ミッドナイトと壊理と共に、雄英の色々な場所を見て回る。
普段は何でもない場所であっても、今日は文化祭の準備中という事もあってか、多くの者達が色々な場所で色々な事をしていた。
特に面白かったのは、サポート科だ。
文化祭というのは、サポート科にとって自分で作ったサポートアイテム発表の場でもある。
とはいえ、例年であれば色々な企業から人が来てサポート科の作ったサポートアイテムを見て、場合によっては青田買いしたりもするらしいが……今年はヴィランの影響によって、文化祭は雄英の生徒だけだ。
そういう意味では、サポート科にとって今年の文化祭には不満があってもおかしくはない訳で……相澤が以前言っていた、他の科にストレスがどうとかいうのは、こういうのも影響してるんだろうな。
とはいえ、サポート科を覗いてみた限りでは特にそういう不満を口にする者はいなかった。
これは教師のミッドナイトがいたからか、あるいは壊理のような子供がいる前で不満を言うような事はみっともないと思ったのか。
その辺は生憎と俺にも分からなかったが、とにかく問題なくサポート科の準備を見終わると、他の場所に向かう。
「すごかったね」
壊理が驚きと共に言うが……その凄いというのは、準備されていたサポートアイテムに対してのものか。あるいは発目の開発したサポートアイテム……というか、ロボ? パワードスーツ? とにかくそれっぽいのが爆発した事か。
何となく後者のような気がするのは、きっと俺の気のせいだろう。
うん、そうしておいた方がいいな。
そんな風に思いながら雄英の中を歩いていると……
「うん? ドラゴン?」
「おう、悪い。驚かせ……アクセル?」
道の曲がり角から突然現れたのは、ドラゴンを思わせる人形? 模型? とにかくそんな感じの奴だった。
その向こうから聞き終えのある声がして、鉄哲が姿を現す。
「アレアレアレー? こんな所で油を売ってるなんて、余裕ですかあぁあっ!?」
そして鉄哲のすぐ側にいた物間が、いつものようにこっちを煽ってくる。
うーん、こいつは……対抗意識があるだけなら別に構わないんだが。
何でここまでA組に対抗心を抱いているのかが分からない。
「A組はライブ的な事をやるんだってね。いいのかなぁ? 今回はっきり言って、君達A組より僕達B組の方が凄いんだが!?」
そう言い、まさに自信満々といった様子で物間は言葉を続ける。
「ロミオとジュリエットとアズカバンの囚人~王の帰還~。B組の完全オリジナル脚本。超スペクタクルファンタジー演劇!!」
「いや、どこから突っ込んでいいのか分からないんだが」
そもそも、劇のタイトルからしてどこかで聞いた覚えがあるような言葉が並んでいる。
……個性黎明期の混乱で、文明の崩壊というのは少し大袈裟かもしれないが、とにかくかなりそれに近い状態になったにも関わらず、そういうのは残っていたんだ。
あ、でも映画のエイリアンとかも残っていたのを思えば、何気にそういうのが残っていてもおかしくはないのか?
とはいえ、そういうので劇が面白いかというのは、正直なところ微妙と言ってもいいだろう。
いや、それぞれに面白い要素はあるので、それを脚本で上手い具合に調理出来るかどうかというのが、この場合は大きいと思う。ただ……
「どこかで聞いた覚えのある単語が並んでるのに、B組オリジナル脚本ってのは、どうなんだ?」
「ふふん、それが君の未熟なところさ。僕達の演劇はそれはもう素晴らしいんだ。君もB組に食われて涙する為にハンカチの準備をしておいた方がいいよ? アハハハ、アハハハハハ、アハハハハハハ!」
そうして笑う物間は、明らかに常軌を逸していた。
壊理がそんな物間の姿を怖がり、俺の後ろに隠れようとするが……ゴン、と。
壊理が隠れるよりも前に、B組の……誰だったか。えーっと、泡瀬とかいう名前だったと思うが、その泡瀬が持っていた木材で物間を殴りつける。
殴られた物間は、そのまま地面に沈む。
「ごめんな、アクセル。いつも物間を止める拳藤がいねえから、歯止めが効かねえんだ、こいつ」
「拳藤おねえさん……」
泡瀬の口から拳藤の名前が出ると、それに真っ先に反応したのは、驚くべきことに壊理だった。
まぁ、壊理にとって拳藤とヤオモモは自分を助けてくれた恩人で、壊理もそれが分かっているのでしっかりと懐いているしな。
その辺を思えば、壊理のこの反応も分からないではない……か?
「ん? アクセル、この子は? 拳藤の名前に反応したけど、知ってるのか?」
「ああ、以前ちょっとした関わりがあってな。それにしても、なんで拳藤がいないんだ? 物間係としてしっかりとやって貰わないと」
「いや、あいつミスコンに出るんだよ」
「ミスコンに?」
それはちょっと……いや、かなり意外だった。
実際、拳藤はかなり顔立ちが整っている凜々しい系の美人だし、そういう意味ではミスコンに出てもおかしくはない。
おかしくはないのだが、だからといって拳藤が自分から進んでミスコンに出るタイプかと言われれば、首を傾げたくなる。
その辺は拳藤の性格に合わないような気がするんだが。
「ああ。……物間がな」
泡瀬が気絶した物間を見つつ、そう言ってくる。
あー……うん、なるほど。
物間にしてみれば、少しでもA組に対して勝利したいのだろう。
その為には、拳藤をミスコンに出すくらいの事は普通にやってもおかしくはない。
とはいえ、物間もそれは勝てるからこそ拳藤を出す事にしたのだろうが。
……何か、あれだな。何かで見たアイドルのコンテストとかで友達が勝手に応募しました的な?
まぁ、今回の件はアイドルじゃなくてミスコンではあるが。
いや、ミスコンでもそういうのはあったりするかもしれないな。
ただ……拳藤とは文化祭当日は壊理と一緒に3人で見て回るって事になっていたんだが、演劇にプラスしてミスコンにも出るとなると……大丈夫なのか?
時間的にちょっと無理があるような気がするけど。
「全く……雄英の負の面を見せて、ごめんね壊理ちゃん」
「ふのめん……」
俺が泡瀬と話をしていると、ミッドナイトと壊理が話している内容が聞こえてくる。
物間が雄英の負の面か。
言い得て妙って奴だな。
もっとも、そういう意味では爆豪と峰田というA組の2大問題児もまた雄英の負の面と言われれば否定は出来なかったりするのだが。
「じゃあ、俺達は忙しいからもう行くな」
そう言うと、話していた泡瀬でなく鉄哲が気絶した物間を引きずっていく。
それを見送ると……
「さて、それじゃあ次はどこに行く?」
「……アクセルさんのところにいきたい」
俺の問いに、そう壊理が言ってくる。
俺のところというのは、言うまでもなくA組の事だろう。
うーん……雄英の負の面残り2人がいる場所に連れていってもいいのか? と思わないでもなかったが、壊理が行きたいというのであれば、いいか。
「よし、壊理。じゃあ俺のクラスに行くぞ。……ただ、壊理はミルコというヒーローの知り合いで今は一時的に俺達に預けられて、こうして雄英の文化祭の準備を見て回っているという事になっているから、その辺りについて聞かれた時はそう答えてくれ……それはそれでちょっと難しいか?」
壊理にはちょっと難しい事だったが、それならそれでもし何か言われても、俺やミッドナイトで誤魔化せばいいか。
「ミッドナイト先生、万が一の時は頼めますか?」
「ええ、任せておいてちょうだい。私が壊理ちゃんを守るから」
いや、そこまで言う程の事ではないと思うんだが……まぁ、それならそれでこっちとしては構わないけど。
ミッドナイトがこういう風に言うのであれば、任せておいても問題はないだろうし。
そんな訳で、最後にA組に顔を出す事になったのだが……
「おいこらアクセルゥッ!」
A組に入るや否や、俺の……というか、ミッドナイトの姿を見た峰田がいつもの如く血涙を流しながら距離を詰めてくる。
「ひっ!」
峰田が近付いてきたのは、あくまでも俺に対してであった。
だが、俺と壊理は手を繋いでいるうえに、壊理はまだ小さく、峰田もまた異形系かと思われるように年齢とは全く違う外見をしていた。
それを考えれば、峰田を見た壊理が今のように反応してもおかしくはない。
そして壊理が怖がった瞬間……ビシィッ、とミッドナイトの振るった鞭が峰田を叩く。
「いぎぃっ!」
鞭に叩かれた痛みに、悲鳴を上げる峰田。
あるいはモギモギを使えばミッドナイトの鞭を防ぐ事も出来たかもしれないが、残念ながらミッドナイトは峰田にそんな隙を与えなかった。
もっとも峰田を鞭で叩きはしたものの、それでも威力については十分加減していたのか、峰田は痛みは感じているようだったが、制服が破れたり、あるいは皮膚が破け、肉が裂け、骨が砕けるといったことにならなかったが。
……制服にダメージを与えず、それでいてしっかりと峰田に痛みを与えるというのは、正直なところどうやっているのか分からなかったが。
その辺はプロヒーローとしての技量といったところなのだろう。
「壊理ちゃんを怖がらせちゃ駄目よ?」
「は……はい……」
笑みを浮かべて言うミッドナイトの言葉に、峰田が出来るのは頷く事だけだった。
「えっと、それでアクセルさん……何で壊理ちゃんがここにいるんですの?」
「あ、ヤオモモおねえちゃん」
ヤオモモがそう尋ねてくると、峰田の存在を怖がっていた壊理だったが、俺とミッドナイトの手を放してからヤオモモに近付いていく。
「ヤオモモ、その子知ってるの?」
今までバンドの練習をしていた為か、薄らと汗を掻いた耳郎が不思議そうにヤオモモに尋ねる。
あ、しまった。
そういえば、ヤオモモには今日用事があるとは言っていたが、壊理が来るというのは知らせなかったし、何より壊理のカバーストーリーについても知らせていなかったな。
そう判断すると、俺はヤオモモが何かを言うよりも前に口を開く。
「この子供は壊理。ミルコから今日預かっている子供だ。その……夏休みにヤオモモは俺と一緒にいる壊理と会った事があってな」
「……ふーん」
俺の言葉に不思議そうな……というか疑問が込められたジト目を向けてくる耳郎。
うん、まぁ……今の説明は咄嗟のものではあったが、少し無理があったのかも? とは思わないでもない。
言ってしまった以上は仕方がないが。
ともあれ、ヤオモモも今の俺の説明で事情を察したのだろう。
すぐに俺に視線を向けると、口裏を合わせる。
「そうですわね、夏休みに壊理ちゃんとは会った事はありますわ。……アクセルさんも、今日の用事が壊理ちゃんの事でしたら、前もって言って下されば良かったのですのに」
少しだけ俺を責めるようにヤオモモが言う。
実際に壊理がくるというのを話しておけば、ヤオモモもここまで驚くような事はなかったのだ。
そういう意味では、ヤオモモが拗ねるように言ってもおかしくはないか。
「悪いな、その辺についての配慮をすっかり忘れてた。拳藤にも……ああ、そういえば拳藤で思い出したんだが、拳藤はミスコンに出るらしいぞ? 文化祭でミスコンがあるって知ってたか?」
ざわり、と。
ミスコンという言葉に多くの者達――全て男だったが――がざわめく。
この様子を見ると、どうやらミスコンについては知らなかったらしい。
「み……す……こん……だと?」
当然のように、ミスコンという言葉に一番反応するのは、先程まではミッドナイトの鞭によって動けない状態になっていた峰田だった。
ギギ……ギ……ギギギ……といった感じで、起き上がる峰田には、何とも言いがたい迫力があった。
うーん、これはさすがにちょっとこう……問題ではありそうだな。
そんな風に思うくらいには、今の峰田には迫力があった。
女好きの峰田にしてみれば、それこそこのような絶好の機会を見逃す筈もない。
それは分かっている。分かっているが……分かったうえでも今のこの状況では色々と思うところがあったりするんだよな。
とはいえ、このまま峰田の好きにさせておいたら、またミッドナイトの鞭が唸ったりしそうなので……
「つまり、峰田的にはA組からもミスコンに誰かを参加させた方がいいと、そう言いたい訳だな?」
コクコクコクコクコクコクと、何度も素早く、連続して峰田が頷く。
峰田だけではなく、上鳴や瀬呂といった面々もまた俺の言葉に同意するように頷いていた。
うーん……この辺、見事に男子高校生だよな。
「そんな訳で、A組からもミスコンに参加した方がいいって話になったけど……どうする? というか、誰を出す?」
幸いな事に、A組の女子は顔立ちの整っている者が多い。
そういう意味では、誰であっても優勝のチャンスはあると思うが……B組に会ってからここに来る途中にミッドナイトに聞いた話によると、ねじれですら準優勝しか出来ていないんだよな。
なので、もし本当にミスコンに参加をするなら、しっかりと勝てる人材を送る必要があるだろうと思うのだった。