「あははは、アクセル、それ最高! あはははは」
拳藤が俺を見て、面白そうに笑う。
拳藤の手を繋いでいる壊理も笑みを浮かべていた。
今の俺は、2年の経営科の一部有志による出し物によって、新撰組の格好をしていた。
……個性による混乱期があったにも関わらず、新撰組とかそういうのの情報はまだしっかりと残っているんだよな。
これは素直に凄いと思う。
とはいえ、新撰組の格好をした俺を見てあそこまで笑うってのは、正直どうなんだ?
個人的には格好いいと思えるんだが。
「……あ、ごめん。ちょっとミスった」
「は?」
俺に新撰組の格好をさせた……より正確には、相手の服装を幻影で変えたように見せる個性を持つ生徒がそう謝ってくる。
その様子からすると、恐らく……いや、ほぼ確実に今の俺の格好は俺が予想していたものとは違っていたらしい。
えっと、それはそれでどうなんだ?
そう思わないでもなかったが、文化祭である以上はそういうのもありだろうと、今度こそ本当の意味で新撰組の格好をする。
拳藤や壊理もそれぞれに幻影で着せ替え? コスプレ? そういうのをして、写真を撮る。
「うーん、こういうのも文化祭らしいよな」
「……そうだね。はい。壊理ちゃん。この3人で撮った写真は壊理ちゃんが持っていてね」
「え? いいの?」
「いいよ。ねぇ、アクセル?」
「ああ、壊理が貰ってくれると、俺も嬉しい」
「……ありがとう」
そう言い、壊理は大事そうに貰った写真を背負っているリュックにしまう。
一応簡単だけどプラスチックのケースも貰ったので、写真が曲がったり裂けたりとか、そういうのはまず心配しなくていいだろう。
「さて、次はどこに行く? 壊理が食べたがっているリンゴ飴の屋台は見つからないけど……」
「あ、あれ。アクセル、リンゴ飴じゃないけどクレープがあるよ」
「げ」
拳藤が指さした場所にあるのは、確かにクレープ屋だ。
漂ってくる甘い匂いもそれを証明している。
「げ? あれ? もしかしてアクセルってクレープ苦手だったりする?」
「いや、普通のクレープは好きだぞ?」
「普通じゃないクレープって……例えばハムとかチーズが入っているような、食事系のクレープとか?」
「いや、そっちも好きだ。ちなみに似たような料理のガレットとかも好きだな」
ガレットというのは、言ってみれば蕎麦粉で作ったクレープだ。
ただし、スイーツがメインの普通のクレープとは違い、こっちは拳藤が言ったようにハムや卵、チーズといったものが普通の、食事系のクレープだが。
「俺が苦手なのは、ゴーヤクレープとかのゲテモノ系だ」
「ゴーヤ……クレープ? えっと、それはつまりゴーヤをクレープに入れるの? 一応聞いておくけど、そのゴーヤって沖縄とかでよく食べられている野菜のゴーヤだよね?」
「その通りだ」
恐る恐るといった様子で尋ねてきた拳藤に、俺は頷きを返す。
すると拳藤は『うわぁ』といったような表情を浮かべる。
……うん、まぁ、普通ならそういう風になるよな。
そんな拳藤の様子に安堵し、意味が分からないといった様子で首を傾げている壊理をそのままに、クレープ屋の屋台に視線を向けると……セーフ。
屋台をやっているのは雄英の生徒だ。
その事に安堵しつつ……それでも念の為に屋台の前に設置されている看板でメニューを確認すると、そこには一般的なクレープしか……いや、へぇ、ちょうどいいというか、タイミングがいいというか。
メニューの中にはリンゴスペシャルなるものがあった。
説明によると、リンゴの果汁を使って生クリームを作り、それに甘露煮にしたリンゴと新鮮な生のリンゴを使うらしい。
けど、リンゴを使って生クリームを作るなんて事が出来るのか?
俺はそもそも料理はそこまで得意って訳でもないし、菓子作りとなるとホットケーキとかそのくらいしか作れないから分からないが。
そういうのが得意な砂藤辺りに聞けば、あるいはどうにかなるのかもしれないが。
「ともあれ、壊理がいる時にリンゴスペシャルなんてメニューのあるクレープ屋があるというのは、ありがたいな。壊理、あのクレープの屋台にはリンゴを使ったメニューがあるらしいが、まずはそれを食べるか?」
「りんごクレープ……」
呟き、壊理の目はキラキラとし始めた。
どうやらリンゴクレープに心惹かれるものがあったらしい。
そんな訳で、壊理の分はリンゴスペシャルを、俺はイチゴスペシャルで、拳藤はチョコバナナのクレープを注文する。
ちょっと驚いたのは、生徒の作るクレープなのでそこまで期待はしていなかったのだが、実際に作る様子はそれなりに様になっていたという事だろう。
勿論、ランチラッシュには到底及ばない様子ではあったが。
とはいえ、これは比べるのが悪い。
実際、以前ランチラッシュの作ったクレープを食べた事がある俺と、同じく食べた経験のあるっぽい拳藤は美味い事は美味いが絶賛する程ではないといった様子なのに対し、壊理は大好きなリンゴのクレープ、それもリンゴスペシャルという事もあってか、喜んでいた。
とはいえ、リンゴの旬は冬というイメージが俺にはあるんだが、そう考えるとまだちょっと旬には早い。
勿論、ハウス栽培とかそういうのもあるのから、絶対にこの時季にリンゴがないって訳でもないと思うんだが……ただ、当然ながら希少なリンゴとなればその値段は上がり、こうして文化祭の屋台で、それもそこそこの値段で出せるというのが疑問だ。
あるいは果実を出す個性とか、そういうのがいるのかもしれないな。
もっとも、そういう個性があったら雄英ではなく農業高校とか、そういう高校に行ってそうだけど。
ともあれ、クレープを食べ終えると次にどこに行くべきかという話になる。
「心霊迷宮、凄かったって」
「うーん、恋人がいたら、きゃーっとか言ってくっつくチャンスなのにね」
「あざとい、あざといよあんた。……でももの凄く怖くて、そういうのが出来るような感じじゃないみたいだよ? ……あ、可愛い」
「え? 本当だ。でも、なんであんな子供が?」
俺達の側を通りすぎた女子生徒達の会話が聞こえてくる。
もっとも、最後の方に聞こえた可愛いというのは俺や拳藤と手を繋いでいる壊理を見てのものだった。
「どうする? 心霊迷宮とやらはちょっと評判がいいけど、行ってみるか?」
「うーん、私としては楽しそうだと思うけど、壊理ちゃんがいるとなるとちょっと難しいんじゃない?」
拳藤に尋ねると、そんな言葉が返ってくる。
なるほど、言われてみればそうかもしれないな。
俺はそういうのに慣れてる……というか、マブラヴ世界のBETAやペルソナ世界のシャドウとかでそういうのに耐性はあったりするから問題ないし、拳藤も見た感じではお化けとかそういうのを怖がったりはしそうにない。
ただ……壊理がいるのを考えると、実際に心霊迷宮とかそういう場所にはいかない方がいいのは間違いなかった。
もし壊理が心霊迷宮……ようはお化け屋敷なのだろうが、そこでお化けを見た結果、個性を暴走させたらとんでもない事になってもおかしくはないし。
人にしか効果がないということは、それはつまりこの雄英の中で個性が暴発したら洒落にならない事態となるのは明らかなのだから。
個性を消す個性を持つ相澤が近くにいれば被害はそんなにないだろうけど、そう都合良くはならないだろうし。
となると、影のゲートを使って人のいない場所に連れていくといった対処法しかない。
俺は人ではなく混沌精霊なので、壊理の巻き戻しの個性は効果がないしな。
もっとも、そうなれば俺が今まで隠していた影のゲートについても公のものとなってしまうので、出来れば避けたい。
「そんな訳で、やっぱり行くのは他の場所だな」
「どんな訳なのかは分からないけど。とにかく私も賛成だよ。壊理ちゃんもそれでいいよね?」
「?」
拳藤が手を繋いでる壊理に尋ねるものの、壊理は小首を傾げるだけだ。
俺と拳藤の会話について、理解出来ていなかったらしい。
まぁ、壊理にしてみれば俺達が何を言ってるのか分からなくても、仕方がないとは思うけど。
「じゃあ……そうだな。そう言えば輪投げをやってるクラスがあったから、行ってみるか。輪投げなら壊理でも楽しめるだろうし」
「そうだね。……ねぇ、壊理ちゃん。次は輪投げに行ってみない?」
「わなげ?」
輪投げというのがどういうのか分からなかったらしく、壊理は不思議そうに首を傾げる。
そんな壊理の仕草は非常に可愛らしく、通り掛かった生徒がそれを見て悶えていた。
ただ、悶えるだけで壊理を可愛がらせて欲しいとか、話をしたいとか、そういう風に言ってこなかったのは、壊理が何か特別な存在であるというのを理解しているからだろう。
本来なら雄英の生徒だけで行われる文化祭なのに、そこに子供がいるのだから……それもこっそり連れ込んだとかじゃなくて、堂々と連れ込んでいるのを見れば、何か訳ありだという風に思ってもおかしくはなかった。
そんな訳で、可愛いとかそういう風に呟く声は聞こえてくるものの、特に声を掛けられたりはしないまま、拳藤に輪投げについて説明されつつ、俺達はその輪投げの屋台に向かう。
「面白そうじゃない?」
「うん」
輪投げの説明を聞いた壊理が、拳藤の言葉に目を輝かせてそう呟く。
どうやら拳藤が上手い具合に説明出来たらしい。
そんな風に思っていると……不意に鋭い、怨念めいた視線を感じる。
何だ? と視線の感じた方を見ると……そこには俺にとっては既にお馴染みと言ってもいいような、そんな峰田の姿があった。
「アクセル? ……うわぁ……あ、壊理ちゃんはこっちね」
俺の視線を追った拳藤が峰田の、血涙を流し、どこから手に入れたのか藁人形と金鎚と釘を持っているのを見て、思わずといった様子でそんな声を上げる。
そんな拳藤の様子に壊理もそちらを見ようとしたものの、拳藤はさり気なくそちらに視線を向けさせないようにして歩き始め、壊理に矢継ぎ早に話し掛ける事によって、そちらに集中させる。
にしても……こうして見れば、別に男女で文化祭を見て回ってる者達もそれなりに多い。
であれば、別に俺と拳藤だけをああして怨念めいた目で見なくてもいいと思うんだが。
そもそも峰田は、黙っていれば……女にがっつく様子を表に出さなければ、マスコットキャラ的にそれなりにモテるのは間違いない。
なのに、隠し事をするのは嫌だから素のままの自分を見せて、その上でモテたいとか、そういう贅沢を言っているから峰田は女にモテないんだよな。
……もっとも、最近では何だかんだと梅雨ちゃんと仲が良いように見えるし、そういう意味でもしかしたらもしかするのかもしれないが。
ただ問題なのは、俺から見た限りだと梅雨ちゃんは峰田を男ではなく弟として……年下の、世話を焼く相手として認識しているように見える事なんだよな。
もっとも、そのあたりについては俺がどうこう言う必要もないだろうが。
あくまでも峰田と梅雨ちゃん2人の問題なのだから。
そう思ったのが、もしかしたらフラグだったのかもしれない。
次の瞬間、ヒュンッと何かが……いや、梅雨ちゃんの舌が伸び、血涙を流している峰田の身体に巻き付き、そのまま強引に連れ去ったのが視界の隅で確認出来た。
うん、後で梅雨ちゃんにはお礼を言っておいた方がいいのかもしれないな。
そんな風に思いながら歩いていると、やがて輪投げ屋に到着する。
……ただ、文化祭の屋台だけに、賞品はそこまで良い物ではないな。
いやまぁ、雄英の文化祭とはいえ結局は高校生の学園祭なんだから、それはそうかもしれないが。
それに賞品がそこまで良い物ではないというのも影響してか、料金も100円だったし。
100円で輪が3つ。それを3人分。
「あ、ちょ……アクセル、自分の分くらいは自分で……」
「別にそこまで気にする必要はないだろ。このくらいはジュース1本よりも安いんだが」
まぁ、自販機じゃなくてスーパーとかドラッグストアとかなら自販機で買うよりも安くなるだろうけど。
「うーん……アクセルがそう言うならいいけど」
こういうところ、拳藤は律儀だよな。
そんな風に思いつつ、俺は早速受け取った輪を投げる。
ポン、ポン、ポンと。
俺が投げた輪は、ストラップ、ガム、小さな人形にそれぞれが入る。
「うっそだろ……言っておくけど、個性は禁止だぞ?」
店員をやっていた男がそう聞いてくる。
どうやらあっさりと賞品をゲットしたので、何か個性を使ったのではないかと思ったらしい。
「別に個性は使ってないぞ」
そう返す。
実際、これは嘘ではない。
俺は個性を使っていないのは間違いではないのだから。
ただ、混沌精霊となった事によって俺は素の能力が高くなっているのであり……そういう意味でも、真実は言っていないが嘘も言っていないという微妙な状況になるのだった。