「公開座学は嫌だよなぁ……」
文化祭をやると言われた日の夜、寮では1階に多くの面々が集まって出し物についての相談をしていた。
三奈が言うように、今日中に……いや、明日の朝までに決まらなかった場合、公開座学という事になってしまう。
もっとも、A組の生徒達の意見としては文化祭に授業をやるというのは嫌だという事で意見は一致しているようだったが……もしこれが外部の客も招いての文化祭という事であれば、日本でトップのヒーロー科の座学という事で、興味を持つ者はそれなりにいたのかもしれないが。
だが、そういう外部の者が誰もいない以上、わざわざ公開座学にする必要はあるのか? とも思う。
そんな訳で、クラスの雄志の面々が何とかして明日までに文化祭の出し物について決めるべく、1階に集まってきた訳だ。
俺も……まぁ、うん。さすがに文化祭で座学というのはどうかと思うので、こうしてここにいる訳だが。
……あ、ロボット掃除機は今日も元気に掃除をしているな。
何となくロボット掃除機の様子を確認し、そんな風に思う。
ロボット掃除機がこうして元気に掃除をしているのもあって、A組の1階は綺麗なんだよな。
勿論ロボット掃除機だけではなく、持ち回りでしっかりと掃除もしているのだが。
ただ、ロボット掃除機のお陰で掃除についてはそこまで大変ではなかったりする。
「ねぇ、アクセル君。アクセル君は一体どういう出し物をやりたいの?」
透のその質問に、少し迷う。
これが普通であれば、文化祭らしくたこ焼きとか……あるいは砂藤が要望したクレープ屋なんかもいいとは思う。
だが、料理という事になると、雄英にはランチラッシュがいるんだよな。
これが外部の客を呼び込むのであれば、ランチラッシュの料理について食べた事がない連中だけなので、どうとでもなる。
だが、今回はあくまでも雄英内部だけでの文化祭となる以上、当然ながら生徒全員が寮に入っており、それぞれの寮に朝食と夕食を届けているのがランチラッシュである以上は、どうしても食事となるとランチラッシュと比べてしまう。
そうなれば、食べた者達が残念に思う……そんな光景は、出し物をやる方としても避けたいだろう。
「うーん、食事関係はランチラッシュがいる以上は無理だから、取りあえずそれ以外だな」
「えー、私クレープ屋さんとかやってみたいのに」
「……一応言っておくが、クレープって何気に難しいぞ?」
薄く生地を焼いて、それを破らないように……あるいは破れても表に出さないようにして、生クリームや果実、チョコといったものを包む必要がある。
プロがやってるのは簡単そうに見えるし、あるいはプロではなくても砂藤のように趣味でそういうのが出来るのであればともかく、普段からあまり料理をしない、ましてやクレープとかのお菓子を作ったりもしない者であれば、クレープを作るのは難しい。
勿論、文化祭まではそれなりに時間的な余裕もあるので、その間に練習を重ねてどうにか出来るようになる可能性もあるだろう。
……ただ、それを知った上でも、個人的にはクレープ屋というのは避けたいところなんだよな。
何しろ、今はまだヒロアカ世界については公に交流があるというのは知らされておらず、あくまでも知っているのはシャドウミラーだけだ。
いやまぁ、俺の恋人達の中にはそれぞれの世界と繋がりのある者もいるので、もしかしたらヒロアカ世界について知っているかもしれないが。
それにオールマイトを始めとして、何人かを連れてホワイトスターを見学させたりしているし。
そんな訳で、ヒロアカ世界の詳細については知らなくても、シャドウミラーがどこか新しい世界と接触したというのは、既に知られていてもおかしくはない訳で、そうなると当然ながら例の奴等……どこからともなく現れ、ゴーヤクレープを売るような者達にも知られる可能性はある。
そしてゲートがあるのは雄英の敷地内で、その雄英で文化祭をやるとなると……うん、どこからともなく現れ、ゴーヤクレープの屋台を出したりしていても不思議ではない。
あの連中、本当にどこからともなく姿を現すしな。
なので、もしかしたら……本当にもしかしたらだが、そういう連中を呼び寄せる可能性がある、クレープ屋は避けたい。
「えー…じゃあ、アクセル君はどういうのがいいの?」
「そうだな、駄菓子屋とか、そういうのならどうだ?」
世界にも寄るが……というか、よく考えてみれば駄菓子屋が普通にあるような世界って、どこがある?
いやまぁ、ネギま世界とかペルソナ世界なら、田舎とかに行けばまだ普通に駄菓子屋とかはあるかもしれないが。
ただ、ある程度都会となると……駄菓子は一応買えるものの、それを買うにはスーパーやコンビニとか、そういう場所でないと売っていない。
ましてや、このヒロアカ世界においては個性黎明期というのがあり、そこでかなりの混乱が起きている。
つまり、駄菓子を作っている会社とかも潰れていたりしてもおかしくはない訳だ。
勿論、プロヒーロー達の活躍によって平和が戻ってきたのだから、その時に一度潰れた会社を再建し、再び駄菓子を作っている可能性もあるけど。
ただ、俺はそれなりにスーパーやコンビニに行ってはいるけど、駄菓子を見た記憶が……うーん、別に駄菓子を目的に買おうとかそういう風には思っていなかったから目に付かないだけかもしれないけど、とにかく大々的に駄菓子を売っているといった事がないのは間違いない。
とはいえ、昔の漫画とかアニメとか映画とか……そういうのは普通に残っているので、それを見て駄菓子に興味を持つ者もいるだろう。
また、駄菓子は食べ物であると同時に、俺達が自分で作る訳でもないので、ランチラッシュの料理と比べられるような事もない。
ランチラッシュなら、もしかして駄菓子を作れたりするかもしれないが。
「なるほど、駄菓子屋か。それは盲点だった」
ノートPCで色々と検索していた飯田が、俺と透の言葉にそう反応する。
その言葉からすると、どうやら飯田は駄菓子について知っているらしい。
……生真面目というか、くそ真面目というか、そんな飯田がまさか駄菓子について知っているというのは少し驚きだった。
「えー……駄菓子かよぉ。せめてノーバ……ぐべぇっ!」
峰田が駄菓子屋に不満そうに反論しようしたものの、次の瞬間には梅雨ちゃんの舌によって吹き飛ばされる。
何となく、本当に何となくネギま世界にいた時の文化祭の事を思い出す。
あの時、千鶴がノーパンしゃぶしゃぶだったか? を提案しようとしていたような気がする。
そう思っていると不意にゾクリと背筋が冷たくなった。
あ、これ以上この件については考えない方がいいな。
「ですが、アクセルさん。駄菓子屋というのは私も興味はありますが……相澤先生の仰っていた、他の科の不満について考えると駄菓子屋ではいまいち弱いのではないでしょうか? 個人的に駄菓子というのは興味があるのですが」
ヤオモモのその言葉に、話を聞いていた者達はなるほどと納得した様子を見せる。
ヤオモモの場合は育ちが良いから、それこそ駄菓子なんて縁がなかっただろうし……あるいはそれを抜きにしても、ヤオモモの個性はカロリーを消費するだけに、駄菓子に強い興味を持ってもおかしくはないのだろう。
まぁ、実際のところどういう具合なのかは、ヤオモモでないと分からないが。
「そうなると、体験系の方が他の科の人達にも楽しんで貰えるんじゃない?」
耳郎のその言葉に、瀬呂が少し考えてから口を開く。
「となると、メイド喫茶か触れあい動物園か、ビックリハウスとか?」
「動物園は衛生上難しいんじゃね?」
「耳郎の提案していたコントとかは?」
「素人芸程ストレス与えるもんはねえよ」
その場にいる者達の間で、そんな風に意見が交わされる。
すると、1人用のソファに座っていた三奈が何気なく言う。
「皆で踊ると楽しいよ」
そう三奈が言ったのは、今日文化祭についての話を聞く前に皆の前で踊っていたのを見せたからだろう。
実際、ちょっと見ただけだったが三奈の踊りはプロとまではいかないが、その辺の素人の踊りとは比べものにならない程に上手いものだったのは間違いない。
素人以上プロ未満……セミプロといったところか?
結構本格的にやっていたのは明らかだ。
あるいは三奈の持つ高い身体能力も、この踊りによって得られたものなのかもしれないな。
「ダンスいいんじゃねえか?」
そんな三奈の意見に賛成するように口にしたのは……轟だった。
ちょっと……いや、かなり予想外の言葉だな。
実際、三奈もまさか轟が自分の意見に賛成するとは思っていなかったのか、少し驚いた様子を見せている。
「ちょっといいか。何かあっただろ。何ていうのか知らねえけど、馬鹿騒ぎする奴」
そう言いながら、轟は飯田のノートPCを使って検索し……そして映像モニタに表示されたのは、いわゆるコンサート的な感じの奴だった。
「轟から出る発想じゃねえっ!」
瀬呂が思わずといった様子で叫ぶ。
実際、そんな瀬呂の意見には他の者達も同様といった様子で頷いている。
一体何がどうなってそうなったのか……興味深い事ではある。
「飯田の、皆が楽しめるという意見はもっともだと思う。なら、そうして皆で楽しめる場を提供するのが一番じゃねえかと思ったんだ。仮免補講からの連想なんだが」
仮免の補講って……一体どういう事をやったんだろうな。
その辺、ちょっと興味深い。
もっとも、それを言っても轟の性格を考えれば素直に何をやったのかを言うとは思えない……いや、寧ろ轟なら何でもないかのような感じで言ったりするのか?
俺以外の者達も、仮免の補講で何をやったのかというのが、気になってはいたようだったが、轟本人はその辺をあまり気にしてはいないらしい。
その辺りも轟らしいのかもしれないが。
「さっきも言ったけど、素人芸程ストレスなものはないぞ?」
「私、教えられるよ」
瀬呂の言葉に三奈がそう主張し……その後、ダンスはともかく音楽はどうするのかといった話題となって、最終的には耳郎が教える事になる。
A組で音楽と言ったら、それこそ耳郎しかいないしな。
いっそ、シェリルや円、美砂辺りを呼んできても、それはそれで面白そうな予感はしたんだが……ヤオモモのような少数以外は、一体誰? ってなるしな。
「では、ライブと駄菓子屋のどちらを選ぶか……明日の朝までに投票で決めよう!」
「いや、もうライブでいいんじゃないか?」
飯田の言葉にそう突っ込む。
個人的には駄菓子屋というのはそれはそれで面白そうな気はするのだが、だからといってライブとどっちがいいかとなると……まぁ、うん。やっぱりライブだろう。
というか、恐らく……これは本当に恐らくだが、俺という存在がいなかった原作ではライブをやったんだと思う。
であれば、この辺は無理に駄菓子屋を持ってくる必要はなく、素直にライブでいい。
「む? だが、アクセル君は駄菓子屋をやってみたいのではなかったのか?」
「やってみたいというか、思いついたから言っただけだし。俺にしてみれば、他に何かやるのがあって、皆がそれに納得してるのならそれでいい」
どうしても駄菓子屋をやりたかったら……例えば教師達に見つからないよう、無断でやるというのもありだろうし。
……まぁ、それを知れば相澤辺りは不満を口にして、場合によっては反省文コースかもしれないが。
相澤は、俺がシャドウミラーの代表であるアクセル・アルマーであるというのを知っていても、今はあくまでも雄英の生徒であるアクセル・アルマーとして認識してるので、何かをやらかせばやはり反省文とか、そういう感じになると思う。
とはいえ、俺がその気になれば気配遮断や影のゲートを使って相澤に見つからないようにして駄菓子屋はやれる。
俺の能力はあくまでも個性ではないので、相澤の抹消とかそういうのも使えないしな。
……そこまでして駄菓子屋をやりたいかと言われれば、否なのだが。
個人的には相澤には文化祭の時にゴーヤクレープを売ってる屋台が出没していないかどうかを確認して貰い、それでもしゴーヤクレープの屋台があったら対処して欲しいと思う。
今のところゴーヤクレープがヒロアカ世界に出てきてはいないものの、本当にどこから出るのか分からないくらいに出没したりするしな。
俺としてはそれは避けたいので、そちらについては相澤に任せたい。
「ふむ、それでは……まだ本決まりという訳ではありませんが、この場にいない人達にも聞いてみて、それで問題がないようならライブにするという事でどうでしょう? 楽器については、うちに色々とありましたので、それを用意する事も出来ますが」
ヤオモモの言葉に誰も反対はしない。
……ただ、ヤオモモの家にある楽器だともの凄い高価なものがありそうなので、取りあえず楽器は耳郎の奴を使う事になるのだった。