無事に避難所に到着すると、既に島民や観光客の多くが集まっていた。
「アクセルさん!」
避難民達に色々と指示をしていたヤオモモが、俺達の存在に気が付く。
……いやまぁ、虎の炎獣を引き連れているのだから、それで目立つなという方が無理だろうが。
実際、避難していた者達の中にも怖々といった視線を向けて来る者がいたし。
とはいえ、俺もそれなりに雄英ヒーロー事務所で活動していたので、俺がヴィランではないというのは島民達が怖がっている者達に話していた。
何よりヤオモモと友好的に話しているのを見れば、その時点で俺が別に敵という訳ではないというのは明らかだろう。
もっとも、それを知った上でも虎の炎獣を怖いと思う者もいるのだろうが。
そんな周囲の雰囲気に気が付いたのか、ヤオモモが虎の炎獣を見ながら口を開く。
「アクセルさん、炎獣は……その背にいるのは誰ですか?」
炎獣を消して欲しいと、そう言おうとしたのだろうヤオモモだったが、その背に気絶させられたヴィランがいるのを見て、そう聞いてくる。
「俺達が遭遇したヴィランだよ。出来れば情報を聞き出したいところだが」
何しろ、現状において敵がどのくらいの規模なのかというのもまだ分かってはいない。
その辺りについての情報を聞き出せればいいんだが……どうだろうな。
「それに倒しはしたが、まさかその辺に置いてくる訳にもいかないしな。ヴィランがどのくらいいるのかは分からないが、それでも回収されてまた襲ってきたら面倒だし」
実際には個性破壊薬によって今のこのヴィランは目を覚ましても個性は使えないので、そこまで脅威という訳でもない。
訳でもないのだが……それでもやはり、むざむざと敵にその身柄を返すといったことをするつもりはなかった。
万が一、本当に万が一にだが、那歩島を襲撃してきたヴィランの中に個性破壊薬の効果を消すといったような個性を持つ奴がいたりしたら面倒だしな。
「そうですわね。でしたら、避難所は地下室……正確には地下倉庫があるようですので、拘束したままそこに置いておきましょう。一段落したら、尋問をして何とか情報を聞き出せればよいのですが」
ヤオモモから地下倉庫のある場所を聞き、俺はヴィランを引きずってそっちに向かう。
虎の炎獣はもう役目を終えたので、消しておく。
……この避難所の守備戦力として使うといった事も考えたのだが、残念ながら避難所にいる者達は炎獣を怖がっている者が多かった。
中には格好いいと言う者や、可愛いと言う者もいたのだが。
この件については怖がっている者が多いので、虎の炎獣は消しておく。
「あ、私も行くね。何かあった時に手はあった方がいいだろうし」
俺がヴィランを引きずっているのを見て、透がそう言ってくる。
何かあった時と言われても……例えば、このヴィランの意識が戻って暴れたりした時か?
ただ、個性破壊薬で個性は使えなくなっているし、峰田のもぎもぎで手足がそれぞれくっついているので、その辺は心配しなくてもいいと思うんだが。
あ、でもこのヴィランの覚悟が決まっているとかだったら、もぎもぎが付着している場所の皮を破って強引に外すとかしそうだよな。……痛そうだけど。
それにそこまでしても個性は使えない訳で……いや、透にしても予想外の展開で不安だからこそ、誰かの側にいたいのだろう。
だからといって、それが俺なのは……やはり俺が強いからとか、そんな感じか?
「分かった。じゃあ、来てくれ」
そう言い、俺は透と共に地下倉庫に向かう。
……いつもであれば、峰田が地下倉庫で変な事をするなとか、あるいは透と2人きりで地下倉庫のような場所に行くということで血涙を流したりもするのだが、今はそのようなことをしている余裕がないというのは理解している為か、特に何かを言ってきたりする様子はない。
峰田も時と場合を選ぶとか、そういう事が出来るんだな。
そんな風に思いつつ、俺はヴィランを引っ張って避難所を進む。
……あ、透を連れてきてよかったな。
避難所の中にいる島民や観光客の中には、俺がヴィランを引きずっているのを見て、ぎょっとした表情を浮かべる者もいる。
だが、俺と一緒に透がいる事もあってか、安堵する。
ちなみに透のヒーローコスチュームは、透の髪の毛とか爪とかの細胞から培養したもので、ヒーローコスチュームを着ていても今は透明なのだが、それはそれで自分がそこにいるのが分からないからという事で、手袋や靴は以前と同じように見える物を使っている。
ヴィランと戦いになったりする時は、手袋と靴を脱げば完全に透明な状態になる訳だ。
「うわっ!」
また1人、落ち着かない様子で避難所の中を歩いていた男が、ヴィランを引きずっている俺を見て驚きの声を上げる。
「あ、大丈夫ですよ。私達は雄英の生徒です。島を襲ってきたヴィランの1人を倒したので、地下倉庫まで運んでいるところです」
驚きの声を上げた男に対し、透が大きく手を……自分の存在を相手に気が付かせるようにしながら、言う。
「お、おう。そうなのか。……ヴィランを倒してくれてありがとよ。まさか、この那歩島がヴィランに襲われるとは思っていなかったよ。雄英の生徒が来てくれている時で助かった」
「あはは、頑張りますね。地下倉庫ってこの先でいいんですよね?」
「ああ」
そうして言葉を交わすと、俺と透は再び地下倉庫に向かう。
にしても……俺達がいて良かった、か。
ちょっと悪い気がしてくるな。
原作的な事を考えれば、俺達がここにいるからこそ、ヴィランが襲ってきたと考えるのが自然だろう。
つまり、俺達が那歩島に来ていなければ、ヴィランの襲撃はなかった可能性が高い。
……いやまぁ、もしかしたら俺達がいない時にヴィラン達が那歩島で好き勝手に暴れていて、それによって最悪那歩島の住人が全滅という事になっていた可能性も否定は出来なかったのだから。
「えっと……ねえ、アクセル君。ここじゃない?」
「どうやらそうみたいだな」
通路の先に扉があり、その扉を開くと地下に続く階段があった。
ここが避難所である以上、恐らく避難物資……食料や水、毛布とか、そういうのが置かれているのだろう。
避難してきた者達にとって不幸中の幸いだったのは、この那歩島が南の島であるという事だろう。
寒さから毛布を必要とする者は……絶対にいないとは限らないが、いても少数の筈だ。
もしこれでB組が郊外ヒーロー活動をしている北海道で同じような事があった場合、まずは暖を取る方法を考える必要がある。
ん? おい、これ……
「なぁ、透」
「うん? どうしたの、アクセル君。その……ヴィランの扱いはもう少し丁寧にした方がいいと思うけど」
階段を下りながら透に声を掛けると、そんな返事がある。
ゴッ、とか、ガッ、とか。そんな音がヴィランの頭から聞こえてくるのだから、仕方がないが。
とはいえ、首の後ろに手刀を入れて気絶させたとはいえ、それでもこうして激しい音が何度も響いているようなら、その目を覚ましてもいいと思うんだが。
それだけに手刀の威力が高かったという事か。
「ヴィランなんだし、このくらいはいいだろ」
実際、このヴィランによって家を破壊されたり、あるいは車を武器に使われたような者達にしてみれば、今のこのヴィランの扱いを見てもそこまで理不尽だと思ったりはしないし。
保険とかそういうのでどうにかなればいいと思うんだが。
とはいえ、こんな南の島でヴィランが暴れるとかは想定していなかっただろうし、その辺りのことを考えればヴィラン保険とか、そういうのには入っていないような気がする。
その場合、家や車の修理費用、あるいは車の場合は買い換えの費用とかは実費でという事になるだろう。
……うん、その辺は多分ヒロアカ世界だけに国からの補助とか、そういうのもあると思っておく。
「えー……まぁ、アクセル君がそう言うのならいいけど。それで、どうしたの?」
「ん、ああ、それな。A組の俺達のいる場所がこうしてヴィランに襲撃されたという事を考えると、もしかしたら北海道に行っているB組も実はヴィランに襲撃されているといった可能性があると思わないか?」
「え? それは……多分ないと思うけど。このヴィラン達も、私達を狙ってきたというよりは、那歩島を狙ってきたように思えたし」
透の言葉は多分正しいと思う。
何しろ原作主人公の緑谷がいるのはA組で、そういう意味ではB組に攻撃されるといった事は、まず考えなくてもいいのだから。
だが、それはあくまでもそう予想出来るというだけであって、実際に確認出来た訳ではない。
これでスマホが使えるのなら、一佳や茨に連絡を取って話を聞いたりも出来るだろうが……ヴィランによって、電波塔が破壊されている以上はそれも出来ない。
なら、いっそ影のゲートを使って北海道に転移して、B組の様子を見てくるか?
透が言うように多分大丈夫だとは思うが、それでもやはり自分の目でその辺りは確認しておきたいし。
それに……通信が繋がらないのは、あくまでもこの那歩島での件だけだ。
であれば、影のゲートで転移をした後で雄英に連絡をし、雄英の生徒で動ける者達だけを連れて那歩島に戻ればいい。
もっとも、そうなると那歩島にいる他の生徒達……影のゲートについて知っているヤオモモ以外は、一体何があったのかと疑問に思うだろうが、その辺は抜き打ちで様子を見に来ている途中だったという事にして貰おう。
唯一の難点としては、介入が早ければ緑谷の実戦経験がまた潰されるという事だろう。
死穢八斎會との戦いではしっかりと実戦経験を積んだものの、出来れば今回も緑谷には実戦経験を積ませたい。
特に今回那歩島の襲撃をしたヴィランはヴィラン連合に所属しているヴィランでもないので、そういう意味でも緑谷が……そして他のA組の面々が実戦経験を積むには最適なんだよな。
幸いにも、那歩島の住人は全てこの避難所に集まってきている。
もしかしたら、避難所に来ていないような奴もいるかもしれないが……その場合は、こう言っては何だが自己責任だろう。
それでも何かあったら緑谷にとってはショックを受けるので、それなりに配慮はする必要があるだろうが。
うん、そうだな。その辺については北海道の様子を見てから決めよう。
北海道の方でもこっちと同じくヴィランの襲撃を受けているとかの場合は、もしかしたら那歩島の件と連動している可能性もある。
その場合は、雄英に連絡をして北海道の件も那歩島の件も、とっとと片付けよう。
だが、北海道の方が問題なく、あくまでもヴィランの襲撃は那歩島だけであった場合は、緑谷に実戦経験を積ませるという事にした方がいいな。
「アクセル君、ここだね」
「そうだな。さて、後はこのヴィランが身動き出来ないようにして……もぎもぎがあるから、その辺は大丈夫か? ともあれ移動出来ないように椅子か何かに座らせて、縛っておくか。後はこっちの情報を与えない為に耳栓をして、叫んで仲間を呼ばないように猿轡もだな」
「ちょっとそれは……やりすぎじゃない?」
透にすれば、やりすぎという認識なのだろう。
だが、個性という特殊能力があるこの世界において、油断は死に繋がる。
ましてや、このヴィランの見張りを用意する訳にもいかない以上、念には念を入れておく必要があった。
このヴィランは個性破壊薬によって1日から数日は個性を使えないが、このヴィランの仲間の存在を考えれば、このくらいの警戒は必要だろう。
……ぶっちゃけ、一番いいのは殺してしまう事なんだが、ヒーロー科の生徒としてそれは認められないだろうし。
いっそ、誰にも知られないようにしてこいつを殺し、それをやったのはこのヴィランによって被害を受けた者達の仕業……という事にでもするか?
いや、そうなると生徒達の精神的にダメージが大きいか。
「透にしてみれば酷いと思うかもしれないが、こいつの他にも仲間がいる可能性もあるだろう?」
「それは……まぁ、そうかもしれないけど」
「こいつが何らかの手段で助けを呼ぶといったことがないようにする必要がある」
やっぱり、殺してしまった方が手っ取り早いとは思うんだけどな。
ヒーロー科の生徒として、それは出来ないか。
「そう。だね。……うん、分かった。アクセル君の言う通りにするよ」
透も俺の説得で頷き、倉庫にある諸々を使って目隠し、猿轡をし……耳栓はさすがにどうする事も出来ないので、ヤオモモに創造の個性で作って貰い、視覚と聴覚を封じる。
猿轡で声も出せないようにしたので、いつまでもここにいる訳にはいかず、他の面々の手伝いをする為に地下倉庫から出る。
……それから少しして、怪我をした緑谷と爆豪が避難所に運ばれてくる。
これは、実戦経験が足りないから負けたのか、原作でも最初は負けて、次に勝利するのか。
その辺りは分からなかったが、負けたのは間違いのない事実だった。