死穢八斎會の一件が終わり、雄英でも色々と落ち着いてきた。
……まぁ、緑谷と切島の見舞いに行った帰りにミッドナイトと一緒に喫茶店に寄ったと聞いた峰田は、例によって例の如く血の涙を流していたりしたが。
ともあれそんな感じで、緑谷は翌日に……そして切島はその次の日に退院し、学校生活に復帰している。
切島は俺が見た時はボロボロだったのだが、さすがリカバリーガール。
学校に来た時は既に全快の状況だった。
……USJの一件が終わった後、相澤はリカバリーガールに治療して貰っても包帯を巻いたり杖を使ったりしていたのだが……まぁ、脳無にボコボコにされたのと、死穢八斎會の幹部によってボコボコにされたのでは、ダメージの差は明らかなのかもしれないが。
また、それ以外にも仮免試験で不合格だった爆豪や轟の追試があったりとか、そういう色々もあったりしたが……取りあえず死穢八斎會の一件以外は特に何がある訳でもないので、穏やかな学校生活を楽しくすごす事が出来ていた。
この世界には原作がある事を考えると、そのうちまた何かの大きな騒動が起きるのは間違いないんだろうけど。
そんな訳で……今日もまた、ヒーロー科の授業が始まる。
「TDLにも慣れたよな」
校舎を歩きながらそう呟くと、それを聞いていた三奈が頷く。
「そうだよね。最初は色々と名前に問題があると思ったんだけど……ねぇ、それよりアクセルは必殺技の件はどうするの?」
「俺か? そう言われても、俺は今の時点でも色々と必殺技らしきものはあるし」
そう言いつつ、飯田や麗日と話しながら歩いている緑谷に視線を向ける。
何故ここで緑谷に視線を向けたのか……それは、緑谷は俺が影のゲートを使って転移出来る事を知っている為だ。
治崎との戦いの時、ミリオと共に見せてしまったしな。
ちなみにミリオと緑谷共にあれは俺の本当の意味での奥の手であると説明しており、誰にも言わないようにと頼んである。
幸い、緑谷もミリオも素直に俺のその言葉を信じて、影のゲートについては誰にも言っていないらしい。
……もしかしたら将来的にはその辺りについて話す必要も出てくるかもしれないが、その時はその時だ。
緑谷もまた、黒い鞭……黒鞭とかいう個性が追加で使えるようになった事もあってか、影のゲートについては混沌精霊という個性の1つで新たに使えるようになったとか、そんな風に思ってるのかもしれないな。
「アクセル、緑谷がどうかしたの?」
「ん? いや、死穢八斎會の一件で緑谷もかなり活躍したから、以前と比べて大分成長したと思ってな。それこそ今なら爆豪と戦っても勝てるんじゃないか?」
「んだコラ、ヒモ野郎! デクが幾ら強くなったからって、俺に勝てるだぁ? 勘違いしてんじゃねえぞごらぁっ!」
少し離れた場所を切島と話しながら歩いていた爆豪だったが、幸か不幸か今の俺の言葉はしっかりと聞こえていたらしい。
とてもではないがヒーローを目指しているとは思えない形相で叫んでくる。
うわぁ……これはちょっと……まぁ、うん。
とはいえ、爆豪がインターンで活躍した緑谷に強いライバル心を抱いているのは明らかだ。
であれば、もう少しその辺を刺激しておいた方が、爆豪はやる気になるかもしれないな。
「そうか? 俺は治崎と緑谷が戦っているところを見たけど、緑谷はかなり強かったぞ?」
「デクてめぇ、俺に勝てると思ってやがるのかぁっ!?」
「え? ちょっ、かっちゃん? 一体何をいきなり!?」
俺の言葉を聞いた爆豪が、緑谷に向かって突撃していく。
緑谷にしてみれば、飯田や麗日と話していたところにいきなり鬼の形相といった様子の爆豪が突っ込んで来たのだから、一体何がどうなっているのかと、そんな風に思ってもおかしくはない。
「ちょっと、アクセル。あまり爆豪で遊んだりしない方がいいんじゃない?」
俺と爆豪のやり取りを見ていた耳郎が、そう声を掛けてくる。
そんな耳郎の横では、葉隠……いや、透も頷いていた。
いやまぁ、実際に透が頷いているのかどうかは、個性の影響で透明なので分からないんだが、雰囲気的にそんな感じだ。
……ちなみに俺が葉隠を透と名前で呼ぶようになった件でも色々とあったのだが……その件については今は気にしなくてもいいだろう。
「爆豪の場合は溜め込むと問題になりそうだから、適度に発散させておいた方がいいんだよ」
そんな風に会話をしながら歩き……やがて、TDLに到着する。
「それでは今日も、必殺技の向上に努めていきましょう。以前課した最低2つの必殺技。これをまだ出来ていない人は開発を。出来てる人は更なる発展を」
セメントスのその言葉と共に授業が始まる。
始まったのだが……
「安無嶺過武瑠!」
不意に切島が必殺技を発動させる。
硬化の個性を最大に発揮し、刺々しい外見となる切島。
この必殺技を使っても、死穢八斎會のガサ入れにおいてはあそこまで大きな怪我をしたらしい。
「アクセル、俺を殴れ!」
「……おう?」
いきなりの切島のその叫びは、俺の意表を突くには十分だった。
「その言葉、何も知らない人が聞いたら誤解を招くと思うな」
透が思わずといった様子でそう言うと、それを聞いていた他の面々も同意するように頷いていた。
うん、まぁ……実際。何も知らない者が今の言葉を聞けば、切島にそういう趣味があると思ってもおかしくはないだろう。
「しゃあっ! 来い! アクセル、来い来い来い! お前の攻撃を俺が受けて、Plus Ultraしてやるぜ!」
だが、切島は透の言葉を全く気にした様子もなく……あるいは、もしかしたら意味が分かっていないだけなのかもしれないが、とにかくそう言ってくる。
うーん、葉隠の言葉を聞いた後だと、俺が直接切島を殴りたいとは思わないな。
かといって、あそこまで刺々しい感じになってしまうと、誰か他の奴に殴らせようとしても、怪我をしかねない。
パチン、と。
指を鳴らすと右手が白炎と化し、次の瞬間にはゴリラの炎獣が生み出された。
「この炎獣に殴らせるか? 切島を殴り殺さないよう、ある程度の手加減は出来るし」
殴るという意味では、いっそ狛治を召喚しても面白いかもしれない。
そのように思いはしたが、召喚魔法について知らせる必要もないだろうと判断し、黙っておく。
実際格闘という意味では狛治はかなりの教師になるのは間違いないのだが、それでも今のこの状況ではちょっとな。
「おう、来いやぁっ!」
ゴリラの炎獣を見ても、やる気満々の切島。
……いっそ、ゴリラじゃなくてミノタウロスの炎獣とかにしても良かったのかもしれないな。
そう思っていると、セメントスの指示によってそれぞれが自分の訓練を開始する。
「アクセル君、ちょっといいかな? 実は君に手伝って欲しい事があるんだけど」
俺は既に必殺技についてはクリアしているし、仮免試験の前も他の連中のフォローに回っていた事もあり、誰の手伝いをしようかと思っていると、不意に青山が声を掛けてくる。
先程まで緑谷と何か話していた青山だったが、それでは解決出来ない何かが、あったらしい。
「どうした?」
「僕のネビルレーザーをもっと強く、そして煌めかしくするにはどうすればいいと思うかな?」
「強くはともかく、煌めかしくと言われてもな」
青山はその個性も影響しているのか、部屋の中にもミラーボールが設置されていたりと、かなり派手好きというか……まぁ、うん。とにかくそんな感じだ。
ちなみにこの青山だが、少し不思議なところがある。
それは、個性と名前の関係だ。
ヒロアカ世界の者達にしてみれば、個性と名前に関係性があるというのは普通の事なのか、あまりその辺に違和感を持ったりといった事はしない。
だが、他の世界から来た俺にしてみれば、名前と個性の関係は明らかに普通ではない。
勿論、絶対に名前と個性の間に関係があるかと言われると……決してそんな訳ではない。
例えば原作主人公である緑谷の場合は、名前からすると茨のように植物を操るような個性であるのに対し、無個性だったし。
ん? だとすれば名前と個性に関係がなさそうな青山も実は無個性……いや、ないか。
多分、青山も個性と名前にそこまで関係のない例外とかそんな感じなんだろう。
「やっぱり、僕のネビルレーザーは綺麗じゃないとね」
キラリン、と。
そんな擬音が相応しい様子で言ってくる青山に、どうしたものかと考え……そんな俺の横を、ゴリラの炎獣に殴られた切島が吹き飛んでいくのだった。
「文化祭があります」
『ガッポオオオオイィッ!』
相澤の言葉に、多くの者達が一斉に叫ぶ。
……どうやら、学校っぽいの略らしいのだが、多くの者達が一斉にそう叫ぶのって、もしかして俺の知らないところで練習をしていたりしないよな?
そんな中で切島がこの状況でそういうのをやってもいいのかと、明らかにらしくない事を言ったものの、それについては相澤があっさりと却下する。
相澤の説明によると、体育祭がヒーロー科が主役というのに対し、文化祭はヒーロー科以外の者達が主役となるらしい。
また、全ての生徒が全員寮生活になったのも、ヴィラン連合が関係しているものの、それはつまりヒーロー科の為に――もしくはヒーロー科のせいで――そうなったという事で、不満に思っている者も多いらしい。
個人的には、雄英の学生寮は歓迎こそすれ、それを嫌がるというのは分からないな。
寮費についても無料だし、それでいてエアコンとか冷蔵庫、TVとか、そういう家電製品が部屋には備え付けられている。
また、食事も昼はともかく朝と夜はランチラッシュが作ってくれた料理が出る。
これもまた無料。
また、寮は雄英の敷地内にあるので通学の時間も考えなくてもいい為に、ゆっくりと出来る。
これで寮生活に不満を抱くとなると……単純に集団生活が苦手だからとか、そんな感じか?
もしくは、人に何か知られたくない秘密があるとか。
分かりやすいのは常闇の厨二病そのものといった部屋とか。
ただ、総合的に見て寮生活はかなり優遇されていると思うんだが。
……あるいは単純に、ヒーロー科という存在であるというだけで気に食わないと思っている奴もいるのかもしれないな。
ともあれ、そんな訳で今年は色々と騒動が連続しているのもあって、例年とは違って外部の人間は入る事が出来ず、あくまでも雄英内部だけでの文化祭となるらしい。
実際、文化祭に外部の者達を招待したり、あるいは自由に来るように出来たりすれば、ヴィラン連合がまた何かを仕掛けてくる可能性も……いや、うーん、どうなんだろうな。
神野区の一件でヴィラン連合はAFOの後ろ盾を失い、弱体化した。
死穢八斎會の一件にも関与はしていたようだったが、全力でというよりは何人か派遣したといった感じだったらしいし。
……まぁ、最終的には捕らえられた治崎を襲撃した事から、ヴィラン連合と死穢八斎會の関係は決して良好なものではなかったのだろうが。
ともあれ、死穢八斎會の件もあったので、ヴィラン連合はまたすぐに動ける状態じゃないと思うが……ただ、ヴィラン連合だけに、それこそ何をしでかすのか分からないという一面があるのも事実なんだよな。
「では、これから1年A組が文化祭で何をやるのか、その出し物を決めたいと思いますわ。まずは皆さん、自分のやりたい事を教えて下さい」
相澤からA組の出し物を決めろと言われ、学級委員長であるヤオモモがそう尋ねる。
すると次の瞬間、多くの者達がはいはいはいはいはい! 元気よく挙手をする。
……その中には先程文化祭をやってもいいのか? といった切島もいたのだが、その辺については気にしないようにしておこう。
「えっとではまずは上鳴さん」
ヤオモモが最初に当てたのは、上鳴。
……いや、何故そこで上鳴?
そう疑問に思ったが、こういう行事の時の盛り上げ役として上鳴に当てるのは分からないでもない。
「メイド喫茶にしようぜ!」
「メイドですの? メイド服なら用意出来ますが……」
「ぬるいわ上鳴! オッパブ……」
ヤオモモが当てるよりも前に峰田が何か……というか、うん。まぁ、そういう系統の店について言おうとしたのだが、次の瞬間には梅雨ちゃんによって拘束され、吊されていた。
梅雨ちゃん、こういう時の反応は凄いよな。
とはいえ、峰田を見る梅雨ちゃんの表情には嫌悪感よりも仕方がないわねといった、困った弟を見るかのような視線があった。
この2人の関係も、色々とあるだろうな。
そのように思いつつ、俺は麗日がお餅屋さんをやりたいというのを眺めていた。
他にも腕相撲大会、ビックリハウス、クレープ屋、ダンス、触れあい動物園、暗黒学徒の宴、僕のキラメキショウ、コント……といたように次々と意見は出るのだが、後半の方になると意味不明のアイディアが多いな。
そんな風にそれぞれが希望を出すものの、結局授業内には決まらず……明日の朝までに決めるようにと相澤が言うのだった。