「ぐ……くそが……反則だろう、てめえ……」
ドサリ、と。
その言葉を最後にキメラは地面に倒れ、完全に意識を失った。
するとキメラの身体から鳥の部分が消えていき、最初に見た狼の獣人の如き姿になる。
「残念だったな」
気絶したキメラを見て、パチンと指を鳴らすと俺の身体は白炎に包まれ、角や羽根、尻尾のある混沌精霊の状態から、いつもの……雄英の生徒としての10代半ばの姿となる。
当然ながら、俺の身体には傷1つない。
「さて、向こうは……どうやらもう終わっているか」
先程キメラと戦っている時にナインが生み出したのだろう竜巻が消えた。
恐らくは緑谷による攻撃だろう。
そうして天変地異的な感じは他にないのを考えると、恐らく……いや、ほぼ間違いなく緑谷が勝利した筈だ。
広範囲攻撃を行える女のヴィランがどうなったのかは気になるが、特に大きな騒動となっていないのを考えると、どうやらその辺の心配もしなくてもいいんだろうと思う。
なので、俺は空間倉庫から取り出したロープでキメラが動けないように縛り上げて、同時にパチンと指を鳴らし、狼の炎獣を生み出す。
「このヴィランを見張っていろ。気が付いて逃げ出したりしそうなら攻撃してもいい。ただ、出来れば殺すな」
そう炎獣に指示をし、その場に残していく。
このままキメラを連れていくといったことも考えたのだが、それはそれで運んでいる時の振動とかそういうので気が付き、それで暴れられたりしたら面倒だしな。
なので、炎獣を見張りに残して置いていく事にする。
それにしても……この那歩島を襲撃してきたヴィランは全部で4人。
そのうち布を使う奴とキメラを俺が倒したとなると、襲撃してきたヴィランの半分を俺が倒したという事になるのか。
クラスNo.1の面目躍如といったところか?
……まぁ、襲撃してきたヴィランのリーダーは倒していないのだが。
ともあれ、炎獣に見張りを任せて緑谷達のいる場所に向かうと……何故かそこにはオールマイトの姿があった。
え? 何でオールマイト?
雄英にいた筈じゃ?
そう思ったが、並んで気絶している緑谷と爆豪を見て泣いている光景を見ると、ここはそっとしておいた方がいいだろうと考え、その場を離れるのだった。
「アクセル君、あの岩を寄せて!」
透の手袋が指さしているのは、どこから飛んできたのか……あるいは転がってきたのか? とにかく家の塀を破壊している二m程の岩だった。
横にも大きなその岩は、普通なら1人で動かせるようなものではない。
だが、個性を持つ者にしてみれば、その個性によって対処出来ない事もない。
実際、俺じゃなくても障子や砂藤、緑谷といったような増強系の個性を持つ者であれば運べるかもしれないし、あるいは力でどうにか出来なくても麗日の個性を使えば対処は可能だろう。
……まぁ、麗日の場合は個性を使いすぎると吐いてしまう訳で、その結果として今は離れた場所で休んでいるのだが。
Plus Ultraも限度があるという事だろう。
そんな風に思いながら、俺は透の指示に従って岩を持ち上げる。
「これは海岸に運べばいいのか?」
「うん、お願い」
その言葉を聞き、俺は岩に手をめり込ませ、持ち上げ海岸に向かって歩き出す。
ナイン率いるヴィラン達を倒してから数日。
現在俺達は那歩島の復興作業に協力していた。
公安からはもう郊外ヒーロー活動は終わりという風に言われたのだが、A組の面々はそれを無視して復興作業を行っていたのだ。
まぁ、こういうのもプロヒーローらしいと言えばらしいしな。
プロヒーローの中には、ヴィラン退治だけではなく、こうした作業で名前を売ってる奴もいるしな。
そんな風に思いながら巨岩を海岸まで運び、島の住人の指示に従って岩を置く。
ちょうどそのタイミングで、緑谷もまたどこからか持ってきた岩を手に、空中を浮かびながらこっちにやってきた。
緑谷が使える複数の個性のうち、浮遊。
それをしっかりと使いこなしている……というか、訓練も兼ねての行動だろう。
「あ、アクセル君。アクセル君も岩を?」
「ああ、かなり大きなのが家の塀を破壊していたからな。……それにしても、元気だな」
「あはは、リカバリーガールに治療して貰ったから」
ヴィランのボス、ナインを倒し終えた際、緑谷と爆豪はまさに傷だらけといった表現が正しい状況だった。
そんな2人を……他にも怪我をしていた者達もだが、リカバリーガールであったり、あるいは狙われていた子供の個性だったりで治療をしたのだ。
そのお陰で、今はこうしてもう元気に復旧活動を行えているらしい。
……ちなみにだが、戦いが終わった後、オールマイトが何故もう那歩島にいたのかだが、どうやらその辺はヤオモモによる救援要請のドローンによって駆けつけて来た者達らしい。
その中でも真っ先に動いたのはNo.2ヒーローのホークスで、そのホークスに無理を言ってオールマイトは連れてきて貰ったらしい。
まぁ……うん。オールマイトにしてみれば自分の教え子というだけではなく、OFAの後継者でもある緑谷の事がそれだけ心配だったのだろう。
「そうか。無事で何よりだったな。……それにしても、あのナインとかいうヴィランによく勝てたな」
「……うん、正直なところ僕もそう思うよ」
俺の言葉に、しみじみといった様子で緑谷が言う。
緑谷にしてみれば、それだけナインは強かったらしい。
キメラと戦っていた場所からでも見えた竜巻を思えば、その強さが圧倒的なのは間違いない。
そのような相手と戦えたというのは、死穢八斎會の治崎の件を含めて実戦経験を積むには十分だったという事を意味していた。
まだ復興作業の最中である以上、いつまでもここで話をしている訳にもいかず、俺は緑谷と別れて再び仕事に戻るのだった。
夕食も食べ終え、今はもう夜。
今日の復興作業で疲れたのだろう。既に殆どが眠りについていた。
ちなみに俺達がいるのは雄英ヒーロー事務所として使っていた元民宿だ。
ナイン達の襲撃による被害はなく、奇跡的……と言ってもいいのかどうか分からないが、とにかくこの建物は特に被害らしい被害もなかった。
なので、今もこうして雄英の生徒達の拠点として使っているのだが……いるのは雄英の生徒だけではなく、ヴィランの襲撃によって家が壊れ、寝る場所がない島の住人達も何人かここで寝泊まりしている。
元民宿だったので、使っていない部屋も結構あったしな。
そんな民宿から外に出る。
特に何か理由があって……という訳ではないが、何となくだ。
するとそこには、俺よりも先に民宿を出ていたヤオモモの姿があった。
「ヤオモモ、どうしたんだ? まだ寝てなかったのか? しっかりと身体を休めないと、明日がきついぞ?」
「ふふっ、それを言うのならアクセルさんの方が大変ではないのですか? 夕食の時に聞いた話によれば、大きな岩を何個も運んだそうではないですが」
「そのくらいはな。……で、ヤオモモは何してるんだ?」
「空を……星を見ていました」
そう言い、夜空を見上げるヤオモモ。
月明かりに照らされるヤオモモの顔は、元々大人びた美貌を持つだけあって、目を惹き付ける。
だが、俺は何だかんだとそういう美人と一緒にいるのはレモン達で慣れているので、そのまま夜空を見上げる。
「なるほど、凄いなこれは……」
雲もなく、もし今が昼であれば晴天といった表現が相応しいだろう天気。
そんな中で、星が大量に空で瞬いている。
「でしょう? 窓の外を見たらこの景色が見えて……他の方達は眠っていたので、こうしてちょっと外に出てみたんです。アクセルさんもどうです?」
「そうだな。……この景色を見ないのは勿体ないか」
ヤオモモの誘いに乗り、ヤオモモの隣で視線を夜空に向ける。
意識を奪うかのような、あるいは吸い込まれるような星々の景色。
まるで星が降り注いで来るではないかと思える、そんな光景。
「……ほら、これ」
「あら、ありがとうございます」
何となく飲み物が欲しくなり、空間倉庫から缶紅茶を取り出し、1本をヤオモモに渡す。
ロイヤルピーチティーなる……紅茶として考えると、ちょっと違和感のあるものだ。
普通、紅茶でロイヤルとつくのなら、それはミルクティーだろう。
なのに、ピーチ……つまり桃。
もっとも、俺は紅茶派ではあるが、そこまで本気の紅茶派といった訳でもない。
それこそ本当の意味での紅茶派であれば、缶紅茶とかは許容出来ないだろう。
だが、俺の場合は缶紅茶であっても普通に美味いと思える。
いわば、ライト層の紅茶派と言えばいいか?
「あら、これ……美味しいですわね」
そんな俺に対し、ヤオモモは茶葉にも強い拘りを持つ紅茶派だ。
しかし、それでも缶紅茶を飲んで美味いと感想を口にする。
「これ、どこで買ったのですか?」
「あー……どこだったか。確かジュネスだと思う」
「ジュネス……初めて聞く名前ですわね」
不思議そうに言うヤオモモだったが……
「それはそうだろう。ジュネスというのはペルソナ世界……このヒロアカ世界とはまた別の世界にあるデパートだからな」
あれ? ジュネスってデパートでいいんだよな?
食料だけではなく家電とかもあるし、屋上にはフードコートもある。
そういうのは、デパートと言ってもいいと思う。
……まぁ、スーパーやデパートに明確な定義があるのかどうかは分からないから、もしかしたらジュネスも分類的にはスーパーである可能性も否定は出来ないのか。
「異世界の……紅茶ですか?」
「そうだ。けど、ヤオモモは俺について詳しく知ってるんだし、それを思えばそこまで不思議な事じゃないだろう?」
「そう……なのでしょうか?」
俺の言葉を直に信じてもいいのかどうか悩むヤオモモ。
そんなヤオモモに対し口を開こうとしたところで、不意にスマホが着信を知らせる。
こんな時間……って、まだ午後9時くらいだから、そこまで遅いって訳じゃないんだろうけど、それでも誰だ?
そう思ってスマホを見てみると、そこには一佳の名前があった。
「一佳? ……こんな時間というか、郊外ヒーロー活動をしている時に珍しいな。もしもし?」
『あ、アクセル? ふぅ……良かった。その声の感じからすると、無事みたいだな』
最初驚いた様子の一佳だったが、俺の言葉を聞くとすぐに安堵した様子を見せる。
これ……今の無事だったかという言葉からも明らかだけど、間違いなくA組がヴィランと戦ったというのを向こうも理解しているよな。
「そういう言葉が出て来るって事は、那歩島での一件を聞いたのか?」
『聞いたというか……ブラドキング先生がスマホで話しているのを聞いて……ほら、大丈夫だから。アクセルは心配ないから落ち着け』
『私がアクセルさんと一緒にいれば……ヴィランには己の罪を自覚させられたものを……申し訳ありません、アクセルさん』
あー……うん、なるほど。聞こえてきた茨の声で大体事情が理解出来てしまった。
茨は俺を崇めている。
そんな俺を……正確には俺のいる場所がヴィランに襲われたという事で、ブチ切れていたのだろう。
それでもアクセル様ではなくアクセルさんと俺を言ってるのは、様付けは止めて欲しいと俺が言ったのをしっかりと覚えていたからだろう。
つまり、ブラドキングが雄英と連絡をして那歩島での一件を聞いたのを偶然一佳と茨も聞いて、それでこっちが心配になって連絡をしてきたというところなのだろう。
雄英がブラドキングに連絡をしたのは……一応俺が北海道を確認したものの、それでも本当に何もないのかどうかを確認する為に連絡をしたといったところか。
万が一……本当に万が一ではあるものの、那歩島の一件は陽動で、北海道が本命であるという可能性も否定は出来なかったのだから。
だからこそ、そのようなことがないようにする為にも、しっかりと連絡をしておく必要があったのだろう。
「気にするな。こっちは全員無事だ。ちょっと……ちょっと? とにかく怪我をした奴もいたが、リカバリーガールが来たお陰で怪我をした連中も回復したしな」
「それにしても、私が言うのも何ですが、B組はまだ郊外ヒーロー活動を続けていたのですね」
会話から一佳と茨が電話の相手だと判断したらしいヤオモモが呟く。
俺達には公安から雄英経由で郊外ヒーロー活動を中止するようにと連絡があったのだが、一佳や茨と会話をした限りでは、どうやらB組はまだ郊外ヒーロー活動が続いているらしい。
その辺は俺にとってはそこまで気にするような事ではないが……色々とあるのだろう。
あるいは那歩島と北海道と、遠く離れているから問題ないと判断したのかもしれないが。
「それで、こっちの件は問題ないけど、そっちはどうなんだ? やっぱり大変か?」
『大変だよ。雪というのが厄介なのは知ってたけど、それはあくまでも知識だけの話だったんだなって思う』
俺達の方も問題はないと判断したのだろう。
一佳がそう愚痴を言う。
スピーカーにしたスマホで、俺達は夜の星明かりの中で会話を続けるのだった。