B組の拳藤がミスコンに出るという事で、それに対抗するかのようにA組からもミスコンに参加する事になった。
幸いなことに、ミスコン参加者の募集はまだ終わってないというミッドナイトからのアドバイスにより、その辺については問題がなかった。
そちらについては問題がなかったのだが……そうなると、今度は一体誰が出るのかとう事が問題となる。
いや、これ本当に一体誰を出すべきなんだろうな?
「オイラの話を聞いてくれ。まずは、整理しよう。A組から誰かを出すか。候補となるのは、当然ながらA組の女子で、出席番号順に芦戸、梅雨ちゃん、麗日、耳郎、葉隠、ヤオモモになる訳だ。この中で……悪いけど、葉隠は無理だと思う」
「えー……まぁ、私の個性を考えればしょうがないか」
峰田の言葉に透は少しだけ不満そうにするものの、ミスコンとなると外見が非常に大きなポイントとなるので、透明が個性の透の場合はそれが無理なのは明らかだった。
本人もそれを理解しているので、峰田の言葉を素直に受け入れたのだろう。
……これで透が自分の個性のオン・オフを自由に出来るのなら話は別だったが、生憎と透にそういう事は出来ないんだよな。
いやまぁ、今は無理でも将来的に個性を鍛えれば出来るかもしれないが。
「後は……芦戸と耳郎もそれぞれバンドとダンスの指揮をしている以上、無理だよな」
続けて峰田がそう言うと、耳郎は安堵した様子で、そして三奈は少し残念そうにしながらも頷く。
実際、ライブについてはバンドの指揮を耳郎が、ダンスやら演出やらの指揮を三奈がしている以上、この2人は非常に忙しく、ミスコンに出るのは無理だろう。
いや、あるいは無理をすればどうにか出来る可能性もあったが、それはそれで難しいとは思うし。
どうしても耳郎と三奈しかないのであればともかく、他にも候補はいるんだからこの2人が無理をする必要はない。
A組的に見れば、あくまでも本命はライブで、ミスコンはおまけ……といった表現はどうかと思うが、それでも本命でないのは間違いないのだから。
「となると、残るのは梅雨ちゃん、麗日、ヤオモモだけど……」
「私は遠慮するわ。その、私のはミスコンとかに向いてないと思うし」
その3人の中で真っ先にそう主張したのは、梅雨ちゃんだった。
梅雨ちゃんは異形系……なのか? ともあれ、個性の蛙によって愛らしいとは思うが、ミスコン向けではないのも事実。
……何故かそれを聞いた峰田が残念そうな表情を浮かべていたが。
あれ? これもしかして、峰田は梅雨ちゃんをミスコンに参加させるつもりだったのか?
まぁ、峰田と梅雨ちゃんは何だかんだと仲が良いしな。
そういう意味は峰田がそんな風に考えてもおかしくはない。
とはいえ、それでも峰田が反対しなかった事を考えると、峰田にとても梅雨ちゃんの意見には聞くべきところがあったという事か。
そうなると、残るのはヤオモモと麗日の2人になる訳だ。
うーん……これは難しい。
純粋に美貌や女らしさという点で考えると、ヤオモモ一択だと思う。
だが、麗日は原作ヒロインという立場にある訳で、そういう意味では麗日がミスコンに出れば優勝……あるいは優勝は無理でも、上位に入賞出来る可能性は十分にあるのだから。
「あのう……私よりは、やっぱりヤオモモの方がそういうのに慣れてると思うんやけど、どうかな?」
恐る恐るといった様子でそう主張する麗日。
麗日にしてみれば、ここで自分がミスコンなどという派手な……煌びやかな場所に出るのはどうかと思ったのだろう。
「けど、ヤオモモはバンドの練習もそうだし、個性でちょっとした物が足りない場合、出して貰ったりと忙しいだろ?」
そう、口を挟む。
個人的には優勝の本命であるヤオモモにミスコンに出て貰う方がいいとは思っているのだが、同時に原作のヒロインである麗日にもここでその力を見せて欲しいという思いがある。
そんな訳で、正直に言えばどっちでもいいとは思う。
思うのだが、それを混みで考えてもやはりヤオモモに任せるよりも、麗日という選択肢もあるのではないかと、そのように思ってしまうのも事実なのだ。
なので、結局のところまだ誰が出るベきなのか、そういうのは分からかったりする。
「それはそうですけど、私の場合は個性を使うのに消費する分だけカロリーを摂取すれば大丈夫ですので」
そう口にした瞬間、何人かの女子がヤオモモに恨めしげな視線を向けていた。
まぁ……うん。幾ら食べても個性を使えばそのカロリーを消費出来るのだから、女として見れば羨ましいだろう。
勿論、摂取したカロリーを消費するだけなら運動をすればいい。
だが、ヤオモモの場合はそれこそ運動をして疲れる事なくカロリーを消費出来るというのが、非常に羨ましいのだろう。
金持ちの家に生まれ、本人も雄英の推薦入学出来るだけの優秀さがあり、個性も創造という圧倒的なまでの汎用性を持ち、顔立ちも美人と言って間違いなく、そして身体付きも発育の暴力と呼ばれる程に凄く、性格も良い。
……これぞまさしく勝ち組って奴だよな。
ともあれ、そのようにヤオモモが口にし……麗日はそんなヤオモモの言葉に安堵し、こうしてヤオモモがミスコンに出る事になる。
あるいはヤオモモは自分ならミスコンで優勝……もしくは上位入賞は出来ると、そのように思っていたのかもしれないな。
いやまぁ、客観的に見てそれは間違っていないが。
もしくは、拳藤もミスコンに出るという事になったので、それに対抗意識を抱いたなんて可能性もあるな。
「みすこん?」
一連の、誰をミスコンに出すのかといった話をじっと見ていた壊理は、不思議そうな様子でそう呟く。
ミスコンについては……まぁ、うん。壊理が知らなくてもおかしくはないと思うけど。
あ、でもホワイトスターでアニメとかは見てるんだから、ミスコンがそれに出たりしてもおかしくはないと思う。
けど、こうして不思議そうな表情を浮かべているのを思えば、壊理もミスコンについては分からないということなのだろう。
「ミスコンっていうのはね、壊理ちゃん。綺麗な人を選ぶのよ」
ミッドナイトが壊理にそう教える。
実際、その内容は間違っていない事もあるので、特に何かを追加したりはしない。
「きれいな人」
そう言いながら、壊理の視線が向けられたのは……ミッドナイト。
壊理の様子から、その行動の意味をしっかりと理解したのだろう。
ミッドナイトは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「あらまぁ……ふふっ、壊理ちゃんの気持ちは嬉しいけど、ミスコンに出られるのは生徒だけなのよ。私は教師だから出来ないの」
「ざんねん」
壊理が言葉通り残念そうに言う。
実際、ミッドナイトが出れば優勝間違いなし……とまでは言わないが、まず確実に上位には入賞するだろう。
そう考えれば、やはりここはミスコンに出られるのが生徒だけというのは自然な事なのだろう。
「よっしゃぁっ! じゃあ、ヤオモモがミスコンに出るって事でその演出はオイラに任せ……ぐぎゃああああああああっ!」
峰田の言葉が途中で悲鳴に変わったのは、耳郎のイヤホンが峰田の眼球に突き刺さり、その上で音を峰田の身体に送り込んだからだろう。
うわぁ……と、耳郎のいきなりの行動に何人もが思わず引いているものの、耳郎が……いや、半ば耳郎さんと化した様子を見れば、何か言ったりは出来ない。
耳郎さんは、峰田をまるでゴミを見るかのような視線で見ている。
うーん……完全に耳郎さんになっていないだけあって、こう、不安定な怖さがあるな。
「演出は皆で考えよう」
コクコクコクコク、と。
耳郎さんの言葉に、それを聞いた者達……特に後ろ暗い者達は揃って頷く。
ここで耳郎に何かを言い返したりすれば、床で悲鳴を上げながら転げ回っている峰田と同じようになると、そう理解したのだろう。
当然ながら、俺もヤオモモがミスコンに出る際の演出については、皆で考えることに賛成しておく。
そうして俺達を見た耳郎は、ようやくこちらを挑発するように、あるいは警戒するように揺れていたイヤホンの動きを止める。
「あ」
そうした耳郎の様子を見ていたところで、俺はふと壊理に今の様子を見せたのは失敗だったのでは?
そう思って壊理の方を見るが……そこでは、ミッドナイトの手が壊理の目を隠しており、どうやら壊理に今の一連の事態を見られるような事はなかったらしい。
良かったと、そう安堵する。
「あ」
そして俺に遅れ、耳郎もまたそんな声を発する。
自分の行動を壊理に見られたかもしれないと……それで壊理に怖がられるかもしれないと、そのように思ったのだろう。
「A組は元気ね」
「げんきね?」
何気なく呟かれたミッドナイトの言葉に、壊理は目を覆われたまま不思議そうに首を傾げる。
ミッドナイトにしてみれば、今の一言はこっちに対するフォローでもあったのだろう。
その辺りについては感謝しておく。
「ヤオモモ、ミスコンの件はともかく、今はまず練習の方を重視した方がいいんじゃないか?」
「そうですわね。……皆さん、休憩は終わりにしますわよ」
さすが学級委員長、ヤオモモのその言葉で教室にいた面々は練習や準備、話し合いに戻っていく。
いくのだが……へぇ、爆豪もいたんだな。
いや、バンドの練習をしているのだから、そのバンドのメンバーである爆豪がいるのは当然だろう。
だが、壊理の件だったり、あるいはミスコンの件であったりについて色々と話している間、爆豪が黙っていたのがちょっと……いや、かなり意外だったのだ。
俺が知っている爆豪の性格であれば、それこそ何か口を挟んできてもおかしくはなかった筈だ。
特に爆豪は俺に強い対抗意識を持っているので、それこそ機会があれば俺に絡んでくる。
だというのに、そのような事をしなかったのは……多分だが、壊理がいるからだろうな。
ん? だとすれば、爆豪も自分の存在が子供には怖がられるというのを理解したのか?
仮免試験の補講で何かあったのかもしれないな。
ライブをやるのも、轟がその補講で何かがあったからという事だったし。
「じゃあ、壊理。俺も練習をしてくるから、壊理は見ていてくれ」
「うん、がんばって」
壊理にそう言われ、ダンスの練習に参加する。
ちなみに俺はダンス以外に炎獣を使った演出にも参加しているのだが、こちらについては特に問題ない。
何しろ炎獣は触れても火傷をするような事はないし、小鳥や小動物の炎獣をそれぞれ決まったタイミングで放つだけなのだから。
炎獣は俺の命令を素直に聞くし、その上である程度の自己判断も出来たりする。
そういう意味では、演習という意味で俺がやるべき事はそこまで多くない。
勿論、具体的にどういう風にするのかとかの相談とか、実際に試してみたりとか、そういうのは必要ではあったが。
「アクセル、こっちこっち。どうせ壊理ちゃんに見せるなら、アクセルのハーレムパートの練習をしようよ」
三奈にそう言われる。
……なお、ようやく先程の耳郎さんからのイヤホンのダメージから復帰した峰田は、三奈の言葉を聞いて俺を恨めしそうに見ている。
峰田にしてみれば、どうせなら自分のハーレムパートをもっと多くして欲しいと、そんな風に思っているのだろう。
だが、生憎と……いや、幸いにもと言うべきか?
とにかく俺と峰田のハーレムパートは同じくらいだ。
「分かった。じゃあ、やるか」
そう言うと、早速ハーレムパートの練習をする。
とはいえ、既に何度か練習をしている事もあって特に戸惑うような事はない……つもりだったのだが……
「きゃあっ!」
「っ!?」
床が滑ったのか、それとも身体の動きをミスってバランスを崩したのか。
その辺りは俺にも分からなかったが、とにかく悲鳴を上げながら転びそうになった三奈を半ば反射的に抱き留める。
「セーフ、だな」
俺が三奈の身体を抱きとめた時の様子からすると、下手をしたら三奈は頭部から床にぶつかっていた可能性が高い。
そうなれば、それこそ場合によっては気絶したり……最悪、大きな怪我をしていた可能性もあるだろう。
そのような可能性を考えると、三奈が転ぶ前に助けることが出来て良かった。
「えっと……あの……その……アクセル?」
腕の中で三奈が戸惑ったように、一体自分が今どうなっているのか分からないといった様子で声を掛けてくる。
三奈の、ヤオモモには負けるもののクラスNo.2の双丘が、俺の身体に強烈に押し付けられている。
また、激しくダンスの練習をしていた事もあってか、汗の臭いと三奈の体臭が入り交じり、どう表現したらいいのか分からないような状態になっていた。
……三奈が現在の自分の状況に気が付き、照れた悲鳴を上げながら俺から離れるまで、後十数秒。
その後は……まぁ、色々とあってそれなりの騒動になったりするのだが、それはまた別の話。
取りあえず壊理が嬉しそうにしているのは、俺にとっても嬉しいことではあったのだが。