「拙者を見くびった事を後悔させてやる!」
布を操るヴィランは、そう言うと布に包まれた自販機……いや、布の中で明らかに先程の自販機とは違う形となっていたが、その形の変わった何かを俺に向かって振り下ろしてくる。
「アクセル君っ!?」
布の中にある自販機の重量も変わっているのか、あるいは変えられるのは形だけで重量は変わらないのか。
ともあれ、それでも自販機が1つとなると結構な重量がある筈だ。
200kgから300kgくらいか?
そんな金属の塊が、布に包まれているとはいえ俺に向かって振り下ろされたのだから、それを見ていた透が悲鳴を上げるのも理解出来る。
とはいえ……
「遅いな」
そう呟く俺の姿は、地面に激突した自販機のすぐ隣にあった。
「おのれぇっ!」
ヴィランにしてみれば、恐らく最初に俺を殺す……あるいは殺すまでいかなくても、大きなダメージを与えるつもりではあったのだろう。
だが、こうもあっさりと回避されてしまった事が許せなかったらしく、次の瞬間には俺に向かって別の布に包まれた何かが……それも複数振り下ろされる。
だが、当然ながらそんな大振りの攻撃が俺に通用する筈もない。
というか、このヴィランの個性的に対人よりも動かない建物とかそういうのを攻撃するのに向いているんだと思うんだが。
一般人を相手にするのならまだしも、プロヒーロー……それも相応の実力がある者であれば、こいつは倒しやすい……
「いや、違うか。なかなかずる賢いな」
布で包んだ重量物で俺を攻撃するも、回避されているヴィランだったが、その攻撃は次々と俺に回避されていた。
だが同時に、足元を静かに……俺に見つからないよう、蛇の如く近付いている布があった。
特に何かを包んでいる訳ではないその布は、明らかに俺を狙っている。
そして布というのは相澤の持つ捕縛布を想像させた。
つまり、この布でも同じように相手を捕らえる事が出来るのだろうと。
そして当然のように、そうして相手を捕らえるといったことが出来れば……最悪の展開として、先程の自販機が布の中で形を変えたように、捕らえた人も同様に布の中で姿を変られる危険は十分にあった。
……まぁ、そこまで強力な個性であれば、このヴィランが郊外ヒーロー活動におけるラスボス的な存在である可能性が高いのだが……多分、違う。
何となく雰囲気的にの話で、何らかの確証がある訳でもないのだが。
ともあれ、布を使うこのヴィランは……
「相性が悪かったな」
質量を包み込んだ布の攻撃を回避し……ネビルレーザーや太陽光のレーザー、もぎもぎによって俺に振り下ろされようとしていた布が破壊された、あるいは他の布とくっついたりするのを見ながら、パチンと指を鳴らす。
すると次の瞬間には俺の手が白炎と化し、小さなリスの炎獣が10匹程生み出された。
俺が何も言わずとも、リスの炎獣はこちらに近付いてきていた布……恐らくは俺を捕らえようとした布に向かい、接触した瞬間に燃やす。
「何だとっ!?」
ヴィランにしてみれば、これは完全に予想外だったのだろう。
……いや、でも自分で言うのも何だが俺はヒロアカ世界でもかなり有名だ。
だというのに、まさかこうして俺の能力を初めて見たかのような様子なのは……まぁ、ヴィランの中にも世情に疎い者はいるか。
ともあれ、リスの炎獣は素早く走り回り、ヴィランの身体から伸びている布を手当たり次第に燃やしていく。
当然ながら布が燃えればその先端に包まれていた何かも地面に落ちる。
リスの炎獣はその辺も考慮し、近くの建物に落ちないようにと配慮していた。
そのお陰もあって、自販機とかが落ちて建物に被害が出る事はなかった。
……いやまぁ、このヴィランの攻撃によって既に結構な被害が周囲に出ていたりするんだが。
その辺については、俺が考えるべき事ではない。
最悪、俺達を那歩島に郊外ヒーロー活動として派遣した雄英がどうにかしてくれるだろう。
「離れ……離れろぉっ! 拙者の布を燃やすな!」
次々に布が燃やされることに我慢が出来なくなったらしく、ヴィランは日本刀……いや、短いし短刀と呼ぶべきか? それとも拙者という一人称からすると、脇差しと呼ぶべきか。
ともあれ、その短刀を抜くとリスの炎獣を斬ろうとするも……決してその刃を振るう動きは鋭くも、素早くもない。
恐らくだが、このヴィランにしてみればあの短刀はあくまでも万が一の時に使う自衛の為の武器で、特に武器の使い方を訓練しているとか、そういう訳ではないのだろう。
幾ら短刀を振り回してもリスの炎獣には命中せず、その身体を覆っている布も次第に燃やされ、減っていく。
そうして皮膚が露わになったところで瞬動を使い、ヴィランの後ろに回り、その首の後ろに空間倉庫から取り出した無針注射を取り出す。
中身はレモンやマリューが作った、個性破壊薬の試作品だ。
恐らくは治崎が狙っていたような、一時的に個性を使えなくするというのではなく、一日から数日くらいの間個性を使えなくする程度の効果しかないものの、今のこの状況……ヴィランとの戦いの状況を考えれば、そのくらいは全く問題がない。
寧ろ個性を使えなくする時間が長すぎる程だ。
もっとも、個性が使えない時間が長いというのは、悪くないのだが。
そんな薬の入った無針注射をヴィランに使う。
「ぐっ! 貴様、一体何を!」
後ろに回られたのに、攻撃をされるのではなく何かをされた。
その何かが分からず、ヴィランは混乱する。
これで無針注射ではなく普通の針のある注射とかであれば、それが刺さった痛みで攻撃されたと理解してもおかしくはないものの、無針注射はその名称通りに針がない。
圧力によって、直接体内に薬剤を投与するというものだ。
だからこそ、ヴィランは何かをされたものの、実際には自分が何をされたのかが分からなかったのだろう。
なので、反射的に俺に対して反撃しようとし……
「え?」
ヴィランの口から間の抜けた声が聞こえる。
恐らくは個性を使おうとしたのに、個性が使えなかったのだろう。
即効性についても問題はないな。
レモンやマリューから個性破壊薬を使ったらすぐに……それでも数秒くらいは掛かるらしいが、とにかくすぐにでも効果を発揮するとは聞いていた。
それを見事に確認出来ただけでも、俺にとっては悪くない結果だった。
「貴様っ、拙者に一体何を……ぐべ」
個性が使えないのを理解したヴィランが咄嗟に短刀を俺に向けて振るおうとしたのを察知し、首裏を手刀で打つ。
その一瞬でヴィランは意識を失い、地面に倒れ込んだ。
「さて」
「おいおい、アクセル! やっぱりお前はアクセルだよな! アクセルがアクセルしてるぜぇっ! オイラは信じてたよ!」
興奮した峰田がやって来て、そんな風に言う。
いや、アクセルがアクセルしてるって、何だ?
何で俺の名前が動詞になっている? と思うものの、その辺は突っ込まない方がいいだろうと考え、それだけ峰田が喜んでいるのだろうと思っておく。
実際、レーザーを使える2人はいたが、それでも俺以外の面々は決して戦闘を得意とする者達ではないのだから。
そういう意味では、俺がとっとと片付けたのは悪くない結果だったのだろう。
「峰田に信じて貰って嬉しいよ。これで嫉妬で俺に突っ掛かってこなければ、俺にとっても楽しいんだけどな」
「……夜に明かりのないところを歩く時は気を付けるんだな」
「物騒な事を言うな。助けただろう?」
「それとこれとは話が別なんだよ! 爆豪が言うように、お前はヒモヒーローって名乗れよな! オイラはそれがいいと思うぞ!」
「おい」
「まぁまぁ、その辺にしておこう。アクセル君の煌めきも、僕には眩しいものだったしね。……それよりも、アクセル君が倒したこのヴィランをどうするのかを考えた方がいいと思うよ?」
青山がそう言いながら、気絶したヴィランに視線を向ける。
確かに、このヴィランをどのようにするのかというのは考えておく必要がある。
ここまでの大規模に破壊行為を行ったことを考えれば、交番に預けるとか、そういう事も出来ないし。
実際には個性破壊薬のお陰でこのヴィランは個性を使えなくなっているのだが……その辺については、まだ話さなくてもいいだろう。
それに、原作において郊外ヒーロー活動に関係する騒動が始まったのだろう事を考えると、このヴィランを倒してはい解決といったような事にはならないだろう。
恐らく……いや、ほぼ確実に他のヴィランもいる筈だ。
であれば、交番に預けるとかしておいても、このヴィランの仲間がこいつを奪い返しに来るだろう。
もっとも、そうなってもこのヴィランは今は個性を使えないので、そういう意味では奪われても問題はないんだけどな。
ただ、出来ればこのヴィランは尋問して情報収集をしたい。
「なら、村長に聞いた方がよくない? 村長なら、どこかそういう……このヴィランを閉じ込めておけるような場所を知ってるかもしれないよ?」
透の言葉に、それもいいかと思ったところで……
「うん?」
不意に覚えのある気配がこちらに近付いてくるのを察し、顔を上げる。
するとそんな俺の行動に釣られるように、峰田や透、青山も揃って顔を上げ……
「あ、爆豪」
こちらに向かって飛んでくる……いや、この場合は掌の爆発で跳んでくるといった表現の方がいいのか? とにかく、こちらに向かってやって来る爆豪の姿があった。
そして爆豪は、こちらの状況……俺達が特に焦っている様子もなく、ヴィランらしい相手が地面に倒れているのを見て、不満そうな表情を浮かべながら地面に着地した。
「クソがっ! アクセルがこっちにいたのなら、そう連絡をしろよな! 俺がこっちに来る必要はなかったじゃねえかっ!」
そう吐き捨てる爆豪。
まぁ、爆豪はヴィランが出た時の為に事務所に残っていた。
実際には田舎の平和な場所だけにヴィランなんかがいる筈もないと思っていたのだが……実際には、この布を操るヴィランのような存在がいた。
なので勇んできたのだろうが、到着してみればそのヴィランは俺に倒されていたのだから、爆豪にしてみれば面白くないと思うのは当然の事だった。
「ああ、連絡……ん? 電波来てないぞ?」
爆豪の言葉にスマホを取り出すと、そこには圏外の文字が。
那歩島は田舎なので電波が弱いのか?
そうも思ったが、結構しっかりとした電波塔があったのを思い出すと……
「電波塔が破壊された?」
「んだと?」
俺の呟きに爆豪が反応する。
「あ、本当だ。電波が来てない」
透もまたスマホを見て、そう呟く。
念の為という事で峰田と青山にも視線を向けるが、そちらもやはり電波は来ていなかったらしい。
「クソがっ!」
吐き捨て、爆豪は即座に爆発を起こして空を跳んでいく。
どこに向かったのかは、考えるまでもないだろう。
このヴィランは既に気絶しており、戦力にはならない。
であれば、また別のヴィランが那歩島にある電波塔を破壊したという事になる。
……具体的に、いつ那歩島にある電波塔が壊されたのかは分からない。
もしかしたら……本当にもしかしたらの話だが、俺が気絶させたヴィランがここで暴れるよりも前に電波塔を破壊していた可能性もあるが……まぁ、普通に考えれば、やはり別のヴィランだろうな。
爆豪もそれを察し、そちらに向かったのだろう。
「それで、このヴィランは結局どうするのかな?」
「峰田、もぎもぎを使ってこのヴィランの手足を動かないようにしておけ、取りあえず避難所に連れていく」
那歩島は平和な島ではあるが、それでも避難所の類はある。
もっとも、それはヴィランを相手にした時の為ではなく、何らかの自然災害があった時の為だろう。
地震、火事、津波……といったように。
ただ、俺が予想したようにヴィランが複数存在していた場合、住人達、あるいは観光客達も避難所に避難している筈だ。
学級委員長……というか、雄英ヒーロー事務所を指揮しているヤオモモであれば、間違いなくそのように判断する筈だった。
「分かった、任せとけ。……アクセルがいたお陰で、このヴィランと戦う時にもぎもぎはあまり使わなくてもよかったしな」
峰田の個性であるもぎもぎは、調子にもよるが、1日くらいはくっついて外れない。
捕らえたヴィランを拘束するのには丁度いい。
下手にロープで手足を縛るといったことをしていれば、もしかしたら縄抜けをするかもしれないし。
……特にこのヴィランは一人称が拙者だったことも考えると、忍者的な感じで関節を外して縄抜けが出来たりしてもおかしくはない。
なので、関節を外しても意味がないようにもぎもぎによって拘束しておいた方がいいのだ。
大人の男を引っ張っていくのは大変ではあるが、俺の身体能力があればその辺は問題ないだろうし。
そうして、ヴィランを動けないようにすると、虎の炎獣を出してヴィランをその背に乗せ、避難所に向かうのだった。