流子や信乃……ピクシーボブやマンダレイ、それにラグドールや虎のサプライズに驚きはしたものの、何の為にこうして雄英に……それも1-Aの寮に来たのかは不明だった。
そんな風に思ったのは俺だけではなかったらしく、洸汰の相手をしながら緑谷が虎に尋ねる。
「それで、何でプッシーキャッツの皆さんが寮に来たんですか?」
ちなみに虎と緑谷は何気にかなり仲が良かったりする。
意外……でもないか?
林間合宿の時、緑谷は個性を伸ばす為に虎によって鍛えられていたしな。
その辺の付き合いもあって、あの2人の仲は良好らしい。
……林間合宿か。
色々とあったのは間違いないし、ヴィラン連合の介入もあったが、俺にとってそれ以上に驚いたのは、やはり信乃が……マンダレイが俺にテレパスの個性を使った結果、いきなり絶頂してしまった事だよな。
「アクセル、何か妙な事を考えていないわよね?」
女の勘か、はたまた俺が顔に出やすいだけなのか、信乃がジト目を向けてくる。
心なしか……本当に気のせいかもしれないが、信乃の瞳が潤んでいるように見えてしまう。
まぁ、その件については気にしないでおこう。
「ちょっと、そこで2人の雰囲気を作るのは禁止だよ。どうしてもそういう雰囲気を作りたいのなら、私も一緒に入れる事。……信乃、約束を忘れてないわよね?」
「……私達が来たのは、プッシーキャッツが復帰するから、その挨拶の為よ」
何故か流子の言葉に視線を逸らしつつ、信乃が俺に向かってそう言ってくる。
そんな信乃に対し、流子は不満そうな様子を見せてはいたが……それよりも、プッシーキャッツ復活という言葉の方が俺には驚きだった。
虎の方を見ると、そちらでも緑谷が同じ事を聞いたのか、他の面々と共に驚きの声を上げていた。
「ちょっと、ほら。アクセル。いつまでもピクシーボブやマンダレイの側にいると迷惑だってば」
プッシーキャッツの復活に驚いていると、三奈が俺を引っ張る。
「あらあら」
「な……何ですか? 言っておきますけど、アクセルは高校生ですよ!? その、マンダレイのような大人の女が迂闊に近付くのはどうかと思います」
「ふふっ、私は構わないんだけど? それに……そういう風に言うのなら、女子高生の貴方がアクセルにくっつくのも、欲望を刺激するんじゃない?」
「信乃、あんた……いえまぁ、その気持ちも分からないじゃないけどね。私達はアクセルと会う機会そのものが多くないんだから」
何だか虎やラグドールのいる方とは違い、こっちはこっちで何か微妙な感じになってないか?
そう思って周囲の様子を見ると、いつの間にかヤオモモと透と響香も三奈の側にやってきて、流子や信乃と向き合っていた。……睨み合っていた?
峰田はと見ると相変わらず血涙を流しながら俺を睨んでいるし、上鳴や瀬呂に視線を向けると、そっと視線を逸らされる。
「こうして見ると、アクセルって随分とモテるのね。でも、こっちには適齢期的なアレのピクシーボブがいるのよ? ここでは退けないわ」
「ちょっ、信乃!? 何でそこで私を強調するのよ!? 言っておくけど、あんたも私と同級生だったんだから、年齢は同じでしょ!?」
「大人の魅力……という奴ね」
ピクシーボブの言葉を半ば聞き流した信乃は胸の下で手を組む。
縦縞のセーターなのだが、信乃の大きな胸がこれでもかと強調される。
「ぐ……女って事なら、こっちには発育の暴力であるヤオモモがいるんだからね!」
「ちょっ!? きゃあっ!」
三奈は信乃に対抗するようにヤオモモを前に出し、その豊かな双丘を服の上から揉む。
三奈の手が沈むその光景は、男子高校生が見るには少し刺激の強すぎる光景だろう。
……実際、峰田はいつの間にか血涙が止まり、目を大きく見開いてガン見をしていたくらいなのだから。
……すぐに梅雨ちゃんの舌によって、その開いている目を叩かれて呻いていたが。
「アチキは事務仕事で3人をサポートしていくの。OLキャッツ!」
取りあえず女同士の邪魔をするのは何なので、その場から移動する。
瀬呂や上鳴がマジかみたいな表情で俺を見ていたが、その視線には気が付かなかった事にして。
で、緑谷が話している虎やラグドールの側に移動すると、そこではラグドールが事情を説明していた。
結局AFOに奪われたサーチの個性は戻っていないらしい。
一応AFOはラグドールに個性を返してもいいとは言ったらしいのだが……それこそ、AFOの話によると、個性を返すにはAFOの個性を使わないといけない。
現在のAFOはタルタロスで厳重に拘束されており、それこそちょっと身体を動かしただけでも部屋に用意されている遠隔操作されている銃口が反応するらしい。
そんな状況でAFOに個性を使わせるのは危険だと判断し、またAFOが現在どんな個性を持っているのかも分からず、結果としては今は何もさせないのが最善という事になったらしい。
「けど、それじゃあ……その、何で今この時に復帰をする事にしたんですか?」
切島がそう尋ねる。
そう、ラグドールのサーチという個性は派手な個性ではないものの、サポート用の個性としては非常に有用な個性だ。
それこそ峰田のモギモギのような。
……いや、相手のステータスを知る事が出来るというのは、かなり強力なサポート系の個性だろう。
俺も以前は他人のステータスを見る事が出来たのだが、色々とあって今となっては自分のステータスしか見られないんだよな。
そう考えると、俺にも以前はサーチという個性があったようなものなのか。
そのように思っていると、三奈達と言い争いをしていた流子と信乃が……そして三奈達も揃ってこっちにやって来る。
何だか揃って俺にジト目を向けているような気がするが、その辺については気にしないでおく。
信乃は軽く息を吐くと俺にジト目を向けるのを止め……
「今度発表されるんだけど、ヒーロービルボードチャートJP下半期において、私達プッシーキャッツは298位だったんだ」
「前回は32位でしたよね?」
ベスト10ならともかく、32位の順位についてまで知っている辺り、さすが緑谷だよな。
「なるほど、急落したからか! ファイトォッ!」
緑谷に続き切島がそう言うが……
「違うにゃん!」
ラグドールが即座に切島の言葉に反応する。
普段はふざけているというか、不思議系的な感じのラグドールだったが、切島の言葉を否定した時は真剣な……本当に真剣な表情だった。
実際、切島もラグドールを見て、ビクリと反応したくらいだし。
そんな切島に対し、ラグドールが言葉を続ける。
「全く活動していなかったも関わらず、3桁ってどゆ事って思わない!? それも400位圏内どころか、300位よりも上、ギリギリではあっても200位圏内にゃん!」
ヒーロー飽和社会と呼ばれるこのヒロアカ世界の日本において、数千……あるいは数万のプロヒーローがいる。
そんな中で、夏から今まで一切活動していなかったのに、ギリギリではあっても200位圏内に入るというのは、それだけプッシーキャッツが強い人気に支えられているという事なのだろう。
「支持率の項目が我々は突出していた」
「待ってくれている人がいる」
「立ち止まってなんかいられにゃい!」
虎、流子、ラグドールの順番でそれぞれ言っていく。
チームを組んでいるだけあって、特に打ち合わせとかをしなくても、こうして上手い具合に連携を取れるってのは、素直に凄いと思う。
信乃は話に入る事が出来なかった為か、沈黙したままだったが。
そんなプッシーキャッツの話から、話題はヒーロービルボードチャートについて移っていく。
本来なら、もう少し前にヒーロービルボードチャートの結果は発表されていたらしい。
しかし、原作が始まっている期間という事もあってか、今年は春から今まで色々と……本当に色々と騒動が続いている。
ヒロアカ世界の住人にしてみれば、原作がどうとかそういうのは分からないと思う。
思うのだが、それでも……いや、それだけに色々と騒動があり、ヒーロービルボードチャートの結果について報告するタイミングが遅れてしまっても仕方がないのだろう。
「そんな訳で、プッシーキャッツはまたヒーロー活動を再開する事になったの」
マンダレイの言葉に、話を聞いていた者達は驚いたり感動したりする。
……なお、その後でまた何故か流子と信乃が三奈達と睨み合うような光景が何度かあったのだが、その辺について気にしない事にするのだった。
林間合宿の時はそれなりに仲良くやっていたと思うんだけど、相性悪かったか?
プッシーキャッツが寮に来てから少しし……いよいよ、ヒーロービルボードチャートの発表がされる事になった。
俺はそれを、寮の1階にある共用スペースにあるTVで見ている。
「いつもなら、ここまで派手にやらないんだよな?」
「……うん」
「ん? 緑谷?」
少し離れた場所に座っていた緑谷に、ヒーロービルボードチャートについて聞いたのだが、何故かその返事には元気がない。
一体何があった?
改めて緑谷を見ると、何かこう……そう、落ち込んでいる? 元気がない? とにかくそんな風に見える。
緑谷から離れた場所に座り、珍しく他の面々と一緒にTVを見ている爆豪もまた、不機嫌そうな表情を浮かべていた。
いやまぁ、爆豪は普段から不機嫌だけど、何だかんだと半年以上も一緒のクラスになり、しかも何度となく戦いを挑まれているので接する機会もそれなりにある俺にしてみれば、表面上の不機嫌と、そうではない不機嫌というのがそれなりに分かったりする。
俺よりも爆豪と一緒にいる事の多い切島なんかは、俺よりも爆豪の不機嫌さについては分かっている筈だ。
実際、今の爆豪の不機嫌そうな様子を見て、切島は心配そうな視線を向けているし。
一体何があったんだろうな?
「え? あ……うん。えっと、いつもなら発表はするけどこうして上位に入ったプロヒーローとかを呼んだりはしないんだよ」
「となると、そうするだけの何かがあった訳だ。……ちなみに緑谷はその何かを知っているか?」
「え? いや、えっと、その……う、う、ううん。し、知らないよ何も」
誤魔化すの下手すぎだろ。
普通に考えれば、この程度で誤魔化すことが出来ずに慌てて見せるというのは、正直どうなんだ? と思わないでもない。
まぁ、それが緑谷らしいと言えばらしいのは間違いないんだが。
「なるほど、つまりこうして普段よりも大々的にヒーロービルボードチャートの発表をする件については、緑谷も分かっている訳だ」
「そっ、そんな事は……」
「うるせえぞ、ヒモ野郎! 黙って見てろ!」
まさかの爆豪の突っ込み。
……あれ? これ、もしかして爆豪が緑谷を助けた?
いや、だが普段の緑谷と爆豪を知っていれば、そして爆豪が緑谷に強い対抗心を持ってるのを思えば、これはちょっと意外な展開だった。
いや、でも……そういえば、夏休みが終わったくらいからか? 爆豪がそこまで緑谷に辛く当たっているのを見ていないような。
それでも普通に見ればそういう風に見えるような光景はあったが、夏休み以前よりも明らかに違っていたように思う。
緑谷がこういう風になるのを考えると……それに原作主人公と原作ライバルという事を考えると、まさか緑谷がオールマイトの後継者としてOFAを継承した事を知ったとか?
だとすれば……いつだ?
そう疑問に思ったが、寮に入ってからすぐに緑谷が爆豪と喧嘩をしたという事で謹慎処分を受けたのを思い出す。
多分だが、あの時か。
そんな風に思っていると……
「え? あれ、オールマイトじゃない?」
透の言葉が聞こえ、TVに視線を向ける。
するとそこには、透が言うようにオールマイトの姿があった。
勿論、ガリガリのトゥルーフォームではなく、オールマイトといえばこれ! というマッスルフォームでだ。
ただし、その服装はヒーローコスチュームではなく、スーツ姿だ。
TVの中でも、ざわめいているのが聞こえてくる。
『まずは、この場を用意してくれた公安委員会に感謝させて下さい。……色々と細かい事をこの場で言うのはどうかと思うので、端的に本題を。私、オールマイトは今日この場をもってプロヒーローを引退させて貰います』
しん、と。
TVの中でも、今のオールマイトの言葉にざわめくのでなく、オールマイトが一体何を言ってるのか分からないといった様子で静寂に包まれる。
あるいはこれがもっと別の内容であったりすれば、もう少し違ったのかもしれない。
だが、今……オールマイトは、プロヒーローを引退すると、そう口にしたのだ。
『神野区の一件の時も言ったと思うけど……次は、君だ』
そう言い、オールマイトはTVカメラに向かって指さすのだった。