「待たせたか?」
「ううん、今来たところ。ね、茨」
「はい。もっとも、私はいつまででもアクセルさんを待ちたいとは思いますが」
寮から出ると、そこには一佳と茨の姿があった。
那歩島に郊外ヒーロー活動をする為に行くまで、もう少し。
そんな時、一佳から郊外ヒーロー活動に使う買い物に付き合って欲しいと連絡が来たのだ。
……ちなみにA組は南国の那歩島だったが、B組は俺達とは正反対の北海道で郊外ヒーロー活動をやる事になっていた訳で、それを思えば一緒に買い物に行く必要があるのか? と疑問に思ったのだが……ヤオモモや三奈、透、響香といった面々に勧められ、一佳と茨と買い物に行く事になった訳だ。
外出届すらヤオモモ達が用意していた程の準備の良さは、一体何故? と疑問を抱くには十分だった。
一応、それならヤオモモ達にも一緒に行かないかと言ったが、そっちは断られたしな。
別に一緒に行くくらいはいいと思うんだが。
ともあれ、そんな訳で俺は一佳と茨の2人と共に買い物に出掛ける事になるのだった。
以前林間学校前、そしてI・アイランドに行く前にもやって来た、木椰区ショッピングモール。
郊外ヒーロー活動をする為という事もあり、どこに買い物に行くのかというので迷ったんだが。
何しろA組は南の島、B組は北海道だ。
当然ながら必要とする物は大きく違ってくる。
まさか南の島に雪山登山用のコートとかはいらないだろうし、北海道で水着はいらないだろう。
……あ、でもジャグジーとかそういうのがある場所だったら、水着はあった方がいいのか?
ともあれ、そんな訳で色々な物が売っている木椰区ショッピングモールにやって来た訳だ。
「それで、こうしてやって来たけど、何を買う?」
「アクセルは何か必要な物とかはないの?」
一佳の言葉に、うーんと悩む。
林間合宿の時に買った物で大体どうにかなるんだよな。
スーツケースもAI搭載の奴があるから、新しくそういうのを買う必要もないし。
であれば、俺が必要とするのは……
「水着くらいか?」
『っ!?』
俺の言葉に、何故か息を呑む一佳と茨。
これが男女逆ならともかく、男の水着なんて……そんなに興味深いとは思えないんだが。
あるいはそれは、俺が男だからそういう風に思うのか?
「そ、そ、その……ねぇ、アクセル。南国の島に行くのなら、服とかも買った方がいいんじゃない?」
一佳が慌てながらそう言ってくる。
薄らと頬を赤くしているのは、一体何を想像したんだろうな。
一佳は俺の正体だったり、ホワイトスターに恋人が多数いるのを知っている。
俺の水着姿という事で、その辺りを想像したのかもしれないな。
「夏に着た服があるし、日中はヒーローコスチュームを着ているから、別にそこまで夏用の服が必要だとは思わないんだが」
そもそも既に秋が終わって初冬といった感じの季節だ。
いくら木椰区ショッピングモールであっても、夏用の服……半袖の服とか、そういうのが売ってるとは思えない。
「アクセルさん。出来ればアクセルさんに服を贈らせて貰えないでしょうか? いつもアクセルさんにお世話になっているお返しにでも」
「そ……そうそう、茨の言う通り、アクセルにはいつも世話になっているし、物間が絡んだりしてるだろ? なら、感謝や謝罪を込めてって事で……どう?」
「そう言われてもな。……いや、ここまで言われて断るのもなんだしな。それに……」
今日は別にヒーローコスチュームを着ている訳ではなく、私服での行動だ。
だが、幸か不幸か俺の顔は体育祭の時に全国放映されているし、ステインの件もあってかなり知られている。
その為、それなりに視線を向けられる事が多くなってるんだよな。
なので、いつまでもここにいては面倒な事になりかねない。
「じゃあ、行こう。……ああ、後でクリスマスツリーは見るからね」
一佳が言ってるのは、木椰区ショッピングモールの名物でもあるクリスマスツリーだろう。
クリスマスまではまだそれなりにあるのだが、12月に入ってすぐなので、こういう場所でイルミネーションによって飾られたクリスマスツリーがあるのは当然だろう。
ただ、問題は……
「クリスマスツリーを見るのはいいけど、そうなると雄英に帰るのが遅くならないか?」
イルミネーションとかが点灯されるのは、当然ながら周囲が暗くなってからだ。
つまり、LEDとかが綺麗に光っているのを見ることが出来るのは、暗くなってからとなる。
それを見てから雄英に帰るとなると……帰宅時間をオーバーするのでは?
影のゲートを使っても問題ないのなら帰宅時間の問題も気にしなくてもいいが、一佳はともかく茨にはまだ俺の正体とかそういうのを教えてはいない。
そうなると、影のゲートは使えないだろう。
「その辺は大丈夫。ミッドナイト先生に話を通してあるから」
「……なるほど」
一佳の言葉に感心する。
相澤やブラドキングではなく、ミッドナイトに話を通したのはかなり上手い。
これが相澤なら効率が悪いとかそういう風に言ってクリスマスツリーを見るのを許可してくれない可能性がある。
ブラドキングは……あまり接した事はないが、それなりに真面目な性格をしてるのは知ってるので、恐らく却下するとでも判断したのだろう。
もっとも、A組とB組の合同訓練の時の実況放送において、あからさまにB組を贔屓するような事をしてA組にブーブー言われていたりもしたが。
そんな2人の教師に対し、ミッドナイトは青春の為なら融通を利かせてくれる。
勿論、それはあくまでもミッドナイトの許容出来る範囲での話で、それを越えるような事であれば、ミッドナイトも許可しないだろう。
だが、男女が綺麗なイルミネーションのクリスマスツリーを見るといったような事は、まさにミッドナイトにとっての青春だろう。
……男女ではあるが、男1人に女2人というのが多少不規則ではあるが。
ともあれ、ミッドナイトの許可があるのなら俺からは何も言う事はないので、買い物に向かう。
「うーん……アクセルのイメージって言ったら赤なんだけど、赤い半袖の服だとちょっと派手になりすぎかなぁ……茨、どう思う?」
「一佳さんの仰りたい事も分かります。ですが、アクセルさんが行くのは南の島である事を考えれば、今はちょっと派手に思えるかもしれませんが、向こうではいいのではないでしょうか?」
そんな風に一佳と茨は会話をしながら、俺の服を選ぶ。
ちなみに12月ではあったが、さすが木椰区ショッピングモール。夏用の服を置いてある店もきちんとあった。
もっとも一佳に言わせれば、もし店で夏用の服が売ってなかった場合、その時は古着屋を見て回るつもりだったらしい。
結局新品の服が……さすがに冬服に比べると少ないが、それでも置いてあったので問題はなかったのだが。
にしても、俺のイメージが赤って……いや、実際それは間違ってはいない。
俺が乗るニーズヘッグを始めとする機体も赤がパーソナルカラー……他には黒もそれなりに多いが、とにかくそんな感じなのだから。
だが、このヒロアカ世界においては俺=赤というのはそこまで強く印象づけられたりはしていないと思うんだが。
混沌精霊として使う炎も、普通の……赤い炎ではなく、白炎の名称通り白い炎だし。
あるいはそういうのは関係なく、俺と接していれば赤がイメージカラーであると思うのかもしれないな。
そんな風に思っている間に、赤い強く印象に残る服を買い、ズボンの方も膝くらいの長さのものが買われる。
幸いだったのは、これらの服は夏服で今は冬なので、半ばセールに近い状態だった事だろう。
品質の割にそこまで高くなかったので、一佳と茨の支払った金額もそこまで多くはない。
そうして次に一佳と茨の服を買う。
「えっと、アクセル。これは私達が使うんだから、私達が出すよ?」
「そうです。アクセルさんに代金を支払って貰うなど……」
そう、2人は言ってくる。
2人からは夏用の服を買って貰ったので、それはそれという事で俺も2人に服……というか、スキーとかをやる時に使う上着を買ってやる事にした。
こういうのって、目立つ為に派手な配色となってるのだが、それを上手い具合にファッション性に持っていったのは凄いと思う。
それなりのブランドだったので値段もそこそこだったが、俺は別に金に困っていたりする訳じゃないしな。
そんな訳で、半ば強引に2人に買い……
「この紅茶、美味いな」
さすがに下着売り場には行ける筈もないので、俺は2人が下着を購入するのを、他の場所で待っている。
これでレモンを始めとした恋人達と一緒であれば、俺が夜の行為で喜ぶような下着を買うからという事で一緒に選んだりもするのだが……買い物をしてるのは一佳と茨だしな。
これがあるいは茨だけなら、信仰している俺に下着を選んで貰うのを許容する……いや、寧ろ光栄だと思ったりもするが、生憎と一佳もいるのでそういうのはないしな。
そんな訳で2人の買い物が終わるのを喫茶店で待っていた訳だ。
紅茶が自慢と主張している喫茶店だったので紅茶を……銘柄については詳しくないので、シュークリームに合う紅茶を注文したのだが、シュークリーム抜きで普通に飲んでも美味い。
ああ、そういえば……何日かしたら以前雑誌で見たケーキバイキングに行くって話になっていたと思うんだが、A組の面々は大丈夫なんだろうな?
特に郊外ヒーロー活動で南の島の那歩島に行くという事で、ダイエットをしていた三奈を始めとした面々。
その日だけは例外という事にするのか、それともケーキバイキングを我慢するのか。
その辺りは分からないが、もし我慢するのなら那歩島の件が終わった後でまた誘ってみてもいいかもしれないな。
「あの、もしかしてアークエネミーですか?」
生クリームとカスタードクリームが二層となり、たっぷりと入っているシュークリームを楽しんでいると、不意にそんな風に声を掛けられる。
声のした方に視線を向けると、そこには中学生くらいの男と小学生くらいの女……顔立ちが似ている事から、恐らくは兄妹なのだろう2人の姿があった。
さて、どうするか。
そう思ったが、今の俺はあくまでも雄英の生徒である以上、ファンサービスしておいた方がいいだろう。
「そうだ。ヒーローコスチュームを着てなかったのに、よく分かったな」
「その、体育祭で優勝したのを見てたから。……ほら」
兄が俺の言葉を返すと、隣にいる妹の背中を軽く叩く。
すると妹の方は、おずおずと……それでいて目を輝かせながら、俺に向かって口を開く。
「その、サインして貰えますか?」
そう言い、差し出してきたのはメモ帳。
サインなら普通は色紙……いや、偶然俺がここにいるのを見て、何とかサインを欲しがった結果、用意出来たのがメモ帳だったって感じか?
「ああ、いいぞ。……ほら」
メモ帳を受け取り、アークエネミーとしてのサインをする。
このサインについても、ただ名前を書くだけじゃなくて、しっかりと授業として考えたんだよな。
「あ、ありがとう!」
「その、頑張って下さい。応援してます」
妹は興奮して頬を赤くし、嬉しそうに感謝してくる。
兄はそんな妹の様子に困った表情を浮かべつつも、頭を下げる。
そうして2人の兄妹がいなくなると……
「アクセルって意外とファンサするんだな」
「アクセルさんの大いなる愛は無限なのでしょう」
そう、一佳と茨が声を掛けてくる。
ファンサービスをファンサと略すのがらしいと言えばらしいな。
その手には買い物袋があるものの、その件については特に何も言わない。
一佳と茨が今までどこの店に行っていたのかを思えば、それを聞くのは色々な意味で自殺行為だろうし。
「これでも雄英のヒーロー科の生徒だしな」
「それも、ただの生徒じゃなくて1年でもトップの生徒だろう?」
そう、一佳が言ってくる。
その言葉は決して間違いという訳ではない。
「そう言って貰えると俺も嬉しいよ。……それより注文をどうする? この店はシュークリームが美味いぞ。……まぁ、他のケーキも多分美味いだろうと思うけど。それに紅茶もお勧めだし」
「では、私はアクセルさんと同じ物をお願いします」
即座に茨がそう言い、一佳はチーズケーキとそれに合う紅茶を注文するのだった。
「綺麗……」
夜、木椰区ショッピングモールにある巨大なクリスマスツリーは、イルミネーションで綺麗に飾られていた。
一佳の呟きに俺と茨も頷いて同意する。
勿論、クリスマスツリーを見に来ているのは俺達だけではなく、多くの者達がいる。
……もっとも、イルミネーションで飾られたクリスマスツリーだ。
それを見ている者の多くは恋人達だったが。
そんな風に思っていると、雰囲気に酔ったのか一佳が俺の手を握ってくる。
別に一佳と手を握るのが嫌な訳ではないので、俺はしっかりと一佳の手を握る。
「っ!?」
一佳にしてみれば、そうして手を握り返されるというのは予想外だったのか、一瞬驚きの表情を浮かべるが、それ以上は何も言わず、俺の手を握ったままクリスマスツリーを見るのだった。
……何故か、そんな俺達を茨は嬉しそうな笑みを浮かべて見ていたのが気になったが。