文化祭のような行事で一番楽しいとされる、準備。
壊理が雄英に来た後でも、色々と……本当に色々とあった。
例えば、本来ならダンスチームだった筈の緑谷が、あまりにダンスが出来ず……それにプラスして、演出の方で増強系の個性が必要になったという事で、ダンス班から演出班に移動したり、あるいは物間がA組に煽りに来て、それに対して拳藤が来て気絶させて連れていったり、あるいは茨の髪の毛によって雁字搦めにされて引きずっていかれたり。
……物間も、何であそこまでA組に対抗意識を向けているんだろうな?
他にもヤオモモのミスコンの演出の件で峰田が調子に乗りすぎて耳郎さんが降臨したり、あるいは上鳴の言葉に騙され、扇情的な服を身につたヤオモモが恥ずかしがる様子もなくそれを見せつけてきたり。
後は……ああ、サポート科の発目が暴走した自作のサポートアイテムを追ってA組に突入してきた事もあったな。
それを見た峰田や上鳴はもの凄い興奮していた。
他の面々も……まぁ、うん。爆豪ですら一瞬発目に目を向けたのだから、発目がどれだけ凄かったのかというのが分かりやすいだろう。
具体的には、下着を着けず、上はノーブラでタンクトップ1枚。
ヤオモモ程ではないにしろ、三奈以上の大きさを持つだろう双丘が非常に分かりやすい形でそこにはあったし、タンクトップだけに横乳もしっかりと見る事が出来たくらいなのだから。
……そんな状態であるにも関わらず、峰田辺りが反射的に跳びかかったりしなかったのは、発目が文化祭で展示するサポートアイテムの開発に夢中になり、風呂にも入らず不眠不休だったからだろう。
顔も身体も汚れ、体臭もちょっと凄い事になっていたくらいだ。
そのお陰で峰田のセクハラの被害がなかったのだから、発目にしてみれば幸運だったのかもしれないが。
もっとも、普段の峰田ならそれはそれで問題ないといった様子でセクハラをしてもおかしくはないと……そのように思えるのだが。
……もし峰田が暴走していたら、梅雨ちゃんの舌か、もしくは耳郎のイヤホンか、はたまたそれ以外の何かがあった可能性があるが。
また、文化祭の準備期間中にやってきた壊理が、予想以上にミッドナイトに懐いた事もあってか、本番の時に壊理が来た時もミッドナイトが壊理の面倒を見る事に決まったりもした。
ともあれ、そんな感じで文化祭の準備期間も終わり、いよいよ文化祭本番となったのだが……
「緑谷がいない?」
「うん、朝にロープを買いに行ったんだけど、まだ戻ってこないんだって」
透が心配そうに言う。
もうすぐ俺達のライブが始まるというのに、未だに朝に買い物に行った緑谷は帰ってきていないのだ。
「それは……不味いな」
ダンス班を首になって演出班に回った緑谷だったが、緑谷にとっては皆の前でダンスをするよりも、演出という裏方に回った方が性に合ったのだろう。
嬉々として……という表現が相応しいくらいに、演出班では頑張っていた。
また、OFAという個性を持つ緑谷は、空中を浮遊したり、黒鞭を出したりといった事も出来るので、それを使って演出にも協力していた。
……浮遊はともかく、死穢八斎會のガサ入れの時に発現した黒鞭は使いこなすのにそれなりに苦労した様子だったが、放課後の自主練によって、今では普通に使えるようになっていた。
それはあくまでも使えるというだけで、使いこなせる……例えば何かあった時、咄嗟に、あるいは反射的に黒鞭を使えるといったような境地にはまだ達していなかったが。
とにかくそんな訳で、新たな個性の発現によって緑谷は演出班の中でも主力として活躍する予定になっていたのだ。
特に青山と一緒に行う……ミラーボール的な何かの時は、OFAを使った緑谷の膂力が非常に大きな意味を持っていた。
なのに、そんな緑谷が来ないとなると……幸いにも緑谷はバンド班でもダンス班でもないので、ライブが出来ないという事はない。
ないのだが、演出の質がかなり低くなる。
「でしょ? それでどうしようって話なんだけど……」
「ねぇ、アクセル。もし緑谷が戻ってこなかった場合は、アクセルの炎獣に期待する事になると思うけど、いい?」
透の隣で、三奈が真剣な表情でそう聞いてくる。
……壊理が来た時のダンスの練習の時、転びそうになった三奈を抱きしめて助けてから暫くはどこかぎこちない感じだったのだが、今となってはもう普通に接する事が出来ていた。
そんな三奈だったが、今は真剣な表情で俺に聞いていた。
「出来るか出来ないかと言われれば、勿論出来る。出来るけど、そうなると演出も全体的に弄る必要が出てくるんじゃないか?」
そう、三奈に答える。
実際、炎獣を出すだけであれば俺にとって殆ど負担はない。
それこそ数十、数百、数千、数万……そのくらいまでいけばそれなりに消耗するかもしれないが、俺の魔力の回復速度と回復量を考えれば、消費した魔力もすぐに回復する。
なので、炎獣をより多く出す事そのものは問題ないが、緑谷の力を当てにした演出もそれなりに多く、それを考えればその全てを炎獣で補うというのはちょっと無理があると思う。
「アクセルの言いたい事も分かるけど……それでも、緑谷が戻ってくるのに間に合わなかった場合の事を考えると、その時はどうするのかというのは決めておいた方がいいでしょ」
そう三奈に言われると、俺としても頷くしかない。
もし緑谷が来なかったら、その時になってからどうするのかを決めておくよりは、今のうちにしっかりと決めておいた方がいいだろうし。
「けど……緑谷が戻ってこないのって何かあったんじゃないのかな?」
心配そうに透が呟き……それはあるかもしれないと思う。
何しろ、緑谷は原作主人公だ。
であれば、何らかのトラブルに巻き込まれている可能性というのは十分にあった。
せめてもの救いは……不幸中の幸いは、ヴィラン連合との騒動の可能性は低いという事だろう。
ヴィラン連合……より正確にはその後ろにいたAFOは、俺がOFAの後継者であると判断していた。
正直なところ、神野区の一件の時にその辺りについて話しても良かったのだが、タルタロスに送られたAFOだが、原作のある世界と考えれば間違いなくタルタロスから脱出してくる筈だ。
そう考えれば、AFOとのラストバトルはまだ先な訳で、それならOFAの後継者が俺であると認識させておいた方がいい。
ともあれそんな訳で、もしヴィラン連合に狙われるとすれば、それは緑谷ではなく俺だろう。
……もっとも、それはヴィラン連合が露骨に俺を狙ってきた場合の話で、偶然緑谷がヴィラン連合に遭遇した場合とかなら話は違ってくるけど。
ただ、緑谷が行ったのは雄英からそんなに離れていない店なんだよな。
ヴィラン連合の面々にしてみれば、そんな風にわざわざ雄英の近くまで来るか?
ヴィラン連合に限らず、雄英の側はプロヒーローでもある雄英の教師だったり、才能のある雄英の生徒がいるという事で、基本的にヴィランは滅多に姿を現さない。
その為、マンションやアパートの家賃は他の地域に比べるとかなり高めに設定されているくらいだ。
誰でも、出来るだけヴィランが騒動を起こさないような……平穏な場所で暮らしたいと思うのは当然の話だろうし。
そういう意味では、やっぱり緑谷がヴィラン連合に遭遇した可能性は低いように思えるんだが……うーん、どうだろうな。
それこそヴィラン連合だからこそ、今日雄英で行われる文化祭に乱入し、神野区の一件の後でもヴィラン連合ここにありといった感じで示そうと思ってもかしくはないとも思う。
これが原作のない世界なら、あるいはそのように思わないかもしれない。
だが、この世界は原作のある世界であり、そうなると当然のように普通では起きないような騒動が起きてもおかしくはないのだ。
「いっそ、俺が捜してくるか?」
もしヴィラン連合に……あるいはヴィラン連合ではないにしろ、何らかのヴィランと遭遇してしまった事を考えれば、援軍に行った方がいいかもしれない。
俺は自分を色々な意味でトラブル誘引体質だとは思っているが、原作主人公という立場にいる緑谷もまた同じようにトラブル誘引体質なんだよな。
……まぁ、そうでもしないと原作でイベントが起こしにくいだろうし。
とはいえ、もしヴィランと遭遇しているのなら、死穢八斎會の一件と同様に緑谷に実戦経験を積ませるチャンスであるのも間違いない。
勿論、最後の最後……本当に危ない状況になったら手を出すつもりではいるが、多分そういう事にはならないと思う。
あくまでも俺の予想であって、もしかしたら緑谷が何らかの理由でボコボコにされている可能性もあったが。
しかし……
「駄目」
緑谷を捜しに行くという俺の言葉に、三奈がそう反対する。
「緑谷に何があったのかは分からないけど、もしそれでアクセルもライブが始まるまでに戻ってこられなかったら、それこそ本当にライブが出来なくなる……失敗するんだよ。だから、アクセルは緑谷が心配でも、残っていてちょうだい」
そう三奈が言ってくる。
今回の文化祭のライブの異議……他の科にも楽しんで貰うというのを考えれば、三奈としては絶対にライブを失敗させたくはないのだろう。
「けどそうなると、緑谷が間に合わない可能性も考えておく必要があると思うぞ?」
こうなると、A組のライブはA組全員でやるという事になって、全員がきちんとそれぞれに仕事があるというのが、この場合は痛いな。
例えば予備の人員とかがいたら、そういう奴に緑谷を捜しにいかせるといった事も出来たんだろうに。
「……幸い、緑谷のカバーはアクセルがいれば炎獣でどうにかなるだろうから、もし本当に緑谷が帰ってこなかったから、お願いね」
「分かった」
「三奈ちゃん……」
三奈の言葉に俺は頷き、透は心配そうに三奈の名前を呟く。
三奈も、別に好んで緑谷を捜しに行かせたくない訳ではない。
ライブを成功させる為に、何とか我慢をしているのだ。
それは、しっかりと握り締められた三奈の手を見れば明らかだ。
「安心しろ、あの緑谷だぞ? 多分……迷子か何かになってるだけだろ」
気休めだろうというのは分かっているが、そう言っておく。
三奈も取りあえず俺の言葉に頷いてライブの準備を最終確認をする為に動き始めた。
透もそんな三奈と一緒に移動し……
「ん?」
俺もそれに続こうとしたところで、スマホに着信があった。
電話やLINではなく、メールが送られてきたらしい。
もしかして緑谷では?
そう思ったが……送ってきたのは拳藤だった。
その内容は、壊理と一緒に文化祭を見て回る約束の確認。
演劇とミスコンの件もあるので、それが終わってからになるだろう。
俺達もライブとミスコンがあるし。
ともあれ、問題はないと返事をしてから、三奈や透を追う。
当然のように、そこでは緑谷がいない事を心配している者が多い。
特に麗日なんかは、原作ヒロインで緑谷と仲が良いだけにかなり心配そうにしている。
……緑谷が原作主人公云々というのを知らない麗日にしても、緑谷が今まで色々な騒動に巻き込まれているというのは理解している。
その為、心配しているのだろう。
「とにかく、緑谷が戻ってくるのに間に合わなかったら、アクセルの炎獣で何とか誤魔化すから、演出班の人達はしっかりと打ち合わせしておいてね」
三奈がそう指示を出す。
まったく、緑谷も電話に出るくらいはしてもいいだろうに。
だというのに、緑谷のスマホには何度電話をしても繋がらない。
メールを送ったり、LINでメッセージを送っても同様だ。
これは多分、スマホを持っていなかったか、あるいはどこかに忘れたか。
壊れているなんて事はないと思うが……いや、緑谷が何らかの騒動に巻き込まれていれば、スマホが壊れているという可能性も十分にある。
「アクセル、こっちに来てくれ。すぐに打ち合わせをするからよ」
切島に呼ばれ、演出班のいる方に向かう。
「口田の操る鳥と一緒に使う筈だったアクセルの炎獣の小鳥をもっと数を増やすってのはどうだ?」
「ノン、ノン。それもいいけど、僕の煌めかしい出番を考えると……アクセル君、炎獣は大きなのも出せるんだよね? それなら緑谷君の代わりに僕を持ち上げるという事は出来ないかい? アクセル君の炎獣はそこまで大きな存在を作れるかにもよるんだけどどうかな?」
ん? 何か今の青山の質問にちょっと違和感が?
いやまぁ、気のせいか。
青山にしてみれば、自分が目立つ出番をなくするといったことはしたくないのだろう。
そういう意味では、こうして炎獣について疑問に思うのはおかしな話ではない。
「青山を乗せるじゃなくて持ち上げるか。……それはそれでちょっと難しそうではあるけど、やってみる価値はあるかもしれないな」
そうして、俺はどんな炎獣を呼び出すのかを考え……そのまま、演出班の間で相談を続けるのだった。