ヤオモモと飯田の……そして何より三奈と轟の提案により、1年A組の出し物はライブとなった。
いや、まだ本決まりという訳ではないが……恐らく誰も反対はしないだろう。
そんな訳で俺は部屋に帰ってきてベッドに寝転がりながらTVを見ていたのだが……
不意に、スマホが着信を知らせる。
画面を見てみると、そこにあったのは拳藤の名前。
「もしもし、どうした?」
『文化祭の事で、ちょっとアクセルと話したくてね』
「文化祭の事で? A組の出し物は決まったけど、それ関係か?」
『違うよ。……それにしても、もうA組の出し物は決まったんだね』
拳藤が感心した様子でそう言ってくる。
「そういう風に言うって事は、B組はまだ決まってないのか?」
『色々と案は出てるんだけどね。……ちなみに茨からはアクセルの写真展が提案されたよ』
「それはまた……うん」
茨の俺に対する心酔具合を考えれば、あるいはそういうのを提案してもおかしくはない。
おかしくはないが……
「それは却下されたんだよな?」
『さすがにね』
一応確認してみると、拳藤が俺の期待通りの言葉を口にする。
まぁ、うん。茨にしてみれば俺の写真展とかそういうのをやりたいのは分かるが、だからといってB組の面々が……ましてや、A組に対して強い対抗心を抱いている物間がそれを受け入れるとは思えない。
それこそ物間なら、何が何でも茨の提案に反対するだろう。
……もっとも、そうして反対した結果、茨の髪の毛によって拘束されてたりしていてもおかしくはないのだが。
俺を信仰する茨に、物間が普段の様子で煽ったりしたら……まぁ、うん。どうなるのかは、容易に想像出来てしまう。
「一応聞いておくけど、物間は無事か? 五体満足的な意味で」
『リカバリーガールがいたからね』
それは……つまり、リカバリーガールが回復しなければならない程のダメージを受けたという事にならないか?
いやまぁ、色々と聞きたいところだけど、この件については深く突っ込まないようにした方がいいな、うん。
そんな訳で、話を逸らす。
「それで結局B組の出し物の候補くらいは決まったのか?」
『一応、今のところは演劇が有力候補かな』
「演劇か。……ちょっと意外だったな。B組の事だから、もっとこう……予想外のところを狙ってくるかと思ったんだが」
『安心してくれ……というのはどうかと思うけど、演劇は演劇でも、かなり驚くような奴になると思うよ』
「それはそれで楽しみだな」
ライブの方で俺がどういう役割をするのかはまだ決まっていないものの、それでも出来ればB組の演劇を見に行きたいとは思う。
『あー……それで、ね。ちょっとアクセルに相談があるんだけど』
「相談? 何だ?」
『壊理ちゃん……出来れば文化祭に招待出来ないかな?』
「それは……どうだろうな。例年の文化祭なら外部の人間が見に来たりも出来るけど、今年はヴィラン連合やら何やらのせいで、あくまでも雄英の中だけの文化祭だろう? 壊理を見れば、一目で部外者だと分かるだろうし」
『その辺は、壊理ちゃんの事を知っている相澤先生に頼めない?』
「なるほど。それならいけるか?」
相澤は壊理について知っている。
治崎の手によって、個性破壊弾の材料とされていた件についても。
そして相澤は何だかんだと子供好きだったりもする。
であれば、雄英の文化祭に招待することによって少しでも壊理の気分転換になればと……そういう風に思ってもおかしくはない。
『でしょ? その……壊理ちゃんは子供だけど女の子だから、アクセルだけだと大変な事もあるだろうし、私も一緒に壊理ちゃんと一緒に文化祭を見て回るから』
「そうしてくれると、助かるな」
例えばトイレとかそういうのの場合、女手がないとどうしようもない。
いやまぁ、雄英の生徒は何だかんだと人が良いから、その辺にいる女子生徒に頼むという方法もあるが……拳藤が最初から一緒にいてくれるのなら、そっちの方がいい。
『じゃっ、じゃあ、文化祭は一緒に見て回るってことでいいよな?』
「そうだな、頼む。……ただ、俺と拳藤の自由時間が一緒になるかどうかがまだ分からないのが何とも言えないんだよな」
特に劇とかになると、準備とかも色々と忙しいだろうし。
『大丈夫。そっちは私の方で何とかするから。アクセルも壊理ちゃんと一緒にどういう場所を見て回るかとか、そういうのを考えておいた方がいいよ』
「そうか? まぁ、拳藤がそう言うのならそれでいいけど。……ちなみに壊理と一緒に回るとなると、やっぱりヤオモモも呼んだ方がいいと思うか?」
『え? あ、あー……うん。まぁ、そうだよな。私は大丈夫だと思うけど、壊理ちゃんの事を思えば、やっぱりヤオモモもいた方がいいかもしれないね』
あれ? 何だか拳藤が微妙に残念そうにしている感じがするんだが……これは気のせいか?
そんな風に思うも、拳藤はすぐにまたいつも通りの様子になったので、その後は普通に話をするのだった。
翌朝、予想通りというべきか、A組の出し物はライブに決まった。
より正確にはライブだけではなく、ライブとダンスホールが一緒になったような出し物だ。
それを聞いた時、相澤は一瞬眉を動かしたものの、特に何も言う事はなく頷いた。
そんな訳で、早速準備やら練習やら……後はついでにインターンに行っていた者達の補習やらがあったのだが、そういうのをこなしながら俺は相澤と会う為に職員室に向かう。
「失礼します。相澤先生、ちょっと相談があるんですけど」
「アクセルか? ……分かった、来い」
何らかの書類を見ていた相澤は俺の言葉を聞くと立ち上がり、生徒指導室に向かう。
以前もそう思ったが、生徒指導室なのに指導じゃなくてこうして相談をするというのは……いや、こうして相談もまた指導の一環に入ると思えば、そうおかしな事ではないのか?
そんな風に思いつつ、俺は椅子に座って相澤と向き合う。
「それで、相談ってのは何だ?」
「壊理の事です」
壊理の名前を出すと、相澤の表情が少しだけ真剣なものとなった。
相澤も死穢八斎會の一件に参加したし、俺からの情報によって壊理が個性破壊薬の原材料となっていた件については知っている。
そして相澤は外見こそ一見するとホームレスか何かのように見えるものの、実際にはかなり生徒思いのところがある。
そんな相澤だけに、壊理のような子供が治崎によってどんな目に遭ってきたのかというのを知れば、それに対して色々と……本当に色々と思うところがあるのだろう。
「あの子がどうした?」
「相澤先生も知っての通り、現在壊理はホワイトスターで保護しています。ですがずっとホワイトスターにいたままというのもどうかと思いますから、文化祭に壊理を招待したいんですけど……出来ますか?」
「……なるほどな。アクセルの考えは分かった。それにあの子の個性、巻き戻しだったか? それを考えれば、そして個性破壊薬についての事を考えれば、あの子をあまりこの世界の人目に晒したくないというのは分かる。そういう意味では、今年の文化祭に招待するというのは理解出来る。だが……」
「だが?」
相澤の様子を見る限りだと、相澤本人は壊理を文化祭に招待するのは反対という訳ではないのだろう。
しかし、今の様子を見る限りだと何か思うところがあるといったところか。
「あの子をアクセルが連れていることをどう説明する? あの子の事を知ってるのは、ほんの一部だ。そうである以上、アクセルがあの子を連れて歩いてるのを見れば、何事だ? と思う者も出てくるのではないか?」
「その辺は……例えば、リューキュウやマウントレディが知り合いの子供を預かる事になったけど、仕事で忙しくて知り合いの俺に預けたとか、そういうのはどうでしょう?」
「それは無理があるように思えるがな。だが……まぁ、アクセルがリューキュウの事務所に職業体験やインターンで行ったというのは、それなりに知られている。そういう意味では可能性もあるかもしれないが……それなら、より親しい波動に預けるのではないか?」
言われてみればそうだな。
実際、ねじれは俺が職業体験にいく前から……それこそ俺がこのヒロアカ世界に来た時から既に龍子の事務所でインターンをしていた。
その辺りの事情を考えれば、もし龍子が何らかの理由で壊理のような子供を預かり、仕事で忙しくなったとかになったら、それを預けるのは俺じゃなくてねじれになるだろう。
「となると、プッシーキャッツならどうです? マンダレイは丁度親戚の子供を預かってますし、そっち関係でなら」
とはいえ、そうなるとあの子供……洸汰だったか。
壊理だけが消えて、洸汰が文化祭に来ないというのを緑谷とかなら疑問を抱くかもしれないな。
となると、マンダレイじゃなくてピクシーボブ辺りが預かった子供という事にするとか?
「まずは校長に話を持っていく。それで許可が出たら、それからどうするかを考えればいいだろう」
そう相澤は言うのだった。
ライブをやると決めて、それぞれのパートを決める事になる。
大まかに分けて、バンド組、ダンス組、演出組になるのだが……
「ねぇ、その……アクセルは何か楽器出来たりしない?」
耳郎がそう聞いてくるが、俺に出来るのは首を横に振るだけだ。
「そっち系は手を出した事がないな」
「そっか。……出来れば、ウチはアクセルと一緒にライブをやりたかったんだけどな」
「悪いな」
実際問題、俺に歌関係のスキルの類はない。
せいぜいが、シェリルの歌を聴いたりとか、そんな感じだ。
……まぁ、一流どころか超一流の歌を聴いているというのは、耳が肥えていると言ってもいいのかもしれないが、それはあくまでも聴く分に対してだけとなる。
それ以外でとなると、何が出来る筈もない。
あるいは練習をすればどうにかなるかもしれないが……既に出来る奴がいるのなら、俺としてはそっちに任せたい。
「俺は演出組の方が向いてると思うんだよな。炎獣とかを出したり出来るし」
巨大な炎獣を出すのもいいし、あるいは小鳥のような炎獣を多数出すのもいい。
自分で言うのもなんだが、炎獣は非常に目立つので演出には使える筈だ。
「あ、ちょっと待った。出来ればアクセルには演出もそうだけど、ダンスにも来て欲しいんだ。峰田と同じくハーレムパート作るから、それに参加して欲しいの」
そう、三奈が言ってくる。
だが……そんな三奈の言葉に反応したのは、名前が出た峰田だった。
「オイラのハーレムパートが削れるだろぉっ!」
「ううん、別にそんな事はないよ。最初は峰田のハーレムパートで、次はアクセルのハーレムパート。それでどう?」
抗議の声を上げる峰田に対し、三奈が落ち着かせるように……そして説得するかのようにそう言う。
「ぐぐっ……悔しい……悔しいけど、アクセルならオイラ並の凄いハーレムパートを作れそうだから、認めるよ!」
叫ぶ峰田だったが……うん、少し離れた場所で梅雨ちゃんが峰田に向けてジト目というか、呆れの視線というか、そういうのを向けているんだが、気が付いてないのか?
「えへへ、じゃあ、私はアクセル君としっかり頑張ってハーレムパートを作るね」
元気よく、それでいて嬉しそうに透が言う。
「あっ、ちょっ……」
そして何故か耳郎が困った様子を見せるも、まずはバンドのメンバーを決めるという事になる。
結果として、耳郎、ヤオモモ、爆豪、上鳴、常闇がバンドメンバーとなり……他の面々もそれぞれに別れる。
もっとも、俺の場合は炎獣を使った演出もあるので、兼業という形になったが。
そうした日々を楽しんでいると……不意に相澤から呼び出される。
そして向かったのは、既に何度も使って慣れた感のある生徒指導室。
「どうしたんですか、俺を呼び出すなんて。……何かヴィラン関係で騒動があったとか?」「いや、違う。お前から相談されていた、壊理ちゃんを文化祭に招待する件だ」
「どうなりました?」
「校長からは許可を貰った。……ただし、いきなりあの子を雄英に連れてくる、それも文化祭をやっているところに連れて来ては、何らかの騒動が起きる可能性もある。その為、近いうち……文化祭の準備中に一度雄英に連れてきて、見学をさせてはどうかという意見が出た」
「……なるほど」
相澤の言葉は分からないではない。
文化祭は非日常の世界だ。
それを初めて見た壊理が驚き、万が一にも個性を暴走させたりしたら、どうなるか分からないしな。
まぁ、相澤がいるので何かあっても問題はないと思うが。
「話は分かりました。俺はそれで構いません。……ああ、それと壊理のカバーストリーはどうなりました? リューキュウの件は難しいって話でしたよね? やっぱりマンダレイに?」
「ミルコにした」
「……えー……」
まさかここでミルコの名前が出てくるとは思わず、思わずそんな声を漏らす。
だが、考えてみればミルコなら色々と特殊なので、それはそれでありか? と思い直すのだった。