愛知県にある泥花市において、何か大きな騒動が起こったらしい。
またヴィラン連合でも暴れたのか? とも思ったが、流れてくるニュースからすると、特にそういう感じでもないらしい。
……というか、今の俺達は郊外ヒーロー活動として南にある那歩島に行く事になった為だ。
ちなみにA組は那歩島だが、B組はまた別の場所に行くらしいので、行動は別々となる。
合同訓練の一件によってA組とB組は以前よりも仲が良くなったと思う。
もっとも、その理由がA組とB組揃って、それにプラスして心操をも含めて俺に蹂躙された事から仲が良くなったというのは……うん、個人的には思うところもあるが。
ちなみに俺が遠巻きにされていたのはあの日だけで、次の日からは他の者達も普通の態度に戻っていた。
そんな訳で、A組の面々は南の島、それも普通に泳げる場所に行けるということで喜んでいたのだが……数人、特に女の中には何故か焦っている者もいる。
まぁ、冬ということで油断して美味い料理とかお菓子とか食べていたしな。
特に冬ということで、寮の食事も鍋物がそれなりに多くなり、鍋物になると当然のように皆で食べる事もあり、食べすぎる者も出てくる。
特に鍋はシメこそが最高のご馳走だと考える者も多い。
一般的な雑炊から、うどんや中華麺、ちょっと変わったところではパスタ。
そんな感じで鍋の汁の最後の最後まで味わいつくす者もおおかった。
ちなみに、この鍋についても派閥は非常に多い。
一番派閥の多い、どの味の鍋にするかというのは幸いなことにランチラッシュが用意する為に問題にはならなかったが、雄英の生徒というのは言うまでもなく日本中から集まっている訳で、地方によって鍋の具とかも違う。
なので、何であの具がないんだとか、この具は食べ慣れないとか。
後は鍋の主役でもある肉も、豚と鳥……ちょっと変わったところでは牛といったように、どの肉を使うか。……すき焼きも鍋と考えれば、牛肉は普通かもしれないが。
また、肉の部位にしても、例えば豚バラのように脂身の多い部位か、ロースのように脂身の少ない部位か、あるいは赤身と脂身の割合がちょうどいい肩ロースを使うか……といったので変わってくる。
他にもちょっと変わったところでは、キノコ類を入れる時にうちではこのキノコを入れていたとか、このキノコは鍋に入れないだろうとか。
後はエリンギの切り方についても結構話題になっていたな。
例えばエリンギを薄切りにするか、あるいは大きめに切るか。
これによっても、食感だったり、つゆの染み具合だったりが違ってくる。
あるいは豆腐を入れるタイミングとかもある。
……そんな訳でカレー騒動並の騒動があったりもした。
他にも冬という事もあってか、チョコやスナック菓子の新作が色々と出て、それを食べている者も多かった。
そんな訳で、油断をしていた面々、特に女達は現在必死になってダイエットをしている訳だ。
それでもヒーロー科の生徒の場合は、この前の合同訓練の時もそうだったが授業でかなり身体を動かすという事もあり、それなりに激しい運動はしていたので、ある程度はダイエットされていたのが救いだろう。
「あれ? おい、もういいのか? クリームシチューは楽しみにしてたじゃんか」
夕食の時間、一杯だけ……それも気持ち少なめのシチューと焼きたてのパンを食べた三奈や響香、麗日に対して上鳴がそう尋ねる。
すると次の瞬間にはギロリといった表現が相応しい程の勢いで睨み付けられる
「ひぃっ!」
「ほら、上鳴。今は黙っておいた方がいいぞ」
瀬呂がそう上鳴に声を掛けるのが聞こえてきた。
まぁ……だろうな。ランチラッシュのクリームシチューということで食べるのは我慢出来なかったらしいが、それでも何とか一杯で食べるのを止めて、パンもクロワッサンのようなカロリーの多いパンではなく、トーストした食パンで我慢していたし。
ちなみにクリームシチューはジャガイモの代わりにカボチャが入っていて、それがタマネギやニンジンと何重もの甘みを生み、しっかりとした食感の残る鶏肉との相性もいい。
ただ、ちょっと残念だったのはクリームシチューではあるが、カボチャが入った影響で若干黄色っぽくなったところか。
後はパンも幾つか種類があって、クリームシチューに合うように焼かれている。
個人的にはクロワッサンが美味いと思ったんだが。
砂藤が言うには、ランチラッシュが焼いたクロワッサンは、普通の27層くらいになっているクロワッサンと違い、100層以上あるらしい。
クロワッサンの層が多くなると、層の間に空気が入りやすくホロホロ、ハラハラといた食感になるらしい。
ランチラッシュはこのクロワッサンがクリームシチューに合うと判断したのだろう。
実際、食べて見たところかなり美味かったし。
……ちなみにクロワッサンの層が少ない場合、それはそれでバターの風味が直接感じられ、パンの食感もしっかりとしたものになるらしい。
ともあれ……三奈、響香、麗日の3人はともかく、透と梅雨ちゃんはダイエットしなくてもいいのか? と思う。
ヤオモモについては、それこそ創造を使えばそれだけでカロリーを消費するのでダイエットは必要ないのだが。
透の場合は……透明だからか?
いや、けど透明であっても水着を着る以上は……まぁ、透明じゃない相手に対しては、そこまで気にする必要もないといったところか。
梅雨ちゃんの場合は、普段から節制しているからというのも大きい。
もっとも、最近峰田との関係が怪しいのを思えば、身体には気を付けたりしてもおかしくはないと思うんだが。
ともあれ、今の時点では勝ち組と負け組がこれ以上ない程にはっきりと決まっていたのだった。
「レモン……というか、技術班にしては珍しいな」
クリームシチューを食べた日の夜、俺の姿はホワイトスターにある魔法区画に設置されている魔法球……技術班の使っている魔法球の中にあった。
俺の側にはレモンとマリューの技術班トップ2が揃っている。
「悪いわね。ただ、壊理に負担を掛けないようにとなると、どうしても研究の進展が遅くなるのよ」
レモンが言ったように、俺が今日ホワイトスターに来たのは夜の行為の為というのもあるが、個性破壊薬の件についての経過報告を聞きに来た感じだ。
魔法球の中は外の1時間が中では48時間となる。
だというのに、死穢八斎會の一件から現実世界で既にそれなりに時間が経ってるにも関わらず、未だに完成していないらしい。
とはいえ、レモンが壊理に負担を掛けないようにして開発していると言えば、それは仕方がないとは思う。
ヒロアカ世界において時代遅れのヤクザが用意出来る設備を使った程度で個性破壊薬を作ったのは素直に凄いと思うが、その最大の要因は幸運……いやまぁ、幸運の件を抜きにして考えれば、オーバーホールという個性を使う事が出来る治崎がいて、その治崎が壊理を実質的に解剖したりとか、そういう手段を使っていたからこそ、まがりなりにも一時的に個性を使えなくする薬を作る事が出来たのだ。
そう考えれば、壊理に可能な限り負担を感じさせないようにして個性破壊薬を開発しているのだから、進展が遅くてもおかしな事はない。
「それに、アクセル。レモンの言うように壊理ちゃんの負担についてもそうだけど、アクセルが持ってきた個性破壊薬の組成そのものが色々と未熟なところがあったのも事実なのよ。だから、私達は壊理ちゃんの個性を使うのは当然だけど、死穢八斎會とはまた違うアプローチで個性破壊薬を作っているのよ」
マリューのその言葉に、なるほどと思う。
死穢八斎會が用意出来た人材や設備と、シャドウミラーの技術班という天才揃いの人材と、文字通りの意味で金に糸目を付けていないホワイトスターの設備。
双方を比べれば、雲泥の差……それこそ月とスッポンと評しても決して間違いではないだろう。
であれば、同じ効果の薬を作るにしても、製造方法そのものは全く違うものとなってもおかしくはない。
当然ながら、死穢八斎會の作った個性破壊薬とシャドウミラーの技術班が作った個性破壊薬では、後者の方が信頼性も効果も高いものになるだろう。
「こう表現するのはあまり心地良いものじゃないけど、死穢八斎會の個性破壊薬は素材を……壊理の血肉を活かした製造方法だったのよ。本当に不愉快な事だけど」
レモンにとっても、自分に懐く壊理は可愛いと思っているのだろう。
言葉通り、本当に不愉快そうな様子で言う。
「分かった。なら、個性破壊薬の方についてはまだ完成まではもう少し掛かる訳だ」
「違うわ」
「え?」
俺の言葉に、マリューがそう言う。
レモンの方を見ると、レモンもまた俺の言葉に対して首を横に振っていた。
「どういう事だ?」
そんな俺の疑問に対し、レモンが指一本分の筒? のような物を俺に渡してくる。
「これは?」
「個性破壊薬よ。もっとも試作品だけど。実際に試してないから何とも言えないけど、計算通りなら相手の個性の強さや薬との相性にもよるけど、最低でも一日。相性が良ければ数日は個性を使えなくさせる事が出来るわ」
「それはまた……十分に完成しているように思うけど?」
「あのね、アクセル。アクセルが持ってきた薬の名称は個性破壊薬でしょう? これはあくまでもある程度個性を使えなくするような効果しかないのよ、最終的な目標は、個性破壊薬の名称通り個性を完全に破壊する、一生使えなくする事なの」
「それはまた……」
レモンの言葉に、反論出来ない。
実際に俺が入手した薬の最終的な目的がそれだったのは間違いない。
ただ、そのような薬を作るとなると、死穢八斎會の一件があってから今までの時間があっても、まだ完成していないというだけで。
「ただ、これはこれで使い道はかなりあると思うぞ」
何しろ最低でも一日は個性を使えなくするのだ。
ヴィランとの戦いがあった場合、それは数分から十数分というのが大抵だろう。
あるいは個性を使って逃げ出したヴィランを捕らえるといった場合はそれなりに時間が掛かるかもしれないが……それだって一日とかは掛からない。
まぁ、例外というのは何にでもあるので、絶対にそういう事がないとは言えないが。
寧ろヒロアカ世界的には、永遠に個性を使えなくするよりも、一定期間だけで個性を使えなくする薬の方が需要はある筈だ。
ヒロアカ世界においては、個性が全ての前提というか、基礎のようなものだ。
であれば、その個性を完全に……一生使えなくするというのは、それこそ殺人に等しいと言われてもおかしくはない。
それに対して一定期間使えなくなるだけなら……それでも騒ぐ奴は騒ぐかもしれないが、かなり歓迎されるのは間違いない。
もっとも、その薬がヴィランに悪用されるとそれはそれで問題な訳で、管理は徹底されるだろうが。
「私としては、中途半端な物は作りたくないのだけど……マリューはどう? この薬の研究についてもマリューが中心になって行われたんだから、その辺の判断はマリューがしてもいいと思うけど」
「そうなのか?」
「ええ」
レモンの言葉はちょっと意外だった……が、考えてみればそうでもないのか?
鬼滅世界で使った毒もマリューがメインで研究していた筈だ。
マリューにとっては、そっちの研究の方が才能があるのかもしれないな。
……もっとも、シャドウミラーにおいても重用されているPS装甲とかを開発したのはマリュー……正確にはその主導的なメンバーだったのを思えば、機械的な方についても決して才能がないって訳ではないと思うんだが。
まぁ、個人の能力とやりたい事が必ずしも一致しているとは限らないしな。
結果もきちんと出しているんだし、そういう意味では俺が文句を言ったりはしなくてもいいだろう。
「使えるのなら使ってもいいと思うわよ? ただ……ヒロアカ世界の事を考えると、迂闊に薬を流す訳にもいかないでしょう? 私達はキブツがあるからコストを考えなくてもいいけど、普通にこの薬を作った場合はかなりのコストが必要になるでしょうし」
マリューの説明に、なるほどと思う。
ホワイトスターにあるキブツは、何でも……それこそゴミとか、マブラヴ世界のBETAの死体であっても、元素変換をして色々な物を作れる。
シャドウミラーが何を作るにしても、コストについて殆ど気にしなくてもいいのは、このキブツがある為だ。
……もっとも、キブツはその世界特有の物質は作る事が出来ないので、本当の意味で万能という訳ではないのだが。
「そうだな。公安を相手に取引をする時の重要な材料になるとは思う。……それで、その出来ている2本は俺が貰ってもいいのか?」
「ええ、問題ないわ。それは無針注射だから、相手に先端を触れさせて後ろを強めに押せば圧力によって個性破壊薬が相手の体内に入るから」
「使ってから効果が発揮されるまでは?」
「個人によって違うとは思うけど、基本的には即座にね」
そう言い、マリューから個性破壊薬の無針注射を2本受け取ると空間倉庫に収納する。
……この後は、当然ながら熱い夜を楽しむのだった。