「アクセル、本当に1人で大丈夫なの?」
「そうだよ、私が援護に行こうか?」
「ウチは緑谷達と一緒だからアクセルと一緒に行動するのは無理だけど、やっぱり1人でってのはどうかと思うよ」
ヴィランに対抗する割り振りが決まり、城跡に向かう事になった時、三奈、透、響香の3人が俺に声を掛けてくる。
……いつもであれば血涙を流しながら俺に嫉妬してくる峰田だったが、今はさすがにそんな事をしている余裕はないらしい。
まぁ、峰田も緑谷チームに所属する事になったしな。
峰田の個性は直接的な攻撃力こそないものの、サポート系として考えればかなり強力だ。
だが、峰田本人にはその辺の自覚があまりない。
なので、ヴィランのボスだろう相手と戦うという事に緊張しているらしい。
お陰で女3人に囲まれるような状況になっても、嫉妬されたりしなくてもすんだのだが。
「心配するな。俺はA組最強……いや、雄英最強の生徒だぞ?」
1年のNo.1であるのは体育祭で証明されているし、それどころかインターンの説明の時にビッグ3最強のミリオとの模擬戦でも勝利している。
……もっとも、ねじれもミリオを相手にかなり勝率を上げているらしいので、ミリオがビッグ3最強かどうかは微妙なところだが。
ともあれ、それでも俺はミリオに勝利している訳だ。……相性が悪すぎたよな。
ミリオの透過という個性は、どうやら魔力は例外らしい。
なので、精神コマンドの直撃を使わなくても混沌精霊として魔力で構成されている俺の身体は普通にミリオの透過を無視出来た訳だ。
あるいはこの先、ミリオが魔力について認識すれば、俺の素の攻撃は透過でどうにか出来るようになるかもしれないが……それはともかくとして。
ミリオに勝利した俺は、暫定的に雄英No.1であると言っても間違いではないだろう。
「そうだけど……そうだけど! アクセルが戦うヴィランって、轟や飯田、他にも何人もいたのに、本気を出さないままの相手にやられたんでしょ?」
三奈の言葉に、透と響香がそれぞれ頷く。
いや、透の場合は透明なので頷いているのかどうかは分からないが、雰囲気的に恐らく間違いはない筈だ。
「安心しろ。そういう相手だからこそ、俺にとっては得意な相手だしな」
実際、最強のヴィランを緑谷達に回したのは、実戦経験の件もあるが、それと同じくらいに、相性の問題もある。
轟や飯田、他にも異形系のヴィランと戦った相手から話を聞いた限りだと、異形系のヴィランは特殊な個性を使う訳でもなく、純粋に強いのだ。
だからこそ、俺にしてみれば戦いやすい相手であるのは間違いない訳だ。
「でも……」
俺の言葉を聞いても、更に透が何かを言おうとするが、それよりも前に口を開く。
「俺はヴィランに勝利して、お前達の元に帰ってくる。だから、安心して俺の勝利を信じていろ」
『……』
あれ? 何だ? 何かこう……妙な雰囲気になったような?
何か言葉を間違ったか?
そう思いつつ、気分を切り替える為に再度口を開く。
「それに……俺の心配ばかりしているようじゃ、お前達が戦うヴィランを相手にやられるかもしれないぞ?」
これは気分を切り替える為に口にした言葉ではあったが、同時に事実でもある。
俺が戦う異形系のヴィランはともかく、残り2人のヴィランは片方は緑谷と爆豪を同時に敵に回しても勝利出来るだけの相手。
そしてもう1人は漁港にあった漁船を纏めて破壊出来るだけの強力な広範囲攻撃型の個性を持つ相手だ。
……もっとも緑谷と爆豪が戦ったヴィランの方は、AFOのように複数の個性を使えるものの、どうやら時間制限があるらしい。
その爆豪と緑谷が負けた時も、その時間制限まで戦い続けることが出来たから、相手も緑谷と爆豪を倒したにも関わらず、撤退したのだから。
なので、緑谷達は正面から戦わず、あくまでも時間稼ぎ……より多くの個性を相手に使わせるといったようなことを狙っているらしい。
そんな訳で、上手くいけばそのヴィランはどうにかなるだろうとは思う。
「うん、分かってるよ。私達も頑張る。だから、アクセルも……絶対に負けないでね」
そう言う三奈に、俺は頷くのだった。
「狙い通りだな」
城の跡地で、ヤオモモが個性の創造を使って作った迫撃砲が橋を渡ってきた3人のヴィランに向かって降り注ぎ、それによって3手に別れたのを見ながら、そう呟く。
3手に別れさせるというのは当初から決まっていたものの、迫撃砲によってどういう風に別れるのかというのは分からなかった。
だが、幸運がこちらに味方をしたのか、あるいはヤオモモの狙いが正確だったのか……俺が相手をする異形系のヴィラン、狼の獣人といった表現が相応しいヴィランは俺のいる方に向かってきていた。
てっきり俺がこのヴィランを追って移動しなければならないとばかり思っていたのだが、どうやらその心配はないらしい。
俺が待っているのは、城跡のある島の林……森? いや、そこまで深くはないから、やっぱり林だな。そんな林の中。
そんな場所に、茂みを突き破るようにしながら、ヴィランが姿を現したのだ。
「ちぃっ! 何だってあんな……うん?」
どうやらこのヴィランにとっても迫撃砲というのは予想外だったらしく、苛立たしげに呟き、そこでようやく俺の存在に気が付いたらしい。
足を止め、訝しげに視線を向けてくる。
そして周囲の様子を見て、狼の顔に獰猛な笑みを浮かべて口を開く。
「なるほど、お前が俺の相手をするつもりなのか。……お前、アクセル・アルマーだろう? その、いかにもヴィランっぽいヒーローコスチュームには見覚えがあるぜ」
どうやら向こうは俺の事を知っていたらしい。
緑谷の知り合いの姉弟のうち、弟の方を狙って那歩島に来たということを考えれば、那歩島に雄英の生徒が郊外ヒーロー活動でいるとは思っていなかった筈だ。
それでもすぐに俺を俺と認識出来た……というか、多分砂浜で飯田や轟達が戦ったからというのも大きいだろうな。
飯田はステインによってやられて引退したものの、かなりの数のサイドキックを有していたインゲニウムの弟だ。
そして轟は言うまでもなく現No.1ヒーローであるエンデヴァーの息子。
飯田の方はともかく、轟の方は少しでもプロヒーローについて詳しければ知っていてもおかしくはない情報であり、そういう意味ではやはり俺達が雄英であるというのを知っていてもおかしくはない。
そして雄英であるというのを知れば、そこから当然ながら色々と目立っている俺について知ることが出来てもおかしくはなかった。
「そうだ。俺は雄英の生徒、アクセル・アルマーだ。……それでお前は? 何と呼べばいい? 名乗らないのなら、わんちゃんとでも呼ぶか?」
「かっはっは。わんちゃんか。それはそれで面白えが、さすがに勘弁して欲しいな。俺はキメラだ。そう呼んでくれ」
キメラ……か。
キメラというのは、ゲームとかをやる者ならよく知っている筈だ。
言ってみれば、多数の獣やモンスターを繋ぎ合わせて作ったような、そんな感じのモンスターだ。
そんなモンスターの名前をヴィランネームとして名乗るという事は……多分そういう事なんだろうな。
「そうか、キメラか。わんちゃんもいいが、折角だからそう呼ばせて貰うよ。……ここに俺がいる事からも分かると思うが、お前の相手は俺だ」
そう言うと、キメラは懐から葉巻を取り出し、ライターで火を点け、大きく吸う。
個人的にタバコとか葉巻とかそういうのはあまり好きじゃないんだがな。
これで俺が人間だったら、副流煙がどうとかで不満を抱くかもしれないが、俺は混沌精霊でそういうのは気にしなくてもいい。
ただ、そういうのは気にしなくても、やっぱり臭いは駄目なんだよな。
「すぅ……ふぅ……橋を渡ってすぐの攻撃には驚いたが……幾ら雄英の1年で強いからって、1人で俺をどうにか出来ると、本気で思っているのか?」
そう言い、キメラは俺を睨み付ける。
その辺の者なら、キメラの鋭く強い視線を向けられれば怯むだろう。
しかし、これまで色々な経験をしてきた俺にしてみれば、この程度の視線はどうという事はない。
あっさりと……一切の躊躇なく、俺はキメラに対して頷く。
「勿論、俺だけでお前の相手をするには十分だと、そう思うぞ?」
「ほう」
キメラが少しだけ驚き? 感心? とにかくそんな様子を見せる。
キメラにしてみれば、まさか自分の視線にこうもあっさりと俺が耐えるとは思っていなかったのだろう。
「その言葉が本当かどうか……確認させて貰おうか!」
そう叫び、地面を蹴って俺との間合いを詰めてくる。
異形系だけあってか、その身体能力は高い。
俺との間合いを詰める速さはさすがと言ってもいいだろう。
……とはいえ、それでも別に魔力や気による身体強化とかそういうのがある訳ではないので、俺にとっては容易に把握出来る速度だったが。
もっとも、キメラもこれが全力という訳ではなく、これはあくまでも様子見といった感じの一撃であるのは間違いない。
それを示すかのように、キメラの口には葉巻が咥えられたままなのだから。
間合いを詰め、顔に向かって振るわれる一撃。
飯田から聞いた話によると、キメラは海岸での戦いにおいて自分の背丈以上の大きさを持つ岩をそれぞれ片手で持ち上げ、投擲してきたらしい、
そのことからも、キメラは自分の膂力には自慢があったらしいが……
パシン、と。
そんな……片手で巨岩を持ち上げるだけの力を持つ者の拳とは思えないような音を立てて、キメラの拳は俺の手の中に収まる。
「は?」
キメラもまた、自分の一撃が止められるくらいは予想していたかもしれないが、それでも今のような音を立てて止められるというのは予想外だったらしく、間の抜けた声を発する。
「どうした? その程度か? ……少し、力を入れるぞ? 駄目だと思ったら、ギブアップするんだな」
そう言い、俺はキメラの拳を受け止めた手に力を入れていく。
自分が何をされようとしているのかを察したらしく、キメラは素早く俺の手から逃げようとするものの……残念。
俺に握られている拳はその場からピクリと動く事もなく、そしてその拳を掴む俺の手には次第に力が込められていく。
「ぐっ、ぐぬぅ……」
最初こそキメラも余裕で耐えられたのかもしれないが、急激に強くなっていく俺の力に苦痛の悲鳴を上げる。
……一応、これでも俺は手加減をしてるんだけどな。
一瞬で力を込めれば、それこそキメラの拳はあっさりと砕けるだろうし。
俺の握力は、金属の塊を容易に毟り取る事が出来る。
そんな握力で拳を掴まれたのだから、キメラにしてみればとてもではないがそのままという訳にはいかず……
「うおおおっ!」
空いている方の拳で俺の頭部を殴ろうとしてくる。
だが、その攻撃もあっさり俺のもう片方の手で掴まれ、両手が俺に封じられる形となる。
「うおおおっ!」
このままでは危険だと判断したのか、キメラはその狼の口に生えた牙を俺の首筋に突き立てんしてくるが……
「よっと」
その一撃をバク転の要領で回避しつつ、キメラの顎を蹴りで狙う。
だが、野生の本能か、あるいは戦士としての勘か、はたまたそれ以外の何かか。
キメラの顎を砕くつもりで放った蹴りは、咄嗟に顔を退いたキメラの顎を掠める程度の一撃となった。
バク転をする為に手を離した事もあってか、自由の身になったキメラは俺から距離を取る。
……微かに足元がふらついているのは、先程の蹴りによって脳が揺らされたからだろう。
とはいえ、当たりがそこまで強くはなかったのか、それとも異形系の個性として高い回復力でも持っているのか、数歩後ろに下がったところで、すぐに足のふらつきは消えたが。
「へぇ……お前、強いな」
そして感心したようにそう言ってくる。
てっきり負け惜しみか何かでも言っているのかと思ったが、どうやら違ったらしい。
「俺の事を知っていたんだから、俺が強いというのも知っていたんじゃないのか?」
「それは分かっていたが、それでもここまでの強さだとは思わなかったな。……どうだ、それだけの力を持ってるんだ。俺達と一緒に来ないか? そうすれば、理想の世界を楽しめるぜ?」
「理想の世界?」
「そうだ。力こそ全ての世界だ。お前のように強え奴なら、その力を思う存分振るいたいだろう? プロヒーローなんてものじゃなくて、それこそ本当に好きなようにだ」
「……なるほど」
どうやらキメラの言う力こそ全てという世界が、こいつらの望むものなのだろう。
それは分かった。
分かったが……だからといって、今の俺がそれに素直に頷ける筈もない。
というか、シャドウミラーを率いる者としても、ヒロアカ世界がそういう世界になるのはちょっとな。
「話は分かった。分かったが……断る」
そう断言する。
「……んだと?」
キメラは、まさか俺がこうもあっさりと断ってくるとは思っていなかったのか、低い声でそう呟くのだった。