「ヤオモモ、少しいいか?」
「アクセルさん? どうかしましたの?」
ヴィランを地下倉庫に閉じ込め、緑谷と爆豪が気絶した状態で避難所に担ぎ込まれてから少し経った頃、俺はヤオモモに声を掛ける。
……ちなみにだが、俺達があのヴィランを倒した時に爆豪がやってきて、折角来たのにヴィランと戦えずに俺達の前から消えた爆豪が、何故緑谷と一緒にいたのか。
どうやら俺が透と一緒にヴィランを地下倉庫に運び、目隠し、猿轡、耳栓といったものを用意していた時、いきなり島のどこからでも見えるような巨大な緑谷の映像……というか、幻影が生まれ、それを見た爆豪が緑谷に何かあったと判断してそっちに向かったらしい。
で、そこにいたヴィランに負けたと。
爆豪と緑谷が負けて避難所に運ばれてきたのを見て、クラスの面々の中にはショックを受けている者もいる。
無理もない。
爆豪は2人いるクラスNo.2のうちの1人で、その能力は間違いなく高い。
性格はヴィランとしか思えないものの、その能力は間違いなく将来的にはトップヒーローになれるだけのものがある。
そして緑谷は、クラスで見ても間違いなく上位の実力の持ち主だ。
OFAによって浮遊や黒鞭といった複数の個性を使えるようにもなっており、蹴りを主体にしたその戦闘スタイルは増強系としても非常に強力だ。
また、原作主人公というだけあってか、多くの者達に好かれてもいて、今となってはクラスの中心人物の1人でもある。
そんな爆豪と緑谷がヴィランに負けて運ばれ、今では医者に治療して貰っているのだから、ショックを受けるなと言う方が無理がある。
また、那歩島中に散らばっていたA組の面々が戻ってきた事で、襲ってきたヴィランについてもはっきりした。
まず、ヴィランの数は全部で4人。
その中の1人は俺が既に捕らえてあるので、残りは3人だ。
1人は狼の獣人のようなヴィランで、純粋に戦闘能力の高いタイプ。
もう1人は、女のヴィランで広範囲攻撃を得意としているタイプ。
最後の1人は、戦った爆豪と緑谷がまだ目を覚ましていないのでどういうヴィランなのかは分からないが、爆豪や緑谷と戦ったという事は、多分だがこのヴィランが敵のボスだと思う。
……実際にはまだ表に出てないだけで、他のヴィランがいる可能性もあるので、決して油断は出来ないのだが。
ともあれ、今は何故かヴィランも撤退し、一段落している。
その為、俺はヤオモモに声を掛けたのだ。
あまり人に聞かれたくない話をするので、周囲の見回りをするという事にして避難所から出る。
「今回のヴィランの襲撃……俺達A組のいる那歩島だけだと思うか?」
「え? それは一体……いえ、もしかして、B組のいる北海道でも同じように襲撃があると?」
「どうだろうな。あくまでも可能性だ。あるかもしれないし、ないかもしれない。その辺を知りたいんだが、今この那歩島では電波塔を破壊されたせいで、外と連絡が出来ないだろう?」
「そうですわね。一応救助要請のドローンを送りはしましたが……」
なるほど、どうやらヤオモモもしっかりと考えてはいるらしい。
いや、A組の学級委員長であると考えれば、それも当然か。
ただ、那歩島は本土からかなり離れた場所にある。
それを思えば、ドローンの速度でいつ本土に到着するのかも分からないんだよな。
いっそ、電波塔を創造で作れればいいんだが、そうしないところを考えれば、ヤオモモも電波塔は作れないらしい。
「ヤオモモは知ってると思うけど、俺には影のゲートという転移魔法がある」
「っ!? ……そうですわね。あまりにも予想外の展開ですっかり忘れていましたわ」
その言葉通り、まさかこんな平和な場所でヴィランの襲撃……それも爆豪や緑谷がやられた事から考えても、かなり強力な個性のヴィランが現れるというのは、ヤオモモにとっても予想外だったのだろう。
「ですが、アクセルさん。影のゲートについては、皆さんに秘密にしておられるのでは?」
「そうなるな。だから、影のゲートを使って全員を避難させるとか、そういう事は出来ない。……ただ、もし北海道に向かったB組も同じようになっていたら、さすがに大規模なヴィランの行動である以上は放っておく事も出来ないから、俺が影のゲートを使って島民を避難させるといった事は出来ないが、雄英に連絡をして先生達を連れてくる」
島民は当然のように俺の事は知らないものの、雄英の教師達は全員が俺について、そしてシャドウミラーについて知っている。
であれば、雄英の教師達を那歩島と北海道それぞれに影のゲートで連れていくといった事は出来るだろう。
「分かりましたけど……それだと、もし北海道の方で特に何も問題がなかった場合はどうするのですか?」
「それだ。その場合でも先生達を連れてくれば、この件は片付くだろう」
雄英の教師は全員がプロヒーローだ。
……いや、オールマイトは既にプロヒーローを引退したのだから、全員じゃないのか。
ともあれ、有能な人物が揃っているのは間違いない。
特に相澤の抹消なんかは、異形系には効果がないものの、それ以外を相手にした時は、圧倒的な効果をもたらす。
何しろ、相手の個性を使えなくするといった個性なのだから。
それこそ爆豪や緑谷を倒したヴィランを相手にしても有利に戦える筈だ。
……まぁ、USJでの脳無のように、個性がなくても純粋に身体能力が圧倒的な相手に対しては弱いから、それでも絶対とは言えないが。
ともあれ、雄英の教師を連れてくれば即座にこの騒動は終わるだろう。
それは間違いない。間違いないのだが……
「問題なのは、そういう風にやってもいいかって事だ」
「……どういう事ですの?」
俺が何を言いたいのか分からないといった様子で、ヤオモモが聞いてくる。
ヤオモモの立場であれば、そういう風に思うのは分からないでもない。
ないのだが……それでも、俺はヤオモモに対して口を開く。
「この事態を雄英の教師に頼らずに解決すれば、それはA組の面々にとって大きな自信となる」
「アクセルさん……貴方一体、自分が何を言ってるのか、分かっていますの?」
厳しい視線を向け、そうヤオモモが言ってくる。
いや、それは言うというよりも責めるといった表現の方が正しいだろう。
なまじ大人びた美貌を持つだけに、今のヤオモモの迫力はかなりのものだ。
その辺の男なら、ヤオモモのこの迫力を持つ美貌に気圧されてしまってもおかしくはない。
もっとも、俺の場合はレモンを含めてとんでもない美貌の持ち主が恋人達に大量にいるので、今こうしてヤオモモに詰め寄られても、それで気圧されたりはしなかったが。
「ああ、分かっている。ただ、これはあくまでも北海道で何もなければの話だ」
「それでも、アクセルさんに何とか出来る手段があるのであれば、それを使うべきですわ」
ヤオモモの言葉は正論だ。それは間違いないし、いかにもヒーロー科の生徒らしい一面もあるが……
「いや、俺はそうは思わない」
そう、ヤオモモに対して断言する。
「何故、ですの?」
ヤオモモが俺の言葉に納得出来ないといった様子でそう言ってくる。
とはいえ、まさかここで原作がどうだとか、そんな風に言える筈もないしな。
だとすれば、何か別の理由によってヤオモモを納得させる必要がある。
「まず第一に……既に那歩島の住人は避難所に避難している。それは間違いないな?」
「はい」
あっさりとヤオモモは俺の言葉に頷く。
あれ? もしかしたらまだ避難せずに家に残ってヴィランの動画を撮っているとか、あるいは何か自分勝手な理由で避難していない奴がいるのでは? と思ったのだが、どうやら違ったらしい。
……まぁ、那歩島の住人は素朴な者が多かったし、観光客にしてもヴィランが暴れている中で残って被害に遭うのは避けたいと思ってもおかしくはない。
ともあれ、全員が避難をしているというのはヤオモモを説得しやすくなる。
「なら、住人達に被害が出る心配はない」
「それはそうですが、命の危険がなくても、家が破壊されたりしたりもしますわ」
「そちらについては、もう誰も住人がいないんだから、これ以上は被害が出ないと思う」
「相手がヴィランである以上、避難した人達が持ってくることが出来なかった資産……例えば宝石とかを奪われるといった可能性はありませんか?」
「そっちについては、ないとは断言出来ないが、可能性としてはかなり低いと思う」
そもそも金儲けをしたいのであれば、那歩島のような辺境――というのは大袈裟かもしれないが――の島ではなく、もっと人の多い、つまり金持ちの多い場所を襲撃すればいいだろう。
この那歩島を襲撃して金儲けをするというのは……ちょっと想像出来ない。
あるいは電波塔を破壊して島の外と連絡が取れないように出来るからという可能性もあるが、原作的に考えれば、まずその心配はないと思う。
そんな俺の考えについて、原作知識とをぼかしてヤオモモに説明する。
「……そうですわね。言われてみれば、このような小さな島をヴィランが襲うというのが、そもそもおかしいのですわ」
そう、ヤオモモが呟く。
あるいはこれで、その辺の雑魚ヴィラン……それこそチンピラか何かのようなヴィランとかであれば、プロヒーローに見つからないように那歩島で暴れるといった事をしてもおかしくないとは思う。
だが、電波塔を破壊するだけの……また、漁港にあった漁師達の船を纏めて破壊するだけの広域破壊が可能な個性があり、そして何より緑谷と爆豪の2人を相手にして勝利出来るだけの強さを持つヴィランがいるのだ。
それを考えれば、人の少ない……田舎と呼ぶのが相応しい那歩島で、かなりの強さを持った、それこそヴィラン連合の幹部級の力を持ったヴィランが暴れるというのが、疑問でしかない。
それはつまり、金以外の何らかの理由によってこの那歩島にやって来たという事を意味しているのだ。
であれば、家に残っている金や宝石を奪うといったようなことをするとは思えない。
勿論、絶対にないとは断言出来ないし、目的のついでにとかで金や宝石を奪うといった可能性もあるが。
「だろう? なら、ここで先生達の力を借りないで、俺達だけでヴィランと戦うというのは悪くないと思わないか?」
「……アクセルさんが何を言いたいのかは分かりました。ですが、何故そこまで私達だけでヴィランと戦おうとするのですか? 島の住人の方達の事を考えれば、先生達を呼んで貰った方がいいでしょう」
「ヴィラン連合……あの連中がこのままで終わると思うか? 多分だが、今は向こうも力を蓄えていて、その力が十分に揃ったところで攻撃を仕掛けてくる筈だ。場合によっては、脳無を大量に使う可能性もある。……ヤオモモもホークスやエンデヴァーが戦った脳無の力は見ただろう?」
オールマイトが引退した今、No.1とNo.2ヒーローのエンデヴァーとホークスが2人揃ってようやく……本当にギリギリであの脳無に勝利したのだ。
ましてや、その一件の時には青い炎を出すヴィラン連合の……荼毘だったか? そいつが現れたんだから、それはつまりヴィラン連合は脳無をまだ所持している事になる。
エンデヴァーやホークスで何とか勝てた脳無が、場合によっては大量に襲ってくる可能性もある訳で、その辺の状況を考えれば、それに関わる可能性が高いA組もしっかりと鍛えておいた方がいい。
純粋に鍛えるだけなら、自主訓練で俺が鍛える事も出来るが、実戦経験となるとそうもいかない。
ましてや……これはヤオモモにはまだ言えないが、最終的には今はまだタルタロスにいるAFOがいずれ脱獄するなりなんなりして、俺達の前に立ち塞がる可能性もある。
また、俺の介入によって原作主人公の緑谷だけではなく、他の面々も実戦経験を積む機会を奪われている可能性がある訳で、そう考えればやはりこの那歩島での実戦経験の機会を逃す訳にはいかなかった。
「それは、ですが……」
ヤオモモも、あの脳無の力は見ているだけに反論する力は弱い。
「避難してきた住人達には怪我……ちょっとした怪我はさせるかもしれないが、重傷だったり、死んだりといった事は避ける。それでどうだ?」
「……そのような事、出来ますの?」
「炎獣を1人につき1匹つける」
島の住人と観光客全員を合わせても、万単位の数はいない。
いや、千人にも及ばず、数百人くらいだろう。
そのくらいであれば、炎獣を出して護衛をさせるといったことは難しくはない。
……実際には万単位で炎獣を出しても全く問題なかったりするのだが。
「どうだ? これからの事を考えて、島の住人達も守る。これなら、俺達だけでヴィランを倒すというのはありじゃないか?」
俺の言葉にヤオモモは気が進まない……本当に気が進まない様子ではあったものの、エンデヴァーとホークスで何とか倒した脳無の事もあり、俺の提案を受け入れるのだった。