「うん、やっぱりB組の方は問題がなかったか」
B組の郊外ヒーロー活動において担当している北海道。
その中でも那歩島のように担当のプロヒーローがいない辺鄙な地にB組の面々はいた。
B組の面々はどうやら俺達と同じく宿を借りて拠点としているらしい。
もっとも、見た感じでは俺達のようにもう潰れた宿ではなく、普通にまだ運営しているような宿だったが。
そんな中、窓から見えるのは鉄哲と物間がトランプをしている光景。
俺からは窓から宿の中の様子は分かるが、向こうから俺を見つける事は不可能だろう。
何しろ、現在北海道では吹雪いているのだから。
幸い混沌精霊の俺には吹雪であっても何の問題もないが。
ともあれ、那歩島と違ってB組のいる場所がヴィラン達に襲撃されるといったような事は今のところないらしい。
つまり、那歩島にいる雄英の生徒が狙われた訳ではなく、那歩島にある何かが狙われたのだろう。
B組の無事を確認してから、影のゲートで適当な場所に移動する。
そうしてスマホを使い、相澤に連絡した。
本来なら雄英に直接連絡をした方がいいのかもしれないが、この場合はやはりまずは担任だろう。
雄英に知らせるのは、相澤からの方がいい。
ちなみに何故俺が相澤のスマホの番号を知ってるのかというのは、俺がただの生徒ではなく、シャドウミラーの代表という立場でもあるからだ。
そんな訳で、何かあった時すぐに相澤に連絡が出来るように、連絡先を聞いておいたのだ。
数度の呼び出し音の後、相澤の声が聞こえてくる。
『もしもし、アクセルか? どうした? 何かあったのか?』
「現在、那歩島がヴィランに襲撃されている」
『っ!? 何!? それは事実か!?』
驚きの声を上げる相澤だったが、今の俺が雄英の生徒としてのアクセル・アルマーではなく、シャドウミラーを率いるアクセル・アルマーとして話しているのに気が付けば、すぐに納得する。
『それで、状況は?』
「爆豪と緑谷が怪我をしたが、現在治療を受けている。他には襲ってきたヴィランの数は恐らく4人で、そのうちの1人は既に捕らえてある」
『残り3人……それに、あの2人がやられるようなヴィラン、か。だが俺には八百万から連絡は入っていないが?』
「島を襲撃してきたヴィランが電波塔を破壊してな。それによって、現在那歩島は通信封鎖中だ」
『待て。では、この連絡は何だ? 何故アクセルは連絡を出来ている?』
「俺には影のゲートという転移魔法がある事を忘れたか? 今の俺は、那歩島の外にいるんだよ」
『影のゲート……であれば。俺達を那歩島に連れていく事も可能だな?』
「可能かどうかで言えば可能だが、そのつもりはない。ヴィランの数もそれ程多くはないし、那歩島の一件はA組の面々に解決させるつもりだ」
『待て、何を言っている?』
相澤は焦った様子でそう言ってくる。
「だから、那歩島のヴィランの件はA組で片付ける。那歩島の住人にとって今回のヴィランの襲撃は決して好ましい事ではないが、A組の面々を鍛えるという意味では悪くないと判断した。今の俺はもう違うが、元々俺は生徒達を鍛える為の壁としての役割を期待されて公安から依頼を受けていたんだぞ? それを思えば、今回は良い機会でもある」
そう言い、ヤオモモを説得した時と同じ言葉を口にする。
だが、さすが相澤。そうあっさりと俺の提案を聞き入れるような事はしない。
『アクセルの話は分かった。だが、教師としてそう簡単にその話を受け入れる訳にはいかない』
「相澤の気持ちも分かる。だが、ヴィラン連合と脳無の件を考えてくれ。それに……さっきも言ったが、避難している住人達には炎獣を護衛としてつける。また、生徒達がヴィランにやられる……本当に殺されそうになった時は、俺が介入する。それでどうだ? ここでヴィランと戦う経験を、それもヴィラン連合の幹部と同じくらいの強さを持つ、雑魚じゃないヴィランとの戦いを生徒達に経験させるというのは、決して悪くないとは思うぞ? 合理的に考えろ。それに、Plus Ultraは雄英の校訓だろう?」
合理的という言葉は、相澤に効く。
何しろ、今まで何度も合理的虚偽を使ってきた程だ。
もっとも、何だかんだと生徒思いの相澤だけに、すぐにこちらの要望を受け入れるといった事はなかったが。
その後、色々と交渉し……結果として、今は雄英の教師達も黙ってA組に任せるものの、ヤオモモの発した救助を要請するドローンが到着したら、すぐに援軍として雄英の教師達を……他にもプロヒーローを送るという事で話は決まった。
ようは、俺がこの一件に介入していなければ辿った道筋というところだろう。
なのでA組の面々がヴィラン達と戦うには時間制限があるという事になるが……まぁ、その辺については仕方がないという事で俺も妥協するのだった。
やっぱりPlus Ultraという校訓を使ったのも大きいだろう。
「アクセル、ちょっと、どこに行ってたの!? いないから捜したんだよ!」
影のゲートを使って那歩島に戻り、避難所に顔を出そうとしたところで三奈が俺を見て、そう声を掛けてくる。
「ヴィランがこの避難所に来ないかどうか、ちょっと見回りをしていたんだよ」
「どうだった?」
「今のところ、この避難所に来る様子はない。……俺達が捕らえたヴィランを取り返しにくるかもしれないと、警戒していたんだが。まぁ、ヴィランなんだし、仲間意識とかそういうのはそこまで強くないのかもしれないな」
死穢八斎會の一件では、治崎に忠誠を誓っていたり、あるいは恐怖で支配されている者が多かった。
その為、仲間思いな奴もいて、もしこういう状況であれば仲間を取り戻しに……いや、治崎の性格を考えると、それはないか?
あるいは何か優秀な個性を持っているとか、そういうことであればまた話は違ったかもしれないが。
「ヴィランだしね。あまり仲間意識とかそういうのはないんじゃない? それより、これからの事だよ」
そう言い、三奈は俺がいない間に決まった事や判明した事を話し始める。
まず、那歩島を襲ってきたヴィラン達は予想通り金が目的とかそういうのではなかったらしい。
ヴィランの目的は、子供。
緑谷や爆豪に悪戯をした子供の姉弟のうち、弟の方だったらしい。
何でもこの弟は細胞を活性化させるという個性を持ち、一度は負けた緑谷と爆豪も、その個性を使って回復させたんだとか。
那歩島を襲ってきたヴィラン……その中でも爆豪や緑谷と戦ったヴィランは個性を奪う事が出来るらしい。
個性を奪うって、AFOじゃないんだから。
そうも思ったが、実際にそのヴィランは複数の個性を使ったのを、緑谷と爆豪は見ている。
この2人がそのヴィランに負けたのも、その辺が理由らしい。
ともあれそんな訳で、ヴィランの狙いが判明した以上、A組の面々は戦場を選べるという事になる。
……弟の方が目的である以上、弟のいる場所にそのヴィランがやって来るのは明らかなのだから。
とはいえ、少し心配なのはそのヴィランが正面から堂々と俺達に挑んでくるかという事だろう。
例えば避難所にいる住人達を人質にして、弟に自分達に従えと、そう命令する可能性もあった。
……まぁ、もしそうなった時は俺が護衛として付けた炎獣によってヴィラン達は大きなダメージを受ける事になるだろうが。
それに話を聞く限りだと避難所にいる面々も念の為に城の方に移動するらしいから、人質になる心配はしなくてもいいか?
ともあれそんな訳で、俺がいない間に作戦は大筋で決まっていた。
まず戦場となるのは、那歩島の端にある……正確には那歩島と橋で繋がっている別の島なのだが、その島には何故か城があるらしい。
……いや、一体何で城が?
そう疑問に思ったが、詳しく聞いて見ればその城もまた一応那歩島の観光名所ではあったらしい。
その城は何の城なんだろうな。
まぁ、どういう理由で建てられた城なのかは俺には分からないが、城のある小さな島と那歩島が橋で繋がっていて、敵の来る位置を特定出来るというのは、ヴィランを待ち伏せする上で悪くはない。
また、城という事で籠城出来るというのも大きいだろう。
……もっとも、ヤオモモのドローンによって救助要請がされれば雄英の教師達も来る事になっているので、それを思えば時間を掛かる籠城戦は避けた方がいいのは明らかだったが。
「なるほど、話は分かった。そうなると問題になるのはどうやってヴィランを分散させるか、そして誰がどのヴィランと戦うかだな」
「うん、それを決める為にもアクセルを捜していたんだよ。ほら、行こ」
そう言い、三奈は俺の手を引っ張って避難所の中に入るのだった。
「おいこら、ヒモ野郎ぉ、てめえ……こんな時に何をぶらついてやがんだ? ああん?」
A組の面々がいる部屋……ついでに、ヴィランに狙われているという弟と姉の姿もあったが、そんな部屋に俺が入ったところで真っ先に爆豪が俺の存在に気が付き、そう叫んでくる。
とてもではないがプロヒーローには見えず、爆豪と書いてヴィランと読む……あるいはヴィランと書いて爆豪と読む的なのが相応しい、凶悪な表情。
とはいえ、俺にしてみれば……いや、A組の面々もだろうが、そんな爆豪の姿は見慣れているので、特に驚きもせずに口を開く。
「ちょっとヴィランがいないかどうか、見回りにな」
「……けっ!」
見回りをしていたという言葉は、爆豪にこれ以上文句を言わせないようにする事が出来たらしい。
なお、ヤオモモが意味ありげな視線を俺の方に向けてきたので、それに対しては小さく頷いておく。
北海道にいるB組の方には特に何の問題もなく、相澤との交渉も上手くいったという証拠だ。
……まぁ、元々相澤というか雄英は、シャドウミラーに強く出られないという事情もある。
何しろシャドウミラーと交渉しているのは、雄英の……というか、プロヒーローを仕切っている公安なのだから。
勿論、それでも生徒達の命の危機となれば、雄英側もそういうのは関係なく動くだろうが、今回の場合は俺がいる。
怪我をする者がいるだろうが、死人を出すつもりはなかった。
だからこそ、相澤も受け入れたのだろうし。
「それで? 城のある島で戦うって話だったが、作戦は?」
「うん、まずは残りのヴィラン3人一緒だと対処が難しいから、分散させるつもりなんだ」
「私の創造で大砲……というか、迫撃砲と言った方が正しいかもしれませんが、それを作って3人が橋を渡って島に来たところで襲撃します。そうしてそれぞれに別れたら、各個撃破という形に持っていきたいと思います」
「……なるほど。なら、その3人のうちの1人は俺だけで引き受けよう」
「ちょっ、アクセル!? 本気で言ってるの!?」
響香が俺の言葉を聞いて、そう叫ぶ。
実際、俺が戦った以外のヴィランも間違いなく強力な個性を持ったヴィランであるのは間違いないだろう。
……寧ろ、俺が倒したヴィランこそが、那歩島を襲ったヴィランの中で最弱のヴィランであったのではないかとすら思える。
……実際にどうだったのかというのは分からないが。
「ああ、本気だ。狼の獣人のような異形系の個性を持つヴィラン。そいつの相手を俺がする」
「え? 何でアクセル君がそのヴィランと?」
理解出来ないといった様子で緑谷が呟く。
もしかしたら、緑谷にしてみれば俺が自分と爆豪が戦って勝てなかったヴィラン……恐らくは那歩島を襲ったヴィランを率いている、AFOモドキを相手にして欲しかったのかもしれない。
まぁ、普通に考えればA組No.1である俺がヴィランの中でも最強の相手と戦うというのが自然なのだろう。
ここを誤魔化すのはちょっと難しいが……そもそも今回の企みも原作主人公である緑谷に実戦経験を積ませるのが最大の目的な訳で、であれば当然ながら緑谷には最強の敵と戦って貰った方がいい。
「話を聞く限りだと、異形系のヴィランは純粋に身体能力が高くて戦闘力が高いタイプなんだろう? なら、俺にとっては戦いやすいと思う。そいつを俺1人で対処すれば、残り2人のヴィランは俺以外のA組のメンバーが二手に分かれて対処出来る筈だ」
ちょっと無理矢理な理由ではある。
実際、今の俺の言葉が正しいのなら、それこそ最強のヴィランを俺が1人で相手をし、残り2人のヴィランをA組の面々で対処すればいいのだから。
となると、もう少し理由を付け加えた方がいいな。
「それに、襲ってきたヴィランが狙っているのは、緑谷や爆豪と仲の良い姉弟なんだろう? 生憎と俺はその姉弟と殆ど関わっていない。そうなると、その姉弟を守るのは俺じゃなくて緑谷や爆豪の方が、後で何かあった時には対処しやすいだろうし」
これはあくまでも無理矢理の理由ではあるが、同時に決して間違いでもない。
見ず知らずで信頼関係を結んでいる訳でもない俺を相手に、姉弟が……それも幼い姉弟がいざという時に俺の指示を聞けるとは思えない。
であれば、やはりここはしっかりと信頼関係を結べる相手に任せるというのは、立派な理由となる。
そうして、半ば強引にではあるが俺の要望を認めさせる事に成功するのだった。