戦闘訓練が始まる直前、何故かオールマイトとミッドナイトが現場に姿を現す。
何で?
そう疑問に思ったが、熱愛!? と三奈が言うとミッドナイトは慌てたように首を横に振り……何故か俺の方を見て、即座に否定していた。
「そんな訳ないじゃない。私、年上はそういう対象として見られないから。やっぱり同じくらいの年齢じゃないと」
「ふーん。……でもミッドナイト先生、今アクセルの方を見てなかった?」
「あはは、そんな訳ないじゃない。それより、この合同訓練の意味は大きいわよ。しっかりと準備を整える為、相談をしておきなさい」
そうミッドナイトが言うと、三奈もその通りだと思ったのか自分のチームに戻る。
……で、当然のように俺はこの状況では特に何もやるべきことはない訳だ。
何しろ、俺はクラス対抗の合同訓練には出ないしな。
俺の出番は、最後……俺対A・B組連合軍という事になる。
「大変ね、アクセル」
「壁として皆の前に立ち塞がると決めている以上は、こういう風になってもおかしくはないですよ」
今の俺はシャドウミラーを率いるアクセル・アルマーではなく、雄英の生徒のアクセル・アルマーなので、口調も生徒のものにしてミッドナイトにそう返す。
……一瞬、本当に一瞬だけ残念そうな表情を浮かべたミッドナイトだったが、それを表に出さないようにして口を開く。
「それで、勝算はあるの?」
「それなりには」
本当の意味で本気を出せば、どうとでもなる。
だが、当然ながら今の時点で知られていない俺の能力を使う訳にはいかない。
……あるいはこれで、ヤオモモや一佳のように俺の正体を全員が知っているのなら、召喚魔法とかも使えるし、いっそニーズヘッグ……はさすがに無法すぎるから、サラマンダーなりミロンガ改なりを出すといった手段も出来るんだが。
刈り取る者を召喚するのは相手を混乱させるという意味で悪くない手段だとは思うが、爆豪には神野区で20代の姿の俺が刈り取る者を召喚するのを見せているしな。
「アクセル少年が現在使える中で、炎獣だったか。あれは脅威だろうね」
俺とミッドナイトの会話に、オールマイトが割り込んでくる。
プロヒーローは引退したものの、当然ながら雄英の教師としてはまだ普通にやっている。
自分の後継者である緑谷を鍛える為に、少しでも頑張る必要があるという事なのだろう。
……ちなみに、本当にちなみにだが、オールマイトはそれなりに俺の側にいるようにしているらしい。
これについては神野区の一件が関わっている。
AFOは大人の俺を見て、アクセル・アルマーだと……雄英の生徒のアクセル・アルマーだと見破った。
それでいながら、俺の強さ……当時は殆ど増強系としての力を主にみせていた事もあってか、俺をOFAの後継者と見なしていた。
AFOにしてみれば、まさか緑谷のような人物をオールマイトが後継者に選んでいるとは思っていなかったのだろう。
USJの時とかも、緑谷は活躍らしい活躍をせず、結果として俺が活躍したのも影響しているのだろう。
原作主人公らしい行動となると……林間合宿前に買い物に行った時、緑谷がシラタキと接触したくらいか?
まさか、あれて緑谷がOFAの後継者であると思ったりはしないだろうし。
そんな訳で、現在タルタロスにいるAFOは、未だに俺が……アクセル・アルマーがOFAの後継者であると認識している訳だ。
緑谷を守るという意味では、決して悪くない選択肢ではあるのだろう。
もっとも、その影響で緑谷の実戦経験が減っている訳で、そういう意味では痛し痒しってところではあるのだが。
ともあれ、その辺りの誤解……AFOからシラタキ率いるヴィラン連合にも恐らくは伝わっているだろうその件を出来るだけ真実であると認識させる為に、オールマイトが俺を守っているように見せ掛けている訳だ。
……そう考えると、もしかしたらオールマイトがプロヒーローを引退したのもその辺が関係しているのかもしれないな。
ともあれ、そんな訳で今のような感じになっている訳だ。
「どうなるのかは、まずは楽しませて貰いますよ」
そういう風に言ってる間にも時間は経過し……合同訓練、あるいは対抗戦が始まる。
1回戦はA組が勝利、2回戦はB組が勝利、3回戦は引き分け、そして4回戦はA組が勝利、5回戦もA組勝利。
結果としてA組の3勝1敗1引き分けという結果によって合同訓練はA組の勝利という事になった。
多くの者達がしっかりと自分の実力を発揮し、見せ場は多くあった。
だが、そんな中でも見せ場となると……4回戦の爆豪と5回戦の緑谷といったところか?
爆豪は実力を思う存分に発揮し、何と試合開始3分で勝利した。
A組No.2の力を示したといった形だろう。
同じくA組のNo.2の轟は、鉄哲を相手にして氷や炎も殆ど通用しなかったのが印象的だったな。
もっとも、最終的にはしっかりと炎を高火力で使い、それによって見せ場そのものはあったが。
ただ、油断というか、スロースターターというか、とにかくそんな感じで失敗したのは残念だったと思う。
クラスNo.2の座は爆豪が1歩リードか?
……まぁ、爆豪の性格を考えればクラスNo.2なんかには興味がないだろうし、それこそクラスNo.1である俺を追い掛けていたといったところではあるのだろうが。
で、緑谷は以前から使えていた黒鞭と浮遊を上手く組み合わせ、立体的な機動力をしっかりと活かした動きでB組を翻弄した形だ。
死穢八斎會との戦いの時も黒鞭はかなり活躍したみたいだったから、それを考えると緑谷はさすが原作主人公といったところか。
実戦経験を積むと、一気に伸びる。
その伸びた理由は、放課後に行っている自主訓練が大きく影響しているのだろうとは思うが。
ともあれ、そうしてクラス対抗戦の合同訓練の大半は終わる。
悔しそうしている物間の様子を見れただけで、俺にとってはこう……飯ウマ的な? そんな感じであるのは間違いなかった。
「よし、じゃあ……少し場所を移動するぞ。今回のラストだ。最初に言ったように、アクセル対A・B組、そして心操だ」
そう相澤が宣言し、場所を移動する。
場所を移動したのは、これまでの戦いによって周辺が結構な被害を受けているからだろう。
なので、ここでまた戦いを行った場合、工場地帯という地形を上手く使うことは出来なくなってしまう。
個人的にはそれはそれで構わないと思うのだが、相澤やブラドキングにしてみれば、どうせならという事でもっとしっかりした……地形を利用した戦いとかも見たいのだろう。
特に俺の場合は1人なので、俺に対して多少なりとも有利にしたいという風に思ってるのかもしれないが。
一応、相澤やブラドキングも俺についてはそれなりに詳しく知ってはいるものの、同時に今の俺が全力を……今の姿で使った事がない能力を使えないというのも理解はしている。
その為の、場所移動……といったところか。
「アクセル、頑張ってね」
「アクセル少年、奮戦を期待している」
ミッドナイトとオールマイトの声援を受けつつ、移動する。
……峰田に嫉妬の視線を向けられるのは分かるが、何故か爆豪からも睨み付けられてしまう。
えっと、あれ? 何で爆豪からも?
そんな疑問を抱く。
もしかして、爆豪ってミッドナイトに想いを寄せているとか、そんな感じなのか?
ミッドナイトの美貌を考えれば、それはそれでおかしくないとは思うが……何かこう、イメージに合わない。
だとすれば、オールマイト?
オールマイトオタクの緑谷なら分かるが、爆豪からまさかそんな視線を向けられるとは思わなかったな。
とはいえ、このヒロアカ世界の日本人にとってはオールマイトというのはNo.1ヒーローの代名詞的な存在だ。
引退宣言をしたとはいえ、それでもやはり爆豪にも思うところがあるのだろう。
だからといって、この場で俺が爆豪にどうこう言っても意味はない。
……いや、意味がない事はないが、寧ろそれによって爆発してもおかしくはなかった。
そんな訳で爆豪については特に何も言わず、体育館γの他の場所まで移動する。
しみじみと思うけど、USJやTDLもそうだけど、敷地内にこれだけの物を複数作る事が出来る雄英って凄いよな。
しかもこれがどこか田舎って訳ではなく……東京のような都会ではないが、それでも静岡という相応に栄えた地に雄英があるのだから、素直に凄いと思う。
そうして場所を移動すると、相澤が俺に向かって声を掛けてくる。
「アクセル、準備はいいか?」
「はい、俺はいつでも問題ないですよ」
「分かった。なら、まずはお前が先に中に入って迎撃の準備をしろ」
「いいんですか? それだと、俺にとって非常に有利になりますが」
「構わん。これだけの人数差だ。それを思えば……」
「お待ち下さい」
相澤の言葉に割り込む者がいる。
一体誰だ……というのは、声を聞けばそれが誰なのかというのはすぐに分かった。
「どうした塩崎」
ブラドキングが声を掛けてきた人物……茨にそう声を掛ける。
相澤ではなくブラドキングが声を掛けたのは、やはり茨が所属するB組の担任がブラドキングだからだろう。
「先生、私は例え訓練であろうとも、アクセルさんと戦う事は出来ません」
「お前、それは……」
茨の言葉に、ブラドキングが困った様子で俺を見てくる。
その視線に戸惑いの色があるのを見れば、あるいはブラドキングは俺と茨の関係については知らないのかもしれないな。
いや、勿論仲が良いというのは分かっているかもしれないが、茨が俺という存在を信仰しているというのは知らない可能性があった。
担任として、それはそれでどうなんだ? と思わないでもなかったが、その辺りについてはわざわざ教師に知らせる必要がないと一佳辺りが判断したのか、それとも知らせると問題になると判断したのか。
その辺りは俺にも分からないが、とにかく今はまずこの状況をどうにかする方が先だった。
「ブラドキング先生、説得は俺に任せて貰えますか?」
「む。……分かった、ではお前に任せよう」
ブラドキングは俺の言葉に多少迷った様子を見せたものの、それでもすぐに頷く。
当然ながらブラドキングも雄英の教師である以上、俺の正体については知っている。
なので、ここは俺に任せた方がいいと、そう判断したらしい。
「茨、お前が俺と戦いたくない気持ちは分かる」
「アクセルさん……」
俺が近付いてそう言うと、茨は潤んだ瞳を向けてくる。
……何だか見物している他の者達、特にB組の面々の視線が痛いような気がするが、その辺については取りあえず今は気にしないようにしておこう。
「けど、それはお前の個人的な問題だろう? 授業でやる必要がある以上、それを拒否するのはどうかと思うぞ」
「ですがっ!」
先程の潤んだ瞳から一転、悲痛なまでの表情を浮かべ、茨が俺を見る。
峰田や上鳴辺りが今の茨を見たら、それこそすぐにでもはいはいと言う事を聞いてもおかしくはない。
それだけ、今の茨は悲痛な表情を浮かべ……それが一種、凄絶なまでの色気を醸し出しているのもまた事実だった。
清楚な美人である茨が見せるだけに、こう……一種禁忌的な感じの色気。
もっとも、だからといって俺はそういうのに慣れているので、効果はないが。
あるいは茨のこれは、今は無意識のものではあるものの、意図してそういう表情が出来るようになれば……いや、そうなるとそれはそれで茨らしさはなくなるか。
聖なる悪女とも呼ぶべき、矛盾した存在になりそうだしな。
「落ち着け。それに考えようによっては、悪くない話だろう? お前の実力がどれだけのものか、俺にしっかりと見せられる機会なんだからな」
「それは……」
若干トーンダウンしたものの、それでもまだ完全に納得した様子ではない。
とはいえ、このままの調子でいけば何とかなりそうだな。
「茨がどれだけ強くなったのか……どれだけ成長したのか、俺に見せてくれ」
「……分かりました」
あれ?
予想外にあっさりと茨が俺の言葉に頷いたな。
てっきり、もう少し説得の時間が必要になるかもしれないと思っていたんだが。
「アクセルさんがそのように仰るのは、これは啓示と言ってもいいでしょう。であれば、アクセル様の御心に沿うのが私のやるべき事です」
いや、様は止めろって。
そう思ったが、茨が折角俺の要望を聞き入れて戦闘訓練を行うことを受け入れたのだから、ここで余計なことは言わない方がいいだろう。
もしここでそのようなことを言って茨が意見を変えたりしたら大変だしな。
そんな訳で両手を組んで俺に祈る茨をその場に残し、ブラドキングに視線を向ける。
「そんな訳で、茨も何とか戦闘訓練に参加することを了解しました」
「……お、おう……」
俺の言葉に、ブラドキングは微妙な……何と言えばいいのか分からないといったような表情を浮かべつつも、そう返事をするのだった。