だからこそ、ダメージは相当なものとなるのだろう。
あるいはこれで、自動回復の個性もセットになっていたら今よりも更に強力な個性となっていたかもしれないが、残念ながら切島にそういう個性はない。
「そうか。……取りあえず今はまだ安静にしてないといけないって事だな。見舞いの品として、1階の売店で色々と買ってきたから、リカバリーガールに回復して貰ったら食ってくれ」
そう言い、飲み物やお菓子の入ったビニール袋をベッドの近くに置いておく。
「ありがとう、アクセル君。けど……今、学校の時間だよね? 学校はどうしたの? あ、いや、勿論こうしてアクセル君が見舞いに来てくれたのは嬉しいけど」
緑谷の疑問はもっともだ。
これで俺もある程度の怪我をしていれば、同じく入院しているとも言えるのだが、残念ながら……それとも幸いな事に? とにかく、今の俺は五体満足で特に怪我らしい怪我もしていない。
その為、緑谷が本来なら授業のあるこの時間にこうして病院にいるのを疑問に思うのは当然だろう。
さて、どう答えるか。
一瞬そう考えたが、寮で俺が強引にミッドナイトに連れていかれたのは、A組の多くの者達には見られている。
であれば、ここで誤魔化しても仕方がないな。
「朝、寮にいたところをミッドナイトに連れられてきたんだよ」
「え? ミッドナイトが? 何で?」
「何でも、ナイトアイの予知が外れた原因が俺にあるんじゃないかと、そう思われたらしい」
「……何で?」
俺の言葉が理解出来ないといった様子で、緑谷が言う。
いや、それは緑谷だけではなく切島も口には出さないものの、訝しげな視線を俺に向けている。
とはいえ、その辺については心当たりがあるものの、教える訳にはいかないのも事実。
原作主人公の緑谷であれば、あるいはいずれオールマイト辺りから俺について知らされる可能性もないわけではないが。
あるいは、オールマイトじゃなくて俺が直接教えるのか?
その辺りの理由はともあれ、今はまだ緑谷にもシャドウミラーとかその辺についての話はしない方がいい。
ましてや、こう言っては何だが緑谷は馬鹿正直で隠し事は決して得意って訳でもないしな。
それにここでシャドミラーについて話せば、それは当然のように切島にも話さないといけなくなるだろうし。
「俺の個性である混沌精霊が、予知に何か影響を与えていた……そんな可能性があるらしい。あくまでも可能性で、それも絶対って訳じゃないけど」
そう言うと、緑谷と切島はそれぞれ納得した様子を見せる。
……誤魔化した俺が言うのもなんだけど、こんな簡単に誤魔化されるというのは、それはそれでどうなんだ?
「とにかくそんな訳で、ナイトアイと会ってから、お前達が入院していたのを思い出して見舞いに来たんだよ」
「そっか。……うん、ありがとうアクセル君」
「漢だな」
緑谷が感謝をするのは分かるが、漢だなという切島の言葉は……この場合、どうなんだ?
こうして見舞いに来るのが漢らしいとか?
いや、見舞いくらいで別にそんな風に言われるのはどうかと思う。
もっとも、漢というのが切島にとって褒め言葉であるのは間違いないので、多分これは感謝の気持ちを込めてのものなのだろう。
「そんな訳で、あまり長い間見舞いは出来ないが……2人の様子はどんな感じだ?」
「僕はそこまで重傷って訳じゃないから、リカバリーガールに治療して貰えばすぐに退院出来ると思うよ」
「さっき言ったが、俺もリカバリーガール待ちだ。とはいえ、緑谷と違ってすぐに退院という訳にはいかねえだろうが」
「そうか。取りあえず2人共命に別状はないようだし、後に残る障害とかそういうのもないようだから、安心したよ。雄英に戻ったらクラスの連中にも話しておく」
そう言うと、緑谷と切島は安堵した様子を見せる。
クラスの面々に心配を掛けていると思ったんだろうな。
もっとも、スマホが壊れている訳ではないのだから、連絡しようと思えば出来るとは思うんだが。
その辺については、気まずさとかそういうのもあるのかもしれないな。
「うん、ありがとうアクセル君」
「悪いな。……爆豪の奴、大丈夫か?」
緑谷の言葉はともかく、切島の言葉には何と言っていいのか迷うな。
A組の中で、何だかんだと爆豪と一番仲が良いのは切島だ。
寧ろ爆豪のストッパー的な存在だと言ってもいいだろう。
だが……だからこそ、切島がいない今の爆豪は暴走する可能性も否定出来なかったりする。
「多分大丈夫だろ。ただ、切島がいないと爆豪が暴走する可能性もあるから、出来れば早いうちに退院して欲しいとは思うけどな」
「……そうだな。出来るだけ早く退院するよ」
どうやら切島もまた爆豪が暴走しかねないと思ったのか、困った様子を見せながらもそう言ってくる。
……そんな切島を、緑谷が微妙に羨ましそうな感じで見ているのは……まぁ、うん。
緑谷にしてみれば、爆豪は小さい頃からの憧れ的な存在でもあるらしいしな。
そんな爆豪の面倒を見ている切島が、それだけ羨ましいと思ったのだろう。
そうして話していると、不意に病室の扉がノックされる。
緑谷が入ってもいいと言うと、扉を開けたのはミッドナイト。
「アクセル、そろそろいいかしら? こちらの用件も終わったから、アクセルがいいのなら雄英に帰ろうと思うんだけど。……2人共、元気そうとは言えないわね」
ミッドナイトは俺に向かって聞いた後で、緑谷と切島にそれぞれ声を掛ける。
そんなミッドナイトに、緑谷と切島はそれぞれ微妙な表情を浮かべていた。
あるいはこれで入院しているのが上鳴や峰田であれば、身体のラインを強調させているミッドナイトのヒーローコスチュームを間近で見た事で喜び、それによって傷が回復するなんて事も……事も……まぁ、さすがにそれはないか?
ともあれ、それでも喜んだのは間違いないが、緑谷と切島は男子高校生であるにも関わらず、女にあまり興味がないっぽいんだよな。
なので、ミッドナイトをこうして見ても、喜んだりはしない。
「えっと、僕はそこまで酷い怪我ではないので」
「俺も、後でリカバリーガールが来てくれるらしいので、そういう意味では明日か明後日には退院出来ると思います」
緑谷と切島がそれぞれにそう返事をする。
ミッドナイトはそんな2人の様子を見て、溜息と共に口を開く。
「そうして無茶をするのも青春かもしれないけど、でもだからって無茶をしすぎちゃ駄目よ。私が好きな青臭いのは、もっとこう……違うんだから」
別に緑谷も切島も、ミッドナイトにアピールする為に怪我をした訳じゃないと思うんだが。
……これが峰田や上鳴なら、あるいはと思わないでもないけど。
ともあれ、ミッドナイトは緑谷と切島に安静にするように言ってから、俺を連れて病室を出る。
「さて、じゃあアクセル。雄英に帰りましょうか。……それとも、どこかに寄っていく? 高校生と女教師のアバンチュール……これもまた青春でしょうし」
「あのな、教師がそれでいいのか?」
「あら、私だって普通の生徒に対してなら、こんな事は言わないわよ? けど……アクセルの場合は、とてもじゃないけど普通の生徒じゃないでしょう?」
「そう言われると、否定は出来ないな」
実際、今はまだこうして雄英の生徒として通ってはいるものの、それが具体的にいつまで続くのかは分からない。
この世界のラスボスたるAFO。
今はタルタロスに収監されているものの、恐らくそう遠くないうちに脱獄し、それによって最終決戦が行われるようになるだろう。
そう考えると、俺が雄英の生徒をしているのは……恐らくだが、この世界の原作が終わるまでとなる。
それが具体的にいつになるのかは分からないが。
1年で終わるのか、それとも2年、3年になってまだ原作が続いていて、AFOを倒せないのか。
その辺りの事を考えれば、やはり具体的にいつまで俺が雄英の生徒としてやっていけるのかは分からない。
それに……俺は原作が終わるまでは雄英の生徒としてやっていくつもりではあるが、それはあくまでも俺がそのように思っているだけだ。
俺の予想とは違う何らかの理由で、俺が雄英の生徒としてやっていけなくなる可能性は十分にある。
「でしょう? だから……そうね。アバンチュールというのはさすがに冗談だけど、どこか喫茶店にでも寄っていかない? 昨夜から色々とあって、今日は朝食食べてないのよ。お昼までそんなにないから、軽く何かを食べていきたいのよ」
なるほど、どうやらそういう事だったらしい。
「そうか。なら、構わない、俺としては女教師とのアバンチュールも悪くないと思ったんだけどな」
「あら、それじゃあ……海にでも行く? 泳ぐにはちょっと寒いかもしれないけど、それでも男女で海に行くというのは青春っぽくない?」
そう聞いてくるミッドナイトだったが、その口調から本気で言ってる訳ではないのは明らかだ。
いやまぁ、正直なところそれが本気なら、それはそれで面白そうではあるが。
そんな風に思いつつも、取りあえず喫茶店で何を食べるのかと、考えるのだった。